ホーム創作日記

 

12/2 どんがらがん アヴラム・デイヴィッドスン 河出書房新社

 
 ホラ話系の”変な話”。ラファティと同じ匂いを感じる。冒頭の「ゴーレ
ム」や表題作のとぼけたユーモア感(しかもブラックな味わいの)などは、
まさしくラファティのノリだろうと思う。              

 しかし、書誌情報を見ると読んでるはずの作品が結構あるにも関わらず、
記憶に残っていた作品は全くなかった。実際本作読了2ヶ月後の今でも、も
う内容が思い出せない作品ばかりなのだ。そのことでもわかるように、もの
凄い受賞歴に見合う面白味は、自分には感じられなかったのが残念だ。 

 奇想コレクションの名に恥じない作品がてんこ盛りなのに、生涯忘れられ
ないような強烈な印象を残す作品はない。アヴラム・デイヴィッドスンと言
われても、ピンと来ない日本人が多いのも(と決めつけてみるが、多分そう
だよねぇ)そのせいかもしれない。                 

 奇想自体もホラ話の系譜であるため、着想のぶっ飛び度がそれほど極端な
ものは少ない。アンソロジーにも選ばれる「さもなくば海は牡蠣でいっぱい
に」が、結構目立つ程度だろうか。                 

 思い出せない作品が多いので、本作のベストとしてウェット度の高い「さ
あ、みんなで眠ろう」のみを選出するだけに留めておく。採点は
6点。 

  

12/9 天使と悪魔 (上)(下) ダン・ブラウン 角川書店

 
「ダ・ヴィンチ・コード」の先行作品。ベストセラー中のベストセラーで、
図書館予約が遅かったたため、半年間待たされた。まぁ「コード」の方なん
て、予約して8ヶ月たったけど、まだ40人待ちの状況だしね。    

 いやあ、さすがこれだけの大ベストセラー。こりゃあ、面白すぎるわ。ハ
リウッド型現代サスペンスで、一度もテンション下がることなく、怒濤の展
開。まさにノンストップ・エンタテインメント。           

 智的ペダントリーも満載なのに、わかりやすくて嫌みさがない。しかつめ
らしい顔して(いや、本では顔は分からないんだけどさ)、名探偵が偉そう
に垂れまくる蘊蓄とは、そりゃあわけが違いまっせ。軽快に流れに沿って、
スイスイと撃ち込まれるウンチク(やっぱカタカナ書きだな)     

 こう書いていくと、単純にストーリーがべらぼうに面白いだけの(いや、
それだけでも充分に素晴らしい本だとは思うが)作品だと思われるかもしれ
ないが、いやいや、そんな予想範囲に収まるような話じゃない。    

 謎解きの構図だって、もの凄いんだから。多少の予想は付くとはいっても
これだけの絵を良く描けたもんだよなぁ。ああ、おもしろかったぁ〜〜。ヒ
ットするはずだよね。というか、なんで「コード」が出るまでブレイクしな
かったのかが不思議なくらい。そりゃ、映画化もされるわな。     

 文句無しに8点進呈。2003年度の海外ベストにしてもいいくらい。

  

12/12 蛇の形 ミネット・ウォルターズ 創元推理文庫

 
 昨年度は年末ベストに向けた出版ラッシュがそれほどではなかったため、
どうしても読まなくてはいけない国内新刊が溜まることなく、現代海外ミス
テリ見直しキャンペーンを結構推し進めることが出来たのであった。  

 さて本作は、出る作品がことごとく好評価を得ている、二人の女性作家の
片割れ。名前までそっくりなもんだから、ついついサラ・ウォーターズと混
乱しそうになってしまうのは、きっと私だけではあるまい。      

 これは人間ドラマが重い社会派ミステリだった。ミステリとしては本格の
醍醐味を味わえるようなタイプの作品ではないが(まぁもともとそういう要
素を求めて現代ミステリを読んでるわけでもないし)、意外に錯綜した真相
で、様々な人物設定が犯罪の一点に収束していく様は興味深い。    

 しかし本書の圧巻は、最終頁に一つの謎解きが用意されているところにあ
るだろう。ここに至って、若干退屈さをも感じさせた書簡形式の多用すら、
解決の必然性に寄与していたばかりではなく、この最終地点に向けた周到な
準備であったことを読者は知ることが出来るのだ。          

 このトンと腑に落ちる想いと感動とが、ダブル・インパクトとして読者の
心に大きな余韻を残す。この巧さが良いよね。採点は
7点。      

  

12/14 死の蔵書 ジョン・ダニング ハヤカワ・ミステリ文庫

 
 どういうわけだか、本作は現代ミステリとしては珍しく、”本格”として
の要素が高い評価を得ているとのイメージを持ってしまっていた。そのため
ひょっとしたら、「騙し絵の檻」のような嬉しさを味わえるかもと密かに期
待していたのだが、どうやら私の勘違いだったらしい。        

 本作の雰囲気はハードボイルドと本格の融合作であり、どちらかといえば
ハードボイルド風味の方が強い。従ってこれまた本格の醍醐味を味わえるよ
うなタイプの作品ではないのだが、フーダニット以上にホワットダニットの
要素が強いのが、ユニークな特徴ではないかと思う。         

 但し珍しいタイプではあるものの、ホワットダニット型ミステリは往々に
して共通の弱点を持っている。「何が起きているのか」が最後に解明される
ため、途中まで謎が謎として認識されずに、ミステリとしては焦点がぼけた
作品になってしまいがちなのだ。                  

 本作では更に、大きな二つの縦筋が関連していないなど、盛り上げ度が薄
かった。その代わりというわけでもないが、本書はミステリとは別の側面と
して、古本屋のオヤジの成長物語として読み込むことが出来るのだ。  

 コミックス中心の日本の古本屋や、ブックオフに価格破壊された現状など
とはひと味違う、本気の商売としての古書の世界を味わえる。ミステリ以上
にこっちの要素の方が愉しめるかも。これを加点して、採点は
7点。  

  

12/16 女彫刻家 ミネット・ウォルターズ 創元推理文庫

 
 これまた世評の非常に高い作品。たしかにそれも納得で、読ませる力が強
烈だ。二作読んだ印象としては、ルース・レンデルを思わせる。底に蠢くド
ロドロの人間心理を描きながらも、冷静な筆致で実に理智的。インパクトの
ある衝撃も、驚き以上に計算高さすら感じさせられてしまうのだ。   

 本格の味とは違うが、解説によれば本格度が低い系統の作品らしい。こう
いうところもレンデルに似ている。高め系統の作品も読まなくてはいけない
ってことか。ロウフィールド館だけ読んで理解したつもりになって、ウェク
スフォード警部シリーズを読み損ねるみたいなことしたら勿体ないもの。

 さて本作のインパクトは、何故自白したのか、という謎解きに尽きるだろ
う。この真相には思わずのけぞってしまった。作品自体の雰囲気も煙幕の役
割を果たしているのだが、本質は意外にバカミスだったのだ。     

 更に作品全体をひっくり返しかねない最終頁。「蛇の形」でもそうだった
が、こういうフィニッシング・ストローク(最後の一撃)は、作者のこだわ
りみたいなものだったりするのだろうか?              

 但し本作の場合は、一瞬は「ををっ」と思わせられるのだが、これはそも
そも成立し得ないだろう。ラストの含みに持ってくるのなら、もっと可能性
を残して欲しかったな。好みの差レベルの違いでしかないとは思うが、「蛇
の形」の総合的完成度の方を評価したい。採点はギリギリ
7点。    

  

12/24 摩天楼の怪人 島田荘司 東京創元社

 
 2005年の読み納め。きっちりと満足感を持って締めることが出来て良
かった。文句の付けようのないような傑作では決してないのだが、ある意味
合いに於いては図抜けた傑作と評価しても良いのではないかと思う。  

 本書が表面的にメインとして打ち出している、謎のトリック解明に関して
は、実はそれほど感心もしなかった。もっと大規模な島荘型トリックを含め
ても、まあいつもの島荘作品だよなぁという感触がある。       

 幻想的な謎の論理的な解明。そのギャップの幻滅が島荘理論の弱点だと、
私は常々論じてきたつもりだ。上記の二つの大トリックに関しても、その轍
を踏んでいるものに過ぎないと評価してもいいかと思う。       

 しかし、本書はそれだけではないのだ。いや、それらは単なる副産物に過
ぎなかったのだとさえ言ってもいいかもしれない。          

 ファンタジックな謎がリアルに解体されるときの落差。それは決して埋め
難いものだと思ってきたのに、まさか解明自体をもファンタジー化すること
で、ギャップのない美しさを”本格”にもたらしてくれるなんて。   

 自己の理論を逸脱するほどの解明のファンタジックさが、新たな”本格”
の方法論をも産み出してしまったのではないだろうか。もっとも随分昔の国
内短編群にその祖を辿ることの出来る方法論なのかもしれないが、現代の最
先端の本格視点を充分に取り込んだ上でのこの作品。ある意味では古いのか
もしれないが、やはり最先鋭の尖った作品なんだと間違いなく思う。  

 候補になること自体拒否するだろうと思っていた本格ミステリ大賞。正直
作品自体は石持東野作品の方が好きだ。しかし、やはりいずれも正面突破
とは言い難い。本格ミステリ大賞にふさわしい作品は、まさしくこの作品だ
と私は思っている。この作品に取って欲しい。採点は
7点。      

  

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