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「モロッコ水晶の謎」ネタバレ書評

有栖川有栖「モロッコ水晶の謎」の完全ネタバレです。
必ず、読了後にお読み下さい!

 
 この短編で有栖が提示した命題は、いろんな解釈が可能だとは思うが、私
は『本当に不可能な不可能犯罪』ではないかと受け止めている。不可能犯罪
のセルフ・パロディでありながら、ある一つの究極の姿。       

 であるから『本当に不可能』という制約条件は、完璧なまでに強固に構築
して欲しかったのだ。一つ一つの可能性を潰し抜き、不可能の絶対性を究極
的に高めて欲しかった。その上で、それでも不可能犯罪を打ち破る”解決”
があるはずだという読者の期待(ミステリとしてのお約束)を、すっぱりと
ひっくり返してみせるのだ。                    

「”解決”はない」と。そして同時に「それが”解決”だ」とも。   

 先程挙げた”一つの究極の姿”とは、ある言葉の一つの形態でもある。本
格者として逆に強烈な憧憬も抱いてしまうその言葉。         

          …… アンチミステリ ……          

 本書はその証明性が弱すぎる。狙われた可能性のある三人の内の二人が犯
人(もしくはそれに準ずる者)って、いったいどういうわけだよ。   

 こんな状況だったら、なんだって出来るはず。とにかくどれか一つに目印
さえあれば可能なんだから。グラスでもトレイでもどこでも構わない。狙っ
た相手がそれを取らなければ、自分達は飲まずに済ませればいい。よぉく目
をこらせば分かるという程度で構わないわけなんだよ。自分達も受け取って
じっくりと検分できる余地があるんだから。             

 クリスタルグラスでピカピカ光ってて、目印付ける余地なんてなかったな
んて、「円周率は3で計算せよ」というような、テスト問題の制限条件じゃ
ないんだからさ。                         

 現実世界を考慮した、制約条件や”あらため”が行えているとは、とても
思えなかった。そういう不十分な条件の中でアンチミステリをやられても、
ミステリの範疇で充分に解決可能じゃないか、としか思えないのだ。  

 これが本書に対する最大の不満点である。             

 
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