ホーム創作日記

 

03/01 綺譚の島 小島正樹 原書房

 
 こりゃ、また凄いな! 一つ一つはメインを張れるものではないが、盛り
すぎのてんこ盛りのハウダニットで、筋の通った怪異を形成している。 

 最後のサプライズも今回はきちんと作動していて、フーとホワットとホワ
イが見事に一点に収斂する。秀作だろう。              

 とはいえ、直接動機の面に関してだけは、釈然としない感はあるかなぁ。
儀式自体がとんでもなく不自然という点を取りあえず置いとくと、ここまで
惨殺されるほどのものかなぁと。儀式としては想定範囲内なのでは。もっと
鬼畜な所業があったのかとあれこれ邪推・妄想しちゃったじゃないか。 

 ま、これはミステリとしてはどうでもいい話ではあるけどね。それにホワ
イという意味では、もっとこれだけでないものも見せてくれるわけだし。

 チープさが特徴のこの作者のてんこ盛りハウダニットだけど、読者の知ら
ない知識を使っていたり、無理ありすぎだったとしても、一貫性を持った怪
異を作ろうとしていて好感が持てた。謎の魅力が生きている。バカミスとし
か思えない、笑っちゃうネタがあるのも、高ポイントゲットだろう。  

 真相の意外性に関しても、先に書いたようにこれでいろんなものが一気に
繋がっていくのが心地良い。叙述も技術点稼いでるぞ。もう少し伏線欲しか
ったような気はかすかにするけれど、納得感を損なうほどではない。  

 採点は7点「扼殺のロンド」に次ぐ第二位の作品としたい。    

  

03/08 QED伊勢の曙光 高田崇史 講談社ノベルス

 
 最終作だからきっとインパクトのあるネタだろうな、という期待があった
のだが、さほど強さは感じられなかったかなぁ。           

 それに癖になってるのか先々に色気残してるのか、これはまた後で、なん
て続編前提発言もちらほら。最終巻だぞ、というすっきり感も薄かった。実
際このネタなら、もっと引っ張りたいと思いそうだものなぁ。書いてるうち
に書きたいことあふれちゃったりしたんじゃなかろうか。       

 締めくくりの処理も、良いんだか、良くないんだか、結構微妙。まぁ、は
っきりとした結末になるとも思ってはいなかったんだけど。ただ、思わせぶ
りなのが”センス良い”と思えるほどではなかったよなぁ。採点は6点

 ということで、若干怪しい雰囲気は残しつつも、シリーズ終了。長い間お
疲れ様でした。私もよくここまでお付き合いしたものだ。なにせ16作品も
同一シリーズ読んできたというのに、7点以上付けたの1個も無いぞ。 

 通して読んできての総括をすると、何の疑問にも思ってなかったところに
実はこういう謎があり、いろんな解釈があるんだ、ということを知る。そう
いう面での価値はあるシリーズだったと思う。            

 特に白眉だったのは、「式の密室」から「竹取伝説」への流れかな。人と
人でないものの区別の話は、相当に衝撃でありながら、目から鱗の納得感で
非常に素晴らしい。ただもう一作空けて「鎌倉の闇」以降は、これと鉄の話
だけをバカの一つ覚えのように繰り返してただけ。どんだけ惰性だよ。 

 というわけで、シリーズで順位付けるとしたら、個人的にはこんな感じ。

    第一位 QED竹取伝説                  
    第二位 QED百人一首の呪                
    第二位 QED式の密室                  
    第四位 QED九段坂の春                 
    第五位 QED鬼の城伝説                 

  

03/12 猫柳十一弦の後悔 北山猛邦 講談社ノベルス

 
 北山猛邦の魅力が一切見られない失敗作だろう。          

 トリックは普通だけど、見立てがあやふやすぎて、こんなん成立してない
っしょ。作者だけはそのつもりだから結論付けられるだろうけど、それ以外
の誰にも無理だろうと思う。こんなひどい見立ては史上稀かも。    

 見立てだけではなく、とにかく読者に対して何も響いてこないこと、はな
はだしい。犯人も動機もその他も、なんだか適当なあしらいに思える。 

 たとえば事件が起こることを防ぐ”未然防止の名探偵”という、アイデア
自体は悪くないと思うのだが、その凄さが伝わってくるかというと、全く伝
わってこない。だって、それに対しての工夫が見えないんだもの。身を挺し
て守りました、だけの処理ってあんましじゃない?          

 連載だったみたいだから、見込みだけの見切り発車で失敗しちゃったのか
な。それにしてもひどい作品。かなりの高確率で、本年度の私のワースト作
品になりそうだな。採点は5点にする他はない。           

 早くお城の新作を読ませてくれ~~。それも物理トリックだけで勝負する
んじゃなくて、仕掛けのある奴をば是非!              

  

03/15 サイモン・アークの事件簿III
             エドワード・D・ホック 創元推理文庫

 
 最初からホック本人セレクトとして三分冊で予定されていたらしく、質の
劣化は感じられなくて良かった。訳者セレクトの四冊目も期待できそう。

 ただ、やはりサム先生ほどではないけどね。不可能性重視のサム先生と、
オカルト趣味重視のサイモンだろうから、個人的趣味でそうなるか。  

 というわけで採点は7点。では、恒例のベスト3選びを。      

 ベストは「罪人に突き刺さった剣」だな。とある有名なテーマにホックが
挑戦した作品。このテーマの作品って、バカミスとの境界線上にすくっと立
ち誇る傑作が多いが、これもやはりその一つに数えられるだろう。   

 第2位には「ツェルファル城から消えた囚人」を。監獄からの人間消失を
大胆な着想で二通りの解明を見せてくれる作品。           

 第3位は「黄泉の国への早道」。いかにも不可能犯罪な解明の手順が心地
良い。シンプルだし。ハウダニットとしてピカイチの作品だろう。   

  

03/19 衣更月家の一族 深木章子 原書房

 
 凄いなぁ、二作目でもこれか。堂々としたホワットダニットの力作。 

 デビュー作同様、読者の予測する枠を軽々と越えていく、構図の意外性。
匠の手練れとも思える佳品。遅咲きながら、実力作家としての貫禄充分。

 ところで、この”読者の予測する枠”とのギャップだが、これって善し悪
しだと思う。勿論、ミステリの読後感としては、これは良い方向に作用する
だろう。でも、その”読後”に至る前段階、たとえばそもそも手に取るかと
か、読書中の感覚としてはどうだろう。               

 というのも、本書の装丁の地味さや、帯の惹句が本書にふさわしいものと
は思えないからだ。”底深い闇が横たわっているとは、もちろん誰も気づか
なかった”と書かれてると、なんか小説で読ませる”だけ”の作品としか思
えず、個人的にはとても自分から手を出したくはならないのだ。    

 話としてどうかという以上に、この構図や企みというミステリとしての凄
さが光ってる作品なのに。作品としての凄さに、装丁や帯が付いて行ってな
いと思う。これは「葬式組曲」や「綺譚の島」も同じ。        

 原書房さん、良心的すぎ。もっと煽ってくれてもいいのでは?! 帯だけ
凄いってのは他社でよくある話だが、逆は勿体ないと思う。      

 採点はまたまた7点確保。必ずしも厭ミスが持ち味というわけではないよ
うだ。前作もそうだったけど、醜い真相でも妙な清々しさがあんだよなぁ。

  

03/23 夏の王国で目覚めない 彩坂美月 早川書房

 
 第12回本格ミステリ大賞候補作として発表された際には、全く見たこと
も無かった作品名だった。新刊情報に疎くなったせいで、自分のアンテナに
はぴくりとも引っかかってなかったよ。こりゃいかんぞ。       

 非常に清新な作品で、とても読み心地がいいなぁ。しかし、本格ミステリ
作家の先生方がこぞって推すような作品だろうか。意図的な操作じゃなけれ
ば、本格ミステリ作家クラブの中で、密かなブームになってたのかな? 
井夏海
「スタジアム 虹の事件簿」のムーブメントと同じ匂いがする。 

 ミステリとして鮮明に素晴らしい作品だとは、正直思わない。おおまかな
ホワットダニットとしてはなんとなくわかってしまう作品だと思えるし、結
局動機はなんだかすっきりしないし。                

 ただやはりシチュエーションは面白いし、意外に個々のあらためもしっか
りしている。好感の持てる仕上がりなのは間違いない。おじさま・おばさま
の心をしっかりつかんじゃうかも。ひょっとして番狂わせもあり?   

 とも思ったんだけど、結果は「開かせて」と「七瀬」の同時受賞。皆川博
子はともかく、どちらかといえばアンチ系統の城平京作品が獲るだなんて、
全く予想だにしてなかったよ。「キング」本命で、対抗がこの作品。ひょっ
としたら同時受賞の可能性も、という私の予想は大外れだったな。   

 本格ミステリ大賞候補作としてクローズアップされなければ、たしかに意
外な拾い物として読めば心ほっこりしそうな作品。採点は7点。    

  

03/27 サイバーテロ漂流少女 一田和樹 原書房

 
 このどこまでが起こり得る現実なのだろうと考えると怖いな。    

 そう思わせてくれるくらい「現実」と地続きの世界で、サイバーテロをス
ケールの大きなエンタテインメントに仕立て上げた力作。       

 ディーバー「ソウル・コレクター」はSFとしか思えなかったが、本作
の場合はたしかに全体としては荒唐無稽ではあるのだけれど、一つ一つは決
して絵空事ではないと感じられた。                 

 特に無償のアンチウィルスソフトが足掛かりになるあたりは、なるほどと
納得させられ、えらく現実味が感じられた。             

 まぁ中には強引に感じられた部分もあったけど。たとえばクローズドなシ
ステムへの攻撃は信憑性薄く手段も無理矢理すぎ。下読みでの指摘を受けて
仕方なくのようだけど、潔く撤退して欲しかったように思えた。    

 とはいえ、本作は一つの独立した”ジャンル”として成立している、と言
っても良いのではないかな。既存の情報小説系エンタメの中の一作品として
組み込むより、新しいジャンルを一つ生みだしたという方がしっくりくる。

 まぁ、私が把握してないだけで、この手の作品はそれなりに書かれてるの
かもしれないけど(ミステリ以外の分野でも)、どうなんだろ? 勿論ハッ
キングを単純に万能ツールみたいに使ってるだけの有象無象は別もんだかん
ね(それはそれで面白い作品もあるのは重々承知の上で)。      

 ただミステリとしての出来映えはまた別の話。最後付近のどんでん返しの
部分だとか、無理にミステリにしようとしてる部分はあまりスマートには感
じられなかった。                         

 でも、とにかくこういうタイプの作品を”現実性”をベースに、その上こ
じんまりとならずに、ちゃんとスケール感を持って描かれたという点を評価
して、採点は7点としよう。                    

  

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