ホーム創作日記

9/17 サム・ホーソーンの事件簿I    
      
 エドワード・D・ホック 創元推理文庫

 
 不可能犯罪のスペシャリスト、ホックの紹介となると必ず挙げられるのが
彼が数多くの探偵(もしくはシリーズキャラ)を創造していることである。
そのあまたのキャラの中でも、全編に渡って不可能犯罪のみを扱い続ける、
スペシャリスト中のスペシャリストといえば、このサム・ホーソーン医師で
あろう。各種のアンソロジーやEQで単発で読むことは出来たが、こうして
発表順にまとめて読めるのは、大変嬉しいことである。この先も是非とも続
けていって欲しい。まさしく不可能犯罪愛好家、必携の書。採点は8点

 あまりにも高品質のこの短編集の中で、恒例のベスト3選びは困難だけど
楽しい作業でもある。そして私が選び出したのが、この3編。「投票ブース
の謎」「そびえ立つ尖塔の謎」「古い田舎宿の謎」。         

 これらに共通しているのは、それぞれが全く異なったやり方でありながら
読者の予想を大幅に裏切る、騙しのテクニックである。このいずれもが実に
単純な、ある意味卑怯だとも思えるくらいに単純な真相を持っている。それ
故にこそ、際立つ意外性。これもまた、不可能犯罪の一つの醍醐味である。

「ロブスター小屋の謎」や「十六号独房の問題」のように、トリックで読ま
せる傑作も勿論あるのだが、今回はこういったタイプで、ベスト3を選出し
た。ベスト選びをしていく中で、自分がミステリのどういった部分に重きを
置いているのか、どういったものを好んでいるのか、見えてくる部分が出て
くる。貴方も貴方自身のベスト選出をしてみてはいかがだろうか。   

  

9/18 火蛾 古泉迦十 講談社ノベルス

 
 全くもって評価の難しい本である。本書はどこまでイスラム論としての成
立性を持っているのだろうか?宗教に、特にイスラムなんてものにおいては
全くと言っていいほど知識のない私には、その境目の判断が出来ないのであ
る。最後の”核”となる部分は、宗教そのものの形であるから、この理解な
くして、どこまで語って良いのやらわからないのだが。        

 出来ればいつものように、”ミステリ”という枠だけで自分なりの評価を
下したいのだが、この作品はなかなかそれを許してはくれない。なるほどミ
ステリ部分だけでも、「ホワイ」を中心に置いた推理は、なかなか迫ってく
るものはある。しかし、それが幻想の中で、ある美しいつながりとして完結
するところにこそ、本書の価値があるのだ。やはり、本書を本格ミステリと
幻想小説とに切り分けることは出来まい。              

 しかし、この作者、こういう1作目を書いてしまって、これからどうする
つもりなのだろう?幻想と本格の狭間で、新たな世界を構築し続けるのか?
それともどちらかに傾いてしまうのだろうか?実力はありそうだが、さっぱ
り計れない。どう化けていくのかつかめないが、注目には値するだろう。

 今回の採点も悩みどころ。悩んだときには、6点を付けるのが相場なので
そうしておこう。未知数との巡り会いを期待される方にお薦めの作品か。

  

9/23 魔剣天翔 森博嗣 講談社ノベルス

 
 珍しくトリックがわかってしまった作品。与えられた条件がシャープで、
単純につなぎ合わせたら真相に辿り着けてしまった。しかし、たしかに緻密
に謎組みが構成された前シリーズに比較して、基本的にキャラクター小説で
ある(と決めつけてしまうが)本シリーズでは、それを引き立てるためにか
謎とその真相は、わかってみれば単純という構成になっているように思う。

 そういう比較的わかりやすいトリックではあるものの、私的には心地よさ
を持った”いかにもミステリ”というようなものであった。『夢・出逢い・
魔性』に続いて、本シリーズとしては上位に入る作品だと思う。ストーリー
重視派、キャラクター重視派の人々にとっても、練無に関しての部分や、そ
れに対しての紫子の対応など、きっと楽しめたことだろう。      

 但し、やはり採点はごくごく普通の6点。ところで、はっきりと解答が示
されてるわけではない宿題が残されているんで、一応ココ(『魔剣天翔』宿
題)
に。単純なのでこれがひょっとしたら正解の全てではないのかもしれな
いが、少なくとも一部ではあるはず。余計なお世話だろうが、取りあえず。

  

9/28 海底密室 三雲岳斗 徳間デュアル文庫

 
 過去にも著作はあるようだが、『M.G.H.』(私は未読)で第1回日
本SF新人賞を受賞し、SF界のみならずミステリ界にも話題を呼んだ作家
のSFミステリ第2弾。とはいえ、本作はたしかに解説にあるように、SF
ミステリではなく純粋に本格ミステリとして成立している。メイントリック
自体は「そんなの知らないよ」なものではあるのだが、充分な面白味を持っ
ていて説明を受ければ納得できるので、何の問題もないだろう。人間への影
響は大丈夫なのかなぁ、という疑問は沸いたけれど、フェア性に疑問を投じ
る必要性は感じなかった。                     

 それどころか、この作者からは、ぷんぷんと本格魂が感じられる。トリッ
クを使用する場合には、常に必然性とコミで考えている誠実さも感じられる
し、本格としての論理性や意外性の演出なども、非常に気を使っているよう
に思う。このたび”本格ミステリ”作家の会(名称は失念)が発足したよう
だが、ちゃんとそのうちの一人に名を連ねているようだし。      

 今後は是非、予備知識無しに読者が謎解きに参加できるような作品にも、
挑戦して欲しいものだ。その意味でも今回の採点は6点だが、7点(いや8
点さえも)取れる作品は充分に書いてくれそうな期待感がある要注目作家。
受賞作にも挑戦してみるつもり。ところで、SFという形式からこういう作
品が生まれてくるのは、いい傾向かもしれない。ホラーという分野も一つの
ジャンルとして確立してきたし、そろそろ、なんでもかんでもミステリとい
う風潮がなくなってくれれば嬉しいんだけどなぁ(笑)        

  

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