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「イニシエーション・ラブ」ネタバレ書評
『イニシエーション・ラブ』の完全ネタバレです。注意!
おそらく私は、99%以上の読者と全く違う読み方をしてしまったので、
大抵の人にはあまり参考にならないネタバレだとは思うが、中にはこんな風
に横道にはまってしまう人間もいるという、まあ悪い見本代わりに。 .
さて、中途半端なネット者である私は、実に中途半端にネット上の情報に
触れてしまうことがある。ミステリ読みとしてのその最大の問題は、危うく
ネタバレに触れてしまいかねないことだろう。読む予定に入っている本であ
れば、その気配を感じた時点で「いかん」と引き返すのだが、頭の中におぼ
ろげにその残像を残してしまうこともある。 .
これに加えて「シンクロニシティ」の問題。ミステリ界ではよく起こり得
る偶然の一致。たとえば昨年度の話題作2作の、極端なネタのはずなのにか
ぶってしまうこの不思議。アルテ処女作と同時期の新本格某作品など。 .
実はこの二つがあいまって、私の中にとある誤解を生み出していた。 .
『蘇部健一の「届かぬ想い」と同時期刊行の、同じく時間物の作品がある。
しかもそのことは隠されているらしい。少なくとも事前に謳われていない』
さてそこで本書の話をしよう。読者にとっての最大の分岐点は、P61の
2行目だろう。明らかにマユは「タックン」と言いかけている。違和感を感
じさせる書き方にはなっているもの、この時点で読者への事前情報さえなけ
れば、多くの人が見落としていたのではないかと思う。 .
事前情報とは表紙折り返しのあらすじ紹介だ。これには個人的には声を大
にして文句を言いたい。下手すりゃ「何考えとるんじゃ、われー」と言いた
くなるくらい。だってこれがあるせいで、本書中にはまだ示されていないに
も関わらず、読者は主人公が将来「たっくん」と呼ばれることを知ってしま
ってるのだ。「僕(たっくん)」の括弧部分が余計過ぎるよ。不要なサービ
ス過剰で全てを台無しにしかねない典型例。しかも本編じゃないところで。
これさえなければ読み返せばわかる程度にカモフラージュされていた伏線
が、かなり露骨気味に読者の目にさらされてしまったわけである。ここに気
付いてしまうかどうかで、最後の驚愕の度合いが大きく揺すられてしまうだ
ろう。この伏線をあれっと思ってしまえば「こいつ、二股かけてるんじゃ」
という疑問に達するのは比較的たやすい、、、のではないのかなぁ? 普通
に先入観無しに読み進めてきた人にとっては、、(意味深) .
、、、というところで、最初の勘違いの話に戻ろう。私だって、さすがに
こんな露骨な伏線を見逃すほど、ヤワなミステリ人生を送っちゃあいない。
しかし、誤った情報が事前にインプットされていた人間は、これをいったい
どう解釈してしまったのか?(ちなみにノンフィクションだからね) .
「ああ〜、やっぱり〜。マユは実は未来からやってきたんだ。だから、近い
未来に自分が名付けるニックネームを、つい呼んでしまおうとしたんだ。だ
って彼女がいた未来では、それが既に当たり前になっていたのだから」 .
はい、すっかり時間物SFになってしまいました、とさ。 .
嗚呼、タイムリープ。気分はすっかり、猫を追いかけたり、引き出しの中
からラブレターを見つけ出したり、古い服装に着替えて昔の女優に会えるこ
とを夢見たり、いつまでも変わらない少女と出会ったりしていたのでした。
そりゃあ、おかしいとは思ったんだよなぁ。あれから先、いつまでたっても
時間物の伏線の一つも出てきやしない。どう見たってマユってば、時間旅行
者じゃなくって、いたって普通ぅ〜な女の子にしか思えない。 .
アレレ、アララ、オヨヨ、ああ、こりゃこりゃと微妙に錯乱しながらも読
み進めた果てが、ラストから2行目の大どんでん返し! ひえ〜〜っ!!!
確かに時間軸はいじってあったものの、こういうことだったのかあ。 .
(というところで、ネタバレ書評、プロローグ完)
#「プロローグ」って、あんた、そりゃ、ないでしょ、という批判は却下。
#根気とやる気のある物好きな方のみ、いざ本編「読後ネタバレ書評」へ。