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7/4 密室晩餐会 二階堂黎人編 原書房

 
 書き下ろしにこだわる選者の密室アンソロジー。          

 百花繚乱の「密室殺人大百科」には及ばないが、選者の意図が伝わってる
かどうかさえ疑問の「不可能犯罪コレクション」に比べたら、全然良いよ!

 ちゃんと選者の期待に応えようとし、結果も出してる見事な書き下ろしテ
ーマ・アンソロジー。特に最初と最後を飾る両雄が秀逸極まりないよ! 

 ただまぁ、豪速球で”密室”に対峙した作品というものは、無かったかも
しれない。密室トリックそのものよりも、それ意外に意を用いた作品が揃っ
ていたからな。でもそれって現代で密室を扱う場合の大きなトレンドだし、
そちらで成功してくれてさえすれば、何の問題もない。        

 てなわけでベストは、迷いようもなく大山誠一郎「少年と少女の密室」に
決定。って衆目一致なんじゃないのかな。”決め手の手がかり”自体には気
付いてても、それがこういうロジックに繋がるなんて予想も付かんよ。ロジ
ックがマジックと変化(へんげ)するが如き、犯人指摘シーンに驚愕! 

 上記したように、第二位は加賀美雅之「ジェフ・マールの追想」とする。
こちらはまぁ好き嫌いは分かれるだろうけどね。いつもの古臭い旧本格では
あるわけだから。でも、カー自体をミスリードとして扱うような大胆なやり
口だとか、最後のミステリファン向けお遊びだとか、いいよ、いいよ。 

 小島正樹は自身の特徴である小粒なバカトリックとしては弱く、弱点のわ
かりにくさだけが強調されたようで、イマイチ良さが出なかったかな。 

 まだ未知数の残り三人だが、シンプルなアイデアながら読み口に味のある
時代物という意外性で仕上げてきた、安萬純一「峡谷の檻」を第三位に。

 天弥涼は作品としてはそこそこ良かったので判断は保留。ただ本書で唯一
麻生荘太郎「寒い朝だった」だけはあかんかった。”読みにくさ”というよ
り”読み気持ち悪さ”と表現したくなる。レベル低すぎないか。    

 新しい作者陣のふがいなさが減点要素となって、採点は7点。    

  

7/7  エンプティー・チェア(上) ジェフリー・ディーヴァー
7/12 エンプティー・チェア(下)         文春文庫

 
 これはもう「どんでん返しの納涼花火大会やぁ〜!!!」      

 それも観光客がどっと押し寄せてくる規模の。いったいどんだけ打ち上げ
んねん! どんでんの花火師ディーヴァーの華麗な技にクラクラするよ。

 前二作はほぼ同じ構成で見せてきたが(しかし、それには理由があった)
今回はさすがに全く異なっている。犯人側の描写が不在なのだ(しかし、こ
れまた理由があると言うことも出来るな)。             

 そして、上下巻を前提としたかのようなこの配分。まるで上巻全てが長い
長いプロローグだとも言うかのような、急転直下の驚くべき展開。   

 まさか三作目にして、リンカーン対アメリアの対決を描くなんてなぁ〜。
もうもうもう、なんつうか、世界最高峰のエンタテインメント・メーカーは
やっぱ、やることがちゃうわ〜。                  

 お互い手の内を知り尽くした上での頭脳合戦。この凄いアイデアをエンタ
メ職人のディーヴァーが描くんだから、面白くならないはずがない。「すべ
らんわぁ〜」と間違いなく言い切れる、鉄板中の鉄板だろ。      

 これでもうお腹いっぱいだから、「ごちそうさま」と言いたくなるよね。
でもそこからが真骨頂。怒濤のようなどんでん返しのつるべ打ち。   

 多少は「なんでもありかい!」と言いたくなる気はするけどな。針の先の
ような論理で追いつめる証拠捜査に対して、どんでん自体は結構おおざっぱ
なやり逃げ感は受けるからな。                   

 でもまぁそれって、単に贅沢な言いがかりに過ぎない。これだけ翻弄して
くれたら、もう何も言えないってばよ(少しは言ってみたけど)。   

 もう一作一作がすごすぎ。8点付けるしかしょうがないっしょ。   

  

7/17 静寂の叫び(上) ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
7/21 静寂の叫び(下) ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

 
 とことんエンタメで息継ぐ間もなく楽しませておきながら、なおかつこの
どんでん返し。伏線は薄くても、極めて納得の構図なので文句無し。  

 いやはや全く凄い書き手だぜい(今更!)。もっと早く知っていれば。ペ
ルー日本大使公邸占拠事件直後にリアルタイムで読んでたら、そりゃもうは
まってただろうよ。何作読んでも裏切られることない面白さだしな。  

 本書が実質的にディーヴァーの出世作ということになるらしい。このよう
に時宜を得たってこともあるのだろうが、たまたま時流に乗ったってわけじ
ゃなくて、出るべくして出てきたって感じだな。           

 さてノンシリーズの本書。鑑識やキネシクスやら、プロの技術をテーマの
核とする作者だが、今度は人質交渉。映画なんかでは良く見るシチュエーシ
ョンだけど、これまで見てきたものは単なるイメージに過ぎなかったんだな
と思わせてくれるよ。理論的で納得させられるプロの技術。その詳細が相変
わらずエンタテインメントとして愉しめる。             

 でもって、やっぱり相変わらずなのは、どんでん返しの突き抜けっぷり。
これでどんでんなんて産めるかなと不安になるくらいの閉鎖状況なのに、気
持ちよくなっちゃうくらいの意外性が飛びだしてくる。        

 相変わらずっつっても、この作品が先にあって、それからの作品が「相変
わらず」ってことなんだからな。どっちかっつっと元祖の方。     

 解説で触れられている「読者の思い込みを利用した実に巧妙なディレクシ
ョン」ってのは、特に最近の作品で顕著な”小さなどんでんの積み重ね”で
全編を連ねていく手法そのもの。出世作の本作で既に語られてるんだな。

 ディーヴァーのディーヴァーらしさに溢れた作品。文句なく8点。  

  

7/27 龍の寺の晒し首 小島正樹 南雲堂

 
”細かすぎて伝わらない奇想”のてんこもり。            

 チープなバカトリックも、今回は謎の怪異性とそれなりに結びついていて
読後感は悪くない。けど、やっぱもっとインパクトを期待してしまうか。

 島荘チルドレンとして、謎の詩美性にこだわる姿勢は、非常にいいとは思
うんだけどなぁ。単にチープで小粒な物理トリックが解明されるだけでは、
どんなに量で勝負しようと、読者を感心させるのは困難だろう。解決の程度
がたかがしれてるのなら、謎で魅せるしかない。           

 それって、たしかに正しい方向性だとは思うんだよねぇ。でも、比較的成
功している本書にしたって、その点の頑張りようで好感は抱けるんだけど、
それでもやっぱどうしても不満足感は残ってしまう。         

 活かし方自体は工夫されているのにね(謎の派手さや謎の傾向性の合わせ
方など)。小粒トリックの寄せ集めではこの辺が限界なのかな。    

「てんこもりが凄ェ〜っ」ってだけでは、トリック・メーカーとしてトリッ
ク同様の使い捨て作家になっちゃうんじゃないかと心配。ただ、たしかに派
手な大技トリックなんて、そうそう毎回は産み出せないだろうしなぁ。 

 寄せ集めトリック以外に、どう読者にインパクトを与えられるかが、この
作者のテーマだと思う。まだその点では伸びしろのある人だと思うし。 

 たとえば本作では「犯人も二転三転」ってのが、その狙いのような気もす
るんだけど、正直これはどうでもいいと思えてしまうくらい、インパクトに
は繋がっていないと思う。最初にひっくり返される真相が一番ミステリとし
ては意味ある解決のようにも思えてしまったし。ちと空回り気味?   

「扼殺」の大技トリックとか、「十三回忌」の罠だとか、そういう”肝”が
ぶっこまれれば、一気に質は高まりそう。それの無い本作は
6点止まり。

  

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