ホーム創作日記

6/5 黒猫の三角 森博嗣 講談社ノベルス

 
 期待の新シリーズは、残念ながら期待はずれで始まった。何を遠慮してい
るのか?仕掛けが甘すぎるんじゃないでしょうか、森センセ??    

 読んでる傍からどんどん忘却していく鳥頭の読者にとっては、仕掛けられ
ていることなど、とっくの昔に忘れ果てていたので、意外性などちっとも感
じることは出来なかった。その後のフォローも全くなく、「不発弾が見つか
ったけど、無事に処理されました」ってな内容の、味気のない新聞記事を読
んだみたいな気分になってしまった。「テポドンが飛んできた」みたいなイ
ンパクトで始まった前シリーズと比べると、てんで弱々。鮎川先生のアレを
やりたかったのだろうけど、もし本当にそうなら(苦笑)失敗作。   

詳しくは、「黒猫の三角」ネタバレ書評へ...

 おそらく真相としては、森博嗣自身が、こういう趣向などたいして気にも
とめていない、ということなのだろう。「まぁ、そうなってしまっただけ」
程度の話かもしれない。「こういうところで、意外性を取ろうなんてつもり
は、全くないんだよ、それより僕の語りたかったものを、ちゃんと読みとっ
てよ」などと言われてしまいそうな気もする。            

 しかし、私は常にミステリには、ミステリ本来としての趣向を期待してい
るし、そこに重点をおいて読み取り、評価を行っている。そこで本書のよう
な作品に出会ってしまうと、「いくらでも趣向の効果を高められるのに、そ
うしようとしないなんて」と一人勝手に歯がみする思いを味わってしまうの
だ。悔しいから、「しかし、森博嗣は実は、こんなとんでもないことをやろ
うとしているのだっ!」ってのを予想しておこう。          

 新シリーズの隠された趣向、それは『シリーズを逆順に読むと、新たな意
外性が浮かび上がるミステリ!』なのだ。普通シリーズものは最初から順を
追って読む方が楽しめるものだが、逆に最終刊から最初に戻っていくことで
次々と新しい驚きに出会えるシリーズもの。ほら、そう考えると、この第1
巻の役割ってのがはっきりするでしょ(って、そんなことに何の意味がある
んだよぉ、、、というわけで、私の予想はまたまたはずれるのだ(笑))

 腹が立つほどとは言えないので、5点をわずかに免れた6点が私の採点。

 さて、新シリーズが始まったところで、前シリーズの総括をやっておきた
いところだ。そこで、私自身の「犀川・萌絵シリーズ長編ベスト10」を作
ってみたので、ここに発表しておくこととしよう。          

犀川・萌絵シリーズ・ベスト10(全作コメント付き)へ...

  

6/6 QED六歌仙の暗号 高田崇史 講談社ノベルス

 
 やはり、前作「百人一首の呪」で予想したように、本シリーズは○気シリ
ーズなのだろうか。こう構えていたおかげで、事件側の話は、具体的なもの
まではわからないにしても、構造自体は結構読めてしまった。その点でもや
はり前作に比べて、数段パワーが落ちているように感じられた。    

 歴史の謎の方も、途中でこう持っていくんだろうなぁ、というのも薄々わ
かるような書き方になっていたように思う。しかも、どこかで聞いた話のよ
うに感じられたのだが、新説ではないのではないだろうか?歴史に関しては
全く詳しくないので、確かとは言えないが、結構綺麗な説であるので(素人
目には)、過去に取り上げられているような気がする。新説ならば、満足で
きるものだと思うが。ちょっと識者の方々に聞いてみたいものである。 

 さて、本書で最も失敗だと思うのは、時代がかった動機と、本書の雰囲気
とが、ちょっとマッチしていないように思う点である。衒学的饒舌と理系ミ
ステリを合わせた探偵の物言いを手本にしている(かもしれない)京極や、
最近の「血食」のような雰囲気が醸し出されていれば、すんなりと納得でき
るかもしれないが、時代設定もあってか、ひどく違和感を感じた。   

 今回の採点は、かなり低いレベルでの6点。次巻が勝負所か。次で、この
作者の底力が試されるだろう。基本的に”ネタ”勝負になってしまうこの方
向性で、そうそう続けられるとも思えないので、絞りかすのような作品にな
る前に、完結させるのも潔しと思う。勿論、いい意味での私の見込み違いで
まだアイデアの引き出しが、沢山あるのならば、別なのだが。     

  

6/13 グラン・ギニョール J・ディクスン・カー 原書房

 
 さて、またまたカーファンには嬉しい作品集の登場である。収録作は、長
編「夜歩く」の原型になっている中編「グラン・ギニョール」、短編「悪魔
の銃」「薄闇の女神」、ショートショート「ハーレム・スカーレム」、評論
「地上最高のゲーム」である。                   

 短編関連は、落ち穂拾い的な内容で、ミステリでもないので、「何でもい
いから、未読作品が読めて嬉しい」というファン心理に尽きるのだが、表題
作と有名な評論は、充分にミステリの興趣を満足させてくれる。    

 まずは、やはり表題作。敬愛するカーの処女作であっても、内容的にはす
っかり忘れていたので、新鮮な気持ちで楽しむことが出来た。興味を惹かれ
ずには居られない謎の導入(誰に化けているのか?)から、不可能犯罪を巡
っての中盤の展開の意外性、そして凝りに凝った解明シーンで暴かれる、綺
麗に納得のいく真相。特にこの解明シーンの演出は、「夜歩く」にはなかっ
たものらしいから、ファンにはたまらない面白さである。       

 評論は、既読だと思うのだが、これもや全く内容は思い出せなかった。ゲ
ームという言葉に集約されるように、フェアプレイを重んじ、ミステリに対
して真摯に対峙するカーの精神が、良く現れた名評論であろう。カーのロマ
ンス性にもつながる騎士道精神と、わだちを同一にするものだと思う。 

 カーの未読作品であるから、当然のごとく採点は8点。これからも各社か
ら、「九人と死人で十人だ」の新訳や、残る未訳長編の翻訳など、確実げな
予定が続々と挙げられている。カーファンの愉しみは、まだまだ尽きない。

  

6/18 バトルロワイヤル 高見広春 太田出版

 
 オープニングでは、気分がむかむかしてしまった。「こんなもん書くべき
じゃない」という、賞の選考委員の談に、諸手を挙げて賛成したくなった。
評判が良いからと、到底好ましいとは思えない本書を購入してしまった自分
を、強く強く後悔し始めたところだったのだ。しかし、圧倒的強者の一方的
な胸糞悪いシーンが終わって、中学生同士の場面に突入してからは、その気
分も段々吹き消えていった。                    

 なんだ、意外に爽やかな話じゃないか。汚れた世界を見る前に真っ先に心
中するカップル、友人達を信じようと命を懸けて呼びかけを行う女の子達。
「殺し合う」ことを描くのではなく、「信じ合う」ことを描いている作品で
あった。ごく一部に殺人マシーンも描かれるものの、それぞれ今どきの理由
付けを行って、納得がいくようにしている。             

 しかし、ごく一部のヒーロー物顔向けのスーパーボーイを除いても、全体
的にとても中学生とは思えない。話題性のためには、中学生でなくてはいけ
ないだろうが、せめて高校生の設定くらいにはして欲しいところか。  

 さて、一番心配していたのは、ラストだった。これに終わりが付けられる
のか?たまたま近い時期に相似した状況を描いた「クリムゾンの迷宮」が、
カタルシスのないラストだったため、またもやその虚しさに陥るのではない
のか、と。その解答は、、、ここでは言わないでおこう。       

 採点は7点。予想外にも、気持ち良く堪能させてくれた。読んでみるもの
だ。本年度のベスト10からは、是非とも落としたくない作品である。 

 ただ最後に、これだけはやはり書いておこう。金八先生のパロディ(坂持
金発というネーミングも低次元)は、どう考えてもアマチュア精神から出た
低俗・俗悪なものに過ぎない。必然性があるのならともかく、これでは作品
の質をおとしめてるだけ。話題性を意識して、あえて残させたのかもしれな
いが、本来なら編集で指導して欲しいものである。作者以上に、編集のセン
スを疑う。本書の出版が勇気でも、そのまま出すのが勇気とは思えない。

  

6/20 マジックの舞台裏(日本語版、ビデオ全3巻)

 
 謎とそれが産み出す現象を、芸術の域に高めたのがマジックであろう。余
計な詮索などせずに、ただただその不思議さに酔いしれれば良い、、、のだ
ろうが、そうはいかないのが、こちとらのミステリ根性。どうも解決編がな
いのが落ち着かない。あの中はこうなってるんじゃないか?まず、あそこが
開いたから、その裏に隠れて、、、などと、なんとかタネが見破れないかと
ひたすらその興味ばかりで、マジックを見てしまうもの。       

 さて、私を含めたそういう人間にこそ、このビデオ3巻組!(なんだか物
売りやTVショッピングみたいになってきたぞ(笑))覆面付けたマスクマ
ジシャンが、有名なマジックのネタ晴らしをやってくれる、という売り文句
の代物だ。ビデオの通信販売というと、スカをつかませられるものと相場が
決まっているのだろうが(私は未体験ですよ。投げ込みのチラシに心惹かれ
たことは何度もあるのですが(笑))、これが実は大当たり!     

 まさに望んでいたそのままの内容。完全な謎解きビデオ。丁寧な解説と実
際の視覚で、非常に良く実感できる。単純な技術の積み重ね、手順の積み重
ね、意外な盲点で、素晴らしいイリュージョンを見せてくれるテクニックの
数々は、やはりミステリ心をくすぐってくれるもの。これは凄いぞ!  

 「ひゃあ、あんなスペースに隠れられるんだぁ」「おいおい、避けてるだ
けかよぉ」などと唸ったり、苦笑したり。そんじょそこらのミステリでは、
驚きや意外性など感じられなくて寂しい思いをしている方も、ちょっとだけ
分野の違うこちらでは、きっと得るものもあるはず。多分骨格がここで暴か
れているものだとしても、各マジシャン毎に新たな工夫も盛り込まれている
ことだろうから、完全にマジックの興味を失わせるものではないだろうし。

 「ここまでばらしていいのか?」って宣伝文句に、同意を感じたことなど
ほとんどないのだが(「ばらすなよぉ、ばかぁ〜〜」っていうミステリの解
説文はよくあるけど、それは全然別の話)、このビデオはその貴重な例外。

 ついつい謎解き目的でマジックを見てしまう貴方の、欲求不満解消にきっ
とお役に立ちます(ほら、やっぱ、物売りだ(笑))これはお薦め、8点

 なお、各巻に収められた内容と、購入の方法は、こちらをご覧ください。

  

6/25 放浪探偵と七つの殺人 歌野晶午 講談社ノベルス

 
 まあ、悪い作品集ではないと思うのだが、これを袋とじ形式で出すのは、
ちょっと納得がいかないなぁ。最初からこの形式を意識していたわけではな
いのに、それっぽい作品が揃ったから袋綴じで行っちゃえ、てなノリだと思
えてしまい、読者としては少々馬鹿にされた気分を感じてしまった。  

 読者への挑戦状を謳うには、それなりの覚悟が欲しい。自信のあるハウダ
ニット(不可能犯罪であることが望ましい)で「さあ、この謎が解けるか」
と指を突きつけるか、もしくは、確実な手掛かりを用意し「さあ、論理的に
証明出来るか?」とふてぶてしく笑うか、そのようなものであって欲しいの
だ。つまり、読者の想像範囲を大きく越えるか、巧妙な伏線とそこから導か
れる論理展開の手管を見せるか、せめてどちらかを私は要求したい。  

 そして、歌野のトリック作成能力では、前者はあまり期待できないので、
後者を期待するわけだが、それにしては論理展開がちっとも緻密ではないの
だ。結果としては納得がいくので、普通の短編ならそれほど気にならないの
だが、挑戦状として謳われると、「それは証明ではないぞ」って気分にさせ
られてしまう。短編集としては、非常に好感の持てる、意外にまとまりの良
いものだったのに、この形式が好印象を台無しにしてしまった。    

 そういうわけで、採点は6点。ベストは、おそらく衆目一致で「有罪とし
ての不在」になるだろう。きっと、この自信作があったからこそ、この形式
をやる気になったのだろう、と私は思う。恒例のベスト3にするならば、問
題編のラストでのどんでんが心地よい「水難の夜」と、題名もニヤリとさせ
られる、津島誠司風の冗談小説「W=mgh」を挙げておこう。    

  

6/25 スクリーム/スクリーム2/     
       ワイルドシングス

 近くにレンタルビデオ屋が出来て、開店セールをやっていたので、脚本が
話題のこれらの作品を続けざまに借りて見てしまった。同じ女優さんが出演
ということで(?)、一緒くたに感想書いてしまいましょ。      

 さて、まずは評判の「スクリーム」。う〜ん、たしかにこれは読めない。
意外性はたしかにあるんだけど、どうもすっきり感がない。ちょっと卑怯な
気がしてしまうのだ。期待したほどの脚本の緻密さはなし。で、自分ならこ
う書くかなぁ、ってのをココに。「何故ヒロインは必ず2階に逃げるのか」
とかの自己パロディ的な要素や、ホラー映画に関するくすぐりが随所に入っ
ていて、楽しくはあるけれど、意外に宣伝倒れで、ちょっと残念。   

 で、「スクリーム2」だけど、1作目のパターンを継承して、なおかつ新
たな意外性を、って試みはわかるんだけど、パターン継承する必然性が描か
れずじまい。これこそ、自己パロディの域を、越えられなかった作品かな。

 この2作に比べたら、「ワイルドシングス」の方がずっと面白い。二転三
転、、五転六転、、七転八倒(笑)。もう転がりすぎて、どうでもいい(苦
笑)と言いたくなるくらい、ほんっとに転がりまくってくれます。ここまで
いっちゃうと、もう誰の思惑がどうなってて、それをどう誘導してってのが
ちょっとやそっとじゃわからなくなってる。矛盾ありげな気もするけれど、
まあ「ようやるわ」ってことで、突っ込んで考えないことにしときましょ。

 「スクリーム」シリーズは6点で、「ワイルドシングス」は7点。  

 ところで、「ワイルドシングス」はまあ別として、映画の世界で、”意外
な犯人”系の驚きを期待しようとすると、こういうホラー物になってしまう
のが相場。本の世界じゃむしろ少数なのに。これがミステリファンである私
の映画に対する不満。お薦めミステリ映画ベストテンに挙げた内の数作や、
ラストの演出も巧い「ユージュアルサスペクツ」、恋愛映画なのにとびきり
の意外性を持った「クライングゲーム」などの例外はあるけどね。アカデミ
ー賞は、ミステリファンにとっては、脚本賞こそ要チェックですよぉ。 

 

幻影の書庫へ戻る... 

  

  

inserted by FC2 system