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09/02 石の猿(上) ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
09/07 石の猿(下) ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

 
 をを、さすが!! 手の内もだいぶ分かってきたし、このサスペンスはど
んでん返しを仕込むのは難しそうだと感じてたのは、私の思い上がり。見事
でしかも納得しやすいどんでんに、すっかり翻弄されてしまったわん。 

 ハウダニットのどんでんだけではなくて、ホワットダニットの構図までひ
っくり返す(ずらしになるのかな)というのも、本作の面白味。    

 いやあ、しかしなぁ、たしかに疑問に思ってたんだよなぁ。でも、特に触
れられないし、本書ではお約束なんだぁ〜と単に流してしまってた。  

 でも、これならこれでまたまた大きな疑問が。これだけのためにここまで
やる(
船を沈める)ってのは全然割に合わんのでは、ってのはどうなる?

 不自然な噂が流れないように、ということかもしれないが、これでも充分
なっちゃうだろうし、もっと単純で簡単に済む話だと思うんだけどなぁ。ど
こまで突っ込むことが許されるんだよぉ〜。ここまでは許されて、ここから
は許されないという境がわからん。私が理解し切れてないだけ?    

 それとジェットコースターな雰囲気はちょっと弱かったかな。丁々発止や
一進一退の攻防という感じではなくて、捜査の展開も少々生ぬるく感じられ
てしまったかも。派手なオープニングだっただけに余計に。      

 でも、それで割り引いたって、こんなに翻弄してくれちゃったらやっぱり
8点だよな。とにかくこれでライムの長編は全部制覇できたぞ。しかし、や
っぱり凄いシリーズだよなぁ。どんでんの玉手箱。全作品が祭りだよ。 

  

09/09 不思議の扉 午後の教室 大森望 角川文庫

  
これは意外に良かった。学園物に”定番”作品ってのはたしかに無いよね
ってことが効いてるのか、セレクションも結構絶妙。こういう方がいいよ。
全体の質もバラエティさも良い感じで、珍しく大森望にグッジョブ!  

 気持ちの良い作品集だったので、全編にコメント付けてみよう。   

 湊かなえ「インコ先生」はラストのツイストがかなりいい感じ。単なる厭
ミスの書き手ではなくて、こういうテクの使い途が彼女の武器。第三位。

 古橋秀之「三時間目のまどか」は時間物のラブ・ストーリー。手の届く時
間物(逢える時間差)ってのが爽やかに光る。湊かなえと同点三位で。 

 森見登美彦「迷走恋の裏路地」は「夜は短し歩けよ乙女」のサイド・スト
ーリー。未読の私では評価し辛いが、既読であれば心地よさそう。   

 有川浩「S理論」は都市伝説がモチーフ。身も蓋もないというか、小学生
のようなオチよなぁ。でも、その堂々とした開き直りっぷりが笑える。 

 小松左京「お召し」はやはり傑作だなぁ。養魚池をあっさりと初期設定と
して片付け、そこからのアイデアの料理の仕方で魅せる。本巻のベスト。

 平山夢明「テロルの創世」は何かのプロローグみたいな作品なので、ちょ
っと乗り切れなかったなぁ。                    

 ジョー・ヒル「ポップ・アート」の風船少年という奇想にしびれる。地に
足付いたホラーの父(キング)とは違う自由さに惹かれて、第二位。  

 芥川龍之介「保吉の手帳から」は必ず一編選出される古典文学枠なのだが
ピンと来る作品には一度も出逢えず(私だけ?)。この枠、不要じゃない?

 凄くお薦めってことはないけれど、心地良かったので7点進呈。   

  

09/13 まもなく電車が出現します 似鳥鶏 創元推理文庫

 
「放課後探偵団」の顔見せ興行効果というわけで、この作者初鑑賞。  

 真相の飛び幅が意外に大きいので、探偵役の論理性が怪しく感じられてし
うという、西澤保彦型の弱点を抱えている。でも、それもミステリとして
の魅力の裏返しとも捉えられるわけで、なかなかの好感触かも。    

 ただ、本書の二段階の推理という(通常はおいしいはずの)構成は、果た
して効果的なのかどうかちょっと疑問に思えてしまったかな。     

 一段目の推理は比較的真っ当なんだよね。ああ、そうかもと思えなくもな
い程度。ところが真相の方はどっかちょっと吹っ飛んでる。こんなんわかる
かよと言いたくなるほど突拍子もない真相だったりもするのだ。    

 素っ頓狂な捨て推理があるけど「ああ〜、なるほど〜」な真相ってぇ方が
普通のパターンだと思うので、これが逆だと落ち着かない。なんだか余計に
胡散臭く思えてしまうような気がする。ロジックで無理なく真相に誘導して
くれるってやり口ではないと思うし。                

 唯一の例外が「嫁と竜のどちらをとるか?」だろう。ロジカルに解けると
宣言されたので、解答より前に正解に辿り着くことは出来たが、目から鱗的
なシンプルなロジックがとても気持ち良い。これはまぎれなし。    

 でも、それでもベストは胡散臭さは強いけども「今日から彼氏」だな。捨
て推理も真相もどっちも飛び幅が高い。どっちも飛んでりゃ幅が広い方が真
相でも問題無く思えてしまうので、こっちの方向性の方が良いのでは。 

 え〜と、そう言えば誰かを”ぶっとび日常派”と名付けた記憶があるぞ。
う〜んと、う〜んと。あっ、そうか、倉知淳だ。猫丸先輩だ。     

 青春〜も良いけれど、そっちの方向性の方がひょっとしたら向いてるかも
しれないよ。さらば青春。ようこそぶっとび日常の謎。        

 ギリギリの線ではあるけれど、ちょっと空中から真相を取り出しているよ
うな、ロジックの納得感に欠ける気がするので、採点は
6点止まり。  

  

09/20 命に三つの鐘が鳴る 古野まほろ 光文社

 
 動機をロジックで解き明かそうという本格ミステリの意欲作、という解釈
が可能だろう。こんな作品これまであったっけと思ったら、構成含めて「半
落ち」
そのものか。但し、ロジカルさはこちらが上。         

 東野圭吾が書いてたら絶賛されそう。まほろ、こんな作品も書けるのか。
手に取る人がそこまで多くはないだろうけど、読む人さえ多ければ年間ラン
キングの上位も充分に射程距離な作品。ちょっときっかけさえあれば、ブレ
イクするかもしれない作品だと思うな。               

 ……と客観的に評価して持ち上げてみるけれど、実は自分としてはそんな
に好きな作品ではない。ロジックを精緻に見せかけながらも、蓋然性の高す
ぎる真相も含まれてるあたり、どうしても気になってしまう。     

 心理を論理で解くってのは基本無理だと思ってるせいもあるのかも。本作
の場合そういう構成のように見えはするけれど、本質は事実を論理で解いて
いるとも言えるんだけどね。でも、ひっかかりが残ったままだった。  

 しかし、そういうこだわりを持たないのであれば、特に”人間ドラマ”と
してミステリのストーリー性を追いかけることの好きな人であれば、本書は
期待以上の歓びをもたらしてくれるかもしれないよ。         

 学生運動という特殊な時代を背景にした人間ドラマ、それもページが進む
度に何転も何転も様相がひっくり返っていく。到達する真相も泣かせる。

 それだけではない。ある意味、本書は警察小説に革命をもたらしたと評価
することも可能だと思うのだ。警察小説なんて頭よりも足、脳をこき使うよ
り靴をすり減らすことが大事というような、とぉ〜っても地味な印象を持っ
たまま本書に向かうと、めんくらってしまうかもしれない。      

 ロジカルな警察小説。超頭脳戦な警察小説。頭脳プレイな応酬に(対被疑
者というよりも、同じ捜査陣内の方が顕著)クラクラしちゃうこと必至。

 こんな警察小説、今まで無かった。これは大きなプラス評価だと思う。

 ってわけで、一般的な評価では絶対に7点以上稼げる作品だと思うが、ロ
ジックが貫き通せていない点で、個人的には
6点止まり(厳しいか?)。

  

09/28 真夏の方程式 東野圭吾 文藝春秋

 
 ミステリとしての肝は弱く真相もありがちと言えばありがちなので、「献
身」
「救済」には及ぶべくもないが、人間ドラマとして非常に巧みで、これ
らに続く作品としての期待に充分応えられた佳作だと思う。      

 少年と男という関係をベースにした成長物語って、さほど数は多くないも
のの良質なミステリを形成している、一つの黄金パターンだものな。  

 この関係があるからこそ、余韻のあるラストが沁みるんだよなぁ。東野圭
吾クオリティのドラマ力でねじ伏せる作品だな。           

 そんな雰囲気に飲ま込まれちゃって、なんとなく疑問提示するきかっけを
失いそうになるけれど、でもやっぱり動機は弱いよなぁ。弱いというか、そ
れじゃ被害者は浮かばれないんじゃとすら思えてしまう。       

 しかも本書の肝が、「献身」のホワットダニット、「救済」のハウダニッ
トに対して、ホワイダニットがメインだとも言える構成だけに尚更。  

 トリックも弱いっちゃあ弱い。伏線がきっちりと張られてるあたりは、評
価すべきポイントだとは思うけど。フーダニットはほぼ無意味だし。ちょっ
と違う方向性でピリっと効かせてある部分はあるんだけどね。     

 そんな風にミステリとしての弱さはとても否定できるものではないけど、
読者の期待という大きなプレッシャーの中で、これだけの作品を続けて出せ
るのは凄いものだよ。それだけの力は感じさせる作品で間違いなし。  

 加賀シリーズ最高傑作なんて大ボラ吹いた「麒麟の翼」とは違うね。本書
をガリレオシリーズ最高傑作なんて謳ったら、さすがに違うけど。文春さん
は講談社とは違って、そこまで恥知らずじゃないってことなんだろな。 

 色々と文句は付けちゃったけど、しかも評価ポイントも私としては珍しく
ミステリよりもドラマ力を買っての話だけど、採点は
7点。      

  

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