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12/2 金田一少年の事件簿短編集5
天城征丸/さとうふみや 講談社
短編3作とおまけ1作。相変わらずのいつもの出来。「なんで買い続けて
るんだろう?」と思うものの、短編集が出るのはごく稀だから、まあいいと
しよう。番外編だらけの『Q.E.D』に比べて、ちゃんと本格及び殺人事
件にこだわっている姿勢は、やはり認められるものだとは思うし。 .
今回の中では『亡霊学校殺人事件』がベスト。殺人トリックは良くできて
いる。ただし、くじに関しては、問題あり。普通はばれると思うぞ。 .
『血染めプールの殺人』は、お得意の「あるはずのこれがない」式の手がか
りの与え方だけは、やはり合格点か。採点は、いつもの6点。 .
12/7 革服の男 エドワード・D・ホック 光文社文庫
英米短編ミステリー名人選集の5巻目。これまでの登場作家は、ルース・
レンデル、クラーク・ハワード、ヘンリー・スレッサー、ローレンス・ブロ
ックと、まさしく名人にふさわしい人ばかり。満足至極の時間を約束してく
れる選集かもしれない。これまで読み逃していたのが、勿体ないかも。 .
しかし、やはりこの人だけは見逃せない。現代随一の不可能犯罪作家のホ
ックである。下手すりゃ、随一どころか”唯一”かもしれないものね。『不
可能夫人』のラストに、「いや、無理だね。もうこんな話を書く人はいない
よ」とホック自身が書いているようにである。 .
さて、全編が不可能犯罪だらけの、こういう良質の短編集だと、ベスト選
びも楽しい作業となるではないか。ベスト中のベストは、こんなにもあから
さまに手がかりが突きつけられていたのか、というミステリならではの”悔
しさの心地よさ”が愉しめる『熱気球殺人事件』有名なネタにホック流の挑
戦を示してくれた『革服の男』お馴染みキャラクターの顔合わせの上に飛び
きりの不可能犯罪の『レオポルド警部のバッジを盗め』でベスト3。 .
よくもこれだけの量の不可能犯罪を、これだけの質で書き続けられるもの
だと驚き。それにまた、書き続けてくれる意欲とこだわりも、同じく不可能
犯罪ファンとして、大拍手もの。ホックの最良の作品集とは言えないものの
充分な面白さは保証付き。採点は文句無しの7点。 .
12/14 悪魔を呼び起こせ デレック・スミス 国書刊行会
よくもこんな傑作が埋もれていたものだ!『チベットから来た男』が評判
倒れだっただけに、期待しないように自分を押さえつつも、それでもわくわ
く感を押さえきれずに手にしたのだが、これほどまでに報いられるとは、、
まさに感無量。 .
まさしく密室研究家の作り上げた、密室の密室による密室のための(意味
不明度68%)密室ミステリの傑作。アイデアで成立してきた過去の名作に
対し、徹底的にテクニックで作り上げた密室。複雑に組み上げた手順、何段
階にも行われるあらための技術、巧妙なダブル・ミーニング、緻密な論証、
謎や雰囲気の設定と、評価せざるを得ない要素の目白押し。 .
密室ミステリのオールタイムベストを選ぶ際には、候補の一つに当然選ぶ
べき作品だと言えよう。不可能犯罪ファンとして、「読めて良かった」の感
涙ものの作品。採点は、新作(!)としては、久しぶりの9点獲得!探偵小
説全集第2期の文句無しベスト作品。これで出揃ったわけだから、最後に恒
例のベスト3選びといってみよう。比較的ストレートな本格の秀作も含まれ
ていた第2期だが、深く印象に残っているのは、『赤い右手』『カリブ諸島
の手がかり』『編集室の床に落ちた顔』といったキワモノ系だったようにも
思う。中でも1位の密室の傑作、2位のギミックの怪作がずば抜けていた。
国書刊行会探偵小説全集第2期ベスト3
第1位:悪魔を呼び起こせ .
第2位:赤い右手 .
第3位:死が二人をわかつまで
12/23 幻獣遁走曲 倉知淳 東京創元社
一風変わった舞台設定に、伏線の妙で見せる神業、、、これにねじれたロ
ジックの妙が組み合わされば、日本最高の短編シリーズ、泡坂妻夫の『亜愛
一郎』が出来上がってしまう。さすがにその域には全く達しないものの、最
初の二つの要素を、比較的楽しげに見せてくれるのが、倉知淳の猫丸先輩シ
リーズなのだと思う。 .
謎もネタもロジックも解決の意外性も、皆が小粒で軽いのだが、伏線の張
り方、全体の雰囲気、読みやすさは、やはり楽しい読書にはさせてくれる。
意外な動機の微笑ましさとさりげない伏線の『たたかえ、よりぬき仮面』
と、突飛な現象を先に見せて、ユニークなロジックで論証を行う『猫の日の
事件』がベスト。やはり動機の面白味の『幻獣遁走曲』を合わせて、ベスト
3としよう。但し、小粒感はいかんともしがたく、採点は6点。 .
12/29 全日本じゃんけんトーナメント
清涼院流水 幻冬社文庫
もう読むことはないのかもしれないとも思っていた清涼院だが、ミステリ
研の後輩の絶賛を受けていた作品なので、これだけは文庫化を機に読んでみ
たものである。”じゃんけん”という基本的には”運”のみのゲームである
はずのものに、いかに論理やいかさまといった要素を持ち込んで、必勝法や
意外性、ドラマ性などの麻雀劇画的な面白味(私が好むごく一部のものかも
しれないが)を持ち込むかが核だと思っていたのだが、個人的には不満足。
あまりにも矛盾な要素が多すぎやしないだろうか。 .
まず、基本的な最大の矛盾点。じゃんけんでいかさまを仕組む場合に、双
方の合意がない条件においては、片方の手が確定した後に、その手に対応す
る手を出すのが最も確実な手段である。いわゆるあまりにも古典的な”後出
し”。その最大の弱点は当然、必ず時間的な遅れが生じてしまう点である。
相手より先に出すことはできない。この制限さえ見えない形にさえすれば、
いかさまとしては完璧となる。 .
本来いかさまとして組み込んでいるのならば、双方が確定した後に「いっ
せーのぉ、せっ!」で表示させてやればよい。そうすればサクラは一人です
むし、絶対に負けはあり得ない。そもそもサクラは何もする必要すらないの
だ。勝手にコンピュータで確実な手を表示してやるだけだ。押した瞬間にそ
の手を表示させるようにするのは、確実性を失うだけでなく、自らの弱点を
堂々とさらけ出すわけで、しかも他のいかさまを産む可能性もある。これを
利用して勝とうとする人が出るに決まっているではないか。また、実際に後
出しでいかさまを仕組んでいるのだから、瞬間表示させることで、主催者側
にいかさまがないことを示す役割を果たしているわけでもない。小説として
成立させるための必然ではあろうが、ルールとしては不自然で、大矛盾。.
百歩譲って、観客に対するエンタテインメント性というような理由で、そ
れを認めても、相手の出す手が遅れた場合に対応できないと云うのは、シス
テムとして大タコだし、実際不必要。相手が9.98秒目に押したとしても
9.99秒目にそれに勝つ手を表示させてやれば良いだけ。人間に何かを任
せる必要など何もない。コンピュータによる表示だけの話じゃないか。自分
で管理しているのに、そんな大馬鹿なシステムにする必要がどこにある?こ
れまでの手の分析によって、手を読むなんて無駄無駄無駄無駄ぁっ〜。やり
たい気持ちは分かるが、単純に後出しだけで処理してやればすむ話。 .
システム的な問題以外にも、ラストの真相と3回戦の展開は、矛盾してい
るんじゃないだろうか?こういう”枠”を設定して、そこで様々な論理展開
の面白味を作り出そうとする作品において、その”枠”や論理の矛盾を読者
に感じさせては価値が半減。話の面白味はあるので、かろうじての6点。.