ホーム創作日記

6/1 サム・ホーソーンの事件簿II     
     エドワード・D・ホック 創元推理文庫

 
 1巻目がやはりホック作品の醍醐味を感じさせてくれただけに、またまた
期待して手にしたのだが、残念ながら質としては結構低下していたように思
う。既訳作品が2作だけということも、それを物語っている。前12作同様
単純な騙しのテクニックを使った作品が多いのだが、ちょっと卑怯の印象の
方に傾いている作品が多かったように感じた。            

 しかし、これだけの不可能犯罪を、このペースで(巻末のリストを見て欲
しい)書き続けられることに驚異を感じてしまう。これがまたホックの生み
出した数多い探偵達の、たった一人に過ぎないわけなのだから。    

 不可能犯罪のスペシャリストと云えば、やはりカーを挙げるしかないが、
不可能犯罪”短編”と区切ってしまえば、もうぶっちぎりでホックを選出す
べきに違いない。質は落ちても、やはりこのシリーズは全部読みたい。 

 採点は6点。恒例のベスト3は順不同で、「オランダ風車の謎」、「ギャ
ングスターの車の謎」「ブリキの鵞鳥の謎」を挙げておこう。     

  

6/4 暗いところで待ち合わせ 乙一 幻冬舎文庫

 
「失踪HOLIDAY」の感想に書いたように、乙一は”孤独”の描き方が
上手いと思う。本書では二つの孤独が交互に描かれる。そしてやはり孤独は
”出逢う”のだ。二つの孤独とその孤独同士との出逢いにテーマが絞られて
いる点で、本書は”せつなさの達人”としての乙一の、典型的な作品に仕上
がっているのではないかと思う。                  

 やはりミステリの構造を取っていることも、氏の特徴である。いつもの如
く”本格”とは言い難いのだが、別にそれを彼が目指しているわけでもなか
ろうし、本格偏愛者である私もそれを望んでいるわけではない。作品を描く
上での”照れ”ではないかとする私の予想は、どうなのだろうか?   

 さてここで、乙一の描く”出逢い”についてもう少し突っ込んでみよう。
これにも私は一つ特徴的な要素を感じている。それは直接的な恋愛として描
かれることがない点である。本書は特にその要素が濃く現れている。恋愛に
限りなく近く描かれている「君にしか聞こえない」にしても、直接的に陥る
瞬間にそれは断ち切られてしまう。                 

 これもやはり”孤独”の影のせいなのではないか。人と人との輪の外にそ
っと身を置く孤独から、ためらい、臆病さを乗り越えて、一足飛びに身も心
も触れ合う恋愛へと辿り着くことが出来ない。やはり、乙一は”孤独の詠み
人”なのだろう。別々の作品ではあっても、登場人物である”孤独”は、様
々な”出逢い”を繰り返している。そのうちに”孤独”はきっと”恋愛”に
辿り着くのだろう。そんな作品をまだ少し待つことにしよう。採点は6点

  

6/5 四つの扉 ポール・アルテ ハヤカワ・ポケット・ミステリ

 
 これは凄いぞ。冒頭から怪奇趣味満載。奇術趣味やら、ドッペルゲンガー
やら、ドイルを匂わせる登場人物やら、道具立てにも事欠かない。読者の意
表を突いていく展開も非常にいい。結構なストーリーテリングで読者を引っ
張ってくれる。不可能興味も横溢。まさしく「**のカー」と呼ばれるにふ
さわしい人物だろう。今まで全く知らなかったとは不覚。       

 メイントリック自体は、新本格初期屈指の駄作(笑)との呼び声高い作品
とかぶっているのだが、こちらの方が処理は上。あの脱力感を覚えている読
者には、不当に悪い印象を与えかねないところが、ちと不幸である。  

 しかし、それらにもまして凄いのは、実質的なデビュー作なのに、それで
いきなりメタをやってしまったところか。いったいどうやって結末を付ける
のだろう、探偵役はいったいいつ出てくるんだろう、と読者として不安にな
ったところで、こういう手をもってくるとは… しばし絶句、そして感嘆。

 世界中広しと云えども、アルテの読者にふさわしい人種とは、あこぎな作
品に慣れてしまった日本人なのではないだろうか。発表年は奇しくも「十角
館の殺人」と同じ87年。新本格のブームに乗ってきたとしか思えないぞ。
バークリー日本人説もあるようだが、アルテ日本人説の方がよっぽど信憑性
が高いよ。それともこれも芋を洗う猿なのか(な、わけないやろ)   

 採点は8点。不可能犯罪好きのための必読書に数えられるべき作品。他の
作品も訳されれば、絶対に読まねばならないだろう。勿論、読むぞ!  

  

6/10 樒/榁 殊能将之 講談社ノベルス

 
 首尾一貫して本格パロディ作家を貫いている(と、私は思っている)殊能
だが、「密室本」となればなお一層、テーマをお茶らかしてくるだろうとの
予想通り。しかし残念ながら、ちょっとお粗末な出来だったかと思う。 

 問題:部屋の中に他殺死体が一つ。他は無人。ドアにも窓にも内側から鍵
が閉まっていて、外から閉めることは不可能。勿論、壁にも床にも抜け道な
どはない。いったい犯人はどうやってこの部屋から抜け出したのか?  

 解答:天井から。つうか、この部屋にはそもそも天井などなかったのだ。

 …なんていうような、下らない出しっこパズルを自分でやったり、読んだ
りしたことがある人も多いかと思う。本書はそういう趣向を小説にしたもの
に過ぎない。本当にパロディなのかと不安になるくらい、ひねくれた趣向で
本格パロディを貫いてきた作者にしては、あまりにもストレートというか、
わかりやすすぎる内容で、とてもじゃないが喰い足りない。      

 本の物理的な薄さに合わせたかのような中身の薄さで、ミステリファンに
も殊能ファンにもお勧めできない作品になってしまった。採点は6点。 

  

6/11 袋綴じ事件 石崎幸二 講談社ノベルス

 
「6とん」の影濃いデビュー作を読んで以来、敬遠していた作家の作品。今
回も当然密室本でなかったら手にしなかったはずだが、意外や意外にそんな
に悪くなかったぞ、というのが正直な感想。             

 相変わらずのおちゃらけた文章なのだが、今回はそれほど不快感は感じな
かった。賭けのシーン(本書の最大の読み所なのかも(笑))なんかをノリ
ノリ気分で読んでいる自分もいたし(苦笑) リアリティの無さ加減もデビ
ュー作に比べると、適当な感じで目くじら立てるほどではないかと。  

 とにかく何よりも、本書の1点へのこだわりぶりが、というか、その心意
気が楽しい。本書の後半は「袋綴じを破けば犯人がわかる」という命題を、
いかにこねくり回して無理矢理でもいいから成立させるか、という作業にひ
たすら専念してるのである。勿論これは「密室本」という企画が持ち込まれ
てから、作者が行ってきた作業に等しいのだろう。          

 こういう自分に制限を課しての「本格の”遊び”」は、有名作家を集めた
連作やら、読者から不可能状況を募集してそれに解決を付けた、「なめくじ
長屋」での都筑氏の挑戦などに相通じるものである。こうした”遊び”が読
者に伝わるか、そしてもっと重要なのは、きちんと遊び倒せるかどうかなの
だが、本書の出来映えとしては個人的にギリギリ合格点を付けたいと思う。
苦し紛れ度合いが「うん、わかるよ、苦労したよね」と肩にポンと手を置き
たくなる程度、なんて表現して伝わるかな? 採点は中間以上の6点。 

  

6/17 闇雲A子と憂鬱刑事 麻耶雄嵩 祥伝社文庫

6/17 蜃気楼に手を振る 有栖川有栖 祥伝社文庫

6/18 無節操な死人     倉知淳 祥伝社文庫

6/18 夏に散る花    我孫子武丸 祥伝社文庫

 
 感想待ちの作品が随分と溜まっているので、まほろ市は4冊まとめていっ
てみよう。まずは企画そのものだけど、やっぱり競作のテーマとしては弱す
ぎると思う。地名の元ネタ当てという楽しみはあるけれど、漠然とした舞台
だけを共通にしても、各作者のお手並み拝見の要素は限りなく少ない。 

 それでもやはり出来の差は明白に出てくるもので、今回の採点は全て6点
とはするが、1位と4位の差は歴然としてある。4位を除いて好作品が集ま
って、テーマの弱さの割にはコストパフォーマンスは高かったと思う。 

 1位:闇雲A子と憂鬱刑事、2位:無節操な死人、3位:夏に散る花、4
位:蜃気楼に手を振る、というのが私の順位。1位〜3位はそれぞれの好み
で分かれる可能性はあるが、最下位はかなり固い線だと思う。     

 まずは麻耶作品。ほとんど余技の如き作品においてさえ、これほどの本格
に仕立て上げてしまう実力にいつもながら感嘆。最後にも意外性を用意して
しまう余裕。個人的には断トツの第1位だが、好き嫌いは分かれるだろう。

 2位は僅差で倉知作品。もう倉知さんてばオバカなんだからぁ〜(笑)
やっぱりバカには弱いんで、我孫子作品と迷った挙げ句にこちらを2位に。

 3位がその我孫子作品。へへぇ、読ませてくれる作品に仕上がってる。引
き込まれてしまいました。アクの強すぎる麻耶作品、バカ過ぎる倉知作品に
比較し、最も一般の鑑賞に耐える作品。この作品を推す読者も多いだろう。

 1位から3位までは、上記のようにそれぞれに読みどころのある作品が集
まったのだが、問題はこの人、有栖川有栖。今どきこんな…と絶句してしま
った。定型を脱しようとして、定型から半歩程度も脱しきれない、著者の袋
小路状態を良く示す作品。このところアンソロジー収録の短編しか読んでい
ないが、いずれもその袋小路のどん詰まりで煮詰まったような作品ばかり。
学生アリスで将来に大きく希望を抱かせてくれたのも、今は昔か。合掌。

  

6/19 館という名の楽園で 歌野晶午 祥伝社文庫

 
 一度はもう読むのをやめようかとも思った氏だが、このところ意外に当た
り作を飛ばしてくれている。図書館の長い待ち行列を抜けて「世界の終わり
あるいは始まり」を読めるのを心待ち出来るようにさえなってきた。図書館
というあたりが、まだ氏を信用しきってないことを証明してはいるが(笑)

 祥伝社文庫の第1弾競作でのベスト作に続いて、今回は単独作品。実際に
館を建てて、そこで現実に近いレベルでのミステリ・ゲームにこうじるなん
てのは、やはりミステリ・ファンならば惹き付けられる主題だろう。わざわ
ざ来歴まで作り込んでいるなど、手もかかっている。         

 トリック自体が取り分けて凄いわけではないから、通常のミステリとして
描かれていれば不満にも思うだろうが、この主題の流れに於いて語られる限
りは、十分得心のいくものになっているのではないか。        

 採点は6点だが、価格対効果を考慮すると、比較的高めの位置かも。 

  

6/19 樹海伝説 折原一 祥伝社文庫

 
 書評を書く上で最も難しいジャンルとは「叙述トリック」だろう。ある作
品がその種のトリックを使っていると書いた時点で、相当のネタバラシにな
ってしまうのが常である。慎重に書かざるを得ないし、歯切れも悪くなる。

 そんな中で折原一だけは例外である。折原一は叙述トリック作家として、
不動の地位をものにしている。折原といえば叙述、叙述といえば折原。もう
叙述トリックが使われているのがデフォルトだから、叙述トリックであると
事前に書いても何の(とまで言い切ってしまっていいかは疑問だが)支障も
ないのである。たとえば本作でも、カバー裏に堂々と「過去と現在が錯綜す
る叙述トリックの傑作」などと書かれている。            

 とまあ「起」「承」ときたからには、ここで「転」に移るわけだが、全部
が全部「叙述トリック」ではない。折原が書けば叙述トリック、というイメ
ージが出来上がっているのだろうが、やはり叙述上の工夫と叙述トリックと
は別物であると私は思う。叙述の仕掛けで読者に誤認を起こさせて、それに
よる意外性を引き出すことが叙述トリックだと思うのだが、純粋にそういう
成立性を示した作品はどれほどのパーセンテージを占めてるのだろうか。

 というところで「結」になるわけだが、本書もそういう意味では「叙述ト
リック」物ではないのである。たとえば最後に「過去と現在が錯綜する」よ
うな「叙述上の工夫」が入ったりもしているが、それはトリックではない。
読者に向けたトリックを期待する向きには、当てはずれな作品。低め6点

  

6/20 黒の女王との戦い 北村想 あかね書房

 
 脚本文学に凝っていた時期がある。岸田戯曲賞受賞作を中心に、様々な戯
曲を読み漁っていた。下北沢の小劇団見に通ったり、夢の遊眠社の芝居に感
動したり、四季や第三舞台などの有名どころも見に行ったりしていた。その
きっかけになったのがこの北村想である。何げに書店で手にした作品に非常
に興味を引かれ、脚本そして芝居の面白さを教えてくれたのだ。    

 ミステリ・ファンにとっては「怪人二十面相・伝」の作者だと云えば、通
りがよいだろうか。こういう作品を書いていることからもわかるように、氏
の脚本や本にはミステリ仕立てのものが多い。ミステリそのものといってい
い作品も少なからずある。古畑や「十二人の優しい日本人」という秀逸なミ
ステリも書ける三谷幸喜、言葉遊びの野田秀樹と並ぶ私のご贔屓である。

 本作は彼の書いた児童文学。イラストがとりみきというのもいい。月刊K
ADOKAWAの取材(2002年6月号参照)も受けたMLのオフ会のオ
ークションで落とした物。96年刊の作品なのだが、こういうものが出てい
ることすら知らなかった。出品者の真夏さんに感謝。         

 さて内容は、木々と話が出来る不思議な少女探偵が、恐ろしい少女誘拐団
の首領、黒の女王と対決する話である。と書くといかにもジュブナイルのよ
うだが、難しい科学の話も出てくるし、メタ的な趣向もやってるし、物理ト
リックみたいなものも出てくるし、冒頭で老婆にされてしまった少女達が復
活できるわけでもないし、意外にハードな内容。楽しみました。6点。 

  

6/20 笑殺魔 黒田研二 講談社ノベルス

 
 さて、氏のもう一つのシリーズ物。「ふたり探偵」とは違って設定に制限
があるわけではないので、こちらは長期化も考えられる真っ当な(?)シリ
ーズ物と言える。しかし、作者の志向が昨今のキャラ萌え路線と一線を画し
ていることが、諸刃の剣になってしまっているような気がする。登場人物達
の個性が光り輝いているとは言い難いのだ。新たな読者層を開拓する起爆剤
には、残念ながらあまりなりそうもない。              

 保育園を舞台にしているのに、先生達の間で話が終始し、子供達の個性が
描かれていないのもちょっとマイナスポイント。作者の表紙折り返しの言葉
と違うんだもの。これはこれからのシリーズ展開を待てってことかな。 

 しかし、やはり本格としては配慮が行き届いているので、ファンとしては
安心して読めるシリーズと言えるだろう。意外な誘拐の展開から、最後の推
理の妥当性と明かされる動機、そして細かく細かく張り巡らされていた伏線
は、やはり氏の真骨頂。本格パズラーとしては地味な作品ではあるが、本格
ファンを満足させる出来であろう。採点としては6点。        

 殺伐としたミステリの舞台に敢えて保育園を選択した黒田氏。日常ミステ
リでもなく、子供達の世界を中心に据えたわけでもなく、これからどう展開
させていくのか。先生達の顔見世興行を終えて、これから個性豊かな子供達
がどう描かれて、ミステリに関わっていくのか。本格性だけではなく、構成
力、描写力が必要になる。作者の手腕が問われるシリーズ物になりそうだ。

  

6/21 試験に敗けない密室 高田崇史 講談社ノベルス

 
 千葉千波の事件日記シリーズ第2弾。蘊蓄で固めた、ある意味では”鬱陶
しい”と感じられる(かもしれない)QEDシリーズと違って、軽妙で読み
やすいライト・ミステリである。陰惨な事件も起きないし。ぴいくんの婉曲
言い訳長文独白も楽しいし、千波くんの論理パズルに頭をひねる合間に、ぴ
いくんのちょいボケ・パズルも味わえる(笑)というおまけ付き。   

 今回はパズル的にはあまり楽しめるものは少なかったかな。しかし、真相
としてはそれほど吃驚したものではないが、人間消失、納戸の密室、土牢の
密室、そして大きな空間としての密室と、4つもの密室の趣向が盛り込まれ
ている。それぞれは比較的冗談密室的な指向が強いから、こちらの方が密室
本向きだったかも知れないね。                   

「ミステリ的には」という、お得意の(自分で言うな!)論調で語るよりも
素直に楽しめました、と言っておきましょう。本質的に印象の違う二つのシ
リーズという”いい感じ”の土台をものにした作者。ずば抜けたものはあま
り期待できないが、比較的安定した書き手になってきたようだ。6点。 

  

6/24 法月綸太郎の功績 法月綸太郎 講談社ノベルス

 
 間違いなく、現代の本格ミステリ短編の書き手の第一人者。「ちっちっち
っ・・・お嬢さん。法月がどんなにすごくても、日本じゃあ、2番だ」と登
場するにふさわしい麻耶雄嵩を除けば、という条件付きにはなるけれど。

 ここ10年間の短編集のベスト4は、「メルカトルと美袋のための殺人」
「どんどん橋落ちた」「法月綸太郎の新冒険」「根津愛探偵事務所」だと、
私は思っている(勿論アンソロジー系、個人傑作集系は除く)     

 今回もやはり、作者の本格センスの良さに感嘆させられた。「イコールY
の悲劇」
「ABCD包囲網」は、テーマ指定されたアンソロジー収録の短編
のため強引な作り込みが感じられるが、いずれも他者を引き離して圧倒的ト
ップの出来映え。是非、次回は麻耶とのガチンコバトルを見せて欲しい。

「中国蝸牛の謎」は、トリックはあまり感心しないが、展開は工夫されてい
る。「縊心伝心」は素晴らしい出来。ささいな手がかりからのロジック展開
は、本格ファン全てを魅了するだろう。               

 しかし、やはり本書の白眉は、協会賞を受賞した「都市伝説パズル」であ
ろう。現代において今更、基本的定理の一つに数えてもいいくらいの、シン
プルで完成されたプロットを提供してくれるとは。思い当たる前例はない。
本格としては、一種奇跡的な作品と言っても過言ではないかも知れない。

 以上、やはりこの完成度を考えるならば、採点8点は必至。いやがうえに
も生首への期待が高まってしまう。単行本としてまとまるのはいつか? 

  

6/28 笑う肉仮面 山田風太郎 光文社文庫

 
 風太郎のミステリー傑作編のうち、少年物を集めた巻。代表短編の一つで
もある「蝋人」を原本にした「姿なき蝋人」を始め、大人物のリライトも多
い。ジュニア向けなだけあって、さすがにミステリとして驚嘆できる作品は
ないため、個人的には純粋には楽しめなかった。風太郎の歴史の一つとして
捉えて、読むべき本だろうか。従って、採点は6点。         

 恒例のベスト3としては、やはり表題作の「笑う肉仮面」と「なぞの黒か
げ」は外せないだろう。前者はおどろおどろしい冒頭の場面から惹き付けら
れてしまう。冗談小説めいた題名とは裏腹の恐ろしさだ。それからは昔々の
お話によくありげなストーリー展開ながらも、風太郎らしいエンタテインメ
ント性に満ちていて、充分に愉しむことの出来る作品である。     

「なぞの黒かげ」は、よりミステリ的かも。二人を別々に捕らえんとする黒
かげの企みが凄い。それを上回る頭脳戦に、アクション付きの盛り沢山。

 ミステリとしては「水葬館の魔術」が最高作だが、これは大人物のリライ
トなので外すとすれば、残り1作は「なぞの占い師」 確かにアンフェア気
味ではあるけれど、凝った企みではあるよね。            

 

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