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ミステリ・パズル解答編

 [ ミステリ・パズル 有栖山有栖の冒険その1解答編 ]

 
「パズルは、結構得意なんですよ」と、美月刑事。          

「では、やってみますね。まず、Dが『CとDは犯人ではない』と言ってい
ます。彼女が犯人だとしたら、これが嘘なわけです。で、彼女が犯人ではな
いとしたら、このことは正しいので、Cも犯人から除外され、BかEが犯人
になります。つまり、いずれにしても、Cは犯人から除外されました」 

「なかなかやるじゃないか」と髭田警部。              

 では、次に、BかEが犯人の場合を検討します。親切にもBが『Eは犯人
ではない』と証言しています。従って、Bが犯人でなかったら、同時にEも
犯人ではなくなります。どちらかが犯人であるとしたならば、可能性はBし
かありえないんです。これで、Eも除外され、犯人は、BかDに絞られまし
た。ここまでは、論理で導ける、初歩的な推理です」         

「言うね、お前も。シャーロック・ホームズ気取りか」        
 髭田警部のちゃちゃにもめげず、美月刑事は続ける。        

「ここで順番について考えてみます。生きていたと証言しているのがCとD
で、死んでいたと証言しているのがBとEです。従って、Dが犯人だとすれ
ば、Aと会ったのは、Cの後になります。Cの信用できる証言によると、A
の方が呼び止めたことになっていますが、Dの証言ではAの方は一言も口を
きかなかったことになっています。この二つの証言は矛盾しています。これ
を嘘だとすると、先ほどの『CもDも犯人ではない』という証言と併せて、
二つの嘘になってしまいます。そこで、Dも除外されます」      

 うなづく有栖山有栖。警部は今度は無言でしかめ面をしている。   

「つまり犯人は、発見者であるBなんです。では、彼女がついた嘘とは何で
しょうか?彼女は最初に死体を見たときの印象を証言していますが、それは
嘘とばかりは言えません。自分が刺してしまい、死体となった彼を見れば、
そりゃ怖くもなるでしょう。彼女がついた嘘とは、彼を見つけた、つまり生
きていた彼を見つけた時間です。通報の直前ではなく、9時少し前だったは
ずです。Cが証言した、Aが呼び止めた女とはBだったのですから」  

 何か言いかけた髭田警部を片手で制して、なおも続ける美月刑事。  

「では、時間的に整理してみましょう。まず、最初にAと会ったのは、Dで
した。次にC。Cは去り際に、Bを呼び止めるAの声を聞きます。これが9
時少し前頃。それから5分過ぎまでの間に、彼女はAを殺害します。おそら
くBはそのまま逃げるつもりだったのでしょう。しかし、その後ろ姿をEに
目撃されます。Bも多分その気配に気付いたのでしょう。とっさにそばの公
衆電話を取って、発見者を装うことにしたのです。実際には、EはBだとは
気付かなかったんですが。Bが『Eは犯人ではない』と証言したのも、Eが
何かを思いだしても、自分に不利なことを言いにくくさせる心理的な作戦だ
ったとすら考えられます。さあ、Bを逮捕しましょう、警部!」    

 

「長々とご苦労だったな、美月。たしかにこれがミステリ・パズルか何かだ
ったら、それでいいかもしれん」                  

「警部、だって、これはミステリ・パうぐぐ」            
 最後のうめきは、警部が美月の口を押さえたからである。      

「やめろ、美月。それ以上言うと、これはメタ・ミステリ・パズルになって
しまう」                             

 美月の口を押さえたまま、警部が有栖山の方に向きを変える。    

 

「たしかに美月の推理は、それはそれで筋が通ってる。だが、わしがわから
んのは、どうしてあんたがそんなことを断言できるかだ。あんな推理は、幾
つもの可能性の一つに過ぎん。一つに絞れた根拠は『名探偵が言ったから』
だけしかないんだ。そもそも、どうしてあんたがここにいる?どこにもあん
たを呼び寄せた、というような描写はないぞ」            

「描写って、警部もうぐぐ」                    
 一旦警部の手を引き剥がすが、再び押さえ込まれる美月。      

「BもCもDもEもみんな、本当のことを言っていたとすることも出来る。
DとC、BとEの間に、もう一人の人物を配置すると、ちゃんとつじつまが
合うんだよ。たしかにこれも又一つの可能性だ。しかし、それが事実なんだ
ろ?素直に認めな。『名探偵』って言葉が通用する甘ちゃんはともかく、わ
し相手にはったりかまそうなんて、冒険が過ぎたようだね、お嬢ちゃん」

      ・・                          
 こうして、彼女、有栖山有栖は逮捕された。犯人の女がついたたった一つ
の嘘とは、「たしかに、この4人の中に犯人がいます」だったのだ!  
 
 

[ ミステリ・パズル 有栖山有栖の冒険その2獄中編 ]に続く、わけない。

 
 
 さて、以上が解決編です。人によっては、あるいは不快感を覚えられる方
も、おられるかもしれません。でも実は、こんな少々悪趣味なミステリ・パ
ズルを作ってみたのには理由があります。以下のリンク先では、殊能将之作
「ハサミ男」の完全ネタバレを行っています
ので、必ず読了後に読んで下さ
るようお願いいたします。                     

 
ミステリ・パズルの隠された意図に関してはこちらへ...

 

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