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12/05 生霊の如き重るもの 三津田信三 講談社ノベルス

 
 ホラー風味を失わないようにしつつの本格ミステリ短編集。あざといくら
いのミスリードに翻弄されるかも。完成度は悪くないと思う。     

  長編ほどのアクロバティックさはさすがにないが、構図の妙は意図されて
いるように感じられた。「密室の如き籠るもの」よりも好みだな。   

 一方、本格とホラーの融合として評価する人も多いとは思うが、手法とし
ては安直なものばかりで難易度は限りなく低い。読み心地にはプラスにはな
るかもしれないが、作品としての評価ポイントになるものではないだろう。

 それでは各短編の短評を。                    

「死霊の如き歩くもの」は、とにかくこれだけの現象をそれなりの納得感で
実現させるトリックが素晴らしい。よくやったなぁと思わせてくれた。 

「天魔の如き跳ぶもの」は、古典ミステリファンなら誰もが想起するアレを
見せ球にして、違う方向から飛び出すが如きトリックを仕掛けてくる。 

「屍蝋の如き滴るもの」は、ミステリ好きであればあるほど、これでもかと
繰り出されるミスリードに翻弄されてしまうのでは。玄人好みの逸品。 

「生霊の如き重るもの」は、構図自体を翻弄させる多重推理が読みどころ。
中編と言えるほどの分量にも支えられ、完成度としては本書一かな。  

「顔無の如き攫うもの」は、少年探偵団のような懐かしさを感じさせる雰囲
気が良い。しかしながら真相や推理展開はかなり無理さを感じたなぁ。 

 表題作がベストで、「屍蝋」がそれに次ぐ出来かと思う。採点は7点

  

12/08 鍵のかかった部屋 貴志祐介 角川書店

 
 純粋なトリック小説短編集。しかもタイトルで示されるように全て密室。
「硝子のハンマー」「狐火の家」に比較すると、単純にハウダニット・オン
リーの作品集になってしまっていて、面白味がだいぶ薄まった。    

 だって、「犯人が頑張って密室作りました(何故なら、自殺や事故に見せ
かけたいから)。探偵がそれを見破りました」という同じ構図ばかり(最後
のボーナス・トラック的バカミスを除く)。             

 シリーズ二作目の「狐火の家」は、そこに様々な工夫が施されていた。単
純な動機で、直球のトリックで、素直に密室を作ってたたわけじゃない。そ
れに比べると本書は、ただの”密室トリック見本市”に過ぎない。   

 いやいや、それじゃ1作目の「硝子のハンマー」はどうなんだという話も
あるだろう。あれこそ“ハウダニットだけ”に絞り込むことで、傑作にまで
高めることが出来た作品ではないかと。               

 それはたしかにそうだと思う。しかし、あの作品の肝は”論理性の嵐”に
こそあったと私は思う。長編の分量があってこそ実現できた、様々な仮説と
その検証の組み合わせ。短編集の本書ではさすがにそこに興奮できるほどの
論理性のつるべ打ちを楽しむことは出来ない。            

 一作目、二作目の良さをそれぞれ失ってしまった本書には、それを補うよ
うな魅力ポイントは無い。明らかな劣化版として採点は6点が限界。  

 その同系統三作のうちでは、表題作が群を抜いている。逆説的なトリック
の着想がいかにもミステリ的。このトリックだけは高く評価できると思う。
一方、ボーナストラックの最終話は、二作目の最終話同様純粋なバカミスと
して愉しめる。ドリフのコントのミステリ・バージョンみたいなもんだな。

  

12/11 完盗オンサイト 玖村まゆみ 講談社

 
 今年度の乱歩賞受賞作。初の女性W受賞という話題性狙いの授賞か。 

 ミステリとして読むべき部分は皆無だが、そこそこ楽しい話ではあるので
まぁ漫画や娯楽映画の原作エンタメ読んだな程度の読後感は得られる。 

 乱歩賞ほど傾向と対策が必要な賞で、本書はかなり異質なものとして私に
は感じられた。かろうじてロック・クライミングや皇居という意外な犯罪の
舞台などは、一応傾向の範疇に入ってるとも考えられるのかな。しかし、一
番向いてるのは「このミス大賞」のような気はするけどね。      

 これで乱歩賞を取れたのは、かなり僥倖のように思える。お堅い評価には
向いてないタイプの作品なのになぁ。冒頭に書いた加点が効いたのか? 

 しかし、まぁこの主人公は確実に捕まるよな。斑鳩の線からたぐればすぐ
やん。そんなとこに突っ込むのは野暮だけどさ。           

 ミステリ的には褒めるべき部分はあるはずないと思うが、中でも「人格崩
壊しつつある第三の男」の放り投げっぷりはどうかと思ったな。    

 また主人公の元カノ、葉月への共感のしにくさも絶大。とことんヤな女や
なぁ~。その方が主人公への喝采が高まるという計算なのか、まさか? 

 乱歩賞に期待するのは論外だとしても、取りあえず乱歩賞でも読んでみる
かという程度の態度で臨んでも、やっぱ違うだろと思える作品。時間つぶし
に軽いエンタメ読んでみるか、程度のノリでどうぞ。採点は6点低め。 

  

12/29 Q.E.D.39巻 加藤元浩 講談社

 
 本格・人情・数学・情報・諧謔の五種のパラメータで分類出来るというの
前回の感想で書いたことだが、本巻は二作とも本格にかなり寄った作品。
人情・情報・諧謔が薄~く乗っただけだな。             

「ああばんひるず6号室事件」は、漫画ならではだから許される非現実っぽ
さを感じさせられた。諧謔味が底辺に流れてるからまだましだけど、この動
機、このトリックはちょっと「う~む」かなぁ。           

「グランドツアー」は、数学の代わりに宇宙をモチーフとして(情報パラメ
ータね)、人情とミステリを掛け合わせた作品。比重は大きく本格。  

 ミステリとして目を見張る作品ではないが、ホワットダニットとフーダニ
ットをこういう形で使うというのか、という技術的な面白味を感じた。 

 作品としては伏線の張り方が心地良いので、そこが注目ポイントだろう。
本格重視でミステリファンには固い巻ではあったけど、採点は6点だな。

  

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