ホーム創作日記

 

02/02 キッ チンぶたぶた 矢崎存美 光文社文庫

 
 別に連作としての起承転結があるわけではないのだから(このことを否定
したいわけじゃないです、念のため)、同じ職業で一冊というのは物足りな
いなぁ。刑事みたいなインパクトがあると別なんだけどね。料理人というの
は、過去何度も登場してるような気がするからなぁ。         

 そんな意味でも、シリーズ中でも下位の作品。様式としては決まっちゃっ
てるわけで、敢えてその様式をはみ出そうとするのはかえって危険。良い方
向に働けば珍しいパターンとして愉しめるんだけど、下手するとぶたぶたと
いうシリーズの培ってきた世界観を揺るがしちゃうおそれもある。   

 だから、このシリーズは常に王道で構わないんだけど、それでも少しは目
先が変わって欲しいよなぁと。これまではそれを職業替えでやってきたわけ
で、それこそデビュー作からの王道。                

 同じ職業で攻めるなら、何かそれに変わる肝が欲しかったよ。    

 個人的ベストは「鼻が臭い」で、次点が「初めてのバイト」かな。  

  

02/03 OVER  HEAVEN 西尾維新 集英社

 
 駄作。違う意味で焼き捨てるにふさわしい手記だろう。       

 そもそも形式の選択を完璧に失敗してるし、それでもまだその意味を全う
できてればいいものを、それすらも明白に失敗している。       

 序文でみじめに言い訳してんじゃねぇ!              

 こんな女々しい電波野郎に歪められちまったディオ様が不憫。    

 6部を受け、その謎解きを自分なりに構築しながら、ディオの人間像に肉
付けを行い、1~3部を再構成しようとした試みだと、私は解釈した。 

 しかし、そのことごとくを間違ってるし、失敗している。      

 せめて、こういうことやろうとしたのなら、謎解きくらいは完結させよう
よ。最初から謎のままにするつもりなら、本書の意味合いって何?   

 ぐじぐじと愚痴だらけのディオの人間像。これを魅力的に感じる人なんて
決していないだろう。こうしてディオ目線にするくらいだから、愛着を持っ
てるんだろうに、貶めようと思ってんじゃないかってほどひどい。   

 1~3部の再構成? 固有名詞の羅列だけで、粗筋にすらなってない。西
尾維新からは長らく遠ざかっていたけど、小説書けない人になってた? 

 シリーズのファンだったんだろうに、こんなのを差し出してファンとして
恥ずかしくなかったんだろうか。その神経を疑う。こんな非道いテキストな
のに、完璧な装丁に仕上げてくれた荒木飛呂彦だけが神すぎる。    

  

02/08 Q.E.D.40巻  加藤元浩 講談社

 
 おお、これは、これは。久しぶりにガチの本格二編で、過去最高水準!

「四角関係」は新規性は疑問だが、シンプルで巧妙なトリックに唸った。

 似たような手順のミステリを読んだような気がするし、それが私の気のせ
いだったとしても、マジックの手順の原理としてはありがち。     

 でも、それが実際に提供されると、読者として簡単に見破ることは出来な
いわけで、ほほぉっと感嘆してしまう人も(私を含めて)多いと思う。 

 漫画で描かれたトリック・ミステリとして、傑作の部類だろう。   

 一方、後半の「密室No.4」は、密室トリック三本立てという超豪華な
トリック・ミステリかと思わせておいて、実はロジック・ミステリ。  

 犯人特定のロジックがシンプルで明快。とっても気持ちの良い犯人当てだ
と思うので、読み流さず挑戦されてみてはいかがか。         

 二種の秀逸な本格ミステリが愉しめる、希有な一巻。文句なく7 点進呈!

  

02/14 陽気なギャングの日常と襲撃 伊坂幸太郎 祥伝社文庫

 
 いかにも伊坂らしい軽みのエンタメ。しかも暴力抜き。       

 伊坂に期待する範囲のものを期待通り(期待以上ではなく)受け取れる作
品かと思う。前半は短編集としても楽しめるので、ちょっとだけはオトク。

 さて、では、次の一文を棒読みのように抑揚無く読んで欲しい。   

「伊坂幸太郎の小説はキャラクタに魅力がある」

 これは真実だと思う。明らかにキャラは伊坂作品にとっては、大きい肝の
一つだろう。でも、棒読みで、と指定したように、それを感情込めては口に
出せないのだ。「キャラが魅力だ」と声高には語れないのだ。     

 だって、生きていないんだもの。血肉がないんだもの。こう表現してみよ
う。”自分の隣には伊坂のキャラはいない”と。           

 作り物めいているわけではない。活き活きとしてるし、魅力的だ。でも、
住んでる世界が違うんだな、きっと。この世界に伊坂のキャラはいない。

 これはずっと書いてきてるように、伊坂作品の本質が”異世界ファンタジ
ー”であることと、切り離せなく密接に繋がっている。きっと。    

 そして、これがまた、伊坂作品にはシリーズ物が無い、ってことに繋がっ
てるんじゃないだろうか。でもって、本書はその貴重な例外の一つ。  

 やはり本書も異世界ファンタジーであると言えると思うんだけど、それで
も比較的普通のエンタメを意識した作品であることは間違いあるまい。だか
らたとえ漫画的設定であっても、比較的この世界の住人に近い気がする。そ
れが伊坂自身にも再登場を促す原動力の一つになったのかも。     

 と思ったりもするけれど、解説にあるように、このデビュー前からお付き
合いのあるキャラ達に、作者の愛着があるだけの話かもしれないけどね。

  

02/16 小説家の作り方 野崎まど メディアワークス

 
 いやあ、ほんとユニークな作品を書く作者ではあるよなぁ。     

 比較的現実レベルでの決着を付け(あくまでオチに対しての比較級で)、
最後のオチによってホラー(ある意味で)に仕上げるというやり口は共通。
それでいて、それぞれに無二の作品になっているのは、凄いことかも。 

 どれも最後はちょっといきすぎ(?!)なくらいなとこまでいっちゃうん
だけど。まぁ小説としてのインパクトを考えたら、それでいいのかな。 

 本書のオチも二作目に続いて、ホラーよりはユーモアに近いかも。「ある
意味ホラー」って線はきっちり守ってはいるんだが、真面目と馬鹿馬鹿しさ
のどちらに転んでるのか、よくわからないんだよなぁ。        

 但し、その中間にあるわけではないことだけは確か。中庸や凡庸なんかと
はかけ離れた、テーマであり、作風である。             

 どの作品も必ずしも手放しで成功作とは言い難いんだけど、これだけとん
がってくれていれば、それだけで充分魅力的に思えてしまう。この作家にち
ょっとはまってしまってるのかもしれない。             

 採点としては今回も6点を越えるものではないけれど、やっぱ印象に残る
作品なんだよ。「アムリタ>>小説家>舞面死なない」が好きな作品順だ
けど、そのうちデビュー作を越える作品を提供してくれる気もするな。 

  

02/22 奇面館の殺人 綾辻行人 講談社ノベルス

 
 ど本格への華麗なる回帰! 本格ファンなら心躍る愉しさのある秀作。

 巧みに読者の思考をコントロールして、シンプルながら納得感のある真相
に辿り着く。真犯人指摘の瞬間にもたらされるサプライズは、必ずしもミス
テリとしての最大効果に繋がってるとは思えないが、満足の逸品だろう。

 とにかく新本格の最初から同時代を生きてきた人間にとっては、初心に返
ったかのような、綾辻の直球勝負の本格が読めるなんて、それだけで幸せな
気分になれてしまうはず。そうじゃないなんて考えられない。     

 特に本書のおそらくは一番のメインである、とあるシンプルな真相(仮面
のホワイダニット
)が明かされるときの、なるほどそうか、のカタルシスは
生半可なものではなかったなぁ。                  

 悔しくなるほどのシンプルさなので、気付いた人も少なくはないのだろう
が、これを成立させるための舞台装置・設定の組み上げ方は感動的。  

 これぞ本格。まさしく本格。ブラボー!と叫びたくなったほど。   

 ただ、これだけ良く出来てても、まだ注文を付けたくなってしまうのが、
辛口書評と言われてしまう、私の悪い癖。              

 その1。決め手のロジックが、シンプルな美しさとは思えない。あまりに
もこっそりと置かれすぎてて、見逃したからって悔しく思えない。もっと堂
々と目の前に置いて、「あっ、そうだっ!」と叫ばせて欲しかった。  

 その2。上にも書いたけど、本書のもう一つのメインであろう、真犯人指
摘の瞬間にもたらされるサプライズ。こんなとんでもなさがあるのなら、こ
こから別のサプライズに連携させるのは困難ではなかったはず。その効果を
踏まえての驚きを演出して欲しかった。単純なネタとしてはいいけれど、謎
解きに組み込むと批判に繋がるかもという、大人な判断なのかな。   

 綾辻・法月という、新本格三羽がらす(あと一羽は有栖川)が、こうして
年間ベスト級の作品を産み出してくれたから、今年度はもう充分な年だな。
二点ほど注文を付けはしたけれど、ギリギリ8点としよう。      

  

02/28 三本の緑の小壜 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

 
 昨年度の本ミス海外編第一位。                  

 さすがにそこまでとは思わないが、物語としてもミステリとしても地味だ
けど堅実。さすがディヴァインというイメージ通りかな。       

 元々熟成されたという印象すら感じさせる彼の作風だが、後期になってま
すますそういうカラーが強まっているように思う。          

 本書はディヴァインにしては珍しく、複数の一人称で書き分けるという手
法を取っているが、これが成功していると思う。視点人物が変わると、登場
人物達の印象も変わっていく。煙幕を張るにもふさわしい手法だし、読み味
も変わるので、基本地味な作者としては良い選択なのかも。      

 真相はなんだかホラー色も感じてしまったなぁ。犯人が正体を現したシー
ンは正直怖かったし。犯人わかってたにも関わらず。         

 そう、手掛かりの言葉は気付いちゃったのだ。でも、かなりのさりげなさ
だったから、気付かなかったらこんなのあったことすら覚えてなかったかも
しれない。そんなもんだから、私の勘ぐりすぎかもしれないと、ずっと確信
は持てずにいたんだよね。                     

 でも、犯人指摘シーンの直前は、明らかにこの犯人を誘導してるってのが
明白だったから確信に変わったけど、そこでアレだからな。      

 賛否両論はあるかもしれないけど、個人的には動機も納得。これも含めて
たとえ犯人わかっても、良い作品だと思う。地味だけど(これはもうディヴ
ァインの本質なんだろうけどね)。ってわけで、採点は8点。     

  

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