ホーム創作日記

 

9/2 Story seller Vol.3 新潮社

 
 正体のよくわからない新潮社の不定期刊行版。この3号で終わりらしい。
執筆陣がなかなかユニークなので、紹介かたがた各編の短評をば。   

 沢木耕太郎「男派と女派 ポーカー・フェース」は、小説ではなくエッセ
イなんだよな。話の関連性というか一貫性がないのが作品として気になる。

 近藤史恵「ゴールよりももっと遠く」は、「サクリファイス」のその後な
のかな。ミステリ色はきっぱり薄いが、なんだかかっこいい作品。   

 湊かなえ「楽園」は、恒例の二文字題名ながら、厭話をかなぐり捨てたロ
マンチック作品。敢えて読むほどかどうかは微妙だが、こういうのは良い。 

 有川浩「作家的一週間」は、こちらはエッセイではなくて小説なんだろう
けど、どっちつかずの感触が落ち着かない。陰部の攻防は悪くはないけど。

 米澤穂信「満願」は、これが読みたくて読んだってことが「報われた」と
感じさせてくれた作品。大満足のホワイダニット。長短編含めて、この手の
ホワイへのこだわり&その上手さは、現代でピカイチかもしれないな。 

 佐藤友哉「555のコッペン」は、く○(”そ”でも”ず”でもお好きな
方をどうぞ)。密室本のままいなくなっちゃえば良かったのに。    

 さだまさし「片恋」は、題名で早くも真相を語ってしまうのは、ミステリ
畑の人間からは筋悪に思えるなぁ。それもあってか途中まではあまり乗り切
れなかったけど、やはり最後の手紙達にはぐっと来るものがあったなぁ。

 ベストは迷わず「満願」で、「ゴールよりももっと遠く」「方恋」でベス
ト3かなぁ。どっちかを「楽園」に変えてもいいくらい。採点は
6点。 

  

9/7 七人の敵がいる 加納朋子 集英社

 
 なんだかどこの本屋でも平積みされてたんですけどぉ〜。      

 加納様が売れるのは嬉しいんだけども、非ミステリのこの本でってのはち
ょっと悲しくもあり、ファンとしては微妙な心境〜。         

 いやあ、しかし、こういうお母さんいたら、すっごい迷惑かと(笑)。身
近にいたら、その鼻っ柱一回叩き折ってやる、なんて思ってしまいそう。そ
うなったらそうなったで、凄い報復来そうではあるけどね。      

 これまでの作品って、結構”等身大の加納朋子”が反映されていたように
感じるんだけど、ここまで弾けきったブルドーザー・キャラにも本人の反映
がされてたりするもんなんだろうか。ひょっとして願望?       

 でも、とにかく自分自身の環境って奴が、作品に反映されてるのはとぉ〜
っても明らか。たしかに独特のルールや不文律がはびこる、ちょっと他には
ない妙な世界なので、体験したら書きたくなるってのは納得。     

 でも、そういやこんな世界をしっかりと描ききった作品って、そんなには
ないんじゃなかろうか。ま、わたしゃミステリという狭い分野しかうろちょ
ろしてないんで、気付いていないだけかもしれないけれど。でも、あの平積
みがそれを証明してるような気もするんだよね。           

 ただ最後のビジョンは、ちょっといただけないように感じてしまったな。
理念はどうあれ、感情うずまく世界と建て前が大きく顔をのさばらせる世界
に、あまりにも異物過ぎるのではと。まず無理だろうなぁ。      

 ところで、ちびっこランド。あはは、これ完璧にこどもの国だ。そうです
よね、こういう行事ではひっじょ〜に使いがち。同じ市民同士の共感も感じ
られて嬉しかった。でもこのお母さんとは戦うかもしれないけど(笑)。

  

9/10 バイバイ、ブラックバード 伊坂幸太郎 双葉社

 
 色々やってる2期らしい”郵便小説”という企画らしいが、その企画自体
は作品に対しては全くの無意味。プラスもマイナスも何の役割も果たしてい
ない。まあ作品の外枠の更に向こうの話なので、どうでもいいことだが。

 とにかく相変わらずキャラクタに対するレッテル貼りが上手いよなぁ。人
間を描かずにして(というと語弊があるかもしれないが)、読者の心を見事
に惹く人物像をまたたく間に作り上げちゃうんだもんなぁ。      

 なんだかRPGのよう。一人一人の妙な属性ポイントが凄いんだよね。特
殊なパラメータだったり、独特の特技だったり、特異なアビリティを持って
いたりするわけだ。そんなわかりやすい人工性も、若い人の心をつかむ一つ
の要因なのかも(中年だってつかまれてはいるんだけどさ)。     

 太宰治の絶筆「グッド・バイ」は未読なので、どこまで関連性があるのか
はわからないが、この形式を借用したというだけなのではなかろうか。 

 ストーリーとしては比較的いつもの伊坂節。とぼけた味わいをベースに、
からりとしたり、ほわりとしたり、重すぎない軽みでつないでいく。  

 伊坂幸太郎の常に底辺を流れている”理不尽な暴力”は、今回はいわば見
せ球という役割しか果たしていないので、読後感もさほど悪くない。いや、
むしろいいといったところか。                   

 物語の外枠として郵便小説だったり太宰モチーフだったりと、「いろいろ
やってる感」は醸し出してるが、中身は1期のノリに近いかも。というわけ
で伊坂2期としては上位に位置づけできる作品だったと思う。でも
6点

 ところでやっぱこりゃマツコ・デラックスに脳内変換されるわな。  

  

9/14 42.195 倉阪鬼一郎 カッパノベルス

 
 倉阪鬼一郎のバカミスは読んでみようキャンペーン第一弾。     

 ……で、いきなり失敗だったか、と後悔しかけてる自分がいるよ(笑)

 まぁ、たかだかこの程度のオチでひるんでちゃいかんな。苦笑するだけで
すませておこう。一応はミステリとして成立してはいるんだからな。  

 でも、こんなことやる必要なんて全くないだろ! ってのは作中で言い訳
されてるけどさ。っていうか、オチと言い訳はどっちが先なんだよ? まさ
か言い訳のためのオチじゃないよな?                

 こんなん考えたんだけど、よぉ〜く考えてみりゃいろいろと不自然なとこ
ろが出てきちゃって、まぁそんなこんなのにいちいち理屈付けていくのも面
倒くさいから、ええい、いっそ、無効化しちゃえっ! だって、ボク、バカ
ミスの倉阪だも〜〜〜〜ん! ……って開き直りじゃないよな?    

 
………………………… 便利だな、バカミス …………………………
 

 な〜んてことをバカミス擁護派の私が言っちゃいかんか。でも、私の判断
では本書は”バカミス”ではなく、”トンミス”だな。このミステリを放棄
するようなやりざまを、ミステリが突き抜けた形でこそ成立するバカミスと
同列に論じるのは納得がいかないのだ。だってこれって、基本は「夢オチ」
と同工異曲の”投げ出し系”にすぎないからね。           

 トンミスもしくはダメミスのレッテルを貼らざるを得ないが、前記したよ
うに一応はミステリとして成立してはいるので、採点は
6点。     

  

9/17 スリープ 乾くるみ 角川春樹事務所

 
 乾くるみって、意外に”伏線下手”なのじゃないかしらん?     

 ドカンと一発、モロミエの伏線ぶちこみってお家芸? っていうか、伏線
も何も、最初に
戸松の研究の話が出た時点から、自明じゃないのか。読者は
難しい話は飛ばして読む、って法則なのか。             

 せめて、話が大きく展開した後の終盤部分が、何らかのミスリードになっ
てれば別だけど、そうじゃないしなぁ。わかっていなかった人は、ただ単に
きょとんとしてしまっただけじゃなかったんだろうか?        

 その両方の意味合いで、本書は巧みな作品だとは私には思えなかった。妙
に評判良さそうなのが不思議だ。「イニ・ラブ」で入ってきた緩いファンに
はいいのかもしれないけど。                    

 ところでそういう人達が「よし、この作家の他の作品も読んでみよう」っ
て気になって、「それじゃやっぱりデビュー作からっ!」なんて普通に思い
たったとしたら……   想像すると笑える。ご愁傷様!(笑)    

 ま、それはともかく、時間物ラブ・ストーリー大好きな自分としては、こ
の着想ならもちっと切ない系の話にして欲しかったなぁってのもある。 

 ほとんどが現在と地続きながら、一部だけ妙に進んだ30年後の技術って
のは、割合面白かったかも。仮面はいらないけど、風呂は便利だ。   

 いずれにせよ、ミステリとして読もうがSFとして読もうが、本書はせい
ぜい
6点止まりってとこだろう。                  

 ちなみに気付いていない人も二割いると思うが、貫井要美=乾くるみ。

  

9/20 アルバトロスは羽ばたかない 七河迦南 東京創元社

  
 日常の謎短編の連なりが、いつの間にかとんでもないところまで辿り着く
という、着地点の見事さは鮎哲賞受賞の前作を上回っているのでは。最後の
ドンデンだけでなく、短編としての質も良く、好印象の作品。     

 たとえば最初の「春の章 ハナミズキの咲く頃」。結構堂々とした伏線を
さほど伏線と感じさせずに、巧みに報われる謎解きに導いていく。非常にバ
ランスの良い短編で、作品への導入部としてプラスの効果を上げている。

 最後の「晩秋の章 それは光より速く」も、サスペンス風の展開で読ませ
てくれながら、意外性のある謎解きでガツンと落としてくる。更にいい話で
しめくくってくれるんだなぁ。                   

 この二作に挟まれる「夏の章 夏の少年たち」「初秋の章 シルバー」は
それぞれハウダニットやホワイダニットで読ませてはくれるが、必ずしも心
地良く読み終えられる短編ではない。若干の重さが残る作品。これらを先の
二作で挟むことで、その印象が残らない構成になっていると思う。   

 そして全体を貫く「冬の章」だが、やはりこれには驚かされた。ビックリ
の衝撃度でいえば、本年度ナンバーワンかも。但し真相も含めて、途中の捨
て推理も、「心地よさ」にはつながってない気がするのが、唯一欠点のよう
に思えてしまった。これはでも個人的な感覚の問題かな。     
  .

 フーダニット、ホワットダニット、ホワイダニット、ハウダニット、それ
らがいい具合に配置されていて、意外性も充分。今年のベスト10には絶対
に残しておきたい作品。採点は8点付けようかとも考えたくらいの
7点

  

9/23 月の恋人 道尾秀介 新潮社

 
 前知識無しだったのだが、まさか連ドラの原作だったとは。最初の方はそ
れなりに小さいツイストを決めてきたりして道尾らしい雰囲気もあったが、
やっぱり「連ドラの原作」だった。                 

 でもって最終的には何らツイストもなく普通のドラマで、これって道尾秀
介である必要性は全然無かったんじゃ? テレビの人、これで満足?  

 ……って、全然満足じゃなかったのか、公式サイトでストーリー読んでみ
たら笑っちゃうくらい全くの別物。あとがきで「ドラマ制作の過程でいろい
ろと都合が生じ、最終的にこの本とドラマ版はかなり内容の違うものとなり
ました」とあるが、そんな表現ではすまないほどのべつもんだと思うぞ。

「とくにヒロインの人物像が大きく異なっていますが」って、小説版のヒロ
インなんて、そもそもドラマ版に出てさえいないんだもの!      

 大人の都合って、怖ぇ〜〜〜っ(笑)               

 企画としても、作品としても失敗作。ディープな道尾ファンとか、ディー
プなキムタクファンとかでなければ、読む価値を見つけられないんじゃない
のかしらん? それとも単なる恋愛ドラマファンといったお方々ならば、こ
んな本だって感動して読めちゃったりするのかしらん。        

 いずれにせよ自分とは無縁のどうでもいい駄作。道尾秀介、何処へ行く?

  

9/24 見えない復讐 石持浅海 角川書店

 
 石持浅海こだわりの「奇妙なテロ物」のバリエーション。      

 このジャンルを氏が描く場合に必ず付随してくる”論理の飛び”が非常に
目立つ。手法と目的(もしくは結果)との乖離が大きすぎるのだ。   

 だから、一つの行為に対して真逆の解釈が可能だったりする。ミステリ的
にはそこがミソなんじゃないか、と作者は言うのだろうが、それは同時には
弱さでもあると思うなぁ。ましてやそういう趣向すらもなく、単に迂遠すぎ
るだけということになっちゃうとな。                

 途中から参加する弦巻に関しては、最初のゲームに関する行き過ぎた推理
(”論理の飛び”だよね)から、最後の行き過ぎた”展開の飛び”まで、全
部が全部ミステリの範疇に納まってるとは、到底思えなかった。    

 そのこともあってか、最後の予想できる展開に至っては、「はいはい、そ
うですか」と、とっても白けた気分にしかなれなかったよ。      

 量産し続ける作者にありがちのどうでもいい作品。採点は超低めの6点

  

9/28 八月の魔法使い 石持浅海 光文社

 
 横山秀夫ならば醜さ極まる重厚なリアリズムになってしまうところを、戯
画化したファンタジーとして軽快に描き上げた組織小説。       

 論理の飛びはさほどじゃないが、代わりに展開の飛び(そんなにうまくい
きまっかいな!って奴ね)は感じるか。目くじら立てるほどじゃないけど。

 まぁ、でも、そういう作者都合のご都合主義さえ目をつぶれば、量産体制
で気が抜けてたり強引すぎたりする最近の石持作品群の中では、読みやすく
エンタメ性高い作品だったんじゃないだろうか。           

 題名が示唆してるように、”企業のお伽噺”なんだからな。ただし、お伽
噺とはいっても、ちんたらと読み聞かせして貰うようにはいかないぞ。全編
通じてロジックの応酬なのは、いつもの石持節を期待している読者を裏切り
はしない。その辺の醍醐味は充分感じられるだろう。         

 まあまあの作品なんだけど、これだけ量産しててまあまあなんだから、そ
れはそれで凄いことかもしれない。採点はやはり6点止まり。     

  

9/30 小鳥を愛した容疑者 大倉崇裕 講談社

 
 地味だけど良質。きちんとテーマを活かして、実に緻密な論理展開を見せ
てくれる。職人技が堪能できる、今どき貴重な本格ミステリ短編集。  

 これは間違いなくシリーズ化決定だろうな。シンプルなわかりやすい人物
造型で、一般読者をも惹き付けること間違いなし。須藤と薄の掛け合いもニ
ヤニヤ出来ちゃうと思うぞ。                    

 それでいてロジックはきちんと筋が通っている。この辺は筋もののミステ
リ通をもうならせる出来映えなので、そういう人達にも安心。幅広い読者層
を楽しませてくれる良品。                     

 これは結構ドラマ向きかも。動物で見た目のインパクト稼げるし、動物も
のだから視聴率期待できるしね(ホント?)。NHKでミニ・シリーズなん
てのも、あながち可能性がないわけではなさそう。          

 個人的には、福家よりもこっちに重心移してシリーズ育てていって欲しい
ぞ。こりゃあ、採点7点にしちゃおうかな。             

  

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