ホーム創作日記

 

8/2 Q.E.D.36巻 加藤元浩 講談社

 
「黒金亭殺人事件」はなんだか普通のミステリ。数学談義が盛りこまれては
いるものの、このシリーズらしくするための味付けとしか思えなかった。全
然意味のある絡みではなかったからなぁ。              

 しかも致命的なほど、トリックに無理がありすぎ。これはいくら漫画だろ
うが、さすがにダメだろ。成立させるためにはもっと条件を絞れるようにし
なくっちゃ。練習できました、だけでは到底納得できないよ。     

「Q&A」は真相はひどい話だと思うなぁ。一見お得意の人情物風に見せか
けてはいるけれど、無茶苦茶意地の悪い話だと思う。         

 だからこの謎と真相だけだったら心地良くも何ともない作品なんだけど、
語り口に一つ工夫を加えることで、読ませる作品に仕上げてきた。   

 それが錬金術の詩。この解釈が無茶苦茶面白く、これがあることでいかに
もこのシリーズらしい趣を付けることにも成功している。       

 ミステリっぽさ度は高い巻だったが、どちらもミステリという点では面白
味はない作品だったので、どちらかといえば低調な巻。採点は
6点。  

  

8/4 かいぶつのまち 水生大海 原書房

 
 演劇の内と外との呼応。                     

 一つにはそこに、何故筋立てが変更されたのか、というホワイを成立させ
る。そしてもう一つはそれで、本書最大の見所を作り上げる。     

 演劇を中心テーマとした本シリーズらしい、構成の巧みさだろう。  

 しかし、個人的に感心したのは、ただそれだけだったかも。     

 とにかくミステリとしては下手だと思う。いくらなんでもこれはミスリー
ドだろうと思ってたら、それがそのまんま解決になっちゃうんだものな。

 伏線を置いたそのすぐ後で、その伏線を使用したネタを仕込んだら、読者
にはさすがにバレバレになってしまうだろう。その置き場所を逆にするだけ
でも全然効果は違うのに。                     

 前作も取って付けたようにミステリになってるという面も感じられたし、
あまりミステリ畑で伸びるタイプの人ではないのでは。ミステリらしさにこ
だわらない作品作りに舵を取った方がいいような気がする。      

 また最後にもう一つ逆転を置いてはいるのだけど、どうしてそこに考えが
至ったのか、さっぱり理解できなかった。性格判断ですか? 占いじゃない
んだから。作者としては自分が構築した世界なんだから当然なんだろうが、
読者に同じことを求めるのはミステリの世界じゃ通じまへんで。    

 シリーズとして、前作の登場人物達からの視点で描かれているのに、そこ
にほとんど発展が見られなかったのも気になった。環境だけは変わっている
のに。ミステリのシリーズであればそれも当然なんだろうけど、本シリーズ
は青春小説の要素が強いわけだからなぁ。採点は結構残念な
6点。   

  

8/6 彼女はQ 吉田親司 電撃文庫

 
 珍しくもギャンブル小説なんだけど、う〜む、やっぱりラノベ・クオリテ
ィだな。B級SFのノリも笑えないレベルの安っぽさ。絵までイマイチ。

 インディアン・ポーカー、スタッド・ポーカー、 大貧民、ブラックジャッ
ク、ドロー・ポーカーと、カードゲームのオンパレード。たしかにほんのち
ょっとしたツイストが決め手にはなるんだけど、「なるほど〜」とか「やら
れた〜」とかの、痛快さや爽快感はさほど感じられない。       

 ギャンブル漫画においては、この手のロジカルな面白さが巧みに盛りこま
れた作品が多いだけに、どうしても引けを感じてしまうよ。      

 また冒頭ではとんでもない額が動いてたというのに、本編に入ってからの
せせこましさときたら。最後の勝負なんて、ポケットの小遣い銭勝負だぜ。
ギャップのおかしみが効ををなしてるわけでもないしなぁ。      

 強さも画一的で紛れもないため、緊張感にも欠ける。ラスボスがどんな強
さを見せてくれるかと思ってたら、さっぱりだよ。まぁ、完璧な「運」とい
うキャラを先に出しちゃったら、それで全ては霞むわな。       

 小説としては滅多に読めないジャンルなだけに、妙な期待感を持ち過ぎち
ゃったかも。採点は当然のごとく
6点止まり。            

  

8/16 ザ・ベストミステリーズ2010
                日本推理作家協会編 講談社

 今年度は圧倒的に「本格ミステリ10」の勝利〜! 圧勝!!!   

 グランプリ(協会賞受賞作)が振るわないばかりか、候補作が全てぱっと
しない作品ばかり。07以降の選考方法の変更が凶と出てるんじゃないだろ
うな。あるいは去年と今年の選考委員の好みが自分とは異質なのか。  

「話としてはいい話だよね」ってのが、評価の大部分を占めてる気がする。
厭な話も含めて、物語性が最重要ポイントのような。元々の推理作家協会賞
であれば、作家同士が選ぶ賞としてまだ納得な感じも受けるんだけどね。推
理よりも作家に重きがあっても、まあ当然かなと。          

 でも、それがミステリー・グランプリって名称になると、何か違うだろっ
て気がする。ミステリとしての優勝作じゃないよなぁって。これもミステリ
とかミステリーって言葉にどれだけ拘りがあるかって差かもしれないけど。

 以前はもっと協会賞だって、ツイストのある作品が好まれてたりしてた時
期もあったんだけど。誰がやってるか把握してないけど、やっぱり選考委員
の好みがその年々で前面に出ちゃうんだろうね。           

 というわけで、自分のベスト3は候補作と全くかぶるとこなし。ベストは
大門剛明「この雨が上がる頃」で、黒崎視音「ノビ師」、曽根圭介「老友」
でベスト3。次点は小川一水「星風よ、淀みに吹け」とする。     

 あんまりいいところのない年間アンソロジー。採点は6点止まり。  

  

8/18 機械探偵クリク・ロボット カミ ハヤカワ・ミステリ

 
 ミステリとしてはどうでもいいが、ユーモア小説として充分に楽しめる。
カミ本人による挿絵も随分といい味出してくれてるし、翻訳の頑張りようが
拍車をかけていい気分にさせてくれる。いい仕事してまっせ。     

 翻訳というよりは、翻案と言ってもいいくらいの努力の跡が見て取れる。
作中の暗号をまるっと全部作り変えたり、なんてのは翻訳者の仕事じゃない
もんなぁ〜(勿論責めてるわけじゃなくて、褒め讃えてます)。    

 また言葉遊びの取り入れ方が巧み。当然原文に触れてるわけじゃないので
元々のレベルがどんなものかはわからないんだけど、この日本語版でもビッ
クリするくらいきっちりと楽しませてくれる。きっと原作の雰囲気を見事に
再現してるんだろうなぁ。                     

 勿論そう思えるくらい、原作自体の面白さが滲み出ている。想像してたほ
どにはぶっとんだ作品、ぶっとんだネタではなかったが、ユーモア小説とし
て充分に楽しかった。採点は
8点。                 

 ああ、ルーフォック・オルメス、読んでみたいなぁ〜。この翻訳家で新訳
版出してくんないかなぁ〜。                    

  

8/19 七花、時跳び!  久住四季 電撃文庫

 
 普通に面白いが、普通に面白いラノベ読まされたって、こちとらちっとも
嬉しくも何ともないんだい! お子ちゃま向けに日和ったか、久住四季!

 時間物としての着想も”普通”の域を一切出ていない。頑張って複雑に組
み上げようとはしているけども、平凡な着想の上でいくら練り上げようが、
「ご苦労様」の一言くらいしかかけられやしないぞ。         

 すぱっと放り投げた「ミステリクロノ」シリーズでは、作品としての出来
映えは必ずしもベストとは言えなかったにしても、それぞれに新しい着想を
盛り込んだ時間物に仕立て上げていたのになぁ。           

 出来るのにやってないというか、個人的には手抜きとすら感じられてしま
う所業なんだけど。とはいえ、こういうタイプの方が明らかに一般受けしち
ゃうんだろうなぁ。単純に頭使わず読んで楽しい作品なんだからさ。  

「ロジックねちねち」が大好きなんてのは、物好きなミステリ・ファンに限
られちゃうんだよな。今はなき氷川透のような「ロジックごりごり」じゃな
くて、割といい感じだったのに。貴重な人材を失ってしまったのか。  

 まぁ飽きっぽい人のようなので、日和るのにも飽きてミステリに戻ってき
てくれたら、もう一度読むことにいたしましょ。採点は平凡の
6点(純粋に
SFだから、年間順位の対象外作品だけどね)。           

  

8/23 ドゥルシネーアの休日 詠坂雄二 幻冬舎

 
 やはり妙な作品を書く人だなぁ。遠回しではあるがアンチ・ミステリの一
種のような感触すら受けた。突き放したような本格性(それは論理ではある
まい)も、それを裏付けるかのよう。                

 安っぽい(と言っていいのか、きっと確信犯だし)オチが、妙な効果を生
むのも前作と同じ。前作ほど笑激ではないので不要な気もするけどね。 

 取りあえず少なくとも、「警察小説×学園小説×活劇小説」って掛け算じ
ゃないわな。せいぜいが足し算だろ。まぁ色んな意味で滅多にないような作
品ではあるので、珍品を好む人達にとってはそれなりの価値を持つ作品・作
者だと思うが、決して「未曾有の傑作ミステリ」なんかではないぞ(って、
帯に文句付けるほど無意味なことはないんだろうが)         

 明らかにトンデる作品にもなっていないだけに、前作、前々作に比較すれ
ば、レベル・ダウンは否めない。基本的に捻くれた作風の人なだけに、先に
書いたように意識的なのかもしれないが、それでもやっぱり本格を否定する
かのような、投げやりな真相解明シーンはちょっとあんまりだし。   

 採点は6点。でも、何やらかしてくるのかさっぱり読めない作者なだけに
今後も見逃すわけにはいかないらしいぞ。              

  

8/25 空ろの箱と零のマリア 御影瑛路 電撃文庫

 
 おお〜、これは驚きの秀作! ラノベのイメージを覆す名作と言っても良
いのでは。一見キャラ萌え系のチャラさで魅せる作品かとも思えたが、全く
そうではなかった。練り込まれた作品世界で堂々と勝負をかけている。 

 時間ループ物ってことだけでいいや、と思って読んでみた自分が恥ずかし
く思えるほど。そんな薄い期待感なんて、簡単に跳ね返してくれるぞ。 

 緩すぎた「七花」の直後に読んだから余計かもしれないけど、独自のアイ
デアが存分に盛りこまれてて、好感度が非常に高い。         

 またループ回数の多さという点では、谷川流の短編「エンドレスエイト」
とも比較してみたくなるのも当然だろう。しかし語り口さえ除けば、根が単
純なあんな作品よりも、こちらの方に手放しで軍配を上げたいぞ。   

 しかもミステリ・ファンであればなおさら見逃せない。ラノベだから、S
Fだから、と切り捨てるのは勿体ない愉しみを味あわせてくれるぞ。  

 明記はされてはいないが三部構成となっていて、そのそれぞれのパートで
きっちりとツイストを効かせてくれる。叙述の仕掛けも設けられていたりし
て、全く油断も隙もないぞ。                    

 しかもその一つ一つが、その真相自体の驚きだけでなく、おっとそう来た
かという手管の驚きをも兼ね備えている。ある程度物語の枠が定まっている
この作品の中で、そんなことをやってのけるのは困難だったはず。   

 物語自体の性質が各パートで変わっているわけではないが、倒叙・本格・
サスペンスと三部構成の妙を極めたオールタイムベスト級「死の接吻」を、
さすがに比較とまではいかないとはいえ、想起させられた作品だった。 

 ただその技巧自体は、ミステリ・プロパーな視点からすれば、わずかにぎ
こちなさが感じられた。その意味ではさすがに8点を付けるには至らず、採
点は
7点としよう。こりゃあシリーズの残り三作も読むしかないな。  

  

8/27 [映]アムリタ 野崎まど メディアワークス文庫

 
 ぐふぅ〜、なんだか凄いぞ。この話がこんなところに落ちる。自分には決
して辿り着けない領域だな。ホラーに限りなく近いけど、どこか美しい。

 足りないとことか、ダメなとことか、書こうと思えば何十行だって書ける
けど、それを補って余りあるだけのインパクトがたしかにあるな。   

 たとえばかなり持ち上げるとすれば、これはかなり究極に近いミステリ構
造を持っていると解釈することも可能だと思う。アクロイドの衝撃すら想起
させる、叙述の衝撃。実際には決して叙述ミステリというわけではないのだ
が、P224の傍点の台詞が引き起こす、混迷と解明の同時衝突が脳内で弾
け飛ぶ様は、叙述トリックのソレに限りなく近い。          

 残念ながら本書はミステリを志向した作品ではないので(だよな?)、ミ
ステリの処理という観点から見れば非常に弱い。ミステリ側の人間から見れ
ば「そもそもの最初」の伏線は置いとくべきだと思うし、置くこと自体もテ
クニック的に難しいことではないので、キズに思えてしまうのだ。   

 それを手始めに、ミステリの面から言いたいことを並べ立てればホントに
キリはないだろう。でもまぁそれは、自分の領域に引き込みたい欲のせいに
すぎないってことで、これだけに留めておこう。           

 長所も短所も大きく含んだ作品だったが、インパクト度を評価して7点
扉裏の自己紹介のセンスも良い。二作目も読んでみることにしよう。  

  

8/31 シャーロックホームズに再び愛をこめて
             ミステリー文学資料館編 光文社文庫

 パスティーシュ中心だった前作と比較すると、パロディ中心なだけにこち
らの方が面白い。とはいえ逆にパロディを前提としてるだけに、ふざけてる
感が却って薄く感じられたりして。パロってても生真面目な日本人ゆえ?

 ホームズ譚に関する話は既にもうし尽くしたような気がするので、今回は
早速恒例のベスト3発表ということで。               

 ベストは悩むことなくダントツで、松尾由美「亀腹同盟」だな。複数のホ
ームズ・パロディのぶっこみというだけでなく、ホームズ・パロディである
こと自体が真相に直結するという事件の構図まで、完璧なレベルのパロディ
と言っても過言ではあるまい。本邦の決定版の一作だろう。      

 第二位は全くホームズ譚でもなんでもないんだが(解説でも苦しい釈明が
されている)、妹尾アキ夫「リラの香のする手紙」とする。フィニィ「愛の
手紙」趣向の作品なんだもの、個人的趣味で落とすわけにはいかない。 

 そのロマンチックつながりで、第3位は北杜夫「禿頭組合」としよう。

 前巻同様アンソロジーとしては7点の価値でも、読後感としては6点

  

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