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97年讀書録(1月)

1/8 衣装戸棚の女 ピーター・アントニイ 創元推理文庫
 

 ...陽気な探偵小説は陽気に解決する...

 戦後最高は言い過ぎにしても、なかなかに風刺のきいた新機軸が
盛り込まれてるのは事実だろう。全体をユーモアにくるんだ中で被
害者の悪辣さだけは、時に浮くほどに強調されていたのも、この解
決への伏線だったわけだ。                 

  うん、面白い!今年はしょっぱなから8点献上!     
            (採点基準はこちら)

 しかし、さすがに劇作家の兄弟。それも一人はあのめくるめく展
開の傑作スリラー「スルース」(お薦めミステリ映画ベストテン
の作者だけあって、殺人現場という極めて限られた舞台の中で、登
場人物が動く、動く、、、 それも、読み進む度に、役者の動きが
入れ替わっていくという構造。そして、最後の最後に、満を辞し
て、どんでんをひっくり返すわけだ。            

 うーん、こうして考えると、デクスターやブランドって優れた劇
作家になれたかもしれないなぁと思えてきた。単純に時系列で流れ
るドラマじゃなくって、しつこいくらいに繰り返されるどんでんの
連続で、限られた舞台という時空間を重層に使い切った脚本を書け
そうじゃないか。                     

...脱線しちゃったな。   

とにかく、他の作品も是非読んでみたいぞ。創元さん、よろしく!

  

1/9 双頭の悪魔(ビデオ版) 有栖川有栖原作

 
 前編「真犯人は誰だ?」後編「犯人はお前だ!」の2巻構成にな
っているが、前編は借りなくても構わないだろう。後編の前半部分
は延々と前巻のダイジェストになっているから、これで充分話が通
じる。同じものを2巻借りたんじゃないか、ミスプリントされたテ
ープじゃないかと最初悩んでしまったほどだ。もし、これから借り
ようとしている人は、後編だけにして、時間とレンタル代金の節約
をしよう。                        

 さて、このビデオ版というのは、原作と作品が同じくせに、問題
編だけ出したところで、犯人当ての企画をやったという「なんじゃ
それ」ビデオである。だから、話の種でもない限り、あえて見る必
要性はないだろう。私の場合は、すっかり話を忘れていたため、ま
ぁ思いだしついでにいいか、といったところであった。なにしろ、
有栖川有栖の最後の傑作であることだし。ある分野のトリック(密
室とか一人二役といった手合いの)に関しての新機軸だと思うのだ
が、果たして前例はあるのだろうか?気になるところである。 

 「月光ゲーム」「孤島パズル」「双頭の悪魔」という3作の傑作
を産み出したにも関わらず、そこで終わってしまった有栖川有栖と
いう今は亡き(をぃをぃ^^;;)作家への追悼の意味を込めて、採点
7点。ちなみに原作は充分8点の出来。特に最初の2冊はクイー
ン流のロジックを見事に作品に取り込んだ、国内では貴重な作品。
新本格読みにとっては、避けられない必読書であろう。    

  

1/17 死者は黄泉が得る 西澤保彦 講談社ノベルズ

 
 「七回死んだ男」「人格転位の殺人」という、SF的設定の中で
離れ業を鮮やかに決める怪作、傑作を連発し、すれっからしの本格
ファンの心をもがっちりつかんだ西澤保彦の最新作である。しかも
上記2作品の流れを汲む作品みたいだから、期待して手にした人が
多かったに違いない。今回はなにせ、死者が蘇る館での話なのだ。
近年では特筆すべき名作である山口雅也の「生ける屍の死」がある
ことがわかっていて、あえて、この題材に臨むのであれば、それな
りの自信作なのだろうと、期待が膨らむではないか。     

 が、しかし残念ながら、今回は離れ業が空を切って、思った以上
に空回りしてしまったという印象を受けた。最後のページに示され
る逆転劇を素直に納得できた人が、いったいどれほどいるのだろ
う?                           

 ひょっとしたら、東野圭吾の「どちらかが彼女を殺した」という
ユニークな企てに触発されたのかもしれないが、それにしては明確
な手がかりが残されているとは思えない。想像という形でしか、心
理的に納得のいく結論を得ることは出来ないだろう。     

 二つの流れの交錯に対する企みにしても、西澤保彦らしい凄いア
イデアで、吃驚して感動してしまうのだが、だからどうしたと改め
て考えてみると、その効果は不明。こういった叙述的なアイデア
は、なんらかのミステリの企みを成立させる手段として、使われる
べき性格のものだと思うのだが、それが手段のみで完結している。
残念ながら、アイデア倒れだと言わざるを得ないだろう。   

(もう少し詳しい内容は、「死者黄泉ねたばれ書評」へ)   

 また、死者が蘇る館の謎は最後まで解けないで終わる。曲がりな
りにもある程度の解答が示された「人格転移」に比較し、これもま
た減点の対象だろう。光るものはあるが、採点はやはり6点が限
界。                           

  

1/29 ジョーカー 清涼院流水 講談社ノベルズ

 
 こんどはジョーカーだ。冗談小説という宣言なのか、な
 んだか知らないが、それにしてもひどいと思う。読者を
 なめているのではないだろうか?前作に関しては、私は
 本当のところ一発バカネタ(誉め言葉)ミステリとして
 の、そこそこの評価はしていたのだが、今回久しぶりに
 書物を投げ出したくなってしまった。メタの傑作なんて
 評価を勘違いして与えてしまう人や、ましてや「虚無」
 などのような三大(匣除く)ミステリの流れに属するな
 んて誇大妄想を、作者以外に抱いてしまう読者なんて出
 て来はしないことを祈るばかり。新本格を全面支持して
 いる身ではあるが、こんなミステリの最低限のルールす
 ら無視する作品は評価できない。駄酒落や意味のないア
 ナグラムも鼻に付くだけ、愚にも付かない見立てなんか
 いらない。その辺を踏まえて、怒りのネタバレ書評へ。

注意!下も読んで下さい。] 

 (以上の書評の冒頭の一字を拾って読んでみて下さい、
  、、、なんて安直な手法の例。あっ、そうだ、採点を
  忘れていた。恐らく今年最低の3点!ネタバレ書評に
  は、「コズミック」のネタバレもあり、注意!)  

 

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