ホーム創作日記

 

3/2 きょうも上天気 大森望編 角川文庫

 
 昨年亡くなった浅倉久志氏の翻訳短編のみで構築されたアンソロジー。

 SFのセンス・オブ・ワンダーをたっぷりと感じられる作品ばかり。奇想
とアイデアに満ちあふれた傑作の数々。SFの良き時代がここにある! 

 うんうん、やっぱりこういう作品が読めると安心しちゃうよ。起承転結で
きっちりと閉じた世界を堪能させてくれる。しかもその一つ一つのアイデア
が小気味良いこと。奇想という言葉がしっくりくる作品ばかり。    

 またシンプルなのもいい。剥き出しと言ってもいいくらいのアイデアだか
ら、読者が構える必要なんて全くないんだよな。ひょっとしたらこれが現代
SFとの最も大きな違い(そして自分にとっては大きなアドバンテージだと
思える部分)なのかもしれない。                  

 現代SFは当然これまでのSFの歴史を踏まえた作品であるから、最近の
作品って(私自身が触れたことのある、そのほんの一部としてはってことだ
けど)設定が複雑巧緻。                      

 素人アンソロジー「原色の想像力」で感じたように、ストーリーとかまで
全部ひっくるめて、設定の説明、でしかないようにすら思える次第。  

 それだけのもんだから、理解するぞ、と本腰入れなきゃ読めないものが結
構多いんだよね。現代SFの代名詞だと思うイーガンなんか顕著だよね。

 もっとテイク・イット・イージーで、それでいてシャレた短編が読みたか
ったら、現代を必死こいて探し回る必要なんか全然ない。こういう古典系の
アンソロジーに当たるのが一番の正解だと思うよ。          

 個人的ベスト3は、全部既読作品ではあったけど、マック・レナルズ「時
は金」、ロバート・シェクリイ「ひる」、ジェローム・ビクスビイ「きょう
も上天気」としよう。半分以上既読でお得感は薄かったので、採点は
7点

  

3/4 空ろの箱と零のマリア3 御影瑛路 電撃文庫

 
 おお、素晴らしい!                       

 全員が完璧に役を演じきれる人狼ゲームのノベライズ、みたいな感じ。

 ギャンブル漫画の緊張感や駆け引きやロジックを、見事に小説化している
ぞ(まぁ本来は逆でも良いはずなのに、明らかにテキスト・メディアの方が
負けていたものなぁ)。ギャンブル漫画やパズル型ミステリがお好きな人に
はお薦め。こんなの滅多に出逢えないっしょ。            

 三部構成でそれぞれにツイストを効かせてきた一作目はフロックじゃなか
ったんだな。ロジカルな面白さで読ませてくれる作品ってのは、とっても貴
重。自由な展開が許されるSF世界を舞台にすることで、ダイナミックなプ
ロットを構築して、ロジックで魅せる。こう総括すると理想的じゃない?

 贅沢を言えば、ゲームのルールとしては弱い感じがするかなぁ。特に役柄
のバランスが。作中人物にとっては生死を賭けたリアリティがあるけれど、
これをゲームとしてプレイする楽しみ要素は薄いと思える。      

 相談システムってのは結構おもろいけどね。二人きりでその時間何をして
てもいいってところも、ムフフ。実際、そんな匂わしも。前作での女子の部
屋での手錠プレイ(若干誇張有り)もそうだけどキャッチーだわな。  

 全体的にSな雰囲気で責めまくる本書。そんなわけでか、マリアのツンデ
レ度が非常に抑えめ(って、そこを楽しんでるわけじゃないぞ、と誰にとも
なく主張してみる)。まぁそこが3,4巻の主眼でもあるわけだけどね。

 ゲーム・パズル・ミステリと、それぞれの楽しみを提供してくれた本書。
ゲームとしての本当のルールが明らかになる結末も納得で、。採点は
7点
この巻と次の4巻目は前後編の構成なので、続けて読むぞ!      

  

3/8 空ろの箱と零のマリア4 御影瑛路 電撃文庫

 
 ……ってわけで、続けて読んでみた本書だが(一つ前の書評より続く)、
う〜ん、なんだかすっきりしない決着だな。ロジカルにSな責めを堪能させ
てくれた前作(前編の扱い)に対し、後編もしくは解決編の決着はあまり理
に落ちてる感じがしなかったなぁ。煙に巻かれた感触だぞ。      

 どんな論理対決が見られるやらと期待してたら、なんだか哲学的な心理戦
みたいな雰囲気で、しかもその一つ一つの心理がにわかには理解しがたい。
禅問答かよ。基本はロジックの人なんだけど、ときどきこういういっちゃっ
てる感が出てしまうのは玉に瑕かも。                

 それに今回はツイストが二つ盛り込まれてはいるんだけど、どちらもさほ
ど感心はしなかったかなぁ。                    

 最初のツイスト(真の所有者)は納得できるからまだいいんだけどね。箱
の特性という自己の設定を上手く利用してるのも好感持てるし。    

 でも二つめのツイスト(リノのミスリード)はいただけない。この使い方
はあまりフェアではないわなぁ。                  

 前編の面白さやロジカルさに比べると、尻すぼみになっちゃったのが残念
だけど、引き続き期待感は保ててはいるか。5巻目までは間が空くみたいだ
けど、次回も是非購入してみるとしよう。採点は
6点。        

  

3/10 ゼロ年代SF傑作選 早川書房編集部編 ハヤカワ文庫SF

 
 自分の好みに合わないだけなのか、自分の感覚が古臭いせいからなのか、
なんだかちっとも面白くなかった(ってのは多少オーバーかな)。これなら
素人だらけの「原色の想像力」の方がなんぼかましだったかも。    

 そもそもリアル・フィクションという、繰り返し使われる造語の定義が理
解できん。リアルでないものを現出せしめるのがSFの良さじゃないのか?
なんだかバッカじゃないのと思う(私がわかってないだけなんだよね?)。

 解説でこんこんと説明されてはいるのだけど、さっぱり理解できん。単な
るレーベルをジャンルにすりかえられてもなぁ。特別に共通項で括れるわけ
でも何でもないものを、時代の雰囲気だけでまとめてみたってとこなのか。
「セカイ系」ってのの方が(定義のよくわからん言葉の代表格としてだして
みたがどうか)、これよかよっぽどわかりやすいぞ。         

 ……という時代に付いていけないじいさまのたわごとでした。    

 気を取り直して、恒例のベスト3選びなぞを。           

 ベストは圧倒的に長谷敏司「地には豊穣」としたい。明らかにイーガン
影響下にある作品だが、日本人ならではの感性が盛りこまれていて(それが
テーマそのものだし)、感動的でさえある。             

 続いては冲方丁「マルドゥック・スクランブル”104”」。SFには違
いないが、そういう意識よりも圧倒的なエンタメ性こそが支配している。リ
アル・フィクションだっていうごたくを並べるよりは、シンプルにエンタメ
でいいやん。そんな風に評価できる作品ってだけで貴重なんだからさ。 

 この二作が飛び抜けていて、あとは正直どれもこれもという気はするが、
いろんな消去法の挙げ句に秋山瑞人「おれはミサイル」にしておく。  

 採点は6点。ゼロ年代は自分のSF史的には不要な時代だったのかも。

  

3/16 ディーン牧師の事件簿 ハル・ホワイト 創元推理文庫

 
 マニアの書いた不可能犯罪短篇集。サム・ホーソーンの牧師版といった雰
囲気。マニアらしい凝りっぷりはあるが、しょぼかったり、ぞんざいだった
りと、志は嬉しいが必ずしも高く評価はできまいという微妙な路線。  

 どうしてもマニアの場合って、詳細から入るって部分が大きいと思う。全
体を俯瞰すると結構歪んじゃってたりね。この作品もそう。というより、こ
の作品は特にそう、と言ってもいいんじゃないかと思う。       

 とにかくトリックを書きたいって匂いがプンプン。不可能が実現できちゃ
えば良いっていう意識なのかな。                  

 そんなわけなので、解き味はあまり良くない。「意識していない共犯者」
って奴も、都合良すぎるくらいに使いすぎだしね。          

 ただまぁ本人はとにかく楽しんで書いてるってのが透けて見えるので、同
じ不可能犯罪ファンとしては、共感を覚えられる。          

 バカミス・テイストもそこはかとなく流れていて、その辺は素敵。中でも
「ガレージ密室の謎」は、世にも珍しいアナル・ミステリ(笑)の傑作!

 ってなわけでベストはそれ。しょぼいことはしょぼいけど、量で攻めてき
た「足跡のない連続殺人」と、犯人はミエミエだけどトリックの凝りっぷり
が最もマニア的な「四階から消えた狙撃者」でベスト3としよう。   

 続きが出るのが楽しみってほどではないが、まぁこういう不可能犯罪だら
けの短篇集という貴重さも考慮して、採点は
7点(海外作品は甘めに)。

  

3/20 ミステリ作家の自分でガイド 
               本格ミステリ作家クラブ編 原書房

 作者本人が自作をがイドするという、ユニークな発想のミステリ・ガイド
本。ただ自作だと照れがあるのか、奥ゆかしさが日本の伝統ゆえか、「これ
を読みたい!」という気分にさせてくれるような本ではなかったな。  

 こういうのに凝りそうな人は、すなわち自己顕示欲も強かったりするので
(批判ではないよ。作家なんて皆そうでなくっちゃと思ってるもの)、ぜ〜
んぶ紹介したい。そういう人って作品も多いし。あれもこれもそれもどれも
って欲張った挙げ句、押して押して押して、これぞって印象を残さない。

 逆に寡作家の人は控えめすぎ。自作についてはほとんど語らなかったりも
したりして。引いて引いて引いて、こちらもやっぱり印象に残らない。 

 あまり「この作品!」という印象が残らなかっただけに、全体の見せ方の
工夫という”演出”に凝った人が「勝ち」だったんじゃなかろうか。  

 というわけでMVPに輝いたのがくろけんさん。こういうのって絶対やっ
ちゃうよね〜。趣向の面白さがなにより光ってたし、選択も妥当かなと。

 続いては、自己の特長であるロジックをここでも活かしてきた石持浅海
な。まさか消去法でガイドをやるとは。なかなか斬新な着想。     

 パターン的にはお次は、観光案内という着想のユニークさで鳥飼否宇と行
くべきところだろうけど、ベスト3の最後の一角には歌野晶午を。作家の裏
側を見せてくれたんだもの。これこそ「自分でガイド」の真骨頂だよね。

 その他、それぞれの個性やキャラを予想通りに活かしてきた、霞流一
崎緑
汀こるものの三氏に敢闘賞を。                

 意外性部門からは(なんじゃそりゃ?)、鯨統一郎氷川透を。前者はセ
レクトの意外性に、後者は新刊の予告という嬉しいビックリに。    

 またランキング好きな自分としては、過去さまざまなガイド本に触れてき
たわけで、その経験を共有出来て(だってほぼ同年代)、とっても共感でき
た「ガイド・オブ・ガイド座談会」も良かったよ。          

 期待ほどではなかったけれど、ユニークなガイド本。採点は7点。  

  

3/22 舞面真面とお面の女 野崎まど メディアワークス文庫

 
 読み飛ばしてしまっていたが、こちらが氏の二作目。遅まきながら。 

 彼岸と此岸の境界、野崎まどが描きたいのはきっとそういう領域なのだろ
う。一旦はこちら側(但し、それも縁(ふち)も縁だが)で決着を付けなが
ら、一気にあちら側に突き抜ける。三作目よりはそれに成功している。 

 デビュー作も含めて、最後の最後にはある意味ホラーの領域に近いオチを
見せてくれるのが、氏の作品の特長なのかもしれない。勿論、一番怖いのが
デビュー作で、本作はちょっとギャグな雰囲気まじりだったか。    

 ただし、その代わり、一応は比較的現実レベルで決着を付けるという点で
は、この作品が一番成功しているかも。だからひっくり返しになってる。

 ただ、ひっくり返ってるから必ずしもいいってわけではないけどね。一作
目も三作目もホラーの一歩足を踏み込んだところで決着を付けて、それを包
含した形で、その先に踏み込むことで怖さを引き出せていたからな。  

 その二段階のオチで言えば、そのどちらもが読者の度肝を抜いた一作目が
当然ベスト。最初のオチが割と納得のいく形で収まっていた本作が二位。ど
ちらも納得感は醸し出せなかった三作目が最下位ってところかな。   

 あのデビュー作を越える作品を産み出すのはたしかに苦労だろうけどね。
本作などはまぁ割と平凡な
6点といったところだろう。        

 ところでイラストの人、これってごくごく普通にきつねの面やん。これは
ちょっとお粗末なんじゃないのか。作者も感謝する必要ないと思うぞ。 

  

3/26 Q.E.D.38巻 加藤元浩 講談社

 
 本格・人情・数学・情報・諧謔の五種のパラメータで分類可能かと思える
このシリーズで、今回は本格と数学のカップリング。         

 本格の方は謎の設定のすっきり感には欠けるが、トリックはかなり好み。
視覚的な効果が出せるのが、漫画という媒体にピッタリ。       

 見せられれば目から鱗ってのは、このシリーズの中でも良質な作品で時々
味わえる感覚だけど、本作も割とそうだったと思う。         

 ただ人情物のちょっと後引く読後感が醸し出された作品だったため、ミス
テリとしての爽快感には繋がってなかったのが惜しいところ。まぁ、その組
み合わせの余韻がいいんじゃんって人も多いだろうとは思うけど。   

 数学の方はこのところ行き過ぎとりゃせんかのぉ。わたしゃあ、とても付
いていけてましぇん(泣)。この辺の和算の歴史とか数学の素養などあれば
きっともっと楽しめるんだろうけどなぁ。              

 まぁミステリ的にはありがちなトリックだけど(わたしゃ例の文化祭の時
にやってた仮設の家のトリックの焼き直しかと思ってたよ)、裏付けの必然
性みたいなものも描かれていたので納得。              

 さすがに7点付けるほどでは全然無いな。採点は6点。       

  

3/28 図説 密室ミステリの迷宮 有栖川有栖監修 洋泉社

 
 密室が好きだ。                         

 初恋の人、に例えた人もあったが、なるほどと思う。引きずるタイプの自
分としては、忘れられずにずっと好きな人なのだな、きっと。     

 密室や不可能犯罪が好きな人って、きっと挑戦することが好きな人なんだ
と思う。ミステリ読みって、基本そんな人だらけとは思うんだけど、その中
でも特にね。決して受け身ではなく、積極的に参加したい人。     

 本格のフーダニットであっても、読者が推理に参加できるかというと、そ
こまで厳密な作品は珍しいだろう。ミステリに「意外性」を一番求めてる人
達だって、読んでる途中でそれがあると保証されてるわけではない。  

 でも不可能犯罪だけは(だけではないかもしれないけど)、それが「解か
れる」ということが保証されている。どんな不可能であっても、それを最終
的には「可能」にすることが、不可能犯罪のキモなんだから。     

「挑戦できる」ということが、あらかじめ保証されたジャンルのミステリ。
これがそういうタイプの人達を惹き付ける最大の要因なのではないかな。だ
からこそ「知らない知識」なんかで解決されちゃうと、腹立っちゃうんだよ
ね。なんだ、ホントは「挑戦できない」ミステリだったんかよって。  

 ま、そんな分析は置いといて、と本書の感想をば。         

 ガイドブック的な意味では初心者向けだと思うが(二人以上が挙げている
作品は全て既読だったもの)、ミステリ・マニアにとっても(特に不可能犯
罪ファンにとっては)密室愛を共有できる、心落ち着く本かもしれない。

 図説としての意味合いはあんまし感じなかったかな。謎解きの図解なら嬉
しいけど、さすがにネタバレ前提では無理があるか。「図説 密室ミステリ
の迷宮(マニア編)」ってのを出して、トリック図解して欲しいものだ。

 よって記事としてはそれらより、森英俊「万国密室博覧会」や小山正「密
室トリック仰天映像大全集」の方が楽しめた。読めない、見られない度合い
に、ちと身もだえはしちゃうけどね。全体的には採点は
7点。     

  

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