ホーム/創作/日記
小説
ファンタジー(童話)
雪ん子の涙
雪ん子はいつも一人ぼち 里のわらべにゃ姿も見えぬ .
雪ん子歩けば風が吹く 雪ん子泣いたら吹雪が荒れる .
だぁれが遊んでくれようか 雪ん子はいつも一人ぼち… .
雪ん子は里へ降りていく 「遊ぶべ 遊ぶべ 里ん子 遊ぶべ」.
雪ん子の声は風の音 ピューピュー ピューピュー 北風の音 .
「ほうら吹雪になりそうだ」 里ん子みんな家帰る .
雪ん子はまた一人ぼち… .
コホン コホンと咳の音 病気の小さな女の子 .
「大丈夫べか 苦しいんべか 薬あげよか よく効く薬」 .
ピューピューピューピュー 風の音 トントントントン 窓叩く.
「おばば いま声がした」 「いんや あれは風の音」 .
「いんや ほんとに声がした」 「それじゃ雪ん子呼んでおる .
わらべ捜して呼んでおる 山へ来んかと呼んでおる .
山についていったわらべはのぉ だぁれ一人も帰って来れん .
窓開けちゃいかんぞ 雪ん子がぁ連れていく」 .
「薬あげよか 窓あけておくれ 薬あげよか よく効く薬」 .
しんかし窓はしまったまんま 雪ん子山さ帰っていった .
ポツンと残った薬草も 雪さ埋もれて消えていく .
それから毎日雪ん子は 薬草持って降りてきた .
「薬あげよか 窓あけておくれ」 しんかし窓はしまったまんま.
「薬使ってくれたべか 病気治ったら遊ぶべな」 .
ほんとは雪さ埋もれたまんま 雪ん子なぁんも知らんかった .
「今日も北風吹いておる」 「いんや あれは雪ん子の声」 .
ある日おばばは町に出た 薬さ取りに村を出た .
「すぐに帰って来るからな 夜さなる前帰るからな .
窓あけちゃいかんぞ 雪ん子がぁ連れていく」 .
「遊ぶべ 遊ぶべ 里ん子 遊ぶべ」 .
今日も雪ん子降りてきた 薬草持って降りてきた .
「あんの病気の女の子 今日は元気になったべか .
山神様の薬草は なにしろすんごくよい薬」 .
「薬あげよか 窓あけておくれ 病気治ったら遊ぶべな」 .
ピューピューピューピュー 風の音 トントントントン 窓叩く.
「雪ん子がやってきた 雪ん子がやってきた」 .
少女はいつも一人ぼち 雪ん子いつも一人ぼち .
「一人ぼちどおし 遊ぶべな」 .
「遊ぶべな 遊ぶべな 元気になったから 遊ぶべな」 .
少女は立って窓あけた 雪ん子少女の手を取った .
「あったかいべな あったかいべな おらはじめて握っただ」 .
雪ん子ちょっぴりうつむいた 「おらん手やっぱり冷たいんべな」
「いんや」少女は微笑んだ 「うちの最初の友達だ」 .
雪ん子たいそう喜んだそうな その日はずっと遊んだそうな .
「明日もまんた遊ぶべな 雪がせんして遊ぶべな」 .
雪ん子笑って山さ帰った 少女も笑って見送っていた… .
次の日雪ん子里に来た 一輪の花おみやげに .
向こうの山のそのまた先の 山で見つけた雪割草 .
「遊ぶべ 遊ぶべ きょうも遊ぶべ 雪がせんして遊ぶべな」 .
その時雪ん子見たそうな 黒いべべ着た村人達 .
少女は一人木箱の中で 花さ埋もれて眠ってた .
「雪がせんして遊ぶべな だるま作って遊ぶべな」 .
少女はもう返事をしない 静かに静かに眠ったまんま .
雪ん子はじめて気付いたそうな 雪割草がぽたりと落ちた .
「窓ん外に薬草あっただ 山神さんの薬草だ .
雪ん子がぁ連れてった 雪ん子がぁ連れてった…」 .
おばばがそう言って泣いていた .
「おら二度と里さ来んね」 北風ビューッと吹き荒れた .
雪ん子山さ帰っていった 走って走って帰っていった .
…その日吹雪になったそうな .
何日も何日も吹雪いたそうな… .
雪ん子はいつも一人ぼち 雪ん子は今も一人ぼち… .