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「匣の中」仮解釈

「匣の中」完全ネタバレです、注意!!!

 ここで述べるのは、表面的な一つの解釈である。暗号を解いても、唯一の
解答が明確に現れるとは、実は思っていなかったりするのだ。書評で述べた
ように、終章2が犯人とその動機を語ったものだとして、メタ化されている
部分に関しては、取りあえず無視してみようと思う。「失楽」へのオマージ
ュとして、現実と非現実の境を曖昧にしようとした描き方がされているだけ
で、現実としての解決シーンであると解釈することが可能だと思うからだ。

 そうすると、一応、こういう解釈が可能性の一つとして成立する。  

 まず、馬美は「匣の中から匣の外へ」という小説を構想している。実は、
この構想も時を遡っている伍黄が、何らかの形で馬美に示唆したものである
、、、としたいところだが、さすがにそれは成り立たないようだ。   

 その構想では、被害者は伍黄と寿子と占田であった。メンバの関係図が、
”甲”の字から”匚”の字へ至ることが題名の意味するところであった。

 そこへ伍黄の事件が起こる。この中で唯一の「不可能な密室」である。な
にせ、解答がアレなのだから。ここに残されていた謎の図形。これがあった
ことが、事件の様相をすっかりと変えてしまうことになる。「つい『匣の中
』新しく変わる」である。ここで馬美は陰陽五行にまつわる新たな暗号に気
付いてしまう。魔法陣による人間関係図、それは寿子も気付いたものであっ
た。 しかし、そこで寿子が死んでしまう。これは終章2で語られているよう
に、一種の自殺であったのだ。ここで、馬美は終章3で語られた『五色の十
字架』に気付き、死ぬべきは3人でなく5人であるべきことを知る。殺され
るべきは自分を含む5人であり、しかも人間関係図に新たに浮かび上がった
のは、犯人であるべき自分。作者であり、被害者であり、しかも犯人でもあ
る自分。                             

 ここで更に、占田の事件が起こる。これも実は、終章2で語られているよ
うに、安藤の誘導はあるとは云え、基本的には事故なのであった。あらゆる
解釈を不能とする『不可思議』である第一の事件、基本的には『自殺』であ
る第二の事件、そして基本的には『事故』である第三の事件、本来は殺人と
いう邪悪な意志は存在していたわけではなかったのだ。しかし、あまりにも
なこの暗合が、馬美を使命感に駆り立ててしまう。もしも、伍黄が五行の暗
合に気付き、それを残していなければ、馬美は「匣の中から匣の外へ」の意
図せぬ実現に驚きこそすれ、犯罪への衝動に駆り立てられることはなかった
であろう。そういう意味では伍黄こそが陰の犯人であると、強弁することも
可能なのだと思う。                        

 しかし、自らが被害者であり犯人であるべきことを知った馬美は、間を置
かずに実現すべき第四、第五の事件を計画し実行する。その動機は本当に前
記したある種の使命感だったのか、五章で語られているように、自己のアイ
デンティティの確立にあったのか?あるいは、たとえば、そう、第一〜第三
の事件の展開が、馬美に対して現実に対する不信の念を抱かせたのではない
か。自分が作り物の世界の中の、作られたキャラクタの一人に過ぎないので
はないかと、そういう奇妙な思いに囚われたのだとしたら。そこから抜け出
すために、彼女は唯一の抜け道である、”作者”になろうとしたのだとした
ら、、、これが終章2において象徴的に描かれている意味合いであり、真の
”動機”とも言い得るものだとしたら、、、             

 第四、第五の事件は、大枠は大苫の指摘したとおりであったのだろう。動
機や実行犯の推理は全く間違っていたとは云え。ミステリの解答としては、
実にスマートであり、代案として出されたものより、遙かに納得がいく。様
相がすっかり変わってしまうため、久美をどうやって説得したのか、などの
解決されない問題点は残ってしまうようには思うのだが。       

 一応以上で、それほど大きな矛盾はなく、一つの解釈として成立している
ように思う。更に、飛躍を許してもらえるならば、第一の事件のファンタジ
ーすら、ここに取り込むことも可能である。全てを『匣の中』に押し込める
ならば、被害者であり、犯人であり、そして探偵でもある(第二、第三の事
件を喝破したのは彼女なのだから)馬美が、どうしても解くことの出来なか
った第一の事件に、作者として下した結論だったのかも知れないのだから。

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