ホーム創作日記

 

11/1 空想オルガン 初野晴 角川書店

 
 ハルチカシリーズ(という名称だったのか)第3弾、コンクール編。 

 前作がミステリ色抜け落ちた作品だったから期待してなかったのだが、バ
カミスだったり、そんなところにあるとは思わなかった意想外のツイストだ
ったりして、いやいやどうして一作目のお歓びが復活! 良いぞ、良いぞ。

 それではせっかくなので、各編の短評をば。            

 まずは顔見せ興行の「ジャバウォックの鑑札」から。基本は暗号解読物な
ので印象には残らない作品だけど、謎解きと人情の絡み合いは良い。  

 続いての「ヴァナキュラー・モダニズム」が、もうツボに入りまくりのバ
カミスキー(バカミス大好き人間を示す造語。どこかで見かけた気はするの
だが、ググっても引っかからなかった)も多いはず。勿論、私もご多分に漏
れず。こんなバカ話を、たっぷりの笑える伏線をまぶしまくりながら、素で
(素だよね?)書いちゃう根性が気に入った。            

 次の「十の秘密」は、謎の解決自体はなんだかなぁと思わなくはないが、
こういう構成にして提供するのがお見事。              

 そして最後の「空想オルガン」が連作としての〆をきっちりとやり果たす
逸品。ホント思いもかけなかったところから急展開で落っこちてきたツイス
トには、電車の中で思わず「そこっ?!」と声を上げそうになったぞ。 

 油断してちゃいかんなぁ。騙される快感と人情話のうるうる感を同じ皿に
載せられてサービスされちゃあ、おいしくいただくしかないっしょ。  

 第一作の感想で書いたように、爽やかなミステリ好きからげてもんなミス
テリ好きまで、みんなござれの大判振る舞い。採点は
7点で文句なし。 

  

11/5 動機未ダ不明 汀こるもの 講談社ノベルス

 
【汀こるものの歩き方】

あなたは左側のコースを歩きますか? 右側のコースを歩きますか?  
 

左側のコース   右側のコース                  
乱雑で    / 驚くほどの膨大なギミックを駆使しまくりで    
卑近で    / それが身近な材料で出来得ることに驚き      
暴走で    / やり過ぎなところにも快哉の雄叫びを上げてしまう 
醜悪で    / キャラの設定がそれぞれ深まっていくことで    
たち悪で   / 独特の世界観が各人の個性にまで昇華されている  
自堕落で   / おまけにゆりっぺのエロ属性が覚醒だ       
奔放で    / とにかく様々な面白味を自在に取り入れ      
独善で    / オタクなキーワードをちりばめながら       
盲進の    / ジェットコースターで突っ走る          
バカ凄い奴  / バカ凄い奴                   
 

このコースを歩いた方は、次にこう進むことが統計的に確認されています。
(注:当社調査結果より)                     

左側のコース               右側のコース      
仕方ない、バカ凄振りをもう一度見てやるか/ブラボー、当然次も読むぞ!
次巻も出たら買ってしまう        /次巻も出たら買ってしまう

 

最新の研究では、こういう行動も認められるようです(注:現在調査中)

左側のコース            右側のコース         
バカな作品読んだんだ、と友人に言う/凄い作品読んだんだ、と友人に言う
 

【友人は冒頭へ戻る】

  

11/8 ジークフリートの剣 深水黎一郎 講談社

 
 ミステリとしての結構は奥深くに潜み、ラストの感動の前に突然に浮上す
る。それだけに決して強い作品ではないのだけど(この作者は常にそうだけ
どね)、芸術ミステリとしては一つの高みに達したかのような作品。  

 私のような「もっとミステリを!」な本格乞食にとっては、やはり物足り
ないと思わざるを得ないが、一般の読書人を惹き付ける力のある作品だと思
う。少なくとも大抵の人を感動させるに値するだろう。        

 また芸術ミステリとしてのボリュームも、本人の中で過去最高レベルだろ
う。本書中で行われてる解説は、評論の域に充分達していると思える。素人
の私でさえ、ワーグナーや指輪にだいぶ詳しくなれてしまったよ。   

 ここも価値あるとする人も多いだろう。乱歩賞が道を作った(のかもしれ
ない)情報小説的な側面も、ミステリの重要な愉しみ方の一つだものな。

 ミステリとしてだけではなく、ストーリーとしても本来地味だとは思うん
だけど、さりげなく貼られていた伏線が、単にミステリとしての解決という
意味合いだけでなく、クライマックスの感動に繋がるのは絶妙の手腕。 

 最後良ければ全て良しみたいな感触に包まれて、”傑作”だったんじゃな
いかと充分錯覚できてしまえるほど。ミステリの価値をどこに求めるかで評
価は大きく変わるだろうけど、そう評価する人も多いことだろう。   

 芸術ミステリとしての価値は高いが、私にとっては悩まず6点の作品。

  

11/10 こめぐら 倉知淳 東京創元社

 
 バカバカしさが引き立ってて、「なぎなた」よりこっちの方が好み〜。か
といって、どうでもいい作品ばかりなんだけど(笑)。        

 本書のカラーはずばりメタ風味。メタなんて大抵メタメタなもんで、実際
そんなんばかりだけど、そこは愛嬌。メタの要因満たしてない作品でさえ、
内にいながら外から見下ろしてるようなパロディ色で、メタっぽい雰囲気。

 それではこのバカバカしい作品群を短評で繋いでみよう。      

 最初の「Aカップの男たち」はメタ風味は無し。話というか設定のバカバ
カしさだけで、それなりに真っ当な作品(本書の中では)。      

 続く「真犯人を探せ(仮題)」が本書の第2位。とにかくバカトリックの
くだらなさが全て。そのくだらなさを逆手にとって、メタ化することでボツ
ネタを救済している結構がバカミスそのもの。            

 これまたメタ、またもやメタ、ある意味ど真ん中のメタとも言えるような
「さむらい探偵血風録」を第3位に。メタにもほどがある。      

 と思ったら、続いての「偏在」はある意味究極のメタ。この流れじゃなか
ったらそんな意識無かっただろうに。編集の作為はこんなんでいいのか?

 メタかと思ったらファンタジーの範疇で納まってしまった「どうぶつの森
殺人(獣?)事件」は、アリバイ考察を無効化する手掛かりが良い。  

 最後の「毒と饗宴の殺人」は、人死にがあることもあって猫丸先輩の作品
集には収まってなかったもの。この中でも浮いてはいるのだけど、ロジック
も効いてて、これが実は本書中のベスト。              

「なぎなた」よりは明らかに楽しめるとはいえ、採点は6点。     

  

11/12 太陽が死んだ夜 月原渉 東京創元社

 
 う〜ん、しばし悩む。それなりに良くできてるよという論調でも、しょぼ
さを誤魔化してるだけでつまんねーという論調でも、どっちでもいけてしま
う作品。薄目で全体をぼんやりとして見れば、きっと良いのだろうな。 

 雰囲気は良いから、それなりに乗せられて読めればそれなりの読後感で、
ふんふん(もしくはふむふむ)言ってられるくらいの作品だろう。評者が述
べてるように、キーワードの選択などはセンスありそだし。ミステリを全体
印象で捉えて愉しめる人ならば、評価できるかもしれない。      

 ということで筆の勢いとしては、ついつい後者の論調になってきちゃった
ようだな。しょうがない、作者には申しわけないがそっちの方向で。  

 雰囲気で盛り上げてはいるのだけど、ミステリの本質部分を取り出すと、
やはりしょぼい。密室トリック〜なんて考えてると、かなりの肩透かし感が
ある。犯人や動機なんて、誰がどうでも良いような、「ひぐらし」あたりの
幾らでも可換型のホラーのノリにすら思えてしまう。解決した後も「なげー
よ」とか言いたくなっちゃうで、構成にも難あり。          

 基本的にはお上手な人で、受賞には特に文句は感じはしないが、追いかけ
たくなる人には今後もなってくれそうな予感は感じないな。ただ最近若手は
必ずしもデビュー作がベストではないけどね。採点はごくごく普通の
6点

  

11/18 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉 小学館

 
 わお、これはかなり凄い作品集だぞ! ユーモアミステリを前面に押し出
した売り方になってるけど、その正体はガッチガチの硬派な本格。   

 しかも、とぉ〜っても良質の犯人当て。ツン&SコンビのSな決め台詞が
決まったところで、挑戦してみてはいかがか。絞り込みのロジックから決め
手のロジックと二段構えで責め立てられたりしたら、もうM属性(ミステリ
属性と好意的に解釈してね)のあたしはアヘアへになっちゃうわん。  

 ユーモアやキャラに関しては、多分ネット上のいろんなところで言い尽く
されてるだろうからここでは書かない。でも、まさか彼のユーモアがここま
で一般にはまるものに進化するとは驚き。しかし、それを抜きにしても、と
にかくいずれの短編もミステリとして、とってもいい出来だぞ。    

「殺人現場では靴をお脱ぎください」は、発想の面白味もさることながら、
そこからきっちりとロジックで意外な犯人につなげていくのがお見事。  

「殺しのワインはいかがでしょう」は、絞り込みのロジックから最後の二択
のロジックへと、二段階で発動するロジックの連携が美しい。     

「綺麗な薔薇には殺意がございます」は、ロジックを駆動させる手がかりの
意味合いが無茶苦茶上手い。                    

「花嫁は密室の中でございます」は、手がかりはあからさまに見せつけらて
ているのに、なかなかロジックには結びつけられない。悔しいが脱帽。 

「二股にはお気をつけください」は、これまた絞り込みのロジックに決め手
のロジックと二段階で構成されていて巧み。             

「死者からの伝言をどうぞ」は、こういうダイイング・メッセージとしては
許せるし、バカミス的手がかりとロジックの競演に感嘆。       

 もう大判振る舞いしちゃっても構わないだろ。採点は8点。「ロジック大
好き〜」な本格者はこれを読め! 今年の重要な収穫の一つ。     

  

11/20 キャットフード 森川智喜 講談社BOX

 
 ユニークな設定から、終盤の畳み込むような論理展開。       

 ……という評価でもいいんだけど、なんだかちょっと見せ方も仕込み方も
ぎこちないなぁ。レーベルの設定している読者層には不親切な気もするし、
マニアを喜ばすにはまだ至らない点が多すぎるように感じられた。   

「ロジカルさ」は充分感じられるのだけど、まだきっちりと理に落ちきって
はいない。結論の必然ではあっても、論理の必然には至ってないのだよな。
そこんところがなんだか読んでてむずがゆい。            

 不可解さを見せておいて「どうだ、これを推理してみろよ」と、読者に挑
戦的な突き放し方をしてみせてもいるのだが、ちょっと不親切すぎてマニア
層向けの要求レベルの高さだとしか思えない。            

 アイデアもロジカルさもシニカルさも読者への挑戦的な姿勢も、全て好み
ではあるのだけど、本作においてはそれらは全てぎこちなく、空回り気味。
でも、うまくはまると愉しい作品書いてくれそうな期待感はある。   

 でも、どっちの方向にいく人なんだろうな。たとえば本作なんかは漫画で
読みたいタイプの作品(漫画には出来ないネタはあるけど)。こういう軽め
のラノベ系な作品を続けていくのか、本格の本流(って、いったい本当にそ
んなものがあるのか?)に殴り込んでくるのか。           

 基本アイデアが突飛な設定でデビューした人だから、先が読めないや。ま
ぁいずれにしてもミステリの領域に留まる人なんだろうけどね。    

 採点は当然の6点だけど、二作目、三作目あたりに要注目作を期待。 

  

11/22 セカンド・ラブ 乾くるみ 文藝春秋

 
 おお〜〜っと、びっくらこいた(死語?)!            

 あの「イニ・ラブ」と同系統だとわかっていて、仕掛けがあることは最初
からの前提だったはず。でも、どうせこういうことだろと思ってた、実はそ
の先に着地点があったとは。                    

 驚き度だけから言えば、前作を凌駕しているのではないか。     

 とはいっても、ミステリとしての出来映えでいえば、あちらの方が随分と
上だと思う。あれのミステリとしての肝だと私が考えるは、次の三つ。 

(1)青春小説が一瞬にしてミステリに転換してしまう意外性の鮮やかさ
(2)読者が自らの力のみでミステリとしての真相を補完し得る緻密さ 
(3)描かれていた物語と読者が補完した物語とのギャップの衝撃さ  

 このうち1の意外性に関しては、驚き度は高くても、それがこの”鮮やか
さ”につながってるかというと結構微妙。たしかに読者をコントロールする
技術は巧みだが、ミステリには比較的あるプロローグ形式なので、”型”自
体の新規性は無い。これが前作の意外性との大きな違いだと思う。   

 2に関しては、明らかに前作に軍配が上がるだろう。本作ではさすがに説
明せざるを得なかった。しかも通常のミステリ形式の作品では無いので、探
偵の謎解きなどでなく、登場人物の台詞で語るのが不自然だし無粋。  

 3は後発である本作の方が、そもそも圧倒的に不利。しかし、それを抜き
にしても本作の負け。何故なら本作は読者が推理推測する余地があるから。
作者自身がプロローグにおいて、”謎”として提示しているのだもの。 

 前作はそもそも読んでる途中で、”謎”と呼び得るもの自体が存在しない
(あのやりすぎの伏線など、推理の余地としてはゼロではないのだけど)。
自ずと心構えが違ってくるので、たとえ同じだけのギャップがあったとして
も、すっかり油断してるところに叩き込まれる衝撃に及ぶはずもあるまい。

 そんなわけで、ミステリとしてはあちらには及ばないのだが、これだけの
作品が生み出せたのは想像以上。しょうもない劣化品ではなく、骨のある作
品読ませてもらえて嬉しい。採点は
7点としたい。          

  

11/26 ボディ・メッセージ 安萬純一 東京創元社

 
 本年度鮎川哲也賞受賞作。                    

 その”正体”についてはスタンと同時に気付いたが、残念なことに本書の
ピークはそこにしかなかったな。そこからの動機の結び付けだとか、犯人特
定のロジック(というかその無さ加減)なんかは、かなりぐだぐだ。  

 同時受賞の「太陽が死んだ夜」同様、雰囲気は悪くない。でも、やっぱり
ミステリの本質自体がしょぼいというのも同じ。ぐだぐだ感も。    

 そもそもダイイング・メッセージ自体がひどい。被害者がその必要もない
のに、変に捻ったメッセージを残すという、一番駄目なパターンの奴。 

 犯人が戻ってきて消されるのをおそれた、という金科玉条のように挙げる
言い訳なんて意味ないっちゅうねん。「変なの書いてるけど、これならいい
か」って思ってくれるわけないっつうの。直接書こうが、捻って書こうが一
緒だろ、あほらしい。あまつさえ、結局捻りもなくそのまんまだし。  

 死んでない被害者によるダイイング・メッセージというのを評価する向き
もあったが、単に珍しいというだけで意味はないだろ。        

 唯一評価するとすれば、カークイーンを連想させるというお遊び感覚だ
な。こういうのはたしかに大好き。しかし「太陽…」の方もアケチコゴロウ
だったし、全然違う二作のくせに、妙に感触が似ちゃってるよ。    

 どっちもどっちだけど、作品としては全体で描くイメージとして優ってる
あちらが上かなぁ。かなり微妙な線だけど。採点は当然こちらも
6点。 

  

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