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死者黄泉ねたばれ書評

 まず、始めに、二つの流れの交錯に対する企みについて。  

 ほとんどの読者は私と同様に、「生前」は過去から未来へ、 
「死後」は未来から過去へという、逆の時系列に流れていて、「ク
ロスオーヴァー」のところで、交錯するのだろうと予測しながら、
読んでいたに違いないことと思う。             

 しかし、実は「死後」も過去から未来への通常の時系列に沿って
流れていた、という驚き。一瞬「さすが」と唸ったのだが、書評で
書いたように、改めて考えてみると私にはその効果が理解できな
い。こういった叙述的なアイデアは、これにより何らかの企みを成
立させる為の手段であるべきものだと思うのだが、今回については
手段だけで完結してしまっているとしか思えない。どうだろうか?
 
 さて、そして問題の、最後のページの逆転劇について、である。
「なんでジュディなの?」ときょとんとせずにいられない。そこま
では、それなりに納得できるのだが、ここで途方に暮れてしまった
のだ。多分多くの人が私と同じ経験をしたのだろう。     

 まず、物理的な面から考えてみよう。「何故、ジュディがここに
いるのか?」これを解く鍵は「インタールード」の章の、メンバー
を増やす為には墓地を荒らすこともある、という記述だろう。 

 こうやって、ミシェルはジュディの墓を暴いて、仲間にしたに違
いない。バグによる記憶の明滅のために、意図して選んだのか、そ
れとも意志は関わっていないのかはわからない。後者であっても、
たとえば、それが比較的新鮮な死体であったから、というような理
由も考えられるからだ。                  

 さて、最後にいよいよ心理的な面から考えてみよう。「何故クリ
スティンは、ジュディをミシェルであり、しかも殺人者だと思わせ
ようとしたのか」                     

 これが非常にわかり辛い。いろいろと説明しようと思えば出来な
いことはない。年齢差はあるけど、「お嬢ちゃん」と呼ばれていた
ぐらい、ジュディはミシェルより若く見えたのだろ う。自分が失
った若さというものに対する嫉妬が、誰よりも強いクリスティン
は、それ故に対象をミシェルから、ジュディに変えたのだととか。

 しかし、いずれにしても根拠は弱い。私の読解力が足りないせい
かもしれないが、それでもこういう結末を用意するに は、それな
りの理解を促す伏線が必要だろう。ここでは、文庫化の際には、も
う少し手を加えて欲しい、という希望だけ述べておくことにしよ
う。                           

 それと、こんなにハイペースで続々と作品を出さなくて良いか
ら、もう少しじっくりと構を練って欲しい。充分な実力があること
はすでに証明されているので、数を重ねていくことより も、納得
行くまで推敲を重ねた作品を出していって欲しい。これからも傑作
を産んでくれる作者なので、あたら多作に才を散らさないで欲しい
のである。                        

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