ホーム創作日記

 

小説
 シナリオ  

四万十川ウルトラマン

友人に「漫画の原作を書かないか?」と言われて、
書いてみたもの。福山庸治風をイメージして作りま
した。友人に見てもらったところ、わずか一言、
「文字が多過ぎ!」 
いやぁ、たしかにそりゃそうだ。そういうわけで、
いまだにこの企画は実現していない。      

TV画面。司会者と女性アシスタントが映っている。     
二人の後ろにあるモニターには何も出ていない。       

司 「…次は、映画の話題です。日本を代表する映画監督の白沢明
  監督の次回作が決定しました。題名が『四万十川ウルトラマ
 
 ン』と言うんですよね」                
ア (クスッと笑って)「変わった題名ですね」       
司 「そうですね。今、追求マンの西園寺宮さんが撮影現場に行っ
  てますので、題名の由来について追求してもらいましょう」
ア 「西園寺宮さーん」                  

モニターのアップ。だが、何も出てこない。再びカメラが引くとア
シスタント・ディレクターの頭が画像の右下にはいる。AD振り返
り、あわてて頭を下げる。                 

ア 「ちょっと画面が出ないみたいですね」         
司 (横を向いて小声で)「CM?]            
司 (また画面の方を向いて)「では先に…」        

後ろのモニターにレポーターの顔が映る           

レ 「はい、追求マンの西園寺宮です」           
司 (横のアシスタントを見て)「やっと出たみたいですね」 
ア (前に向き直って)「良かったですねェ」        
司 「西園寺宮さん」                   
レ 「はい」                       
司 「この題名の由来について、追求してもらえますか」   
レ 「はい、わかりました。この追求マンにお任せください」 
ア (モニターを向いて)「よろしくお願いします」     
司 「では」                       

間髪置かず、二人同時に腕を指鉄砲風に前に出しながら。   
二人「追求!」                      

 

画面がモニター画像に切り替わる。画面の右端にレポーター。左端
後ろの方に白沢の姿が見える。ベレー帽に黒いサングラス。手には
メガホンと台本を握っている。レポーターが走って近付いて行くの
に従って、カメラも近付く。白沢、意外に小男ではあるが、画面の
真ん中に堂々と貫禄を持って座っている。その右にレポーター。比
べると間が抜けて見える。白沢の左の壁にウルトラマンのコスチュ
ームがかけてある。                    

レポーター、画面を向いて手で白沢を指しながら。      
レ 「こちらが日本の巨匠、白沢明監督です」        

白沢、何の反応もしない。                 

レ 「今度の『四万十川ウルトラマン』という題名は、監督がお決
  めになられたそうですが、どこから思いつかれたのか教えてい
  ただけますか?」                   

白沢のアップ。迫力がある。                

白 「 … 」                      
白 「 … 」                      
白 「あれは…」                     
白 「 … 」                      
白 「天からの…」                    
白 「お告げと…」                    
白 「言っていいかもしれん」               

白沢、天を見上げる。                   

レ 「ほう、天からのお告げですかぁ」           

白沢、ギロッとレポーターを見る。             
もちろんサングラスだから、ギロッというのはわからないが… 

白 「ある日、私が次回作の構想を練っとると、空から声が降って
  きたんだ」                      

そこでしばらく間。レポーター耐えきれず。         

レ 「『四万十川ウルトラマン』という声がですか」     

白沢、再びギロッと睨んで、不機嫌そうに。         
白 「『四万十川ウルトラマン』という声がだ」       
レ (愛想笑いで、機嫌を取るように)「はは… それこそ芸術家
  のインスピレーションというものなんでしょうね」    
白 (レポーターを無視して)「顔を上げると、そこに長谷川がお
  った」                        
レ 「 … ? 」                    
レ 「助監督の長谷川さんですか」             
白 「そうだ」                      
レ (苦笑)「ハハハハ… そういうオチだったんですか。白沢監
  督はなかなかユーモアのある方なんですね。助監督の長谷川さ
  んはかなり背の高い方なんですよ。(白沢のこめかみがピクッ
  と動く)では、名付け親の長谷川さんに、どこからこの題名を
  思いつかれたか伺ってみましょう」           

レポーター、左に動く。ウルトラマンのコスチュームの横にマント
がかかっていて、真ん中に大きく丸があり、その中に四と描かれて
いる。四万十と四マントを引っかけているのだと、わかる人にはわ
かる。その横にカチンコを持って、長谷川が立っている。やたらノ
ッポで、巨人症の特徴通り顎が長い。            

レ 「長谷川さんと言えば、白沢組に欠かすことのできない人です
  ので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。今回も監督
  との共同脚本のほかに、カメラ監督も兼ねていらっしゃいま
  す。では皆さん、こちらが長谷川さんです」       
長 (頭を下げて)「長谷川です」             
レ 「では長谷川さん、早速ですが『四万十川ウルトラマン』の題
  名の由来について、教えていただけますか」       
長 「ええ、それなんですが、あれは…(と空を見上げる)」 
長 (向き直して)「天からのお告げとでも言うのかもしれません
  ねェ」                        
レ (不安そうに)「天からのお告げですかぁ」       
長 「ええ。私がスタジオの中を歩いていると、天から『四万十川
  ウルトラマン』という言葉が聞こえたんです」      
レ 「ほう」                       
長 「それが今回の主役の真田浩史君だったんですよ」    
レ 「あのジャパン・アクション協会JAKのアクション・スター
  で、『予備校教師』などで演技派としても注目され、最近は芸
  能ゴシップでも話題になった、あの真田浩史さんですね」 
長 「ええ、えらく説明的ですが、その通りです」      
レ 「それで、真田さんは今どちらに」           
長 「確か隣のスタジオでトレーニングしてるはずですよ」  
レ 「ありがとうございます」               

レポーター、隣のスタジオへ走りながら。          
レ 「追求マンの西園寺宮はどこまでも追求します!」    

レポーターは走っている。その向こうをいろんな俳優が通り過ぎ
る。時代劇の侍。宇宙服の男。ハイレグ水着の女の子。レポータ
ー、思わず後ろを振り返り、セットに後頭部をぶつける。ガーー
ン!頭をさすりながら、やっと隣のスタジオにたどりつく。中には
トランポリンがあって、一人の青年が画面から消えたり現れたり、
現れたり消えたり…白いトレーニング・ウェア        

レ (上を向いて大声で)「真田浩史さ〜ん」        

真田、ひときわ高く飛び上がって、空中で見事なアクロバット。ひ
ねりを加えて三回転半宙返り。見事な着地。サッと髪をかき上げて
ニッコリと笑う。キ、キザい。               

真 「何でしょう」                    
レ 「今回の『四万十川ウルトラマン』という題名は、主役である
  貴方自らが考えられたということですが」        
真 「いや、あれは…」                  
レ 「もしかしたら、天からのお告げでは」         
真 「フフ(と白い歯を見せる)、面白いことを言う人ですね。で
  も、そうかもしれませんね。僕がこうして練習してる時に、天
  から声がしたんですからね。『四万十川ウルトラマン』って。
  その瞬間、これはイケると思いましたよ」        
レ 「それはどなたの声だったんでしょう」         
真 「大道具の柿本さんですよ。あっと…(上を指さして)あそこ
  にいる人ですね」                   

カメラ上を向く。天井に張ったはりの上で、人が仕事をしている。

レ 「では、大道具の柿本さんにインタビューしてみようと思いま
  す」                         

レポーター、再び走る。またいろんな俳優とすれ違う。半魚人。ヤ
クザ。レポーター、思わず道を避ける。ドラキュラ… 上への階段
を昇る。ゴジラが降りてくる。やっと上に着いて、はりの上に足を
乗せる。結構狭い。下を見下ろすとすごく高く感じられる。思わず
下の光景が回る。ヒッチコックめまいの効果。        

レ (震えた声で)「追求マンはどこまでも…、おっと(と思わず
  足を踏み外しそうになる)追…おお(再び下を見る)追求しま
  す」                         

頭に手ぬぐいを巻き、腰にも手ぬぐい、片手にトンカチを握って、
仕事をしている柿本。                   

レ (少し離れたところから)「柿本さんですね」      
柿 (チラッとこっちを見て)「そうだよ」(再び仕事に戻る)
柿 (仕事を続けながら)「何か用かい」          
レ 「今度の『四万十川ウルトラマン』と云う題名は貴方が考えら
  れたものだとお聞きしたんですが」           

腕をめいっぱい伸ばして、マイクを向ける。         

柿 (仕事を続けながら)「あ〜ん、そんなこともあったけかな
  ぁ」                         
レ 「やはりそうなんですか」               
柿 「いや、やっぱ、そりゃ俺じゃねェ」          
レ 「まさか、天からのお告げじゃないですよね」      
柿 (手を止めて)「ハハハ、あんたうまいこと言うよ。まったく
  その通り」                      
レ 「聞かせてもらえますか」               
柿 「おうよ。俺がこうして仕事してた時さ。天井の方から『四万
  十川ウルトラマン』って聞こえてきたってわけよ。ありゃ、確
  か窓拭きのおっさんだったよな」            
レ 「窓拭きのおじさんですかぁ。ハァ(と溜め息)」    
柿 「おうよ、そういや、あのおっさん今日も来てるぜ」   
レ 「えっ、どちらに」                  

柿本、真上を指さす。そこに天窓があり、明かりが入っている。シ
ルエットになった人影が確かに見える。           

レ (少しうんざりした声で) 「追求マンはどこまでも追求しま
  す。今度は窓拭きのおじさんにインタビューしてみましょう。
  これが最後であって欲しいものですが」         

レポーターの顔のアップ。一応笑い顔を見せているが、目がつり上
がっている。レポーター、またまた走り出す。非常ドアを開ける
と、天井への非常ばしごがある。一心不乱に昇っていくレポータ
ー。カメラは昇れず、仕方なく下から追う。         

レ 「おじさ〜〜ん」                   

大きな声なのだが、マイクにはほとんど入らない。やがて、窓拭き
のおじさんを連れて、レポーターが下に降りてくる。     

レ 「こちらが、もしかしたら今回の『四万十川ウルトラマン』と
  いう題名をお考えになられた花熊さんです」       
花 「いんや。そらオラじゃねェっぺよ」          
レ 「当ててみましょうか」                
花 「ん?」                       
レ 「天からのお告げでしょう。そうだ。それに決まってる」 
花 「天からと言やあのぉ、天からかもしれねェっぺな。あらオラ
  が撮影さ見に行った時だっぺ。オラ岩下志真理のファンでの
  ぉ。(急に顔がニヤける)あのちょっと生意気そうな…  .

レポーター、咳払い。それを横目で見て。          

花 「まぁ、その、なんだ。上の方からのぉ、『四万十川ウルトラ
  マン』つう声がのぉ、聞こえてきたんだっぺ」      
レ 「それがどなたの声かご存知ですか」          
花 「ああ、あらのぉ、確かのぉ、ほら、何とか言ったっぺ。黒だ
  ったか、赤だったか、黄土だったか…」         
レ 「ひょっとして、白沢?」               
花 「おう、そうだ、そうだっぺ」             
レ 「どうもありがとうございます」(と言いながら走り出してい
  る)                         

レポーター、走る。ひたすら走る。とにかく走る。階段を抜け、非
常口を抜け、連続的に扉を開け(ヒッチコック『白い恐怖』のキ
ス・シーン風)、様々なセットを抜けて走る。途中、一列になって
過去のアニメの主人公達がぞろぞろと現れる。鉄腕アトム、鉄人2
8号、秘密のアッコちゃん、黄金バット、ミンキー・モモetc.
etc.…その前をレポーターは走る。走る。        

「バタン!」スタジオから出る扉が開く。野外撮影。レポーター、
バタッと倒れる。ゆっくり顔を上げると、クレーンに乗った白沢、
スタッフに指示を与えている。               

レ 「白・沢・かん・と・くぅーっ!」           

レポーター、ほとんど息も絶え絶えに声を絞り出す。しかし、さす
がプロ。段々とボリュームは上がる。それを聞きつけたのかクレー
ンが動き出し、白沢乗ったままでレポーターの前に来る。   

レ 「ハァ、ハァ…、やっぱり、ハァ…(と息が弾む)」   

白沢、無表情。                      

レ 「やっぱりあれは、ハァ、ハァ…、監督が、ハァ…、考えられ
  た、ハァ、ものじゃないですか、ハァ、ハァ…」     

白沢、無表情。                      

白 「 … 」                      
白 「 … 」                      
白 「あれは」                      

レポーターの顔のアップ。訴えかけるような顔。目はつり上がり、
涙がこぼれようとしている。口元は微妙にけいれんしている。白
沢、一瞬たじろぐ。                    

レ 「天からのお告げなんですね。天からのお告げ。長谷川さんな
  んでしょう。そういうオチなんだ。わかっているんだ」  

レポーター、走る。速い。速い。速い…。バックが流れて見えな
い。ほとんど8マン。一瞬の後に長谷川のところ。長谷川、自動販
売機からコーヒーを取り出そうとしている。そこにレポーターの顔
のアップ。凄い形相。長谷川、思わずコー ヒーを取り落とす。 

レ 「天からのお告げなんだな」              

レポーター、走る。バック流れる。一瞬。真田は相変わらずトラン
ポリン。レポーターもトランポリンに飛び乗り、同じタイミングで
飛び跳ねる。二人の顔が向き合い、真田、ギョッとする。   

レ 「天からのお告げ」(凄い表情)            

真田、バランスを失って、トランポリンの外に落下する。レポータ
ーは三回転半して、見事な着地。真田を振り向きもせず、再び走り
出す。後ろの方で担架を抱えた男二人、真田に近付く。レポーター
は走る。バック流れる。天井のはりの上。          

レ 「天からの…」(一層凄い表情)            

柿本、足を踏み外して下に落ちていく。構わずレポーターは走る。
思いっきりジャンプ。屋根の上。              

レ 「天、天、天…」(奇跡的なほど凄い表情)       

花熊、気が動転して、雑巾を丸めて『てん、てん、てんまり…』を
してしまう。それにはちらとも目もくれず、レポーターは飛び降り
る。野外撮影の俯瞰図。クレーンの上の白沢を中心にして人型の
影。                           

レ 「四万十川ウルトラマーン!」(陽光をバックにシルエット)

再び俯瞰図。手足を広げ飛んでいる(落下している?)レポータ
ー。いつのまにか、四万十川ウルトラマンの衣装を着込んでいる。
丸に四の字のマントが風にひるがえる。人が放射線状に逃げる。白
沢の驚いたように見上げた顔。影が映っている。段々とその顔が大
きくなるに従って、恐怖に歪んでいく。           

「ドーーーーン!!!」                  

クレーン倒れている。その横にへたりこんでいるレポーター。いつ
のまにか服装 は元に戻っているが(さっきのは幻想か?)、顔つき
がだらしない。涙にまみれて、口元からはよだれ。      

レ 「エヘラ、エヘラ、エヘラ…」             

プッツンと画面が消える。                 

 

再びTV画面。司会者と女性アシスタント。モニターには何も映っ
ていない。                        

司 「一部画面にお見苦しいところがございましたことを深くおわ
  びします」                      

二人、頭を下げる。                    

ア 「では、次に…」                   

 

 tsukida@jcom.home.ne.jp
    よろしければ、ご感想をお送り下さい。 

 創作の部屋へ戻る... ホームページへ戻る...

     

     

inserted by FC2 system