ホーム創作日記

 

11/06 デス・コレクターズ ジャック・カーリイ 文春文庫

 
 本格ミステリ作家クラブが選んだ、この十年間で一番面白い本格海外ミス
テリ。そういう謳い文句だとハードル上がりすぎだが、納得できなくもない
ほどの出来映え。この濃度、外連味のある真相、いずれもとびっきりだ。

 とにかく濃いな。語り口の上手さでプロットを薄く引き延ばしたような作
品とは全く違う。隙間ないほど密度ぎっしり。            

 プロットも結構複雑。複数のプロットが並行して走るってわけではなく、
それなりに一本道ではあると思うのだけど、いけいけどんどんなまっしぐら
プロットではないのだよな。                    

 寄り道かとも思えた部分も、しっかりと一本道に沿っていたことがだんだ
んわかってくる。小説として深みを与えようとしてるだけでしょ、ってなこ
とを思ったりしたが、そういう部分もしっかりとプロットに関わってくる。
こういうプロットの作り込みが、凄ェって思えたな。         

 でも、ちょっと不思議な読み心地。なんだか安心できない。何故だろと考
えてみて、自分なりにわかった気がした。              

 何が謎なのかがわからないんだ。わかってるようでわかっちゃいない。

 そして謎がなんなのか気付かないうちに、答だけが出てきてしまう。 

 答が示されて初めて、ああ、それが謎だったんだとわかる。しかもそれが
とびっきりの意外性を伴って。この単純ではない驚かせ方がいいんだよ。

 一作目のようなバカの衝撃はないけれど、やはりそれぞれに気付かせな い
ところに意外性を仕込むやり口は共通点。これは本格魂をくすぐる。  

 多分一般の投票ではこの作品が一位を取るなんてことはないだろう。でも
本格ミステリ作家クラブが選ぶと、というのはなんとなく納得。    

 翻弄されて、堪能できた逸品。採点は8点としよう。         

  

11/10 黄昏に佇む君は  篠田真由美 原書房

 
 建築探偵からのスピンオフ作品ということになるのだろう。私自身は馴染
みはないが、ファンにとっては作品世界に拡がりが与えられるはず。  

 父性の重ね合わせの中に浮かび上がる淡い恋物語。         

 センチメンタルなタイトルが暗示するように、これは詩(ポエム)だな。
作者から自らの創造物に捧げられた、一編の美しい詩。        

 そういう意味でとても美しい作品ではあるので、建築探偵シリーズファン
は、出版社違えど必見の作品なんじゃないかと思う。         

 ただミステリという範疇の作品ではないように思えたので、私としては採
点対象外の作品としよう。                     

 謎も意外な真相(しかも王道なトリックだったりもする)もあるにはある
んだけど、それは物語に彩りを与えるための手法の一つだろうからなぁ。

  

11/11 ヘッドハンター(上)  マイケル・スレイド 創元推理文庫
11/16 ヘッドハン ター(下) マイケル・スレイド 創元推理 文庫

 
 フィニッシング・ストローク。                  

 最後の一行まで犯人がわからない。正確にはその後にエピローグの章があ
るにはあるんだけど、おまけだから。                

 つうか、最後の最後に補足説明するとこって、そこかっ?!(爆笑) 

 全部が疑える状況だから想定範囲内ではあるけれど、でも、まぁとんでも
ないわな(笑)。自分としては、後半で最後の補足説明につながる、誤って
認識されていた犯行の特徴(いってないやん)が判明してからは、頭の中で
重要容疑者に浮上はしてたけど。それにしても、だよな。       

 上記の他にも、これならば説明が付けられるという幾つかのポイントはわ
かるけれど(偽犯人を陥れるには最適なポジションだった、とか)、もっと
本格ミステリ的な謎解きがあるんだろうなって期待してた。      

 これなら他の誰かであっても構わないんじゃないかと思えたんだけどな。
犯人がたとえ意外でも、「なるほどっ!」と手を打つ感覚が無いと、本格の
旨味を味わった気がしないもの。                  

 でもまぁ、こういう外連味のあるフィニッシング・ストロークってのは、
あんまりお目にかかれるもんじゃないっつうのはたしかなので、それだけの
評価として、一応採点は7点にしておこう。でも満足感は無いや。   

  

11/24 斬 首人の復讐 マイケル・スレイド  創元推理文庫

 
 フーダニットへのこだわりや、フィニッシング・ストロークへのこだわり
など、本格マニア向けの喧伝がされているけど、う~ん、なんか違う。 

「髑髏島の惨劇」の時も「本格だ、本格だ~」って騒がれてたと思うけど、
さっぱり本格じゃなかったしなぁ。本格のガジェットを使ってれば本格、っ
てことはないからねっ!                      

 誰かが何か仕掛けてそういう評価になってるの? それとも本当にみんな
スレイドの諸作を本格だって思ってるの? 結局評判のやたらと良い三作を
読み上げたけども、ちっとも本格ではなかったけどなぁ。       

 最後の真犯人との対決シーン、あれを”謎解き”と理解しなくちゃいけな
いってことだと、それは自分の本格理解とは違うとしか思えない。   

 解釈の違いでどちらとも受け取れるものを、こうなんです、と作者が固定
化したって、それは推理でも論理でもないだろっと思っちゃうんだけど。

 ディーヴァーと違って伏線が張ってあるだの、「サスペリア2」並だって
のは、どれを指してるんだよぉ~? わからぬ私がとろいのか?    

 頭の中の空想と思われてのが実は実演されてた、ってとこなのかな? 

「ヘッド・ハンター」の完結編としても弱かったんじゃないのかな。結局前
作をなぞっただけのあっけない中盤の決着で拍子抜け。もう一つの事件も、
展開は面白いし(グリズリー対決など)、本格っぽい謎解きもあったりはす
るけれど、じゃあミステリ的に面白いかというとそうでもない。    

 やっぱ採点としては6点がいいとこ。歓喜の叫びをあげられないわたしゃ
スレイディストにはとてもなれそうもないや。もうこれで充分だな。  

  

11/28 恐怖の関門 アリステア・マクリーン ハヤカワ文庫NV

 
 裏表紙のあらすじが恨めしい。                  

 いっちゃんいいどんでん返しをさらりと書かれちゃってるんだもの~。そ
りゃないぜ、ベイビー(古典にふさわしく死語ってみた)。      

 冒険小説系はうといので、大御所のマクリーンでさえ「荒鷲の要塞」くら
いしか読んでないんだけど、本書は謎解きシーンが圧巻。本格的~♪  

 こんなとぉ~ってもカッコイイ冒険小説でありながら、謎解きの醍醐味も
味わえるなんて、オトクな作品。                  

 たまには冒険小説も読んでみたい本格者には、本書や「荒鷲の要塞」は迷
わずお薦めできる作品だろう。その場合、すぐカバーを掛けるなどして裏表
紙は読まないようにするのが、利口なやりくちだと思う。       

 解説も凄くそそる内容でいいんだけど、これも若干推測させる内容になっ
てると思うので、中盤までは読まない方がいいかも。中盤で、ああ、そうだ
ったのね、と思ったら、解説も裏表紙も解禁OK!          

 あとはもう御大の筆のままに翻弄されていれば、そのうち謎解きの密室空
間に連れて行ってくれるはず。これって冒険小説だったよねと確認したくな
るくらいの、濃密な謎解きに酔い痴れろ!              

 ここまで文字通り”息詰まる”謎解きって、きっと史上最高だろう(笑)

 ミステリと冒険小説のいいとこ取り贅沢作品。採点は8点で決まりだ。

  

11/30 密室殺人ゲーム・マニアックス 歌野晶午 講談社ノベルス

 
 トリック小説としては、シリーズ三作中最もつまらない。おそらく衆目一
致の評価ではないかな。前作でレベル上がったからと期待すると損する。

 一方、シリーズ・ネタとしては、また新たなずらしを見せてくれた。たし
かに一度はやっておきたいネタだから、番外編として納得。      

 そういうコンセプトだけで魅せる作品。ちっちゃい事は気にするな、とい
う精神で読んだ方がいいだろう。よく本ミスでベスト10に残ったな。 

 まぁ一つ一つの事件の本格ミステリ的な面白さというよりは、全体を通じ
ての新たな解の提出の仕方だとか、仕込まれた伏線の数々だとかを評価する
向きなのかもしれない。                      

 なんでこんな無駄な描写するかなと違和感を感じた部分が、伏線として活
きてくる。ちょっとあざといくらいには思えるが、あんまし埋もれすぎるの
は良くないしね。ネタが大胆なんで、このくらいの派手さでいいのかも。

 単体としてではなく、シリーズの一環としてのオマケ作品としての評価が
妥当だろう作品だと思うので、採点は6点。だからといって、シリーズとし
ては抑えておきたい作品だとは思うので、読み逃しは無きよう。    

  

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