ホーム創作日記

 

12/01 Q.E.D.34巻 加藤元浩 講談社

 
 社会派ミステリである「災厄の男の結婚」と、日本の古典短編では結構愛
されていた(と思う)ある種のトリックの変奏曲である「母也堂」。  

 非常に現代的でありながらも、どこか懐かしい日本ミステリの味わいすら
も感じられた巻だったかもしれないな。               

 前者は情報系の作品で、プラスが時にはマイナスにもなり得るという扱い
に若干の面白味は感じられるが、ミステリ的な興趣は薄い。それよりもシリ
ーズ読者としては、シリーズがシリーズとして展開しているという意味合い
だけで、充分見逃せない話であるだろう。              

 後者のアイデアはかなり発展性のあるもので、これだけでも秀作に値し得
るんじゃないかと私は思う。完全ネタバレとなるので歯抜けの迷彩で書くこ
とにするが、ある種のトリック(
プロバビリティの殺人)では被害者が無自
であったのに対し、本作では被害者が自覚的である点が新しい。   

 ありそうでなかったアイデアのように思うのだが、過去にどれほどの作例
があるものなのだろうか。私には思い出せないよ。          

 ただせっかくのこのアイデアに、普通の殺人トリックを絡めてしまうのは
なんだか勿体無いなぁ。バランスが悪い。色々と証拠が残るものである点も
印象良くないし。                         

 使い方次第ではもっと傑作にもなり得た作品かなぁ。惜しくも6点。 

  

12/03 サム・ホーソーンの事件簿VI
            エドワード・D・ホック 創元推理文庫

 ついに最終巻。多少シンプルにはなっているものの、最後まで不可能犯罪
にこだわって、しかもきっちりと読ませてくれる希有なシリーズだったな。
しかも通常ならどんどん質が低下していくのが自然だと思うんだけど、前巻
に続いて本巻も高レベルの作品が読めたように思う。         

 というところで、ここで心からのお詫び。申し訳ありません、ホーソーン
先生、いやさホック先生。前巻の感想で妄想吐いてしまったら、それをまさ
しくとがめるような作品が。                    

 そう、このシリーズは修験者のように不可能犯罪の道*だけ*を究める、
ストイックな作品だと思ってたんだよね。ところが……        

「自殺者が好む別荘の謎」、このラストで思わず「おおっっ!」とか声を立
てそうになったね。これまでの全シリーズ通じて、壮大な叙述トリック仕掛
けられてたのかと、思わず腰を浮かして前の方チェックしちゃったよ。 

 ああ良かった、と安心した方がいいのか、さすがに違ったか、と落胆した
方がいいのか、判断に苦しむところだけどね。これが本当にこの趣向だった
ら、何十年もたばかったのかと大感動もしくは呆れるとこだったな。  

 というわけで勿論ベスト3の一角はこの作品。この趣向を除けば、総合得
点としてこれより上位に来るのが「羊飼いの指輪の謎」だな。こういった作
品にこのアイデアが盛りこまれているとは読めなかった。       

 残り一作は「旅人の話の謎」かなぁ。クリスティ「招かれざる客」を想起
するホワイにしびれてしまった。                  

 最後までこのテンション、このレベルが持続できたなんて、ホントに凄い
こと。素晴らしい作品をありがとう。そしてさようなら、ホックさん。 

 最後ということで8点を付けたいところだけど、私情を除いて7点。 

  

12/09 丸太町ルヴォワール 円居挽 講談社BOX

 
 何故か乙一を想起してしまったちょっと捻くれたボーイミーツガールと、
エンタメ方向に振り切った異色の法廷ミステリとの融合。ロジックの応酬や
こしゃくなどんでん返しの連発で、なかなか愉しめる佳品。      

 ……とブログに書いてて、いざここに書評書こうとして思い出した。そり
ゃそうだ、「何故か」じゃなくて想起しない方がおかしかったんだ。この冒
頭って「さみしさの周波数」収録の「手を握る泥棒の物語」そっくり。 

 別にパクリとかそういうもんでは全くないので別にいいのだが、作者に影
響を与えた作家の中に乙一がいることは間違いないような気がする。  

 本書自体もたしかにラノベ臭さはあることはあるのだが、決してそういう
中に染まっている感触はない。上っ張り一枚羽織ってみただけで、いつでも
脱げる人なんだと思う。そんな染まらない独自感も乙一同様。     

 しかも敢えてそれを逆利用しているような節も感じられたのは、私の裏読
みのしすぎだろうか。もっと大人向けな雰囲気の中では敬遠されるだろう、
嫌みなほどの知力のひけらかしが、キャラ付けされているせいで不快感は与
えない。環境を上手く使ってるように私には思えた。         

 ミステリ的な観点としては、エンタメに特化された法廷シーンの、ロジッ
クや策略の応酬が楽しいと思うぞ。最初から主人公キャラを使わない分、前
半若干爽快感に欠けるけどね。でも、出来の良い競技ディベートを見ている
ようで、論理対決がお好きな人ならば楽しめる作品だろう。      

 どんでん返しの一つ一つはそれほど納得させてくれるものではないが(中
にはそれはあんまりだろ、と呆れ声を立てたくなるものもあるしな)、立て
続けなので取りあえず笑ってりゃすむ。いいんじゃなかろうか。    

 化ける(というより化けの皮を脱ぐというのか)可能性の高い作者だと思
うので、論理性の高い作品を期待。法月が短編で時々やるようなゴリゴリの
パズル作品なんか見せて欲しいもんだな。期待感でオマケの
7点。   

  

12/14 水魑の如き沈むもの 三津田信三 原書房

 
 このシリーズも五作目(短編集を含むと六作目)。いつもながらの凄い濃
さを見せつけてくれる作品。怪異と本格の融合。強烈なダブル・ミーニング
(以上)を含む伏線の嵐。どんでん返しの連続。さすがの作品。    

 なんだけど、何、この心の隙間は。う〜ん、なんだかホントっぽくない。
もともと怪異との融合なんだからリアルさなんか必要ないんじゃないの、と
いうような意味じゃなくて、「ああ、たしかにこれが真相だね。これで解決
だね」というホントらしさがない。                 

 たしかにこれも一つの凄い解決だとは思うんだけど、どんでん返しで捨て
られた推理も含めて、これら全てどんでん返しのどんづまりの果てだって気
がしなかったんだよね。も一つ何かあるんじゃないかって。      

 解決が犯人の告白とか再現シーンとかではなく、具体的に描写されていな
いせいだろうか。裏付けが行われていない。あるいは犯人の性格設定と、実
際の事件の構図が合ってないように思えるせいだろうか。       

 そういう完全に閉じきった感のない消化不良気味の読後感のため、自分の
評価としては前二作より下がってしまうなぁ。採点はギリギリの
7点。 

 ひょっとしたらシリーズの性格を知った現在読み返すと、「厭魅」の評価
は上がりそうにも思うんだけど、一応初読時の印象で順位付けを行うと、
山魔>水魑>密室>厭魅>凶鳥、かなぁ。            

  

12/16 武家屋敷の殺人 小島正樹 講談社ノベルス

 
 てんこ盛り(笑)。あえて(笑)を付けたくなるほどのてんこ盛り。 

 チープなバカ・トリックの印象は相変わらず受けちゃうけど、トリック小
説だけに収まらない要素(意外性など)も意識していて、こころざし良し。
まだまだ荒削りだし、不満点は多いけれど、注目はすべき作家かも。  

 とにかく前半から飛ばしている。島田荘司ばりの幻想的な謎の手記が、強
引な手腕で解きほぐされる。これだけで充分長編一冊を支え得るだけの謎と
解決のボリュームなのだから。                   

 ここから謎を残しつつ、遠い過去を含む過去と現在の謎解きを、どんでん
返しの連続で見せる後半も圧巻。これまた前半よりも更に強引な手腕で、相
当に苦しい部分も多いんだけどね。                 

 一つ一つは決して凄いわけではなく、手数の多さで見せる作家。これは
ビュー作
から一貫している。勿体ないくらいの盛り込みようは、この先も続
ける気なのだろうか。辛い個性を選択してる気も。          

 ところでシリーズ化を意識したキャラ設定だろうが、正直失敗だろう。少
なくともこのしゃべり方はないわ。このままじゃこの先読むの辛いので、再
考を願いたい。というかこれ出す前に、編集者止めてあげなよ。    

 手数は多いが、強引だしチープだし欠点も多い。採点は6点とする。 

  

12/18 騙し絵 マルセル・F・ラントーム 創元推理文庫

 
 うひょぉ〜〜っ! 喝采! 感嘆! 快感!            

 トリックとしては今年読んだ中で最高最強。というより歴史に残り得る、
いやいや、どうしても残さなくちゃいけない殿堂入り級。       

 ここまで突き抜けていたら、これをバカ・トリック、バカミスと呼ぶこと
に一切躊躇しないぞ。バカは死ななきゃ直らないけど、直す必要などないっ
てことを証明するかのような超傑作(意味不明)。          

 ある意味アニメ向きだとも思えるんだけどな。翻案すれば”こりゃまたび
っくり”な作品が簡単に作れそう。集団での犯罪というのが、シリーズ物に
盛り込むには難しいかもしれないが(ルパンとかコナンとかにはね)、是非
ともアニメーションで(実写は不向き)見てみたいなぁ。       

 しかしまぁ、こんな古典が残ってたなんてビックリだ。残り二作も早く訳
してください! 採点は
8点。本ミス投票前に読んでおきたかったな。そう
だ、これは海外ミステリ百選に入れちゃおうかなぁ〜。        

  

12/21 花と流れ星 道尾秀介 幻冬舎

 
 協会賞受賞も納得の「流れ星のつくり方」が群を抜いて出来が良いが、そ
れだけにあちこちのアンソロジーに選ばれていて、既読の人も多かろう。そ
の奇跡の一作を除けば、小粒で食い足りないお得感の薄い作品集。   

 長編やホラー短編集「鬼の跫音」などで彼が見せてくれるツイストを期待
するならば、それは上記の一作以外報われはしないだろうと思う。ただ彼の
ツイストを支えている手法の多くは、ミスリードである。本書はこれがさほ
ど多くはないだけに、ツイストの効果は強くはない。         

 しかしミスリードだけが彼の得意技かというと、決してそんなことはない
はず。伏線の技術もなかなかのものなのだ。そこに注目して本書を読めば、
また違う味わいが感じられるかもしれない。             

 たとえば私が本書中でもその妙味を一番感じられのが、「箱の中の隼」の
冒頭のコーヒーのシーンだろうか。                 

 そういえば長編「骸の爪」も、怒濤の伏線こそを楽しむ作品だった。シリ
ーズ・キャラクタを中心に置いての作品には、たしかに無理にツイストを盛
りこむのが馴染まないのも納得。こういう方向性は正しいのかも。   

 さてベストは断トツとして、次の作品を選ぶならば人情話として秀でてい
る「花と氷」だな。本書の題名や収録順にその出来映えが反映されてるのは
明らか。もう一作にはテクニックを評価して「箱の中の隼」を選ぼう。 

 幾ら伏線を評価しようが、全般的な弱さは救えない。採点は6点。  

  

12/30 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人
               倉阪鬼一郎  講談社ノベルス

 正真正銘の由緒正しきバカミス。他の何者でもないバカミス。    

 一発大ネタのインパクトとしては「四神」の方が好きだな。こういうバカ
ミスの場合、謎と解決のあまりにものギャップに、感嘆するより先に脱力感
を覚えてしまうのが常。しかしあの作品の場合、充分謎に比肩し得るだけの
解決のインパクトを持っていたと思う。言葉遊びとしても完璧なくらいにピ
タッと填っていたからなぁ。                    

 しかし本作の場合は、明らかに脱力感が先に立ってしまう。宣伝文句だけ
高すぎて中身貧弱な商品っぽい。但し唯一、お疲れ様度だけは、はるかにこ
ちらが上。ここまでようやるよな〜(勿論褒め言葉)。        

 言葉遊びも総てこのお疲れ様な趣向にのみ貢献している。着想だけでは噴
飯物だが、この一点(いや、二点、三点とあるのだが、見かけ違ってても基
本同じだからな)に全てを賭けた情熱が、本書を一級品のバカミスにまで昇
華させている。                          

 一読後、もう「バカミス万歳!」と言わせてしまうほどの、ビバなバカミ
ス。採点はやはり
7点だろう。                   

 この人とは合わないと読まず嫌いしていたが、巻末の作品リスト中バカミ
ス印付いた作品は今更ながらだけど読んでみようかと思う。「四重奏」「4
2.195」「紙の碑に泪を」あたりだな。             

  

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