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「イニシエーション・ラブ」読後ネタバレ書評
『イニシエーション・ラブ』の完全ネタバレです。注意!
「イニシエーション・ラブ」ネタバレ書評・プロローグ編から是非どうぞ。
さて、ネタバレ書評本編でも、自分自身に関する一つの前提条件(という
かバックボーン?)を提示しておこう。何故ならその辺の個々人のバックボ
ーンが、本書の印象を大きく左右する要素となるだろうと思うからだ。 .
その条件とは、自分が「純情可憐な、恋に恋する」タイプの人間だという
ことだ。40男(既婚)が、何を気色悪いカミングアウトしてるんだという
ところだろうが、どうかお許しを。まあ、「可憐」は大嘘としても、純情っ
てのは純情BOYが、純情青年になっても純情中年になってもそう変わるこ
とはないのであって、おそらくそのまま純情爺(じじい)にもなってしまう
のだろう(余談だが、下ネタ好きのエロ爺と純情爺とは両立可能だからね)
高校時代に「ツキダくんって、女性に幻想を抱いてない?」と言われたこ
とがあるが、現在もその時と(精神的には)そんなに変わってるとは思えな
い。恋愛経験も乏しく、男女の駆け引きなんかも全く知らないままだし。幻
想を抱いたままでも人生が成立するのなら、それにこしたことはないやん。
、、といったところで、ようやく本書の話に戻る。最後の衝撃で、多くの
読者は多少なりとも、頭の中に混乱状態がふつふつと発生するに違いない。
一瞬でパッパッパと見え切ったという人は、まあ非常に稀だろうと思う。プ
ロローグ編で示した伏線あたりから、これは読み切っていたよという人は結
構な数いるのかもしれないが、そういう準備状態がなかった人にとっては、
頭の中に再構築するにはそれなりに時間がかかる作業だろう。 .
個人的には、最初の一瞬は「そうか、これは完全にB面とA面が逆転した
話なんだ」と思った。B面でのイニシエーション・ラブを経験したマユの、
その後を描いたのがA面だと。これは自分にとっては、心地よい解釈だった
から。マユは単純に過去を隠しただけに過ぎず、それは女性に「幻想」を抱
く自分にとっても、充分に許容範囲内だったのだから。 .
しかし乾くるみは、さすがにそんな甘ちゃんな解釈を許すような、単純な
構想で”本格ミステリ”を成立させようなんてこたぁしてくれない。ぱらぱ
らと読み返したり、思い起こしたりすると、どうしても時期と状況が重なっ
ている。幾つかの出来事が、たしかに裏表から描かれているのだ。 .
「ああ、女って、、、」そう呟いてしまった自分は間違ってるのだろうか?
マユの印象が180度変わっていく。時系列からいえば、A面のラストが
本書の大団円であるわけだから、間違いなく表面上は本書はハッピーエンド
の物語である。ただし、それはA面という「表」の世界でしかなく、幻想の
上に成立している危ういハッピーエンドである。「幻想を抱いたままでも人
生が成立するのなら、それにこしたことはないやん」と、本書を読んだ後で
も私は言い切ることが出来るのだろうか? .
この問いには答えを出すことなく、最後に一つ、帯に示されている「目次
から仕掛けられた大胆な罠」にも触れておこう。これは自分ではよくわから
なかったので、ネットで調べてみたものだ。これを読んでいる中にもそうい
う人がいるかもしれないので、ここでも書いておこう。 .
レコードのA面、B面という順序を付けることで、そういう時系列になっ
ているものと読者を誤誘導する、これが最大の効果(罠)というのが共通の
認識のようだ。それでいて実際はそれが単純な「表」「裏」に過ぎず、レコ
ードの厚みという物理的な距離の近さを考えると、時間的にも接近した(重
なり合った)出来事を描いたものだと、読了後に容易に理解できる、そうい
う効果も宿したものと言えるのではないかと思う。 .
うーむ、このサイト開設以来、最大の文字数を費やした感想になったよう
だ。色々と語りたくなる気分にさせる作品だということは間違いない。 .