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ミステリ
無栖川無栖の冒険
Message of dying "Dying Message"
序
ダイイング・メッセージ、この魅力的な謎に幾多のミステリ作家
達は魅了され続けてきた。魅惑的と云えば、あまりにも魅惑的な…
そう、こんなにも作るのが単純で、しかも作者のご都合主義を自由
自在に振り回せる、こんな素晴らしい謎の魅力に勝てる作家が本当
にいるものだろうか? .
ここにその貴重な例外がいる。そう、私、無栖川無栖(ないすが
わないす)のことだ。 .
私はこんな最低なダイイング・メッセージものを自ら生みだそう
と思ったことなど、一度たりとも無い。自信をもって、ここに宣言
することが出来る。 .
しかし、ああ、”しかし”だ。私が遭遇してしまう事件が、たま
たまそんな事件であったとしたならば、名探偵作家(自分で言うの
もなんだが)である私としては、それを忠実に記述するしかないで
はないか。 .
だから、事前に断わっておこう。これは私が実際に体験した事件
の記録である。これによって、こういう類の稚拙なミステリを批判
しようなんて驕った気持ちも、ましてや、メフィスト賞を狙おうな
んて(冗談っぽい!)つもりは、さらさらないのであるから、決し
て誤解のないように。 .
第一話 穴を掘った男の冒険
三月(みつき)警部の要請で、私はある奇妙な殺人現場にいた。
被害者はある女性タレントのマネージャーで吾妻秀樹(35)金銭
トラブルの絶えなかった彼なので、さっそく容疑者として、経理部
長の熊谷三郎(53)、サラ金取り立ての鬼瓦権三(55)の二人
が挙がっていた。 .
さて、先程”奇妙な”と書いたのは、こういうわけだ。被害者は
地面に手で穴を掘り、その中に顔を埋めるようにして死んでいたの
だ。 .
「これこそ、ダイイング・メッ」三月警部が言いかけた。 .
「警部、私の前でその言葉は控えてくれませんか?」 .
「そうか、そうか、そうだったな、しかし、いい加減慣れたらどう
だい?世間では君はダイイング、、、その、なんたら作家で通って
いるんだから」 .
「はあ〜」と私は溜息をついた。 .
「ところで今回の事件だが、わしは”穴熊”の連想で、熊谷が怪し
いと思うのだが…」 .
そこへ有鷺(うさぎ)刑事が、新事実を持って飛び込んできた。
「警部、鬼瓦は昔我々の同業者だったようで、その当時”落としの
鬼瓦”という別名で呼ばれていたそうです」 .
「それだっ!」三月警部が叫ぶ。 .
「”落とし穴”だな、無栖(ないす)くん、どうかね?これで決ま
りだろう」 .
「警部、一つ教えてください。被害者の出身地は?」 .
「たしか福岡だということだが、なんでそんなこと、、、」 .
「それで、最後の鍵もピタリとはまりましたよ、警部。犯人はあな
たですね」 .
「ナ、ナ、何を、、、」などと、警部があわてふためくなんてこと
はなかった。私が指差したのは(もちろん警部ではなく)、その場
にいた女性タレントだった。 .
「被害者はこう言いたかったのです。『穴があったら”はいり”た
い』と」 .
彼女、”片桐はいり”は、わっと泣き崩れた。 .
「ところで、無栖さん」 .
「なんですか、有鷺さん?」 .
「どうしてガイシャは、直接ホシの名前を残さなかったんでしょ.
う?」 .
「馬鹿だなぁ、有鷺」と三月警部が答えた。 .
「ホシに見つかって、消されてしまうことを恐れたからに決まって
るじゃないか」 .
「はあ〜」と私は溜息をついた。 .
そう、これが安直な作家の常套句なのだ。 .
***
第二話では、私は「雨に濡れた男」に出会う。 .
彼は何故、窓に向かい、それを開いたのか? .
そこには、被害者の大胆な企てが隠されていた。.
あなたはこの真相に辿り着くことが出来るか?!.