ホーム創作日記

1/7 Q.E.D8巻 加藤元浩 講談社

 
 前巻では少々ミステリ的には盛り下がってきたが、また上昇気配が見えて
いる。今回は2話とも、そこそこの出来ではないだろうか。      

 1話目は、どっちの方向からやってくるやらと思っていたら、なるほどこ
う来たか。解決してみれば、ありがちと言えなくもないが、それでもこの種
のミステリ漫画においては、充分以上のレベル。ストーリーも悪くない。

 2話目は、いつもの番外編っぽい感じではあるのだが、なかなかユニーク
なミステリ・コメディに仕上がっている。この手のネタを、描いた人物像と
の違和感なくまとめあげるのは、存外に困難なはず。最初の思いつきから、
よくここまでプロットを練り込めたと感心する。普段はそう気にすることは
ないが、久々に作り手側の苦労(まあ、それも楽しい作業なんだけど)が、
しのばれる佳作。楽しかった。                   

 6点ではあるが、ある程度の質が維持されるようになっている。あまり躊
躇なく買い続けられるレベルではないだろうか。貴重な存在かも知れない。

  

1/12 転・送・密・室 西澤保彦 講談社ノベルス

 
 統一された趣向が秀逸だった「念力密室!」に続く短編集だが、今回は統
一性がなく逆に毎話語り手が変わるという趣向になっている。そういうこと
もあって、キャラクタの重要性がますます高まってきている。更に、嗣子ち
ゃんのライバル(?)やら、シリーズ全体を左右してきそうな謎キャラまで
登場してきては、独立した短編集として読むのはもはや困難だろう。キャラ
が多彩になりすぎて、逆にシリーズとして薄味になっていくヤな予感も。

 それに同期したかのように、西澤流本格パズラーとしての弱みがちょっと
露見してきたような気がする。謎の構成は相変わらず凄いのだが、解法が弱
い。読者の視点ではなく、作者の視点から推理が展開されていると思う。

 西澤流本格パズルは、特異なルールを定義して、その枠内に特異な着想を
盛り込むことで形成される。特異な着想を頂点としたピラミッド構造。底辺
が読者に与えられたテクストになるわけだから、本格パズルとしてはここを
基点に推理を展開して欲しい。底辺から頂点に向かうロジック。読者の視点
としてはそうあるべきなのだが、それが困難なのだ。通常の論理では辿りつ
きにくい突飛な着想。これが作者の基点であるわけだから、いきおい論理も
こう始まったりする。「こう考えてみたらどうだろう」頂点から底辺に向か
うロジック。一見ロジカルではあるが、やはりそれは作者の視点なのだ。

 厳しいことを言うようだが、そういう弱さが色濃く見えて、採点は6点

 あと細かいことかもしれないが、「現場有罪証明」では「俺」になってる
一人称が、「<擬態>密室」では「おれ」になっている。なんとなく主人公
の言動にも違和感があって、これは叙述トリックかとしばらく用心してしま
った(笑)。どうか人称の統一はお願いします→西澤サン、編集サン。 

  

1/29 リセット 北村薫 新潮社

 
 話が展開するまでが長過ぎる!とにかく長い。終盤も終盤、突然一気に流
れ出すのだが、そこは既に296頁。そこからはたしかにいい。いいんだけ
ども、なんだかあっさり。「こう来るのかぁ」と思わせてはくれるけど。麦
畑のシーンなんか、やっぱり大好きなんだけどね。          

 でもでも、それでも長過ぎない?じっくりと淡々と描いた時の重みが、終
盤の何かの対比となって、ずっしりと読者の胸に迫るという構成かと、読ん
でるうちは思ってた。でも、実際そういう構造、そういう効果になってたか
というと、大いに疑問。あっさりとすっ飛ばしてくれたものね。そこまで積
み重ねたものを、軽々とぴょんと飛び越えてしまった。これじゃ、そこがど
んな高さになっていたって、関係ないんじゃないかな。        

 宮部みゆきとの対談を読むと、北村薫自身の日記や、父の日記が素材とし
て使われているという。同時代を共有していない私にとっては、なんだか作
者の感傷に付き合わされた感じが拭いきれなかった。以前の書評でも触れた
けど、作者個人の思い出に読者を巻き込もうとする感触に、ちょっと距離を
置きたくなる気がする。現代の名文家に対して、失礼だけども。    

 凄く素敵な作品ではあるんだけど、どうもすっきり心地良く浸れるところ
まではいけなかったというところ。だから、採点は6点止まり。3部作の個
人的な順番は「ターン」「スキップ」「リセット」となった。     

 ところで、これって「リセット」?「ターン」の方が、よっぽど「リセッ
ト」に近いような。あえてテープレコーダー系の言葉を使うなら、「つなぎ
録り」あたりが近いかなぁ?題名にはならないけれどもさ。      

  

1/31 奇術探偵曾我佳城全集 泡坂妻夫 講談社

 
 昨年度のベスト表に完璧に君臨した作品である。職人(紋章上絵師)にし
て奇術師である作者が、20年をかけて生みだした作品が一堂に会するので
あるから、それも当然。職業の話だけではない。ミステリの世界においてさ
えも、氏はやはり職人であり奇術師であるのだ。大胆にして意表を突く伏線
現実を揺るがす奇想など、技巧と発想の双方にその持ち味は良く現れる。

 その氏の代表シリーズといえば、「亜愛一郎」シリーズになるだろう。こ
ちらは全編がねじれた逆説と奇想に満ちた傑作揃い。それに比べると、本シ
リーズは地味さを強く感じてしまうのは事実だが、その分熟練の技巧をじっ
くりと楽しめるとも言えるかも知れない。奇術に例えると、亜が舞台で演じ
られる派手な演出に満ちたイリュージョンならば、佳城は目の前で巧妙に演
じられる手練のクロースアップマジックといったところではないだろうか。

 採点は勿論高得点の8点と行こう。さて、恒例のベスト3だが、これほど
の短編集だから悩むかと思いきや、あっさりと決まってしまった。ベストは
「おしゃべり鏡」。卓越した構成が採られている。発動する前に破られてい
るトリック、さすが泡坂さん、着想の飛びが凄い。更に演出の勝利。続いて
は「花火と銃声」。作者の最も得意とする、逆説の論理が炸裂する。最後は
「天井のトランプ」。伏線の巧妙さに唸る。奇しくも私が考える著者の3大
特徴のそれぞれが、特に傑出した作品でまとまったようだ。      

 ところで最終話を読むことで、ある作品の様相が一変してしまうのだが、
これについてはネタバレにて書いてみることにしよう。        

  

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