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小説
 ミステリ  

「臭い密室」の問題

 

密室に對する新奇計なしという人は
この意外な犯人に唖然とするだろう

(「宝石」第9巻第2号    
 川島郁夫「残雪」の宣伝文より)

 世は全てこともなし。たまにはこんな日々もある。しかし、こん
な時だって、学校新聞は発行しなくちゃならない。      

 そういうわけで、いつものように、僕は隣の古ぼけた洋館の門を
くぐった。ここには貧乏くさい親父が一人住んでいる。僕は「教
授」と呼んでいる(というか、呼ばされている)。本人が言うこと
には、元は有名な犯罪学の大学教授だったんだそうだ。ある時、完
全犯罪の講義をしていて、実習を始めようとしたもんだから、あわ
てた大学側と揉めて、辞めてしまったんだとか。       

 ほんとのところ、僕は信じちゃいない。でも、とびっきり面白い
犯罪の話が聞けるのは事実なんだ。だから、趣味と実益をかねて、
学校新聞のネタに困ったときには、大抵ここに来ることにしてい
る。                           

 
「教授、また何か面白い事件はありませんか?」       
「また、埋め草か?」(やっぱ読まれている)        
「いえいえ、教授の話はもうメインコーナーなんですよ。ほら、
先々月の一人四役と四人一役を組み合わせた、五つ子が犯人の事件
なんて大評判だったんですから」(教授はおだてに弱いのだ) 
「ふむふむ、あの象女を運び出すには四人ぐらいいないと、不可能
だからな。わしには簡単すぎる事件だったよ。さて、じゃあ今日は
どんな話がお望みかな?」                 

「そうですね、そろそろ賞品出して、犯人当ての企画考えているん
ですけど、どうですか?意外な犯人の事件なんかありませんか?出
来れば、密室か何かで」                  
「うーむ」教授はしばらく考え込んだ。           

「事件が起こったのは二年前の八月のことだ。ある男が−名前は考
えるのが面倒だからAとしておこう−夜遅く、近くの裏山を抜け
て、家に帰ってきた。Aは酒を飲めば、すぐ顔は赤くなるは、すぐ
眠っちまうは、と弱いくせに無類の酒好きで、その日もはるかに限
度を越えてのご帰還だった。さて、展開は早いぞ。その翌朝、Aは
トイレの中で体中を何カ所も刺されて倒れているのを発見されたと
いうわけだ。どうかね?」                 

「どうかねって。もっと詳しく話して下さいよ」       
「もちろん、そうするとも。まず登場人物はAの妻B、Aの甥で同
居しているC、AとBの子で5才の男の子のD、お手伝いさんの
E。ま、大体この程度だ。                 

 では、状況をもっと詳しく言っておこう。Aが発見されたトイレ
は2階にある。その横には物置とそれぞれの寝室がある。位置関係
だかは不要だ。発見状況は朝7時半頃。Bがトイレに入ろうとした
が、内側から鍵が閉まっておる。何度呼んでも中からは返事がな
い。そこでCを呼んで何とか扉を壊して入って、Aを発見したわけ
だ。体中を何カ所も刺されている他は、頭にはっきりとした打撲傷
が見られた。つまり、でっかいこぶがあったんだ。犯人に殴られた
のかどうかはわからん。トイレの中は電気がついていて、窓は開い
ていた。但し、外には足がかりがなく、はしごがなければ登れん。
しかも窓の下は前日の雨でぬかるみに近い状態で、人が歩いたり、
はしごを立てたりすると、跡が残る状態だったが、そんなものは何
もなかった。物置のはしごにも最近のものと思われる泥などは付い
ていなかった。トイレの扉の鍵は一応外からは開け閉めできんもの
と思ってくれ。つまり、一応密室状態だな。それから、どうせクイ
ズみたいなもんだから、全員に動機があるものとしてくれ。さあ、
推理してみたまえ」                    

「たった、これだけから、推理ですか?」          
「当然だとも。手がかりはほとんど与えたつもりだが」    

「じゃ、やります。まず、扉は駄目だから、窓でいきます。窓だと
はしごを使うしかないんですよね。だから実際そうしたんでしょ
う。もちろん跡は残りますが、それは犯行後に水をまくことで解決
できます。雨のぬかるみと水道のぬかるみなんて区別はつきません
からね。はしごも当然洗ったんです」            

「それでAは犯人が物置からはしごを取り出して、下に降りて登っ
てくるまで、トイレの中でじっと待っていてくれたわけだね」 

「あっそうか…それじゃこうです。犯人ははしごを登ったんじゃな
い。ただ、降りただけなんです。犯人はAが帰ってトイレに入った
ことを知ると、足音をひそめて近づき、ぱっとドアを開けると頭を
殴り…」                         

「おっと、言い忘れておったが、Aはトイレに入る時は、いつも鍵
を閉める習慣だった」                   

「そのときは忘れたんです。いや、出たときだったのかも知れない
ですね。とにかくそうやってトイレの中で刺し殺すと、物置からは
しごを出してきて、扉に鍵を閉め、あとはご同様です。もちろん鍵
を閉めたのは、外部の人間に罪を被せるためです」      

「そんなことぐらいで外部犯行だと思われるかね?」     

「わかってますよ、教授の言いたいことは。僕だって、こんな馬鹿
げた殺人なんてやりゃしませんからね。それじゃこんなのどうで
す?ドアを打ち崩す唯一の方法。BとCとの不倫の関係の末の共犯
というのは。二人が口裏合わせりゃなんでも出来ると」    

 教授が何かを言いかけた。                

「わかってますよ、必然性でしょう?いったいなんでトイレの中で
人を殺さなきゃいけないんです?しかも密室状況にして。お手上げ
ですよ」                         

[ これだけはやりたくなかった読者への挑戦状 ]

教授はどうやら全ての手がかりを与えているという
自信があるらしい。読者もここで立ち止まって推理
をしていただこう。どうせ、わからんだろうが…

…おっと、最後のとこを言ったのは教授です。 

さて、真犯人は?そして、その方法は?

しかし… ま、いいや、読者よ、欺かれるなかれ!

 

解答編

 tsukida@jcom.home.ne.jp
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