ホーム創作日記

8/3 星虫 岩本隆雄 朝日ソノラマ文庫

 
 所属しているメーリングリストで紹介された作品。こういう場がなかった
ら絶対に手にすることはなかっただろう作品。紹介者の真夏さんに感謝。

 これは星の物語。星への憧れの物語。そしてまた、星自身の憧れの物語。
誰だってあるんじゃないかな、星を夢見たこと。宇宙に飛び出してみたくな
った気持ち。なんだかそんな凄い懐かしさが、ちりっと胸に刺さった。 

 星を思い出すことって、夢を思い出すことに似ている気がする。夜見る夢
じゃなくて、未来を見る夢。星を夢見るように、夢を夢見る。小さい頃の自
分にとっては、星が果てしなく遠かったように、未来も果てしなく遠いよう
に感じられたから。ひょっとしたら、そういうことかもしれないね。  

 今、自分達はその頃の自分にとっての果てしない未来にいるわけなんだよ
ね。一人一人の夢はどうなったのかはかわからないけれど、星はきっと随分
と近づいたんじゃないかと思う。日本人の宇宙飛行士だって何人も生まれた
し、コカコーラの懸賞で、宇宙旅行プレゼントなんてのもやっていたよね。

 そんな僕自身はどうだろうか?私事だけど、9/5に二人目の子供が産ま
れた。上が男の子で、今度は女の子。これが先天性の心臓病で、8日に心臓
手術。一時期は危険な状態になったりもしたけれど、そこから皆が吃驚する
くらい急速に回復して、9月末には退院できる予定になっている。   

 子供の命って星にも等しい。かけがえないのないもの。ある意味、宇宙に
だって匹敵するかも知れない。だって、子供の未来は無限に広がっているん
だから。夢を夢見るように、星を夢見る。夢をつかむことが出来るように、
星だってつかめるかもしれない。星だってつかめる、そんな星よりも大切な
星を僕は失わずにすんだ。娘の名前は”夢萌(ゆめも)”。本当の星はつか
めなかったけど、僕は”夢”をつかめたのかもしれない。       

 採点対象外だけど、星を夢見たことがある人には、お薦めの作品です。

  

8/12 Q.E.D7巻 加藤元浩 講談社

 
 今巻は内容的には寂しかった。5,6巻とレベルが上がってきていただけ
に、個人的にはちょっと期待はずれの感があったが、ミステリを強く望まな
い読者には満足できる作品であったかも知れない。          

 特に1話目は、話の創作という点では充分に面白味があった。やっと数学
という設定が生きた作品だったし。しかし、そのままストーリーだけで終わ
ってしまったのは残念。ありそでありそで、なんにもなしってのは、ちょっ
と寂しいのだ。全然登場してこなかった人物が、そのまま犯人ってのはつま
らなすぎ。事前に登場させたりなど、もう一つミステリ的工夫が欲しい。

 2話目は、普通の作品。冒頭はもっとミスディレクションに引っ張っても
良かったように思うのだが、どうだろうか?総合的に低レベルの6点。 

  

8/13 木製の王子 麻耶雄嵩 講談社ノベルス

 
 待ちに待った麻耶の新作。第3の奇想の傑作たる『鴉』以来、実に3年ぶ
りの登場となる。前作に続いて、今回も彼らしい世界観の構築が、実に素晴
らしい作品であった。村から家へとスケールダウンはしているものの、シン
プルながらもひねくれきった奇想が、しっかりと作品の芯になっている。

 しかし、それに付随してきて欲しいサブの部分が、今回はちょっと弱かっ
たように思う。分量的にはサブと云うより、もう一つのメインであったはず
のアリバイトリックはいかがなものだろうか?            

 たしかにもの凄く緻密である。作者としての苦労を押し出したい気持ちは
わかる。でも、こんなものまともに考えてくれる読者などいないでしょ。い
や、いたとしてもだ。全く奇をてらったところのない(そういうものだけを
期待しちゃいけんのだろうが)この平凡な解決では、ちっとも努力は報われ
まい。こういうシチュエーションなら、ミステリファンなら”この前提”か
ら始めるのは常道中の常道。私自身も考えるならここからだな、とは思った
ものの取り組む気力が起こるものではなかった。この前提から始めるメンバ
ーが一人もいないなど、ちょっとお粗末すぎないだろうか。      

 ただ私自身は全く気付かなかったのだが、メーリングリストのメンバーで
あるタケさんの分析を読んでびっくりしたものがある。各章の頭の意味合い
なのだが、もし私同様気付かずに読み飛ばしている方がいらっしゃったら、
是非ネタバレ書評をお読みください(許可していただいたタケさんに感謝)
ついでにソナタの謎についても触れています。興味ある方はどうぞ。  

『木製の王子』ネタバレ書評へ...

 さて、こういう麻耶らしい仕掛けと、本質的なワン・アイデアはやはり感
嘆符が舞い踊るのだが、アリバイ崩しは拍子抜けで、それ以外には何もない
まま終わってしまった。採点としては、やはり7点止まりだろう。   

 ところで、この題名の意味っていったい何???解答募集中!!!  

  

8/22 密室殺人大百科・上 二階堂黎人編 原書房
8/29 密室殺人大百科・下 二階堂黎人編 原書房

 
 久々に痛快な密室アンソロジー。密室と云うと変に構えてしまって、搦め
手から照れ隠しに書いてみました、というようなアンソロジーが多い中(
潮社『大密室』
などはその例)、「ちゃんとトリックのある密室物を」とい
う編者の要求に応えて、逃げではなく正面から”密室”に対した作品が集ま
った。言われてみれば全作品密室物、という編者だからこその編集方針で、
見事に満足のいく堂々たるアンソロジーをものしたのはさすが。    

「本格ミステリーは密室に始まり密室に終わる地上最大のゲーム!」という
帯にも異議なし。やはり何と云っても、本格の華は不可能犯罪。フーダニッ
トにプラスされたハウダニット。これに「何故密室にしたのか」などのホワ
イダニットまで加わってきたら、もう無敵。そう、、、謎としては(笑)。

 これだけの魅力ある謎を提供できる“密室”だから、もう無数の作品があ
る。新しいトリックの創出よりも、いかにバリエーションを付けて意外性を
演出するかが鍵だろう。各作者のお手並みは、さて、どうであろうか? 

 では、好例のベスト3と行こう。まずは芦辺拓「疾駆するジョーカー」。
麻耶あたりが使いそうな現代的な仕掛けを盛り込んで、シンプルながら意外
性のある捻りの密室。続いて愛川晶「死への密室」。マジックネタとフリの
面白味が読者の挑戦意欲をかきたてるシェーの密室(笑)。最後は編者自身
の「泥具根博士の悪夢」。”密室”を楽しんでいるのがよくわかる、リアリ
ズムなどくそくらえの王道の密室。そうとも、密室はこれで良いのだ! 

 カーのラジオドラマを初めとした初訳作品、自分が密室アンソロジーを組
むなら、絶対に落とせないと考えていた狩久「虎よ、虎よ、爛爛と」などの
再録作品、密室の系譜がわかるロバート・エイディー「密室ミステリ概論」
などの研究エッセイなど、おまけも充実。大満足の8点作品。     

  

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