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森博嗣全4作ねたばれ書評

 

 前記したように、私の森作品4作の順位は以下のようになる。

1位:詩的私的ジャック   7点  
2位:すべてがFになる   7点  
3位:冷たい密室と博士たち 6点  
4位:笑わない数学者    6点  
 

 一作目から順に、その理由を追っていこう。        

 まず最初の「すべてはFになる」は確かに一作目にふさわしい派
手な演出、ユニークな舞台設定、印象に残り得る犯人像と、これを
ベストに押す人は多いと思うが、幾つかの大きな不満がある。 

 まずは題名の意味。コンピューター関連のソフトウェア、ハード
ウェアの技術者ばかり集まっていて、Fの意味をあそこまで引っ張
るのはあまりにも無理があり過ぎる。常識中の常識なので、いつ謎
解きに移るのか、読んでいて余りにももどかしかった。理系ミステ
リなんて言われているが、本質文系の似非理系なんじゃないかと、
実は深読みしていたりする(笑)              

 もう一つ、大きな不満がある。メイントリックに関したものだ。
作中では「緻密だ」という評価をされているが、果たしてそうです
か?いろいろと装飾を剥がしていけば、結局のところ人を驚かせて
おいて、その間に部屋を抜け出るという単純なトリックに収束され
ると思う。しかし、それでは誰かが何かの拍子にちょっとでも目線
を動かしたら、それだけで全ての計画が頓挫してしまうような危う
いトリックだとしか思えなかったのだが。私の読み込み方が足りな
いのかも知れないが、そういった印象を受けた以上、全体的には非
常に良くできてはいるのだが、配点は辛くせざるを得ない。  
 

 さて、次は2作目の「冷たい密室と博士たち」だが、この作品は
可もなく不可もなく、といった感じで評価しづらいのではないだろ
うか。パズラーとしてよく出来てはいるのだが、犯罪の再構成がな
いとピンと来ないし、それすらも手順追いになってしまって、パン
チに欠ける感が否めない。犯人像も弱いし、平均点は充分取れる
が、そこを抜け出る要素が薄かったですね。         
 

 3作目の「笑わない数学者」はなにせ、メイントリックがちゃち
というか、余りにもわかりやすすぎる。古くは甲賀三郎の短編「蜘
蛛」で使われたトリックとほぼ同種であるし(勿論これより先の例
もあるかも知れない)、最近では東野圭吾の怪傑作「名探偵の掟」
でもパロディ化されるほどの、ありがちなトリックになり下がって
る類のトリック。しかも使い方として、この単純なハウダニットが
わかれば、自動的に犯人がわかってしまう構造。せめて、ハウダニ
ットとフーダニットが切り離されていれば、まだ良かったに、、、
というわけで、当然ながらこれが最下位。          
 

 そして、いよいよ今回の「詩的私的ジャック」。中途では、密室
の構成法がそれなりの面白さは持ってはいるが、心理的な方向性で
なく、物理的な方向性で解明されていくので、少々しらけていたと
ころであったが、そういったものも実は伏線として成立している、
という構造がなんとも良かった。一見不可解だった密室の必然性に
スマートに解決が付けられて、十分に満足。         

 動機に関しても、かなり気にいっている。真っ白なノートに数式
を埋めていく、そこからの発展と秩序。           

すべて、素敵なイーコールのために…

 題名の通り、なかなかに詩的なロマンチックな解決だったように
思う。その余韻のままで終わって欲しかった。第12章が存在する
必然性は全くないですね。おそらくは萌絵のプロポーズ(笑)の後
始末を付けるがためだろうけど、、、            

 他にあえて、不満点を述べるとすれば、最初の殺人(杉東さんが
おかした犯罪の方)が説明不足というか、素直に納得しがたい気が
どうしても残る点です。でも、全体的なバランスも良くて、これを
森博嗣のベストに挙げておきましょう。           

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