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僕たちの駆け落ち狂奏曲
友人に「映画の脚本を書かないか?」と言われて、
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書いてみたもの。ちょっと、いかにもありがちで、
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類型的だったかも。友人に見てもらったところ
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「うんいいね。でも人数減らして!」
、、、って言われてもなぁ… そういうわけで、
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いまだにこの企画は実現していない。
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TV画面、映画「野菊の墓」をやっている。
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政夫「民さんは野菊のような人だ」
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聖子「えっ、私が野菊?どうして?」
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政夫「どうしてって…僕がそう決めたんだ」
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君野純平(ジュンペ)の顔のアップ。無表情にポツリと。
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純 「駆け落ちしようか?」 (抑揚無し)
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木下洋子(ヒロ)の顔のアップ。一瞬間をおいて反応小さく。
洋 「えっ?」 (抑揚無し)
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ジュンペの横顔のアップ。依然無表情。
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純 「だからさ、駆け落ちしようよ」 (抑揚無し)
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ヒロの横顔(ジュンペと逆)のアップ。こちらも無表情。
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洋 「どうして?」 (抑揚無し)
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二人の頭上からのショット。カウチに座っている二人。
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純 「どうしてって…僕がそう決めたんだ」 (抑揚無し)
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ヒロ、反応せず、長〜〜〜〜い間。
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突然ファミコン・オープニング風のタイトル・テロップ。
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” 僕たちの駆け落ち狂奏曲 ”
アップ・テンポのテーマ音楽かぶさる。
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スタッフの一人一人が迷彩服で、自分の役割と名前を書いた紙を
頭に掲げて、通り過ぎる。「戦場の狼」というファミコンソフト
風なのだが、もうだれも覚えていない。続いてキャストも同様。
音楽終わる。
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「ジリリリリ…」
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音楽の終わりに音が重なり,黒電話のアップ。
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幸田博士(ハカセ)の顔のアップ。受話器を手に持たず、肩に
かけている。度の厚い眼鏡。目がくるくる動いている。
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博 「もしもし…はい…うん…ふーん…そう」
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と、ほとんど上の空。
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博 「えっ、駆け落ちぃ!?」
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肩から落ちかけた受話器を、右手で受けとめる。
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奇妙な音楽。ハカセの後ろ姿。半纏を着ている。
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その向こうにモニター。”ゲーム・オーバー”の文字。
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「ピー、ピー、ピー、ピー、ピー」
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白いスマートな電話。裸の手が延びて受話器をとる。
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田中臣人(オミット)の顔のアップ。眠たげにあくびをしなが
ら。
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臣 「もひもひ…あ〜ん?」
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臣 「えっ!」
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と言う声と同時にカメラ引く。オミットの横に女の横顔。
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二人はベッドの中。オミット、パンツ一枚のままベッドから出
て、あわててズボンをはき始める。
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女 「どうしたの?」 (眠たそうに)
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臣 「どうしたもこうしたもねぇよ」
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臣 (小声で) 「駆け落ちだとよ」
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臣 「(大声で) おい… (小声で独り言) えっと、名前何だ
っけ?」
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女 「レ・イ・コ」
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臣 「レイコ、出てく時は、鍵ドアマットの下な。(靴はきなが
.
ら)おい、聞いてんのか?」
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女、ベッドから片手を上げて。
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女 「アイアイサー!」
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バタン!とドアが閉まる。
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「リーン、リーン」
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今時珍しい黒電話のアップ。
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広 「ハイ、八百一です。」
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太田広子(オコウ)の顔。はちまきをしている。
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広 「オウ、ヒロじゃないか。どうしたい?…へっ?…おいおいお
い、何の冗談だい、そりゃあ。…まじぃ?まじっつったって、
また、何で?…… おい、ちょっと待ちな、待ちなって」
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オコウ、受話器を持ったまま、ボーッとしたように立ってい
.
る。片手に大根を握りしめたまま。
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カメラ、裏に回ると、母親の顔が下から、ズズゥーッと上がっ
てくる。不思議そうな顔でオコウを見上げたまま。
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オコウ、ハッと気付いたように、大根を母親に渡して。
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広 「ちょっと出かけてくらぁ」
.
母 (心配そうに) 「どうしたの?」
.
広 (ズンズンと歩きながら) 「駆け落ちなんだよ」
.
母親、その後ろ姿を見送ってから、ゆっくりと顔を回す。
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後ろの座敷で父親が正座してお茶を飲んでいるのが見える。
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父親、ズズーゥッとお茶をすすり、フゥーッと息をつく。
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父 (落ち着いて独り言のように) 「広子がねェ‥」
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「ルルルルー、ルルルルー」
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ピンクの部屋にピンクの電話、長い髪でピンクのネグリジェを
着た人が電話に向かって歩いていく後ろ姿。薄暗い部屋。
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電話の横の写真立てにジュンペの写真。上にキス・マーク。
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妻 「もしもし」 (ちょっとくぐもったハスキーな声)
.
しばらく無言のまま、と急に。
.
妻 「うっそぉーーーーっ!」
.
と叫んで後ろを振り向く。何と黒パック。その上にレモンの
.
輪切りが数切れ。声と顔で男だったことがわかる。
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これが今野妻彦(ツマチャン)。
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「ピー」
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割と美人の女、黒崎法子(ノン)が鏡台の前で化粧をしてい
.
る。手をのばして電話のスピーカー・ボタンを押して、また化
粧を始める。留守電のメッセージが流れる。
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電 「…留守にしています。次の悶え声の後に、用件を入れてくだ
さい。『あっ、あっ、ああ〜ん』(ビデオからの音声)ピー
.
(と発信音)」
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洋 「はーい、私ヒロでーす。ノン元気ぃー?」
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ぱっと顔が明るくなり、受話器をとろうとするが。
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洋 「実は今日ジュンペと駆け落ちすることになりました。
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みんなに見送ってほしいから、5時に”アフロディテ”に来て
ね。じゃあね。ヒロでしたぁー」
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泣きそうな顔つき。鏡に口紅で「ヒロのバカ」と書く。
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ジュンペの部屋。ヒロ、受話器を置いて、ひざをついたまま
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ジュンペの方ににじりよる。
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洋 「それでさ」
.
純 「ん?」
.
洋 「駆け落ちってどうやるの?」
.
純 「えっ?」
.
洋 (連られたように) 「えっ?」
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オミットの顔のアップ。
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臣 「それで?」
.
カメラ円を描くように回って、それぞれの顔の
.
アップを写していく。その間に一言ずつ。
.
広 「何さ」
.
妻 「あたし嫌よ」
.
法 「許せない」
.
博 「僕は…」
.
ハカセの顔のアップで止まる。
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博 「アイスミルク」
.
カメラ引いてハカセの後ろから狙う。円形テーブルに座った
.
ハカセ以外の4人が一斉に横を向く。
.
ウェイトレスがハカセの正面に立っている。4人口々に。
.
臣 「ホット」
.
広 「レモン・スカッシュ」
.
法 「アールグレイ」
.
妻 「水」
.
4人「んっ?」
妻 (うつむいて)「だってダイエット中なんですもの。じゃあ…
ウーロン茶」
.
ウェ「かしこまりました」(去っていく)
.
これからの会話中はアップは使わない。
.
適当なカメラワークとカット割りでつなぐ。
.
臣 「とにかく誰もジュンペとヒロができてること知らなかったん
だよな」
.
法 「知ってるわけないじゃない」
.
妻 「そうよ、知ってたら…」
.
臣 「知ってたら?」
.
ツマちゃん、口を開こうとするが。
.
広 「あたしゃあの二人はまだ完全にできちゃいないと読んだね」
妻 「ホント?オコウ」
.
法 「どうして?」
.
臣 「できてもねぇのに、駆け落ちなんてことするってぇのか?」
広 「ま、普通はしないね」
.
臣 「じゃ、なんでだよ」
.
広 「考えてごらんよ。あの二人のどこに駆け落ちする理由がある
んだい?」
.
臣 「そりゃあ… (しばらく考えて) ないよな」
.
法 「あの二人オムツ時代からの幼なじみだし…」
.
妻 「そうよ、あたしが替わりたかったわ」
.
臣 「ジュンペに変態がうつっちまうよ」
.
妻 「ま、失礼ね」
.
広 「とにかくさ。親たちも二人を結婚させようとしてたらしいじ
ゃないか。駆け落ちするぐらいなら結婚すりゃいいじゃんか」
妻 「あん、もうじれったい。だから何なの?」
.
広 「だからさ。あの二人の駆け落ちってのは、ままごと遊びの延
長ってわけさ」
.
法 「ままごと遊び?」
.
臣 「そういえば、やけに明るかったよな」
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広 「誰か駆け落ちの理由聞いたかい?」
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4人、顔を見合わせて、首を横に振る。
.
広 「何となくだってさ。そんなおままごとの駆け落ちする連中が
できてると思うかい?」
.
ウェイトレスがそれぞれの飲物を持ってくる。
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テーブルに置かれる間、5人は無言。
.
臣 「それで?」
.
広 「何さ、オミット」
.
臣 「誰か二人のおままごとに賛成の奴いるかい?」
.
妻 「もち反対よぉー」
.
法 「ヒロの処女は守るわ」
.
臣 「おっと、やっぱり処女なのか。ここは一発、俺の出番だよ
.
な」
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妻&法 「不潔!」
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臣 「どっちが不潔なんだよ、おめェら」
.
法 「あ〜ら、女同士は美しいわよ」 (うっとりと)
.
妻 「男同士は至上の愛よ」 (うっとりと)
.
法 「オ・ン・ナ同士」
.
妻 「いいえ、オ・ト・」 (途中でさえぎられる)
.
広 「ノンもツマちゃんもやめなよ。あたしはどっちかっつーと賛
成だよ」
.
妻 「何で、何で、何で?」
.
広 「あの二人、トロい同士でお似合いじゃないか。ままごとだろ
うと、駆け落ちってのはいいきっかけになろうってもんさ。
.
一端出来ちまえば、男女は変わる。あの二人なら、良い方向に
変わるかも知れねェな」
.
妻 「ダメよー。阻止あるのみ」
.
法 「断固、阻止」
.
臣 「やるときゃ俺が…」
.
広 「あーあ、変態や色ガキの餌食になるよか、よっぽどましだと
思うがね」
.
ハカセ、突然眼鏡を取って、テーブルの上に置く。
.
胸ポケットからワンドロップ・レンズクリーナーを取り出し、
眼鏡を掃除して、ゆっくり顔に戻す。
.
臣 「おい、ハカセが何か思いついたぜ」
.
ハカセ両手をテーブルの上に乗せ、頭をぐっと前に突き出す。
オコウ以外の3人、パッと同じ動作。
.
広 「あんたら、相変わらずガキだねー」
.
そう言いながらも、彼女も同じく。
.
真上からのショット。円形テーブルの真ん中に顔を寄せて、
.
ひそひそ話している5人。
.
「内緒、内緒、内緒の話はあのねのねー」の音楽かぶさる。
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******************************
ディスプレイ画面。「コマンドを入力してください」
.
カチャカチャとキーボードを叩く音。
.
「カ・ケ・オ・チ・ス・ル」
.
再び「コマンドを入力してください」
.
部屋の中は暗い。ディスプレイの灯にハカセの顔が浮かび上が
る。ニターッと笑って、受話器を取り上げる。
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******************************
新宿の人混み。ネオンの時計が9:04を示している。
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人の流れ。音楽入り込む。
.
「僕達の80’s」(私の友人が作詞作曲した名曲)
.
♪「ねェ、僕達どこまで行くんだろう…」
.
カメラが上に動くとサ店の窓。ジュンペとヒロが座っている。
ジュンペ立ち上がって、電話をかけにいく。
.
新宿の人混み。人の流れ。音楽続く。
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新宿駅の壁によりかかっている二人。画面の右下に浮浪者が寝
ている。ジュンペは右手にバッグを提げ、ヒロは両手でバッグ
を持ち、体の前に提げている。
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音楽が小さくなるにつれカメラが引くと、画面の回りに丸い黒
の枠。更にだんだんと引く。
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******************************
音楽終わると、新宿駅の柱の陰。オミットが望遠鏡を目に当て
ている。4人、その周りに寄りそっている。
.
法 「第一段階はハカセの読み通りね」
.
臣 「そろって方向音痴、世間知らずのあいつらが二人だけで旅行
できるはずねェもんな」
.
妻 「旅行じゃないわ。駆け落ちよ」
.
広 「見送りに来いってのも、どうせあたしらに計画立てさせるつ
もりだったんだよ」
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臣 「それで?」(ハカセの方を向く)
.
博 「さて、次はどう動くか?」
.
******************************
再び新宿駅の壁。二人のアップ。
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純 「誰も来なかったね」
.
洋 「うん」 (コクンとうなずく)
.
純 「駆け落ちって難しいね」
.
洋 「うん」
.
純 「お菓子食べようか」
.
洋 「うん」
.
ヒロ、バッグからお菓子を取り出し、二人食べ始める。
.
純 「帰ろうか?」
.
ヒロ、思い出し笑い風にちょっと寂しげにクスッと笑って、
.
否定じゃなく首を振る。髪が後ろになびく。
.
洋 「またオコウに笑われちゃうな。あんたらやっぱりガキだねっ
て」
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ジュンペ、ヒロの手を握る。
.
純 「行こう!」
.
洋 (驚いて) 「どこへ?」
.
ジュンペ、ヒロの手を引いて駆け始めながら。
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純 「風に聞きなよ」
.
二人の駆けていく後ろ姿に「ブラ・ダン」重なる。
.
♪「ボギー、ボギー、あんたの時代は良かったぁー
.
男がピカピカのキザでいられたぁー」
.
(カサブランカダンディー 歌:沢田研二)
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再び柱の陰。
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臣 「おいおい、あいつら…」
.
妻 「ハカセ、話が違うじゃない」
.
法 「追いかけましょう」
.
4人駆け出そうとするが、ハカセ、チッチッと指を振って引き
留める。ハカセ、両手の掌をこちらに向けて突き出し、また裏
にして交差させる。両手からゆっくりと5枚の切符が現れる。
臣 「これも読んでたんだ?」
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ハカセ、指を立てて、頭を指す。
.
妻 「さすがよー、ハカセ」
.
ツマちゃん、ハカセの首に巻き付いてホッペにキスをしようと
する。ハカセ、横を向きギョッと顔を見合わせる。
.
眼鏡がズルッとずり下がる。
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*******************************
東海道線沿いの田舎の駅。5人が街灯の下を歩いている。
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臣 「なる程ね。俺らが中坊んとき旅行来た街か」
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法 「確かにあの二人でも来れそうなとこってここしかないよね」
.
臣 「ジュンペがまた列車乗り間違えなきゃな」
.
法 「そうそう、みんなのお弁当買いに行って、ジュンペったら、違
う列車に乗っちゃったのよね」
.
妻 「可愛いわぁー」
.
法 「あんたねェー」
.
臣 「しかしよぉー、今頃の時間行って、旅館泊まれるのかよ」
.
広 「忘れたのかい。あそこはハカセの親戚がやってんだよ。
.
ハカセがとっくに手を回してるさ。だろ?」
.
博 「ご名答」
.
向こうに旅館が見えてくる。
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妻 「わくわくしてきたわー。今夜は徹底的に二人の邪魔しちゃうん
だからー」
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ツマちゃんの顔のアップ。嬉しそうな顔。
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*******************************
ツマちゃんの顔のアップ。不服そうな顔。
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妻 「どうしてあの二人がいないわけー」
.
カメラが引くと、旅館の一室に5人が丸く座っている。
.
真ん中にビールの缶やつまみがずらっと並んでいる。
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ツマちゃんが目を上げると時計。11時半。
.
法 「やっぱり…」
.
臣 「乗り間違ったんだろうな」
.
広 「路に迷っているかもね」
.
博 「僕達が着くちょっと前に、予約の電話入れてきたのは確かなん
だけどね」
.
臣 「ハカセの読みもたまにははずれるか」
.
博 「そうかもね」 (ちょっと意味ありげに)
.
妻 「あん、もう飲みましょう」
.
ツマちゃん、缶をあけて一気に飲み干す。
.
みんなもつられて缶を開ける。
.
*******************************
時計。1時。みんな酔いが回ってきて、せりふのろれつが回らな
い。
.
妻 「らいたいねー。ろうして女がいいわけー」
.
と、ノンにからむ。
.
法 「あらぁー、(ヒック)うちゅくしいのは、やっぱり女よー」
.
妻 「あんた、男の美しさを知らないのー」
.
法 「あんたこしょ、女の美を理解しなしゃいよー」
.
オミット、ほとんど寝ているが、がばっと起きあがって。
.
臣 「おめェら、普通の恋愛を語れよー」
.
また、がばっと寝る。
.
オコウとハカセ、壁に背をつけて隣り合って、
.
微笑みながら3人を見ている。片手には缶ビール。
.
時計。1時半。カメラ下がると、3人は既に寝込んでいる。
.
しばらく沈黙。時計の音だけが聞こえる。
.
オコウ、立ち上がって3人に毛布をかけてやり、またハカセの隣
に戻る。ハカセ、缶ビール飲み干し、片手でつぶす。
.
広 「ハカセ」
.
博 「ん?」
.
広 「あの二人が来れなくなることも、計算に入ってたのかい」
.
博 「さあね」
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広 「白状しなよ。何を企んでる?」
.
ハカセ、しばらく黙っている。
.
博 「実は」
.
広 「ん?」
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博 「隣にもう一部屋取ってある」
.
広 「ふふ、気に入ったよ」
.
二人立ち上がる。音楽「Oh!クラウディア」重なる。
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♪恋をしていたのは〜去年の夏のことさ〜
.
(サザンオールスターズ最高の名曲)
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スローモーション。二人ドアを出る。ゆっくりとドアが閉まる。
ツマちゃん、寝返り。ノンに抱きつく格好。
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音楽小さくなる。
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*******************************
夜中の旅館の前景。車がキィーッと止まる。
.
ジュンペとヒロが降りてくる。
.
洋 「ありがとうございましたぁー」
.
車が発車して、二人ピョコンと頭を下げる。
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手をつないで、二人が旅館の中に入っていく。
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ヒロ、コトンと頭をジュンペの肩にあずける。
.
*******************************
のどかな茶の間の風景。卓袱台をはさんでオコウの父と母。
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前に湯気のたったお茶。母、時計を見上げて。
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母 「やっぱり、駆け落ちですかねェ」 (のんびりと)
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父、ズズーゥッとお茶をすすり、フゥーッと息をついて。
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父 (落ち着いて独り言のように) 「広子がねェ…」
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*******************************
エンディング・テーマ。
ツマちゃん役の女装シーンなどの撮影風景が次々に流れる。
.
最後、フェリーニみたいに全員で手をつないで踊るシーンで
.
映画は終わる。
.
*********** THE END ***********
tsukida@jcom.home.ne.jp
よろしければ、ご感想をお送り下さい。
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