ホーム創作日記

11/1 髑髏島の惨劇 マイケル・スレイド 文春文庫

 
 ほとんど読んでいないながらも、本格ミステリ・ベスト10の海外編の投
票もしたい。「四つの扉」バークリーは文句なく当確としても、それだけ
では物足りない。よし、駆け込みで1冊読もう。ソウヤーと迷った挙げ句、
いかもの好きの私向きかと選んでみたのが本書。これが面白かったら投票す
るぞ〜〜  ……その結果、今年は棄権することが決まりました(微苦笑)

 嵐の孤島での「そして誰もいなくなった」的展開、衆人環視中の殺人に、
密室殺人、カーの密室講義まで引き合いに出てくる。まさにホラーと本格ミ
ステリの融合、、、、     な〜〜んて、全然ちゃうやん!!!! 

 騙されちゃいけませんぜ、お客さん、てなもんで、とても本格ミステリの
中に加えられるような作品ではなかった。いや、読みようによっては、警察
小説として読めなくはないのだけど、これだけのケレン味でばしばし引っ張
っておきながら、今更そんな地味〜な評価なんて出来ませんってば。  

 本格性を期待した私がそもそもバカだったのか、蟹かまぼこ入ってるから
蟹チャーハンとして売っちゃえという商法の犠牲者なのか、今はただ「綾辻
さん、ずるい!」って気分で、帯を虚しく見つめるのみ。       

 せめて過去作品の評判通りに、とんでもない意外性でもあればまだしも、
それも無し。ホラーとしても、本格もどきとしても、中途半端なだけのごっ
ちゃ煮作品。ええい、採点、5点にしちゃうからね。         

  

11/5 十八の夏 光原百合 双葉社

 
 彼女の処女作に対して、私はかなりきつめの評価を行った。私にはその作
品が、ミステリとしての充分な飛距離を得ているとは思えなかったし、爽や
かさの押しつけがましさを微妙に感じ取ってしまったからだ。     

 本作で彼女はやっとミステリに歩み寄ってきた。ミステリとしての薄さは
あるが、「探偵役が謎を解く」というミステリの形式でないことが、功を奏
しているようだ。押しつけも、今回は微塵も感じられなかった。良い加減に
引いた視点から描かれていて、心地よい作品が並んでいる。      

 推理作家協会賞は意外な感もあるが、やはり清冽で鮮烈な表題作がベスト
だろう。感傷に流されない引き締まった感じが、読み応えを感じさせてくれ
た。ミステリの形式でないところから、こういう具合に入り込んでくるのも
非常にいい感じだ。彼女にはこういうタイプの作風を今後も期待したい。

「ささやかな奇跡」「兄貴の純情」は、やはり読めてしまう弱さがあるが、
静かな優しさや、軽妙で暖かい笑いが折り込まれていて、読後感は抜群。

 本書では異質な「イノセント・デイズ」も、こういう作品があると短編集
としては締まる感じがした。やはり優しさだけではミステリとしての弱さを
補いきれない。加納朋子ほどにミステリの橋を渡ってきてくれれば、瑞々し
さとのバランスが活きてくるのだが。ミステリ書評としては採点は6点とす
るが、読後感の良さは格別で、是非一読に値する作品集である。    

  

11/11 ウィッチフォード毒殺事件     
             アントニー・バークリー 晶文社

 
 処女作から続けざまに2作目も読めるとは、いい時代になったものだ。本
作でもやはり、バークリーらしさを堪能できる。実話を基にしているせいか
比較的おとなしめな印象はしたが、この時代を考えると、かなり斬新な解決
だったのではないか。おとなしめとは言っても、充分にこれは「本格」の範
疇じゃないのか、という個人的感想によるもので、人によっては「なんのな
んの充分暴れてるじゃないか」という印象を持つ人も多いだろう。   

 相変わらず、ユーモア小説としての側面も抜群。シェリンガムが誘惑をも
って証言を取ろうとしたり、アマチュア探偵団3人のそれぞれの活躍(?)
ぶりを愉しむだけでも、かなりの面白味を持っている。        

 ミステリとしても、作られてはころころっと崩れていくシェリンガムの仮
説は、毎回それだけの説得力を持っていながらなお、右往左往振りが楽しめ
る。実話から、こういう展開、こういう結末を導き出す手腕もさすがだ。

 全作品読むたびに、これだけ面白いのになんで今までってのが、本当に不
思議になるくらいの佳作揃い。いかもの好き、バカミス好きの自分の嗜好を
さっぴいても、どうしたってやっぱり面白いよ。           

 まっとうさで言えば処女作より上なので、個人的には逆に処女作の方が好
み、、、というひねくれた順位になるのもバークリー故。採点は7点。 

  

11/14 密室に向かって撃て! 東川篤哉 カッパノベルス

 
 軽妙な文体と雰囲気のトリック小説、これが作者の持ち味なのだろう。そ
の根本は同じなのだが、見せ方の効果は処女作と異なっている。    

 前作では、ちまちました安物ドラマ的プロットの中から、意外なトリック
が炸裂した。いわば隠して隠して隠して、最後にパッと驚かす「びっくり箱
型」ミステリ構造。プロットとトリックが分離している。しかしながらプロ
ットが平凡な故に、せっかくのトリックが死んでいた。「ふ〜〜ん、良く出
来てるねぇ」と感心出来るびっくり箱の仕掛け構造なんだけど、演出として
の面白味に欠けて、びっくり出来ないびっくり箱。ちと寂しいよね。  

 本作は、トリック小説であることが明々白々。ほら、ここに何か入ってま
すよ。さて、それを手で触って当ててみてね、という「箱の中身を当てまし
ょう型」ミステリ構造。プロットとトリックは結びついている。しかし、何
か驚かすようなものが入ってるんだろう、という意識があるから、「やっぱ
りね」となってしまう。良く出来てはいるけども、その意識を跳ね返すほど
のぶったまげ度には達していないし、それを狙うのも難しいだろう。  

 プロットとトリックが分離してても結びついても駄目ってんなら、じゃあ
どうすればいいのよってなるだろう。そこで私が作者に期待するのは、プロ
ットもトリックも全部ごちゃまぜになった「おもちゃ箱型」ミステリ構造。
どこから何が飛び出してくるのかわからない。手に取ると、いろんな玩具が
引き出せる。そう、この構造にピッタリの名前。それはバカミス!   

 軽妙な文体を活かして、突き抜けちゃえ! ちまちましないで、吹っ切っ
ちゃえ! 君が目指すべき称号は「バカミスのプリンス!」なのだ!  

 ちょっとアジってみました。でも、結構本気です。どうかまるっと本気出
してバカミス書いてみませんか? 読みたいんです。本作の採点は6点

  

11/18 虹の家のアリス 加納朋子 文藝春秋

 
 ほぼ毎年この時期になると、加納朋子サマ(ええ、えこひいきですとも)
の新作が読める。たまにはもう1作と欲張りになってみたりもするが、贅沢
言わずに押し戴くのが、ファンとしての慎み深さというものだろう。  

 とは言いながらも、自分のスタンスとして無条件降伏は出来ないところが
茨のミステリ道を歩む者としての心意気(ってほどの大袈裟なもんじゃない
ってば) 加納サマと言えど、客観的(?)評価いたしましょ。    

 前作よりもミステリ風味は残念ながら落ちている。準レギュラーが増えて
きて、ちょっとキャラクタ寄りの傾向性が感じられる。仁木や安梨沙の周辺
や心情が描かれていくのは、嬉しくもあり、嬉しくも無し。特に最終話。ま
とまっちゃう方向に流れていくのが、ちょっと寂しい気がするんだよね。も
っといろんな可能性含みで、謎めいた雰囲気を残し続けて欲しいような。

 そうは言っても、やはり加納作品。じんわりと読ませてくれて、読後感も
非常にいい感じ。スペシャルインタビューも載っていて、ファンは必読。

 さて、恒例のベスト選びだが、ベストは文句なく「鏡の家のアリス」 読
者へのミスリードが心憎く、ダイヤの隠し場所も意外に渋い。2位は「虹の
家のアリス」 意外な心理で完成度は高い。 3位は「牢の家のアリス」
おお、なんと密室トリック(微笑) これも動機が意外。採点は6点。 

  

11/20 鷲尾三郎名作選 鷲尾三郎 河出文庫

 
 ミステリ界にとっては幸運なことに、2002年度も名作復活の機運は高
いレベルを保ってくれた。アンソロジーに採られた作品が少なく、大抵の読
者にとっては初読作品がたっぷり詰まっていたせか、年末のベスト選出では
「島久平名作選」に人気集中していたが、純粋な面白味から言えば、圧倒的
に本年度のベストはコレ。少なくともバカミスファンは絶対の必読作品!

 古くからの日本ミステリファンは、各種のアンソロジーで読んでいる作品
が多いだろうが、若い読者にとってはおそらくそうは馴染みのない名前だろ
う。しかし、大坪砂男、大阪圭吉、山沢晴雄、宮原龍雄、狩久、楠田匡介
どと比肩する、いや奇想トリックファンならば真っ先に名前を挙げるであろ
うトリックメーカーなのだ。中でも「悪魔の函」4部作の出来映えは抜群。
中でも「白魔」は、バカミスの代名詞にも成り得るバカ傑作。個人的にはバ
カミスと聞くと、真っ先に脳裏に浮かぶ歴史的バカトリック。鷲尾三郎を知
らずしてバカミスを語るなかれ、と言っても過言ではあるまい。    

 綾辻島荘の先駆的作品である有名短編や、全部が傑作の上記4部作、真
面目だけどやっぱりオバカなデビュー作、意外なバカの「月蝕に消ゆ」、ど
れもが奇想満載の鷲尾ワールド。もう頭わやくちゃでベスト選びなんて出来
ませんがな。ああ「雪崩」や「白い蛇」も読みたかった!       

 アンソロジー収録作品が多いけど、やはり1冊にまとまって読めるのは嬉
しい限り。採点は文句なしの8点。狩久、山沢、宮原も是非お願いします!

  

11/22 みすてりあるキャラねっと   
            清涼院流水 角川スニーカー文庫 

 
 単純明快。意外に好きかも。勿論、トリックは事件の状況を読んだだけで
簡単にわかる。この条件ならこれしかないよねって。管理者はすぐに気付け
よって思ってしまうのも事実。だけど、裏を返せば、誰でも論理的に解決に
辿り着けるってわけだ。しかも西澤SF新本格のように、自分で世界を設定
してルール付けを行い、そのルールに則りながら、なおかつルールの裏をか
いたトリックを使用している。出来映えのレベルを置いておけば(笑)、美
しい本格の条件をクリアしていると言っても良いのではないか。    

 だから、ティーンエイジ向けのミステリ入門書としては、そう悪くないか
も。適度に推理する楽しみが味わえて。まあ、この作品を読んで、ミステリ
の愉しみに薄々気付いて、ミステリに入ってみようか、なんて若い読者はそ
うそういないだろうけど。ましてや、じゃあ読んでみようかって手に取るの
は、やはり同じ作者の作品、、、いかん、いかん、それでは、はなっからミ
ステリの裏口に入学しちゃうじゃないか。それは不幸だ。また、たちの悪い
ことに、宗教にのめり込んだ人達のように、本人は幸福だと思ってたりする
もんだから、ますますいかんのよね。心当たりのある人、手挙げて!  

 まあ、こんな本格偏愛者のマニアックなサイトを覗いている人に、まさか
清涼院の大ファンなんて人はいないと思うけど(差別的発言は慎もう!)、
いないよね、いないといいなぁ、ま、ちょっと覚悟はしておこう。   

 とにかくごくごく少数の(はずの)清涼院ファンも、そうでない大多数の
人も、純真な周りの人間に本書を薦めるのは止めておきましょう! だから
私も薦めません。こちょっと自分だけで楽しんどこっと。採点は6点。 

  

11/25 ダイニング・メッセージ 愛川晶 原書房

 
 言われなければわからない(微笑)一風変わった趣向が盛り込まれた連作
短編集。これを長編と呼んでしまうのは、ちょっと抵抗がある。だから作者
が言うほど、凄さは伝わってこないような。まあ、作者が言わなきゃ誰も気
付かないから、自分で言うしかないんだろうけどね。         

 しかしながらやはり、この縛りの中で作品を仕上げるのはほんとに大変だ
ったはず。地味で目立たない印象はあるけれど、作者の本格魂は現代作家の
中ではピカイチのレベルだと思っている。きっちりとした本格が書ける希有
な存在の一人。しかも遊び心も兼ね備えていて、本当に頼もしい限り。美少
女探偵という惹句で、キャラ萌え系だと遠慮している本格好きがいたら、か
なり勿体ないことをしているので、「根津愛探偵事務所」あたりから是非。

 キャラ萌え批判色の強い私だが、それはミステリをないがしろにしている
作品に対して。勿論、キャラは立っているにこしたことはない。あまりにあ
ざといのは好みではないけれど。榎木津くらいまで突き抜けてくれると、も
う降参するしかないんだけどさ。でも、愛ちゃんはロリ系キャラとしては、
強すぎてしっかりし過ぎていて利口すぎて、イマイチ萌え辛い気がする私。

 なおかつ恋愛要素の強い本書ではあるが、新レギュラーの意外過ぎるポジ
ション確保にあんぐり。キリンさんの態度に「それじゃいかんだろう」と突
っ込みを入れ、、、なんてこと熱く語ってもしょうが無いな。採点は6点

  

11/27 写本室の迷宮 後藤均 東京創元社

 
 三重構造が話題となった鮎川賞受賞作品。内側が外側に関与してくるメタ
的な面白味があったような、なかったような… 本格の道具立てがたっぷり
盛り込まれている割には、巻き込まれ型スパイもしくはサスペンス的な後味
が感じられたり… ラストも肩すかし気味だったり…         

 と、歯切れの悪い評価ばかりが並んでしまうが、引きつけられる展開の割
には、どうも引いてしまった自分がいるせいかと思う。「わだつみの森」の
作者にも感じたことだが、はるかにそれに輪をかけて後藤氏の衒学趣味振り
に、付いていきたい気分になれないのだ。私が薄っぺらいせいもあるだろう
し、興味ある分野が根本的に違っているということもあるのだろう。作者自
身が言っているように「読み手の経験・興味の度合いによって膨らみのある
物語」なのかもしれない。でも、それだけとは思えない距離感を感じる。

 ミステリを書ける力を持っている人だと思うし、本格に対する愛着もある
のだろう。しかし、私の望むような本格を書いてくれることは、今後もない
ような気がしてしまう。この距離感をうまく表現出来ないので、個人的印象
以外の何物でもないのだが。採点はそれ以上でも以下でもない6点。  

  

11/29 明智小五郎対金田一耕助 芦辺拓 原書房


「真説ルパン対ホームズ」に続くパスティーシュ第2弾。これで打ち止めと
いうことらしい。一通りの大家は出揃ったところだから、まあやむなしとい
ったところか。そのうち忘れた頃に第3弾が出ることを期待しています。特
に前作の「百六十年の密室」のような、過去の名作に新解釈を打ち出したよ
うな作品は、単発でいいから是非とも書いて欲しいところである。   

 やはり単なる贋作の枠に収まらない、芦辺流に処理された意外性やトリッ
クは、単独のミステリ短編としても読み応えあり。それも勿論、元ネタの作
者や作品の渋いところを狙ってくれるから、言うことない。技巧派の本領発
揮。文体模写や雰囲気物真似で「ほら上手でしょ」なんていう、つまんない
パスティーシュなんかより、数倍面白いのは間違いないだろう。    

 ただし、やりたいところから最初にやったためなのか、前作よりはパワー
不足の感は否めない。ちょっと今回は小手先気味の気配を感じる。ひとまず
終了といった辺りも、作者自身がそれを感じているためかとちょっと邪推。

 ミステリ度の高い表題作、「フレンチ警部と雷鳴の城」、「Qの悲劇 ま
たは二人の黒覆面の冒険」でベスト3とする。採点は6点。      

  

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