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小説
 ファンタジー(童話) 

”ふるさと村シリーズ”        
 寂しがり屋のクリスマス・パーティ

       

「今夜はクリスマス・イブ。それを一人で過ごすなんて」   

 青年はそう思いました。生まれて初めて、たった一人のクリスマ
ス。ふるさと村を遠く離れて、こんな世界にただ一人。一緒に祝う
友達も、今は遠くにいるのです。              

 寂しがり屋の青年は一人ぼっちでパーティの、準備をそれでも始
めます。窓に置いてる鉢植えに、小さな飾りをつけました。てっぺ
んに星の飾り物。ほら、クリスマス・ツリ−の出来上がり。テ−ブ
ルに白いテ−ブルクロス。真ん中に白い大っきなキャンドル。グラ
スを幾つも用意して、ちょっと多めに食事も用意。      

「足りない物はケ−キとシャンペン。それで、すっかり出来上が
り」                           

 彼は机に向かいます。紙と鉛筆取り出して、何やらさらさら書い
てます。ちょっと覗いてみましょうか。           

寂しがり屋のクリスマス・パ−ティ、今晩うちで開きます。ケ−キもあります。シャンペンも。食事の用意もできてま す。ちっちゃなツリ−もございます。どこかの誰かの寂しがり屋さん。どうかいらしてくださいな。         

      寂しがり屋の青年より

  

 招待状もできました。宛名も切手もありません。だけどポストに
入れたなら、どこかに着くかもしれません。         

 青年はドアを開けました。招待状をポストに入れて、ケ−キとシ
ャンペン、買いに出ます。                 

 でも…                         
 
「クリスマス・ケ−キ売り切れました」           
「シャンペンもうありません」               
「つい今さっき売り切れました」              
「もうあと少し早かったなら」               
「ごめんなさい。たった今…」               
 
 ケ−キもシャンペンもありません。随分遠くまで歩きました。い
つもは行かないところまで。そうしてようやく青年は、小さな貼紙
見つけます。                       

「シャンペンあります。ケ−キもあります」         

 ふるさと村のお菓子屋に、ちょっと似ている小さなお店。「サン
タ屋」と書いた看板も、見逃しそうな小さなお店。入るとチリンと
鈴の音。居眠りしていたおじいさん。ぱちっとその目を開きます。

「シャンペンください。クリスマス・ケーキくださいな」   

 きれいな瓶のシャンペンです。生クリームのたっぷりのった、と
ってもおいしそうなケーキです。今日がとっても楽しみですね。

「メリー・クリスマス、若い人。パーティ楽しんでくださいな」

「どうもありがとう、おじいさん。それから、メリー・クリスマ
ス」                           

                

 寂しがり屋のクリスマス・パーティ。一人っきりで始まります。
ケーキを切って、シャンペンあけて、キャンドル・ライトで照らし
ます。                          

「おいしいや」とってもおいしいケーキです。        

「おいしいや」とってもおいしいシャンペンです。      

「一人じゃとっても勿体ない」               

 

 その時コンコン、ノックの音。ドアじゃありません。窓の外。こ
こは二階のはずなのに、いったい誰が来たのでしょう?    

「どなたですか」青年は窓を開けました。木枯らしがさっと入りま
す。キャンドルがちょっと揺れました。           

「寂しがり屋の北風です。招待状を頂きました」       

「さあさあ、どうぞお入りください。お客を待っていたんです。お
いしいシャンペンございます。おいしいケーキもございます」 

 グラスがちょっと傾きます。北風すこぉし赤くなります。  

「とってもおいしいシャンペンです。ケーキもとってもおいしいで
す」                           

「喜んで頂いて嬉しいです。来てくださって嬉しいです」   

「それじゃ私からのプレゼント。暖かぁい風になります」   

 ちょっと寒かった部屋の中。ぽかぽか、ぽかぽか、あったまりま
す。                           

 その時ポツポツ、ノックの音。おやおや、どうやらまた窓のよ
う。                           

「寂しがり屋の粉雪です。招待状を頂きました」       

「どうもいらっしゃい、粉雪さん。お客をお待ちしてました。シャ
ンペンどうぞ。とってもおいしいケーキをどうぞ」      

 またまたニッコリ、青年の顔。これでお客が増えました。一人ぼ
っちのパーティが、今じゃ三人になりました。        

「それじゃ私からのプレゼント。今夜はホワイト・クリスマス」

 窓の向こうに白い影。フワフワ、フワフワ、粉雪です。   

 

 その時、一斉にノックの音。ポンポン、コツコツ、トントン、ド
ンドン…                         

 青年は窓を開きます。お客をみーんな迎えます。      

「寂しがり屋の枯れ葉です」                
「寂しがり屋の流れ星です」                
「寂しがり屋の夜霧です」                 
「寂しがり屋のはぐれ雲です」               
「寂しがり屋の溜め息です」                
「寂しがり屋の涙です」                  
……………………………                  

 

 みんなみーんな、集まりました。             

 みんなみーんな寂しがり屋さん。             

 一人ぼっちのクリスマス・イブ。とっても寂しい一人の夜。今で
はみんな集まって、とっても素敵なパーティです。      

「それじゃみんなで乾杯しましょう。みんなでケーキを分けましょ
う」                           

 とっても不思議なシャンペンです。飲んでも飲んでもなくなりま
せん。                          

 とっても不思議なケーキです。食べても食べてもなくなりませ
ん。                           

「おいしい」「楽しい」「おいしい」「嬉しい」…      

 寂しがり屋のクリスマス・パーティ、夜遅くまで続きます。 

 

「おやおや、どうやら寝ちゃったようです」         

「幸せそうな寝顔ですね」                 

「このまま寝かせてあげましょう」             

 北風が窓を開けました。                 

「素敵なパーティありがとう。きっと素敵な夢を見ますよ」  

 みんなの声が夜空の方に、段々小さく消えていきます。   
 
「メリー・クリスマス、寂しがり屋さん」          

 

 ――― 静かな夜になりました         
     粉雪しんしん降り積もります ―――  

 

 その時もしも青年が、ちょっとその目を覚ましたら、きっと目に
したことでしょう。窓を横切る一つの影を。         

 どこかで見たよなおじいさん。コックの白服脱ぎ捨てて、白いお
髭に赤い服。トナカイのそりを操って、今夜は居眠りしていません
ね。                           

「素敵なパーティ、どうでした。こんこん峠のこん太さん。おやお
や、しっぽを出したまま。今夜はだぁれも見てません。とっても素
敵なホワイト・クリスマス。そのまま静かにお眠りなさい。それじ
ゃ私からのプレゼント。ふるさと村の夢をごらんよ」     

 

 こん太の寝顔が笑っています。きっと楽しい夢なのでしょう。

 

明日はどんな日なんでしょうね?
 

 

  tsukida@jcom.home.ne.jp
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