ホーム創作日記

 

1/6 放課後探偵団 創元推理文庫

 
 今年創元より刊行される若手の顔見せ興行という、広告戦略の一環。 

 とはいえ、これが予想外の掘り出し物。とっても瑞々しくて、ちょっぴり
センチで、それでいて謎解きの愉しみすらたっぷり味わえる優れもの。 

 昨年度は「叫びと祈り」「貴族探偵」「謎解きはディナーのあとで」「小
鳥を愛した容疑者」
という、本格として見事な短篇集が揃ったという点で特
筆すべき年だったが、本作もそれらに追加して構わない出来映えだ。  

 似鳥鶏「お届け先には不思議を添えて」はトリックがやりすぎかと思える
くらい凝り凝り。多重推理の謎解き合戦も見せてくれる。       

 鵜林伸也「ボールがない」は、シンプルな謎からシンプルな謎解きを積み
重ね積み重ねて、キュートな解決につなげていく。雰囲気良し。    

 相沢沙呼「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」も、シリーズ作品らし
い雰囲気の楽しさできっちり読ませてくれる作品。手堅い。      

 市井豊「横槍ワイン」もとっても可愛らしい小品かな。ミステリとしては
弱めだけど、おセンチな解決が恥ずかしいくらいにキュート。     

 梓崎優「スプリング・ハズ・カム」は、こういう作品集においてさえ、ず
ば抜けた出来映えを示してくれる。ホントに期待できる大型新人だな。トリ
ックという点では「白い巨人」同様、身も蓋もないというかそのまんまなん
だけど、それ以外の巧みさが群を抜いている。文句なしのベストだろう。

 全体的にシンプルなんだけど、何層にも組み上げてちゃんと”本格”を組
み上げようとしている姿勢に非常に好感を覚えられる。こういう青春ミステ
リの描き手の幅があるということは、本格界もまだまだ明るいぞ。   

 とても気持ちの良い作品集。広くお薦め可能かも。採点は7点。   

  

1/9 新世界崩壊 倉阪鬼一郎 講談社ノベルス

 
 う゛ははっ、やっぱやってくれるやん。よぉやるよなと笑えるよ。  

 まぁ正直全体の構造はわかるし、解明はたとえ最後でも、おそらく読者の
多くが動機はわかってたんじゃないかと思うけどね。でもバカミスにせんが
ためだけの存在価値でしかない、意味無し努力のバカバカしさは最高。 

 いやあ、しかし、ホントにこのまま毎年一冊のバカミスってペースを続け
ていくのかな。読者としてはだいぶ手管に慣れ切っちゃってきてるからな。
「三崎」「四神」と読んできての本書だと、だいぶ読めちゃうのが事実。結
構似た趣向を手を変えて使ってるって部分が大きいからな。      

 それでもさすがにこれだけの仕掛けを、完璧に全部読み切っちゃえる読者
なんかそうそうはいないだろうから(もしもあなたがそうなら、是非ともバ
カミス作家への転向をお願いしたいものだ)、充分愉しめるけどね。  

 新たな方向にパターン自体を伸ばしていかなきゃ相当厳しくなりそうだけ
ど、毎年とは言わんからまだまだバカミス・シリーズ続けて欲しい。  

 わかる部分が多かったから、採点としてはやっぱり6点だな。    

  

1/11 殺す手紙 ポール・アルテ ハヤカワポケットミステリ

 
 シリーズ外作品で、不可能犯罪の出てこない巻き込まれ型スリラー。 

 非本格であっても、フーダニット&ホワイダニットのツイストも味わえる
し、読者を幻惑させる”作りのマニアっぷり”も健在で悪くはないぞ。 

 妙にカラーの揃ったとも思える伏線たち(母親の台詞だとか、フィリップ
の手紙
だとか)も、なかなかの見物。                

 そういえば、カーもこんな風なスリラー仕立てが好きだったりしたからな
ぁ。カーに心酔する書き手としてはこういうことやりたいのも納得。  

 だけど、どうせならカーのあまあま路線も路線も継承して欲しいかな。思
いっきりラブに予定調和なほどのハッピーエンド、それこそがカーの路線の
はず。アルテは結構辛口屋さん。えげつないラストもあったりするし。 

 ところで、本の中身とは関係ないが、本書のもう一つの大きな特徴は「ポ
ケミス初の一段組」ってこと。中編くらいの分量の救済策(出版者側にとっ
ての)ってところか。お高くなるのが難点だけど、図書館派の人間にとって
は、読みやすくて歓迎かも。                    

 取りあえず悪い作品ではないけど、いつもの不可能犯罪はないから、海外
作品向けの甘い採点でも8点を付けるのは躊躇するかな。採点は
7点。 

  

1/13 プラチナデータ 東野圭吾 幻冬舎

 
 さすがに器用な(もうすっかり器用貧乏なイメージは抜け切ったな)作品
なので、読んでる途中の面白さは保証されてると言ってもいいだろう。 

 だけど思わせぶりだった割には、真相は捻り無くそのまんまみたいだった
感じで、中途のわくわく感に比較すると肩透かし感は否めない。    

 個人的にはSF的に壮大な展開を予想していただけに、世俗的で卑小な真
相にちょっとテンション下がって、げんなりしちゃった感じだったな。 

 ちなみに自分の予想とは、「結果をほぼ無尽蔵に蓄積できる」新着想のメ
モリ技術と、DNAの分析能力の飛躍的向上によって「DNAの系統を過去
に遡って辿れる」技術によって、最初のアダムとイブに至る全人類のDNA
の系統樹が全て手に入る、というようなもの。            

 未来方向へは拡散するので難しいが、過去の収束していく方向なら、どこ
までも分析して辿ることが可能なのではないかと。一旦アダムとイブにまで
辿り着いてしまえば、系統樹の大枠が描き出せる。あとは系統樹を埋めてい
くデータ収集さえ進めれば(どの家系の人からデータを取ればいいかは系統
樹からわかるので計画的に実行可能)、全人類のDNAマップが完成すると
いう寸法。それこそ「プラチナデータ」という名称にふさわしいかと。 

 まぁ、たわごとで失礼。でも、とにかく途中の面白さよりも、解決や真相
にこそ醍醐味を感じる本格ミステリ畑の人間にとっては、さほど高い評価は
与えにくい作品。採点は当然の
6点。                

  

1/18 壱里島奇譚 梶尾真治 祥伝社

 
 ほのぼのほんわか系なので、決して悪くはない心地は抱けるんだけども、
切なさ系ではないので、じ〜んと沁みる感触は無い。熊本に限りなく近い地
方出身(熊本との県境にある福岡県大牟田市)の私としては、懐かしい方言
ファンタジーとして楽しんだけどね。                

 まぁ「感動と驚愕の」ってのは特別ないと思うけど、癒し系ファンタジー
ってのは当たってるかな。                     

 特別語るべきと思える内容もないし、あまりお薦めするような作品でもな
いので、短いがこの辺で。採点は
6点。               

  

1/20 ここがウィネトカなら、きみはジュディ
                 大森望編 ハヤカワ文庫SF

 先週もまた飛ばしちゃったりしたので、今回は一気に五作品感想アップ。

 このところ集中的に時間物で稼いでる大森望だが、これこそホントの決定
版。古典的名作からテッド・チャンの新作まで、様々なタイプの傑作がバラ
ンス良く配置されていて、時間物ファンなら堪能できるはず。     

 基本的に大森望とは趣味が合わないので、彼が褒めてるなら読むの止めよ
うとか(特にミステリに於いては顕著)、逆ガイドとして活用してたりする
くらいなんだけど、本書のセレクトに関しては全面的に納得(但し「夕方、
はやく」を除く。これだけはぼんくらな私にゃちっとも良さがわからん)

 伊藤典夫/浅倉久志編「タイム・トラベラー」(新潮文庫)がとても入手
できない現在では、時間物アンソロジーとしての新たなスタンダードが誕生
したといっても、過言ではないだろう。               

 そんな高密度な作品集なので、ベスト選びも難航。やはり個人的な好みを
優先して、時間物ならではのロマンチックSFを中心に選んでみた。  

 ベストはこれが初訳とは思えないほどの名作「彼らの生涯の最愛の時」と
しよう。年上女性との初体験物(年上過ぎるけど(笑))と時間物との幸運
なカップリング。どちらも大好物な私としては、もうしびれまくり。超弩級
の名作「時尼に関する覚え書」との日米対決をお楽しみあれ。     

 第2位は表題作。ランダムなタイムスリップをラブ・ストーリーに仕立て
上げたSF史上に残る名品。表題作とするのも納得の出来映えだ。   

 第3位にはアイデアとそれを描写する筆致が完璧な「旅人の憩い」を。

 スローガラスという着想がもう秀逸な懐かしの名作「去りにし日々の光」
や、バカ話のスケールのでかさ「しばし天の祝福より遠ざかり……」が、次
点といったところか。文句無しに
8点が与えられる良質のアンソロジー。

  

1/23 死なない生徒殺人事件 野崎まど メディアワークス文庫

 
 処女作のようなインパクトはさすがに無いな。それでいて、ミステリの処
理の弱さが相変わらずなので、やはりもどかしいか。         

 まず論理展開がなってない。消去法的な論理展開から、突然根拠無く飛躍
して、それしか無いって結論だとして押しつけられても、全然納得できない
ってば。着想自体のぶっとび度があるんだから、普通に思い付き型推理でも
構わないのに。消去法の文法の中にぶち込むのは全くそぐわない。   

 ロジック風にいかに見せかけようが、全然ロジックなんかにはなってない
よ。それがたまたま正解だったってだけとしか思えないもの。     

 しかも消去法の論理展開なのにも関わらず、一番基本的かつ当たり前な結
論「共謀して嘘を言っているだけ」が、全然論議されないでやんの。普通は
これが正解だって(まぁ普通じゃない状況なんだけどさ)。      

 ……と、「殺人事件」なんて挑戦的な題名で来るもんだから、ちょっとむ
きになり過ぎちゃったかも。本格者としては甘くできませんことよ。  

 採点対象にするかどうかは微妙だけど、やっぱ外しとこ。ミステリ的では
あるけれど、きっとミステリのつもりはないよな、作者も。一応
6点。 

 ところで、このとぼけた独特の文体なんだけど、何となくずっと何かに
てるなぁと思ってて、ようやく気付いた。「AIR」というギャルゲー。あ
の雰囲気にそっくりだよと思うんだけど、共感する人いない?     

  

1/25 紙の碑に泪を 倉阪鬼一郎 講談社ノベルス

 倉阪鬼一郎のバカミスは読んでみようキャンペーン第二弾。     

 まぁ読んだ順番が悪かったというか、さすがに「留美」「四神」「三崎」
「新世界」と読んできた後では、この仕掛けはわかってしまう。まだまだ趣
向が単純だものなぁ。もっと早く氏のバカミスに入門しとけばよかったな。

 普通のミステリとしてはなんら評価できないしろもんだし、普通じゃない
ミステリとしても、ヒントが多すぎて読めてしまうという点で、さほど評価
は出来ないかな。まぁ、たしかにここから始まったんだろうな、というルー
ツ探し的な面白さはあったけど、それは作品とは別物な価値。     

 他の作者には無いタイプのバカミスの原点。とはいえ採点は6点。  

  

1/26 四重奏 倉阪鬼一郎 講談社ノベルス

 
 倉阪鬼一郎のバカミスは読んでみようキャンペーン第三弾。     

 うわぁ、これは悪いところ全部出たような作品かも。これ最初に読んでた
ら、他の作品は二度と読む気にならなかっただろうな。        

 独りよがりの読む気もしない文体。とんでもないことをやってる割には、
それが全然効果的に活かせてない。これだけの着想があれば凄い作品にもな
りそうなのに、表現方法が全てを台無しにしている駄作。       

 こりゃあかん。こんな作品にぶち当たるんだったら、もう過去作品は読ま
なくていいや。これにてキャンペーン期間終了としよう。       

 最近の読みやすさが奇跡とも思える読み味のひどさ。採点は5点。  

  

1/28 乾いた屍体は蛆も湧かない 詠坂雄二 講談社ノベルス

 
「捻くれた作風」に「ホワイのセンス」、それらこの作者の特色が上手い方
向に働いた作品。ミステリとしては結構地味なんだけど、そういう話とは思
わせないという独特のやり口や、意外な後味の良さが案外響くぞ。   

 ストーリーのバカさはあっても、バカミス的バカさは薄い作品ではあるけ
れど(あくまで作者の作品においてはの話ね)、それでもやはりぬぐいきれ
ないバカさは滲み出ている。                    

 しかも思いがけない方向にってのが、作者流。           

 そんでもってこんなゾンビな作品のクセして、なんだか爽やか作品に仕立
てあげちゃったりもしたりなんかもしちゃって……          

 まったく、小憎らしいお方だわん。もうこうなりゃ、現代の捻くれ作家三
羽がらすに入れちゃうわん。残る二人は、麻耶雄嵩殊能将之ね。   

 う〜ん、う〜ん、う〜ん、ええい、採点もギリ7点にしちゃえ。   

 ところでわたしゃ詠坂雄二の正体は、マジシャンのミスター・カラー(昔
いいともでレギュラーもやってた)だと思いこんでた。イケメンなのにいろ
んな才能豊かなんだなぁと。会社の夏祭りにもゲストで来たことがあって、
勝手に親近感を抱いてたのだった。                 

 私の勘違いだったよ(恥)。ここにこのネタ書こうとして、たった今検索
してみてわかった事実。実はメフィスト賞常連投稿者で、ミスターカラフル
という異名を持つ人だったらしい。どこでどう聞き違ったのか、見間違った
のやら。いやあ、得意ぶって書く前に、ちゃんと確認して良かった。  

  

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