ホーム創作日記

98年讀書録(4月)

4/1 金田一少年の事件簿(短編集2) 
               天樹征丸さとうふみや 講談社
 
「1/2の殺人者」 … 思わせぶりな小道具「ひまわり」の意味は、
ちょっとあんまりだと思うぞ。他にも不自然さが目立つ。     

「聖なる夜の殺人」 … 犯人はとある行動でミエミエになる。矛盾し
た発言のネタはまあいい。金田一少年としては、標準レベルか。  

「金田一少年の報酬」 … これを「描きおろし」新作だと謳うのは、
ちょっと商業主義過ぎるぞ。ミステリ度0の6ページ。      

「明智警視の事件簿2」 … このネタは非常に綺麗でいいぞ。綺麗す
ぎて、誰にでもわかっちゃう(笑)のが難点だが、美しさは買える。

ノベルス「迷い込んできた悪魔」 … 犯人は想像付くが、根拠はわか
らない。これまた標準作。しかし、最後のオチは笑える。     

プレゼント付きミステリークイズ … スウガクが片仮名なのは、「数
画殺人事件」ってオチか?しかし、遊びのパズルとはいえ、溜め息。だ
からダイイングメッセージものなんて、世の中から消えてくれい。 

総合点としては6点。もともと金田一少年のレベルを予期して、手に取
る分には、過不足ないのでは。                 

  

4/6 塗仏の宴−宴の支度 京極夏彦 講談社ノベルス
 
 中編6作が収められた作品集である。章立ての「塗仏の宴」前編とい
う受け取り方も当然出来るが、一応短編集的に読み取ることも可能だ。
1作目と6作目が全体を貫く鍵となる事件であり、解決は付けられてい
ないが、間の4作は、それぞれ1話で一応の解決を見せている。勿論登
場人物や中に表れるディテールは、連作としての共通の流れに即したも
のが、色濃く見え隠れしているのだが、独立の作品としても楽しめるで
あろう。とは言え、やはり7月に出るという「塗仏の宴−宴の始末」に
よる完結が待ち遠しくなるのは事実なので、せっかちでない人は、それ
まで待って一気に読んでみるのも、いいかもしれない。2冊合わせると
とんでもない厚さにはなるのだろうが、京極世界が好きな人には、スト
レスなく、読み進められるのではないか。            

 独立した中編を見てみると、今回は「新興宗教のウラ教えます」的な
内容が中心のネタになっているように思う。宗教団体という形を取って
いないのもあるが、根は同じだ。暗示や予言や洗脳や、信頼/信仰を得
る為の詐欺的行為が次々と暴かれ、または話として語られる。見え方が
同じようなものであっても、そこで使用されるテクニックは、別の観点
から見たものであったり、同じテクニックを用いても、全く別の現象が
現れたりと、それぞれの趣向がなかなか楽しめた。完成度では、やはり
雑誌掲載の2編「ひょうすべ」「しょうけら」が一歩抜きん出ている。
自分が人の親になってからは、「ひょうすべ」のような事件は、痛切な
までに心が痛くなるのだが、ベストはこの作になるだろう。「うわん」
では一度も表題の化け物の話は出ないのだが、こういうオチがあったか
らなのね、と笑わされてしまった。京極って意外にお茶目さん?  

 さて、採点だが、「宴の始末」と併せて完結なので、単独での評価は
し辛い。特に私の場合、「ミステリ」という枠内に完全に収まらない作
品に対しては、読んでいる途中は「小説」として楽しむのだが、いざ完
結して評価する場合には、「ミステリ」としての観点を重視するので、
中途での評価の方が高くなる場合が多い。中でも京極は、「小説」とし
て抜群に面白いので、そうならざるを得ないだろう。手口暴露物は好き
だし(なんちゅう評価じゃ)、それぞれの事件での逆転の構図は、連城
的な面白みを感じたので、採点は7点。騙した方が騙される、、、始末
では、全体の構造に対しての、また新たな逆転の構図が用意されている
のだろうか?                         

  

4/10 A先生の名推理 津島誠司 講談社ノベルス
 
 凄いんだか、こけおどしなんだか、とにかく独自の作風を持っている
ことは間違いない、不思議なミステリ怪人津島誠司の初短編集である。

 とにもかくにも、なんともはや、冒頭の謎の設定がユニーク至極。叫
ぶ夜光怪人は出てくるは(そのまんまや)、小屋が消えたり現れたり、
ついには逆立ちまで演じたり、増殖したり、ダイエットしたり、隕石が
降ってくりゃ、中からやっぱりエイリアンが出てきて、顔に張り付いた
り、腹を突き破ったりする始末。                

 たしかに解決としては、「大山鳴動してネズミ一匹」な部分はあるの
だが、これをネズミ一匹と受け取るか、けったいなもんが出てきたと喜
ぶか、はたまたゴジラが飛び出すかは、読者の感性やいたずら心が、ど
こまで作者と共鳴するかによるのだろうか。           

 「叫ぶ夜光怪人」含めて、過去に数作読んだ印象では、ちょいと謎と
解決とのギャップが気になって、まだいまいちかと思っていたが、こう
して数作をまとめて読むと、評価を変えざるを得なくなった。実作して
みると余計わかると思うのだが、謎の設定とは非常に苦労させられる作
業である。しかもこれほどの特異な謎を設定しようとするのは、並大抵
の苦労ではないはずだ。強引さや、非現実性の部分は、多少目をつぶっ
て、かなり真摯な態度で「ミステリ」に取り組んでいる姿勢を買おう。

 作品としては、「ニュータウンの出来事」のアイデアも笑ったが(し
かし、このトリックは推理は不要だと思うけど)、完成度とバカバカ度
は「宇宙からの物体X」が白眉。これだけの現象を作り上げただけで、
もうまいった。総合採点は7点にせざるを得ないだろう。     

 しかし、講談社、「超絶のトリック、神の如き名推理」はないやろ、
どうしてこういう作品こそ、「バカミステリ、ユーモアミステリ」とし
て売り込まん?「6とん」の惹句って、あんなおやじの忘年会芸みたい
な素人コントじゃなくて、こういう作品集にこそ、ふさわしかったろう
に、、、そうか、同じ惹句を使ったら、「またか」と敬遠して、読者が
激減するからか。罪よのぉ(6とんファンの方すまん<−弱気(笑))

  

4/16 今はもうない 森博嗣 講談社ノベルス
 
 くすくす、森先生ってばぁ。                 
 
 さて、もう乗りに乗っている、秀作連発の森博嗣である。本作も期待
を裏切らないでくれた。あの意味のない愚短編集「まどろみ消去」以外
は、ほとんどはずれといったものがなく、しかも最近は初期よりも充実
している。いいストックを最初に使って、あとは落ちて行くばかりの作
者が多い中、こういうパターンは珍しいのではないか。      

 で、今回はなんといっても”西之園嬢てんこ盛り作品”である。最初
から最後まで出ずっぱりで、もうやっちゃってくれてます。これを魅力
的と思うかどうかは読者によるのだろうが(私はペケなので)、立った
キャラクターであることは間違いないだろう。舞台が一つだけで、展開
される事件も一つだけ(死者は二人だが)という、かなり限定された純
粋パズラーを、最後まで引き立てるのは、このキャラクター所以なのだ
ろう。                            

 その純粋パズラー部分だが、提示される条件も限定されているので、
気付く人はかなり早い段階でわかってしまうかもしれない。私は最後ま
で真相に辿り着くことは出来なかった。綺麗にすべてが解決されたよう
に思う。今回は不満はない。すっかり忘れていたPPも洒落ている。ク
イーンばりのロジック推理ではなく、直感型推理だと思うが、現代パズ
ラーとしては、第1人者と言っても良いだろう。非常にスマートな作品
なので、是非作者に挑戦して欲しい。              

 この一つのパズルだけで、1作を成立させるのは困難だとは思うのだ
が、そこはそれ、、、本作は、特に萌絵に萌え萌えな方は、是非読んで
みるべき作品だろう。採点は、立て続けに確保の7点。      
 
 神様、私は無事に、結末を人に語らないですみました!     

  

4/19 土曜ワイド殺人事件 とりみき+ゆうきまさみ
                        徳間書店

 昨年末は京極との合作で、メタミステリ、はたまたメタメタミステリ
な意欲作「美容院坂の罪つくりの馬」(「言葉使いの罠」参照)を、世
に送り出したとりみきだが、今度は「パトレイバー」のゆうきまさみと
組んで、お笑い2時間ドラマパロディミステリといえばミステリ、でミ
ステリファンに挑戦してきた(全然してないって(笑))。    

 ケラケラ笑い転げるほどのもんじゃないが、くすぐりギャグそこそこ
爆発ってとこだろうか。ゆうきまさみの女の子キャラの裸もあるし(お
いおい)、ヘアヌード(?)も。そういうところで評価するなと言う向
きもあるでしょうが、なにせ2時間ドラマですから。       

 さて、ミステリとしてどうかということになると(そういうものを期
待している人はいないとは思うが)、やはり「なにせ2時間ドラマです
から」と答えるしかないだろう。                

 たっぷりくすぐられはしたが、ツボに入った物はあまりなかったよう
な気もする。ただ、予告編が先にあってから実作という趣向は、合作と
しては、ズレが出たりして、なかなか面白かった。採点は、でも6点

 ところで、2時間ドラマと云えば、やはりそうそういつまでも印象に
残る作品とは出会えるものではない。単発物として、クリスティの「招
かれざる客」を脚色した「霧降山荘殺人事件」は、ストーリー、演出共
なかなか良くできていて、強く印象に残っている。他には、やはりドラ
マの出来うんぬんというより、原作が優れていて、それを楽しんだ、と
いうものしかない気がする。ミステリに限らなければ、無名時代の中原
俊が月曜ドラマランドで撮った「桃尻娘」「続桃尻娘」、三谷幸喜がT
V用に改変した「ショーマストゴーオン」などの傑作を挙げることは出
来るのだが。                         

 2時間ドラマとはわずかに離れるが、デクスターのモース警部シリー
ズの放映権をNHKが取得したので、そのうち(地上波でも早くやって
ね)見ることが出来るのは、ミステリファンには朗報だろう。   

  

4/26 ナイン・テイラーズ ドロシー・セイヤーズ
                    創元推理文庫

 創元のこのシリーズが始まってから、ここに到達する日を、今か今か
と胸ときめかせ待っていた、そういうミステリファンは、きっと凄い数
いたことだろう。ミステリファンならば、この名前を聞いたことがない
人など、ほとんどいなんじゃないかと思える、日本で最も有名な(と言
っていいと思う)「幻の名作」の、ようやくの再登場である。予想以上
に順調なペースで、ちゃんと辿り着いてくれたことを、東京創元社には
感謝する。                          

 もちろんかくいう私も、わくわくしながらこの本を手にした、数多く
のミステリファンの一人である。セイヤーズは昨年一冊読んだだけとは
いえ、やはりこの作品だけは逃せない。             

 巽昌章の解説にもあるが、不幸なことにこのトリックは、あまりにも
多くのミステリファンの間に膾炙し過ぎてしまっている。ある特殊性を
持ったトリックである為、トリック解説本の類で言及されることが多い
からであろう。解説では、あまり重要でないように書かれてはいるが、
やはりこれを知っているかどうかで、評価は変わってしまうのではない
だろうか。もやもやともつれていた謎が、次第に晴れてきて、でも肝心
の謎は残ってしまう。そのもどかしさがさぁ〜っと晴れるのが、最後に
ピーター卿が危険な目に遭ってしまうシーンである。ここで読者は、す
っきりと解決するカタルシスと同時に、戦慄すら覚えるのである。朴訥
とした人柄、牧歌的な雰囲気、そんな中での皮肉と残酷性、この二面性
が最後に集約する場面として、秀逸なのだと思う。        

 事件の様相は、なんとなく道筋は見えたのだが、全体の雰囲気はとて
も楽しめた。新刊に追われる毎日じゃなかったら、セイヤーズ全冊読破
も挑戦したいところだ。かえすがえすも、最後の楽しみを味わうことが
出来なかったのは残念だが、心地よい読書で、採点は7点。    

  

4/29 朝霧 北村薫 東京創元社
 
 ミステリ界で心地よい読書を味わうには、北村薫、加納朋子、宮部み
ゆきの3人に限るというのが、私の数多い持論の一つだが、この作品で
もその期待は裏切らないでくれた。わずか3編の短編のみという薄い本
だが、文章の一つ一つの磨き上げられ方を見れば、中身はむしろ濃いの
で許してしまおう。もっと溜まるのを待つと、また数ヶ月かかってしま
うのだろうし。                        

 それにひょっとしたら、内容的に次巻との切り分けが出来てしまった
から、ということも考えられる。最後に暗示されているように、次巻は
『「私」の恋』が中心テーマになってくるのではないだろうか。この後
の短編がオール讀物に掲載されたかどうか知らないが、ちょっと展開を
覗いてみたい気がしている。                  

 ミステリ部分だけを凝縮して取り出すなら、日常の謎としては、今回
は最初の「山眠る」だけで、残る2編は、小説の結末当てゲームに、通
常の読者の知らない知識を利用する暗号解読(ダイイング・メッセージ
に次いで、私の嫌いなタイプのミステリだ)である。「山眠る」の謎も
どこかで読んだような話なので、わかる人は謎が出た時点で、あっさり
と気付いてしまうだろうと思う。弱いと言えば弱いのだが、でもでもで
も、北村薫が書くと、全部いい話になってしまうのだ。ミステリは意外
性やトリックなど根本的な良さがあれば、文章や人間描写などどうでも
いい、極端な話ミステリクイズで構わない、というのが私の数多い持論
の一つだが(しつこい?)、その逆もまた真なりという、いい一例かも
しれない。                          

 採点は7点。時々はやはり、こういうほろりとくる、しっとりとしな
がらも、爽やかな作品(うっ、なんだか美味しんぼのパロディみたいな
文章や)に触れてみたいものである。              

 ところで「女か虎か」だが、私にとっては、リドルストーリーとして
成立し得ない。王女の立場であっても、何のためらいもなく、「女」を
指さすし、男の立場でも、何のためらいもなく、王女の指し示す扉を開
けるだろう。いい意味では、理想主義のロマンチストなのかもしれない
し、悪い意味では、女心を理解しない、世間知らずの甘ちゃんなのだろ
う。だから、今回裏切りという視点で、この作品を論じたのには少々驚
いた。特に、男の視線に関しての受け取り方に。いい年をしたおっちゃ
ん(失礼!)が書いた作品とはいえ、女心ってげに恐ろしきものなり。

 

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