ホーム創作日記

5/1 双月城の惨劇 加賀美雅之 カッパノベルス

 
 二階堂氏の大賛辞がかえって引いてしまう要因になっているのかも知れな
いけれど、「そんなに良かぁないぞ」と思ってしまうのが悲しいところ。た
しかに相当の実力のある人である。処女作でここまでの完成された構築力を
見せてくれるのは、驚嘆に値するかも知れない。これからも安定した作品を
生み続ける素地は、充分以上に見受けられる作品であった。      

 しかし、なんだか違和感があるのだ。たとえば加賀美氏の(そしておそら
くは同様に二階堂氏の)目に映っているカーと、私の脳裏にいるカーとがど
こか喰い違っているような気がしてしまう。ひょっとしてそれは私がバンコ
ランものはどれも面白く読めなかった、ということと同じ素因なのかもしれ
ない。そうであれば、それは私個人の問題ということになってしまうのか。

 違和感のおそらくもう一つにはトリックがある。「本格推理」での短編な
ども含めて、一貫して私の大好きな不可能犯罪を扱っているものの、そこで
使用されるトリックにどうもすっきりと感激できないのだ。小栗の物理トリ
ックが想起されてしまう。とはいえ、この作者と相性がいいのか悪いのか、
結構トリックがある程度まで読めてしまうんだけども。今回もね。   

 立派な作品だと思う。期待に値する新人だろう。でも、ただなにか「どこ
までいくんだ、この人は?」という底知れぬ期待感は感じられない。だから
林氏のようなワクワク感を覚えることが出来ないのだ。二階堂氏の絶賛を受
けて「これでいいんだ」と変にまとまっちゃわないで、自分の殻を破るよう
な突き抜けた作品に挑戦してみて欲しいものである。         

 今回の作品は、期待したような推理合戦は結局行われず、ハウダニットに
比較してフーダニットの弱さも感じられるので、採点は6点としよう。 

  

5/7 失踪HOLIDAY 乙一 角川スニーカー文庫

 
 せつなさの達人、乙一。本作や「君にしか聞こえない」や「暗いところで
待ち合わせ」を読んで感じるのは、彼は”孤独”の描き方が上手いのだなと
いうことだ。常に人と人とのつながりの中に生きているのではなく、その輪
の外にそっと身を置く孤独。そして作品の中でその孤独は、一つの出逢いに
さらされる。多くの出会いの中の一つではなく、0に限りなく近い状況での
たった一つ。勿論、そういう数の対比ではなく、描かれた孤独が自分の身の
ように真に感じられるからこそ、その出逢いが沁みるのだろう。    

 また、何故か乙一の作品はどれもミステリ仕立てになっている。パターン
的には読めるものがほとんどだし、それが本来作者の描きたかったものだと
は思えないものばかりだ。これはひょっとして、作者の”照れ”ではないの
かと私は考えている。自分の本質のままを晒し出せない。だから一つ殻をか
ぶる。いつもいつも後書きやら、作者紹介欄やらで笑わせてくれるのも、や
っぱり同じ。輪の外にそっと身を置く孤独を、そこに読み取るのは邪推か?

 ここには二つの短編が収められている。表題作もうまい。練られているし
ラストの締め方もいい。でも、個人的には「しあわせは子猫のかたち」の方
が好きだな。ちょっとストレートかも知れないけど、”孤独”と”出逢い”
が、素敵にそして切なく描かれている。旧作だけど、採点はちょっとおまけ
して7点。乙一にはそんな点数が凄く似合ってる気がする。      

  

5/8 宇宙捜査艦《ギガンテス》      
                二階堂黎人 徳間デュアル文庫
 
 適当にSFらしさをちりばめただけの駄作。一言で片付けてしまうのは申
し訳ないけれど、でもこれって手抜きで出来た作品じゃないのかなぁ。 

 少なくともSFとしては、あまり見るべきものはない。小道具をそれっぽ
く仕立ててみましたってだけで、古くさい印象。SFよりは、ロボットアニ
メ見て書きましたというイメージが強い。SFをやりたいわけじゃなくて、
スタートレックをやりたいんだという言い訳なのかも知れないけれど。 

 ミステリとしても意外性を演出しようという意志が感じられなかった。作
者にしては単純な内容で、SFミステリーなんだからいいか、というような
逃げがあるんじゃないかとさえ邪推してしまう。           

 これが二階堂氏の考えるSF本格ミステリーだとしたら、かなり幻滅。ミ
ステリとしてもSFとしても中途半端で、作者の冴えは感じられない。しか
し、続編を書く意志があるところを見ると、作者自身は気にいっているのだ
ろうか。ちょっと不思議だ。残念ながら、採点は5点にさせてもらう。 

  

5/20 浦賀和宏殺人事件 浦賀和宏 講談社ノベルス

 
「眠りの牢獄」は小気味よさを感じたのだけど、今回はほとんど不快感しか
感じられなかった。幾つかの筋を絡ませて意外性を演出しているのだが、素
直にその手腕に感嘆は出来なかった。作者自身があえて読者に不快感を植え
付けようとしている書き方だから、これはこれで作者の術策にはまってしま
ったと言えるのかも知れないけど、それでいいのか、浦賀さん?    

 作中作も何がなにやら。狙いがあるんだからこれでいいでしょってことだ
ろうけど、これを楽しめる読者が一体どれほどいるんだろう。スネークマン
・ショーは好きだけども、だからこれが楽しめるってもんでもない。  

 しかし、作中人物の口だからとは云え、こんなに書いていいのかいってな
大胆発言のオンパレード。「インターネットでぶつぶつ独り言呟いているミ
ステリマニアのホームページ」をやっている身としては、耳の痛い言葉が盛
り沢山。でも、私はスタンスを変えるつもりは全くありません(と、開き直
る) 自己弁護の論理武装でもしとかなくちゃいけないかな(半分本気)

 採点は低めの6点。しかし密室本、冗談密室みたいな趣向ばっかだな。

  

5/23 クビシメロマンチスト 西尾維新 講談社ノベルス

 
 デビュー作に比較しては、数段落ちる。何より2段構成での逆転の意外性
が弱い。零崎との会話で充分決着は付いている。構図が逆転するというもの
ではなく、付け足しに過ぎなかった。前作ではこの逆転が痛快だっただけに
大いに落差を感じてしまう。                    

 真相の爽快感も皆無に等しい。無理無理感も強く感じるし。また、事件自
体も気色悪い上に、キャラクタ全員が気持ち悪い輩ばかり。キャラ立ちの華
(って北原白秋かよっ!)を狙っているかのような作品ばかりの癖に、まと
もに立っているような作品なんて滅多にない、と最近のキャラ萌え風潮に腐
っているのは私の感覚が古臭いせいなのだろうか。          

 うっとおしいキャラでこれからもいくようなので、期待感が一気にしぼん
でいるところだ。今回の採点は6点。次作がこれからも読み続けるかどうか
の試金石になってしまうかも知れない。               

 ところで、今回は題名に意味は見つけれなかったのだが、その次作の題名
は「クビツリハイスクール」らしい。一つ予言してみよう。きっと密室の中
には二つの死体。犯人はその二つの死体を利用して、「吊り輪(ツリハ)」
の要領で密室から脱出するのだ(どうやってだ?) 登場人物の中に体操部
の奴がいたら、間違いない、その人物が犯人である(笑)       

 今回はも一つおまけ。ダイイング・メッセージが難しくて、疑問符のまま
の方が多いことだろう。まずは私が考えたアイデア。真ん中の文字が”ー”
だったり、”/”の向きが逆だったら、もっと疑問の余地ない綺麗な解答に
なるのになと思っていた。つまるところ、やはり不正解だったらしい。とい
うことで、最後にネットで見つけた正解(なのだろうな)をどうぞ。  

  

5/27 朽ちる散る落ちる 森博嗣 講談社ノベルス 
 
 あまり面白味のないVシリーズの中でも、低レベルの作品。Vシリーズが
どうしてVなのかをやっと作中で明らかにしたとか、かなり最初の時点でV
シリーズの仕掛けに関しての重要なヒントを一つ明らかにしているとか、最
初の短編(「地球儀のスライス」所収の「気さくなお人形、19歳」)との
関連付けを行うクロニクル的な楽しみとか、そういうどうでもいいところを
盛り込んであるところが、本書の意味合いなのかもしれない。     

 とにかく「嘘はいかんやろ、嘘は〜!」と声を大にして言いたい。本書で
何が読者の注目を引くかというと(まあ「”不可能犯罪好きの”読者」と限
定を入れてもいいが)「前人未踏の宇宙密室」に違いない。もし、これに興
味を抱いて読んでみようかと思っている人がいたら、止めときなさいと忠告
しておきます。あまりにもあこぎなんで、敢えて意識してネタバレ批判覚悟
で書いているが、やっぱり嘘はいかんと思う。小説作法上のテクニックだと
解釈できるほどお人好しにはなれません。森氏有罪に一票。      

 もう一つの密室も、トリックは多少凝ってはいるけれど、結局これかい、
という解決で楽しめなかった。シリーズとしてのファンでなければ、全くお
薦めできない作品。森氏に対してはこれが初めてだが、5点にさせて貰う。

 ところで、この題名。絶対チルチルミチルだと思ったんだけどな。誰も道
にパンをまいたりしないし、お菓子の家に紛れ込んだりしないんだもの。

  

5/28 ふたり探偵 黒田研二 カッパノベルス

 
 ミステリ作家としては非常に希有なくらいに、単発物ばかりで勝負をかけ
てきた氏だが、ここに来て二つのシリーズが登場した。そのうちの一つが本
書である。但し、探偵の設定上、それほど長期のシリーズとして構想された
のではないのだろうと想像する。まさかこの先もシリアルキラーが、チェー
ン状につながっていくわけではないだろう。ましてや某清○院のように、組
織化されたシリアルキラーの団体さんが登場するわけもあるまい。   

 さて、本書はシリーズ化も考えられただけあって、非常に端正な本格とし
て仕上がっている。幾つもの伏線の筋が、最後に絡み合って収束する。サー
ビス過剰なくらいに盛り込まれ尽くされた伏線もあるが、どこでどう使われ
るかはそう簡単に底の割れるものでもない。「なるほど、こうだったのね」
とくすぐられる伏線の筋もある。これらの伏線の妙が今回の醍醐味。  

 惜しむらくはちょっとお上品な感がある点か。いや、決して「嘘つきパズ
ル」
の下品さを求めているというようなことでなくて、ミステリとして綺麗
にまとまりすぎてる印象を受けるのだ。               

 まとまっているということに、どうして不満を漏らすのだ、という疑問を
自分でも持ってしまうが、ほんとどうしてなんでしょ? 予定調和的に収ま
るところに収まっちゃって、意外性はそれほど感じられなかったのが、物足
りないのかな。”本格”をよくわかっている氏だけに、かえって真っ直ぐな
本格は少なかった。貴重であるはずなのに、この心埋まらない感覚。ひょっ
としてくろけんさん、ミステリ界の色物作家としての印象が定着してしまっ
たのか(笑) 採点は6点にするが、今後もこういう作品は欲しいと思う。

 

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