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「ローズマリーの息子」ネタバレ検討
当然ながら、「ローズマリーの息子」の完全ネタバレです

 書評で書いたように、本書ではレヴィンは二つの誘導で読者の想像を延々
と引っ張っていってるように思う。二つとは、それぞれアンディに関するも
のと、キャンドルの祭典に関するものを意味している。この二つは、おそら
く大部分の読者に対しては、密接に関連していることだろう。     

 まずは、アンディに関するものだ。本書では意外にも「善」の存在として
登場してくる。そこで読者はこう考える。「本当にそうだろうか?」と。ホ
ラーがこのままで終わるはずはないのだ。「善」として取りあえず描かれる
ならば、それが逆転する瞬間がやってくる。読者の意識下の思考がどうあれ
おそらくほとんどの読者がそれに類した想定を行うだろう。それを誘導する
ように、レヴィンは「悪」の象徴として、虎の目を時々小出しにしながら、
逆転の瞬間への読者の気持ちを盛り上げていくのだ。         

 そしてそのタイミングを想定するのに、いかにもというお膳立てされてい
るのが、キャンドルの祭典なのである。これを怪しいと思わない読者など、
まずいないだろう(そういう愚かな、、、いやいや、素直な人間がいるとす
れば、その人にとって、ミステリの世界はいかな驚きに満ちあふれた世界で
あることだろう?ああ、そんな感覚を味わってみたいものである。もし、そ
ういう方がいらっしゃったら、それはおそらく天からの授かりものなのだ。
幸福感の中で、あまたのミステリをどうぞ楽しまれますように!)。  

 こうなると、ローズマリーはいつこの怪しさに気付くだろうか、というの
が気になってくる。そしてどうやってこれを阻止するのだろうかと。おそら
くは、エイリアン・シリーズにおけるリプリイのような役割を、ローズマリ
ーに対して期待してしまった読者も、少なからずいたことだろう。   

 これがおそらくレヴィンが読者に仕掛けてきた誘導ではないだろうか?多
くの読者は少なくとも一旦はここを通ったのではないか。その先はそれぞれ
の読者の深読みの度合いや、気の入れように従って、いろいろと想像は進ん
でいたかもしれないが。                      

 そしてレヴィンは、ラスト直前に、それぞれの誘導を裏切ってみせる。ア
ンディは「悪」としてローズマリーに対することはなく、悪魔を裏切り、キ
リストとしての磔さえ受けてしまうのだ。そして、キャンドルの祭典。どう
やって阻止するか、だって?なんと阻止しないのだ。それは実行されてしま
うのだ。「おいおい、それじゃこの話をどう収拾つけるんだよぉ〜〜?!」
と疑問符が頭の中を駆けめぐったところを狙って、最終兵器「夢オチ」の登
場となってしまったわけである。                  

 モダンホラーの構造を、一瞬にしてひっくり返す。どん底のアンハッピー
な状況を、一瞬にしてハッピーエンドに変える魔法のクスリ。キャンドルの
祭典が阻止されるハッピーエンド的な状況を期待した読者は、それがひっく
り返されたところへもってきて、更なるどんでん返し。くるくるとひっくり
返されてしまう。また、アンハッピーエンドを予想していた読者に対してす
ら、このどんでん返し。確かに、あらゆる読者の予想を裏切るような形のど
んでん返しではある。                       

 しかし、それが読者にとってカタルシスになるとでも、レヴィンは考えた
のであろうか?                          

 最初は、ローズマリーと永遠に生きるために、彼女を騙すために、こんな
幻影を見せているのかと深読みしてしまったぞ。しかし、彼女に媚びる必要
など彼にはさらさらないのであるから、やはりこれは正真正銘の夢オチと考
えて間違いないのだろう。                     

 日本のようなコミックス文化が無いために、こういう夢オチという安直な
手段に対する抵抗感が薄いのであろうか?まさか、そんなこともないと思う
が、疑問と不満の溜まる解決であった。ちょっと、、いや、かなり溜め息。

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