ホーム創作日記

1/8 3人の名探偵のための事件 レオ・ブルース 新樹社

 
 国書以来の古典復活ブームは喜ばしい限りである。また、ここに一つの名
作と出会うことが出来た。レオ・ブルースの処女作にして、とびきり面白い
”探偵小説”である。そう、本書にはやはり”探偵小説”の言葉こそがふさ
わしい。これは、探偵達(ピーター卿、ポワロ、ブラウン神父)のパロディ
であると同時に、”探偵小説”という形式自身のパロディでもある。優れた
パロディはそれ自身が、本家の形式を見事なまでに踏襲するものだが、本作
は確かに極上の”探偵小説”として機能しているのだ。        

 作中では、古典的な密室殺人が一つ提供される。これを巡って、いつの間
にか湧いて出てきたような(笑)3人の名探偵達の調査と、名推理が展開さ
れるのだ。ここで言う名推理とは、パロディでよくある「迷推理」ではない
し、もちろん「銘推理」(これは麻耶だ)でもない、正真正銘の名推理であ
る。単純な古典的密室殺人に、それぞれ考えられた解答(正解と呼んでも差
し支えないような)が示される。そこに至る推理のきっかけなどは、それぞ
れの本家取りとして、非常にうまい使い方さえされている。      

 しかし、最後に解決を示すのは、「実直な田舎者」的な描き方がされてい
るビーフ部長刑事であり、”推理”よりも、実直な”捜査”によるものなの
だ。こういう結末になることは、最初から読者はわかっているものの、その
皮肉さは結構楽しめる。最初から「犯人はわかっている」と言い続けている
のに、誰も相手にしない描写なども、くすぐってくれる部分だ。    

 トリック自体も、密室に対する解答としての幾つものパターンを示すもの
なので、密室物としても傑作の一つに数え上げることが出来るだろう。採点
は文句無しの8点。いいぞ、レオ・ブルース。他の作品も、とてもとても読
んでみたいものだ。続いて訳出されることを、希望!願望!切望!   

  

1/14 風刃迷宮 竹本健治 カッパノベルス

 
 ゲーム3部作の牧場智久ものなのだが、同じ匂いをほんの少しでも期待し
たら、馬鹿を見ることになる。おそらく私は、竹本健次の読者であることを
止めるべき時が来ているのだろう。望む方向が、大いに喰い違っていること
を、明らかに認識せざるを得ない。                 

 この作品には、本格のかけらさえ感じ得ないし、出来の悪いサスペンスと
いうわけでもなさそうだ。何を意図しているのか、私には結局理解すること
が出来なかった。                         

 日本ミステリベスト30竹本健次の項で書いたように、とにかく基本的
に、彼は話を収束させることには、全く執着がないのだと私は思う。これは
処女作である「匣の中の失楽」が、壮大な未完成ミステリであったことから
始まり、メタフィクションという言い訳を免罪符に(と私には感じられる)
広げた風呂敷を折り畳まずに店じまいした感のある「ウロボロス」あたりで
は、はっきりと現れている彼の特色なのだと思う。それは必ずしも「短所」
と言い切ることは出来ないのだが、私の望むミステリ像からはかけ離れてし
まっていくのだ。                         

 今回の作品もその特色が端的に現れているのだと思う。一見無関係に見え
るバラバラの事件がどうつながっていくのか、共通の要素が見え隠れしなが
ら、読者を引っ張るかと思いきや、肩すかしのようにバラバラなままで終わ
ってしまう。読者に突きつけられる、ある不思議な謎にどう決着を付けるか
と思いきや、「ミステリの創成期じゃないんだからさ」な、気の抜ける解決
が出てきてしまう。                        

 だから(というわけでもないのだろうが)、こういう見方と作者の意図と
が、全く別のところにあるのだろう。途中で興味の持てない展開に辟易し、
思考を停止していたために、作者の意図が読みとれなかったのではなく、そ
もそも私と竹本健次のベクトルが完全にそっぽを向いているということなの
だろう。そういうわけで、残念ながら本作は、私には4点の価値しかなかっ
た。今年は出るだろう漫画作品が、私の読む最後の竹本作品になるかも?!

  

1/22 あなたが名探偵 講談社文庫

 
 豪華な作家陣による犯人当てである。トリック本の類や、軽いクイズ方式
の犯人当ては、数限りなく出ているのだが、作品としての体裁がきっちりと
まとまった、こういう形の犯人当ての作品集というのは、珍しい部類だと思
う。しかも別々の作者が、これだけの数というのは、久しく見なかったので
はないか。そういう意味では結構貴重な作品集だろう。        

 久しく見なかったといっても、実はこれは、72年〜80年に刊行された
「現代推理小説体系」の月報に掲載されていた作品集なのである。どうりで
古く懐かしい名前が多いはずだ。こういうところもちょっと嬉しい。  

 さて、貴重ではあるものの面白みはどうかとなると、ちょっと「う〜ん」
といったところだろうか。単純な「推理クイズもどき」と言いたくなるのは
少なく、ちゃんと作品として成立している物ばかりなので、文句を付けるよ
うな罰当たりな真似はしないが、ストレートというか、素直というか、お上
品な印象を受けた。これも、根性のねじくれ曲がった(勿論、誉め言葉であ
る(笑))新本格系に毒されている弊害かもしれないが。       

 採点は11点、、、って、これは当然ながらいつもの採点ではなく、私の
正解数の話。こういうページをやっている身としては、厳しく根拠まで当て
ること、という足枷は付けたものの、19問中11問では、ちと恥ずかしい
出来か。で、いつもの採点としては、やはり6点といったところ。   

 一応恒例のベスト3を選んでおくと、ベストが根拠が単純だが明快な「架
空索道殺人事件」(草野唯雄)。残る2作が、綺麗な出来の「駐車場事件」
(都筑道夫)、構成から問題文の出し方まで面白みのある「最後の章」(千
代有三)にしておこう。                      

  

1/26 Q.E.D2巻 加藤元浩 講談社


 さて、前作を紹介したQ.E.Dの第2巻である。取りあえずはまだ様子
見と書いたが、今回もまだまだそんな感じだろうか。といいながら、ずるず
ると買ってしまいそうな気がする。最近までの金田一君みたいに、巻をまた
ぐことがないので、いつでもやめられるという利点があるのが救いだ。 

 今回の収録作品は、「六部の宝」「ロスト・ロワイヤル」の2作品。 

 「ロスト・ロワイヤル」は、早くも番外編的な、本格を離れた作品になっ
ていて、点数低いぞ。ロワイヤルの伝説は、なかなか面白いが、これはひょ
っとして元になるような実話があるのだろうか?163ページのブガッティ
の顔は、旧ルパンの1作目に出ていた悪役と同じ顔のような気がするが、ど
ちらも同じモデルがいるということなのかもしれないし。無知で申し訳ない
が、自動車関連の話はちんぷんかんぷんなのである。         

 というわけで、今回のメインは明らかに「六部の宝」になるだろう。相変
わらず犯人側は都合良く進展し、欠点も多々見受けられはするが、いいとこ
ろもやはり持っている。静菜に関する推理はなかなか意表を突いた面白さを
持っていたし、「事件の日のアレ」という犯人の行動の不自然さもいいだろ
う。伝奇的な要素も盛り込んであって、読み物として充分なレベルかもしれ
ない。あまり大きな期待を寄せなければ、本格色濃いめのミステリ漫画とし
て、満足できるかもしれないといったところか。採点は6点。     

  

1/31 念力密室 西澤保彦 講談社ノベルス

 
 稀代のアイデアメーカー西澤保彦全開の短編集である。推理作家に対する
誉め言葉の一つに、”トリックメーカー”というものがあるが、西澤保彦の
場合には、この”アイデアメーカー”という言葉こそがふさわしいと思う。
研ぎ澄まされた、”点”に集約されるトリックの鋭利さよりは、シチュエー
ションの設定の豊富さを始めとする、”面”で攻めたてる数々のアイデアが
西澤ミステリの醍醐味と言えるのではないだろうか。         

 さて、今回の短編集も、そのアイデアを存分に愉しむことが出来る作品集
である。トリックメーカーではない証拠に(という言い方は失礼だろうな。
トリックが第一の眼目でない証拠に、あたりか)、密室において第一に扱わ
れるはずの”ハウ”に関しては、ここでは全くもって蚊帳の外なのである。
何しろ、”それはサイコキネシス(念動力)で施錠された”という解答が、
前もって読者及び作中の探偵に与えられているのだ。         

 では、何が主眼かと言うと、密室におけるもう一つの謎”ホワイ”なので
ある。トリック先行主義の場合、この”ホワイ”が若干おざなりになる場合
もあるのだが、うまくはまった場合には、極めて魅力的な謎と解答の美しさ
を味わうことが出来る。トリックに目を奪われていて、解決において、この
”ホワイ”が明快に示された際の感動は、特に本格を愛するミステリ読みな
らば必ずや出会ったことのある喜びだろう。             

 と言う程までの解の美しさがあるかと問われれば、口を濁してしまうが、
毎回こういう縛りがある中で、これだけの作品集を作り出せるのは、もう敬
服してしまうしかない。単純に”ホワイ”を追及するだけではなく、それぞ
れには、うまく仕掛けが設けられていて、興味の尽きぬ作品集だろう。また
軽妙なやりとりの中に、巧みに仕込まれた伏線もうまいぞ。      

 自信作なのも頷ける、西澤保彦にしては(失礼!)丹念な造りで、納得満
足の堂々たる7点。8点を付けてもいいくらいの出来だ。       

 さて、あとがきを読むと気になる主人公達3人の関係だが、特別編である
「念力密室F」を読むと、やっぱりアレなのかなぁ?これに関する予想と、
ついでに最終回を勝手に予想してみました。なかなかの大作ですので、是非
是非こちらもお読みくださいね。                  

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