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『木製の王子』ネタバレ書評

麻耶雄嵩『木製の王子』のネタバレです。注意!
『夏と冬の奏鳴曲』のチョイバレも含みます。未読の方、注意!

 
 読み終えた方に質問。さて、各章の頭で時々登場していた人物達とは、一
体なんだったのか、きちんと理解されてますでしょうか?       

 実は、私は宗教関係の話なんだろうと、すっかり読み飛ばしていました。
メーリングリスト上で、タケさんの発言を読んで、吃驚してしまったのでし
た。麻耶くんの作品だというのに、浅い読み方しかしていなかった自分が恥
ずかしい。これを読んでくださってる方の中にも、私同様に読み落としてい
る方がきっといるだろうから、許可を頂いて以下に引用します。    

> あれは白樫家と那智家の人達の本当の名前です。         
> ひっくり返した後の家系図に沿って               
> 宗禎=中込、尚佳=湯舟、宗尚=矢野、伸子=星野、       
> 宗伸=遠山、晃佳=藪、 規伸=福原、晃子=川尻、       
> 規晃=伊藤、禎佳=葛西、                   
> と置き換えて、各章の頭を読み返すとすごく面白いです。     

 しかも、タケさんの分析はこれだけでは終わらない。たとえ私が上記のこ
とに気付いたとしても、スポーツ関連全般に疎い私では、絶対に気付くこと
の出来ない暗示が隠されていたのです。これにはまたまた吃驚!!!  

> ちなみに、各人の姓は、阪神タイガースの現役選手の       
> 姓になっていますが、矢野を除くと全員ピッチャーです。     
> そして、その矢野(=宗尚)が司令塔たるキャッチャーである   
> というのが事件の構造を暗示しています。            

 素晴らしい!!!実に見事な分析。ここまできちんと読みとれる読者は、
そう多くはいないのではないだろうか。こういう一筋縄では気付かぬような
隠れた暗示をやってのける麻耶雄嵩も麻耶雄嵩だが、これに気付くタケさん
も素晴らしい。作者と読者の見事なコンビネーションの好例である。しかし
気付かなければそのまま置き去りにされるだけというのも、寂しいものがあ
るなあ。まあ、わかる人にはわかる(らしい)特撮ネタもだけどね。  

 ところで、ついでにもう一つ。「夏と冬の奏鳴曲」「痾」「木製の王子」
と読み進むと、(たとえフィクションであるミステリ内の世界だという前提
においても)現実であるとは首肯できぬ理解不能作品であったソナタを、唯
一理解可能とする道がおぼろげながら見えてきたような気がしてきた。 

「木製の王子」は、ある意味歴史の再創世である。こうあるべし、という象
形が最初にあり、宗教という触媒で人を結びあわせ、”家族”という歴史を
再構築しているのだ。                       

 これにもう一つ。暗示といった要素を加えてみる。ある個人の歴史。過去
に存在した象形がまずある。これを暗示により特定の個人に刷り込む、、、
こういった前提でソナタを読み返せば、あり得ぬ世界も現実としての再構成
が可能で、ラストの不可解なメルの言葉も、きちんと理解できるようになら
ないだろうか?鳥有のダメダメ振りが存分に発揮された本作だが、それもこ
ういった前提から始めてみると、更にわかりやすくなってきたりはしないだ
ろうか?既に内容もすっかり忘れきっている鳥頭人間だし、読み返す気力は
ふり絞れないので、ここでは着想の提示だけに留めておくこととしよう。

 
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