ホーム創作日記

 

5/1 三題噺 示現流幽霊 愛川晶 原書房

 
 これにて、ひとまず一区切り(そのうち続編は書かれるそうだ)ってこと
で、シリーズを締め括るにふさわしい、粋な趣向を見せて貰えたよ。  

 いろんな縛りの中で、多くの趣向も凝らして、取りあえずお疲れ様。 

 とにかく落語ミステリとして、名人級の活躍をしてくれたのではないだろ
うか。シリーズ一作目の感想でも書いたように、落語の内容そのものが謎解
きになるような、いわば普通のやり口ではなくて、落語を「演じること」が
謎解きになるという、独自の着想でよく続けてきたもんだよ。     

 本格ミステリに於いては、実は”遊び”は”試練”でもある。力を抜いて
お気楽に”遊ぶ”んじゃなくて、並々以上の力を込めて真剣に”遊ぶ”んだ
よね。そうでないと本格に於いては”遊び”の傑作なんて産まれない。 

 バカミスも全く同じ(ちなみに私の意味するバカミスは、意図せず結果的
に一般的に言われてる『バカミス』になっちゃったというような、私が定義
するところの”トンミス”は含まれていないので、そこはご用心)。だから
バカミスは絶対にバカには書けないんだよ。             

 このシリーズは、そういう本格の”遊び”を徹底的に突き詰めた作品。こ
んな作品、本格者が嫌いなはずはないんだって。           

 それに落語だし、日常の謎だって言うし、どうせ人情で読ませようなんて
魂胆の作品でしょと逆に敬遠する人もいるかもしれないが、そう単純でもな
いんだよ。ぬけぬけと人を喰ったようなオチで攻めてくるんだから。  

 そのお見事な例が、今回の「鍋屋敷の怪」だよね。「特別編(過去)」の
エピローグも、エンドロールでの謎解きシーンみたいで心地良いし。  

 採点は7点。いいシリーズだけど、もっと違うタイプの作品も得意な作者
なだけに、これだけにかかりっきりってのも勿体なさ過ぎ。一旦区切りはい
いタイミングなんじゃないの。次は根津愛でロジカル本格を希望!   

  

5/3 夜の欧羅巴 井上雅彦 講談社ミステリーランド

 
 宇山氏を欠いたせいか、安孫子作品に続いてこれも、この類の叢書の意味
合いに普通に沿った作品。この叢書独特の毒っ気は薄い。個人的にはそれで
良しだが、ミステリ色も結末の大団円感までも薄いのは喰い足りず。  

 というより、そもそもこの話ってちゃんと構成仕切れてるの? ここに書
き切れてない事件の様相は、作者の頭の中に存在してるのかな? この叢書
なのに、この程度の話なのに、最初から続編狙いってことはないよね? 

 というのも、本書は子供目線からのみ描かれているから、ついつい読者と
しては忘れちゃいがちになるけれどさ。でもとぉ〜っても疑問に思うしかな
いんだけど。いったいかあちゃんは何してるんだよ?!        

 さんざん子供を危ない目に遭わせておいて、なんにも出てきやしない。男
といちゃついてることだけは想像できるけれど。何しに出て行って、いった
い何をしてたのか、何も描かれずに、勝手に子供が解決しちゃう。   

 ひどい話だぜ〜。お話だから無事に丸く収まって、一見いい話に見えるか
もしれないけれど、これってれっきとした虐待やん。         

 よって本書は話として構成し切れてないと思う次第。あわよくば続編で書
くつもりだとしたら、それも不誠実な態度だと思うし。読み違いしてるんじ
ゃないかと不安になったけど、読み返すほどのもんじゃないし。    

 ってなわけで、単に薄いだけじゃなくて、なんだかとっても納得のいかな
い作品になっちゃった。採点は低めの
6点。そんなせいで「講談社ミステリ
ーランド順位表」
でも、何故かこんな低い順位になっちゃった。    

  

5/6 鬼畜の家 深木章子 原書房

 
 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。同時受賞作品が「檻
の中の少女」
という、なんだか凄いことになっちゃってるという不思議。ば
らのまち福山じゃなくて、佐渡島(佐渡市)で開催すべきだったよね。 

 おぞましい厭ミスと思しきタイトルだが、実際内容もその通りのくせして
読後感は悪くない。いやむしろ、厭ミスなのに爽やかとも思えるほど。 

 予測を超えて立ちのぼってくる構図の意外性。意想外に緻密な伏線。本書
の範囲と読者が枠を作る(作らせる)、そうしてその先を越えていくミステ
リ性こそがその所以か。予想をいい意味に裏切る匠の佳品。      

 いやあ、なかなかいいもん読ませて貰ったな。即戦力の厭ミス作家として
の期待感すら抱かせる、64歳の新人の登場。採点は
7点だ。     

 島荘がこの作品をきっかけに、60歳以上という年齢制限付きの「本格ミ
ステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」を立ち上げる気になったのも
なんだか理解できるもの。団塊の世代がもう一花咲かせられるか?   

 しかし、この賞はなかなかいい作品を産み出し続けてるね。審査員が島荘
一人なのもかえっていい効果出てるのかも。みんなの意見取り入れた平均的
に評価できる作品より、とんがった作品選べるものな。とはいえ、この作品
なら、他の審査員がいても充分受賞作になったと思うけどね。     

  

5/10 檻の中の少女 一田和樹 原書房

 もう一つの第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。   

 自殺支援サイトを巡るハードボイルド風作品であり、サイバーセキュリテ
ィを扱う業界物。島荘が自身のツイッタで、受賞作の二作を「最古典的と、
最新式POP」と表現していたのは、この題材に由来する。      

 しかし、手法はそれほど対照的でありながらも、この両者はある意味驚く
ほど似通っている。題名の厭ミス風味付けといい、ミステリ界では割とよく
起きる共時性(シンクロニシティ)って奴なのかな。         

 本書の場合は題名の印象に相違して、中途ではさっぱり厭ミスではないだ
けに油断してしまうのだが、その分逆にダメージが大きかったりするのだよ
なぁ。題名の意味と共に一気に厭ミス度が爆発する終盤が圧巻。    

 個人的にはエピローグは長すぎだと思うけどね。作品として完結させるた
めという意味合いはあるかもしれないけれど、これだけの長さにミステリと
しては意味のある部分が感じられなかった。こんだけ長いんだったら、なん
かオッと思わせてくれるアイデアの一つくらいはぶちこんで欲しかったよ。

 事件が要求する犯人の属性と、実際の犯人のキャラクタとが、全然マッチ
していないのも非常に気になった部分。せめて何か過去の経歴に絡ませとか
なきゃ、こんなんは無理だろとしか思えなかったけどなぁ。      

 この作品単独では受賞作としてはちょっと弱い感じもしたけれど、「鬼畜
の家」
との対比や妙な共通性とが不思議といい味になっている。両者受賞と
したのは、ある意味納得かも。どうぞ併せてお読みください。採点は
6点

  

5/12 私たちが星座を盗んだ理由 北山猛邦 講談社ノベルス

 
 作者にしては珍しくトリックにこだわりのない作品ばかり。あっても心理
的だったり、ロマンチックなものだったりと、氏の特徴とは相容れぬもの。
であるけれど、なかなか洒落た作品ばかりで、好印象の短編集だった。 

 一般向けの入門編としては、音野順シリーズよりもこちらの方が向いてい
るかも。ラノベ風装丁は同じでも、あっちのトリックはちょっと妙ちくりん
で、ある意味しょーもなかったりもするからな。敢えて脱力系を狙ってきて
るし。幅広い向きに受け入れられるのは、きっと本書のほうだろう。  

 まぁ、どっぷりとミステリ者って方には、そんなまどろこっしい短編集で
云々するよりも、強引物理トリック嵐の『城』シリーズにスカッといっちゃ
え、とも思うけどね。それで乗れなきゃ、北山作品読まなきゃいいじゃん、
ってことで(多分、それで人生損することはない、きっと)。     

 その場合の個人的なお薦めは『アリス・ミラー城』かな。「物理の北山」
(予備校講師みたいだな)っぽさは少ないから、異色作ではあるけど。それ
も、バカミス属性のアビリティが育ってる方限定ってことで。     

 ロマンチック〜、が大好きな私としては、本書のベストは悩まず表題作。
このトリックはなかなかお洒落じゃないかしらん。似合う似合わないはどっ
かの棚の上に放り出して、キザなこと大好きな私好みの一品。     

 しかし、たとえ好印象の作品集だとはいっても、7点付けるほど何か掴ま
れる作品集ではないような気もするな。ってなわけで、採点は
6点。  

 ところで「妖精の学校」のラストは「緯度経度」ってのは容易に気付け
るんだけど、「じゃあどこ?」ってわざわざ調べる気はしないわな。そこで
ココをご紹介。これは知った上で読み返すのが一興だと思いますわん。 

  

5/13 不思議の扉 ありえない恋 大森望編  角川文庫

 
 普通ではない不思議な関係だからこそ、普通ではない不思議な味わいを醸
し出す、普通ではない不思議な恋の物語達。ごくごく普通のラブ・ストーリ
ーで泣き笑いなんかしたくない(当社比)、SF者ならではの恋の数々。

 とはいえ、そんなに凄い作品があるわけじゃない。テーマがテーマだけに
ということか、定番中の定番と言えそうな作品はほとんどなかったと思う。
おかげさまで既読作品は2篇のみと、逆にお得感はあったと思うけど。でも
やっぱりこりゃ凄いという、迫力を感じる名作は欲しかったところ。  

 個人的には短編集として買おうかなと考えてた矢先だったので、小林泰三
「海を見る人」を読めてラッキーだった。ファンタジー(というかお伽噺)
のような雰囲気ながら、実体はハードSFで時間物というねじくれた逸品。
これが文句なく本書のベストだな。                 

 第二位も悩まず椎名誠「いそしぎ」だな。本書のテーマとしてはピッタリ
だよなぁ。それこそ”ありえない”物語ながら、なんだか感情移入して読め
ちゃった。逆から描かれた異種婚姻譚。美しい話だと思う。      

 第三位は万城目学「長持の恋」とする。このシリーズでとんでもない題に
改悪しやがった「愛の手紙」の和風アレンジ。一応は時間物ってことで。

 採点は6点。ところで、だいぶテーマが自由になってきたな。セレクショ
ンもあんまり筋が見えてこないものになってきたような。結構気楽に選んで
る雰囲気。バラエティ感は見られるが、物足りなさを覚える。     

 今回は特にテーマが異色だっただけに、どうしてもアンソロジーに組み込
みたいという凄い作品があって、そこから逆算されたテーマなのかもと想像
してたというせいもあるんだけどね。あれ、特にないやんって。    

 ひょっとしてロマンチック時間物を集中的に集めてたら、異色のラブSF
が溜まってきて、それの在庫処分じゃあるまいな。恋をテーマに(少しずつ
色つけしただけで)、他のアンソロジー組んできたら、きっとそうだ。 

  

5/17 長い廊下がある家 有栖川有栖 光文社

 
 書評で以前書いたことだが、有栖川有栖は小さな核たった一つを放り込む
だけでミステリを”作れてしまう”、そんな意味での”作家”だと思う。

 でも、それってある程度の量を生産せんがために、しょうがなくやってる
世過ぎの方法論だと今まで思ってたよ。まさかそれを作者自身が自慢に思っ
ていただなんて…… そりゃ、スタイルが変わらないはずやな。    

 そういう意味で、有栖のあとがきは自分としては少なからずショックだっ
た。恥ずかしながら、ではなく、嬉々としてやってただなんて。    

 だからもう皮肉めいて言う必要なんか無いんだね。堂々と言って構わない
んだ。あまり直截に言う人もいないだろうから、代表して言うよ。   

 
だから有栖川有栖の短編はつまらないんだ。
薄っぺらいんだ。
 
 勿論、凡百の作家が束になっても構わないくらい、才能のある人。それは
間違いない。平均的な作品をこれだけ量産出来る作家は稀だろう。   

 競作アンソロジーなんかに参加してると、その位置付けがよくわかる。ベ
スト争いにも食い込んでこない代わりに、ワースト争いに参加することもな
い。無難な位置をいつもキープできている.これも才能。       

 まぁ中には「数撃ちゃ」と言ったらとても失礼なほど、誰にも真似できな
い名作(その代表格が「スイス時計の謎」だろう)を産み出すこともある。
その辺はさすがオールタイムベスト級の学生シリーズの作者だけはある。

 え〜と大昔にヴァン・ダインがミステリ作家は生涯六冊しか傑作を書けな
いと言ったけど、長中短編合わせて、有栖もそんなものなのかも。   

 え〜と、本書で言えば「雪と金婚式」「天空の眼」は、まさしく平均点作
品。「ロジカル・デスゲーム」は自画自賛するだけあって、核をテクニック
で読ませる作品に仕上げた、有栖流方法論が決まった作品。表題作だけは、
有栖にしては珍しく幾つもの核が放り込まれて、普通に良質の短編ミステリ
になってる。ってなわけでこれがベスト。採点は
6点。        

  

5/19 江戸川乱歩に愛を込めて ミステリー文学資料館編 光文社文庫

 
 乱歩といえば”畏れ多い感”があるのか、親しみを込めたからかいを含む
パロディ色は希薄(というより”無い”に等しい?)。どんなにモチーフと
して使っていても、オマージュのような畏れ敬う使い方ばかり。    

 やはり日本に於いては、”大乱歩”と呼ぶべきなのだろうか。    

 しかし、こんなアンソロジーだったら、当然愛をこめたパロディを読みた
いよなぁ。笑いに転換してこそなんぼ、じゃないのかなぁ。そういうタイプ
が一切含まれてないってのも、ちょっと極端すぎやしないか。     

 本書より先に、日下三蔵編「乱歩の幻影」という同趣向のアンソロジーが
編まれているらしいので、そちらで使い果たされたのかとも思ったけど、作
者陣や収録作品名を見ると、こちらもそんな雰囲気ではないわなぁ。  

 誰も大乱歩をお笑いにつなげようとは思わないのか? それとも乱歩作品
自体が(特に初期短編や少年探偵団など)、そのまま元ネタのないパロディ
みたいな雰囲気なので、それを更に転換させるのは困難なのか?    

 元が真面目であればあるほど、光るのがパロディだから。乱歩はその逆。
通常使う意味とは違うけど、「不真面目」なのが乱歩って印象あるからな。

 期待値に一番近かったのが大槻ケンヂ「怪人明智文代」かな。評論をパロ
ディとして展開させたような作品。オマージュ作品の中では高橋克彦「悪魔
のトリル」が一歩抜きんでている。乱歩自身を知るという意味合いでは鈴木
幸夫「小説・江戸川乱歩の館」だな。乱歩とその周辺の生の人間模様を知る
ことが出来る。見知らぬ作者名だが、千代有三の実名らしい。     

 以上の三作でベスト3としよう。採点は6点。           

  

5/22 メルカトルかく語りき 麻耶雄嵩 講談社ノベルス

 
 凄ぇ〜! やっぱり凄ぇよ、麻耶雄嵩! 間違いなく本格の最先端! 

”解決のないミステリ”という、ある意味究極のアンチ・ミステリを、限り
なくロジカルな本格の手法で描き出す。論理で成立する世界を、論理でぶっ
つぶすのだ。それも五種五様のそれぞれに異なるパターンにて。    

 まさしく麻耶にしか書けない超絶作品。実験作、問題作、怪作、どんな表
現だって正しいかもしれない。だって本作に枠なんてないから。でも敢えて
言おう、これは傑作だと。本格のエッジを知るためには読むべき作品。 

 いやあ、もうホンっト、チャレンジャーなんだから。解決されることが前
提の本格ミステリで、こんことやろうなんて神経が信じられない(勿論、褒
め言葉です)。そんなことを思い付くだけじゃなくて、手を変え品を変え、
何度も何度も繰り返そうなんてする奴がいること自体信じられない(本当に
褒め言葉だってば)。五つものそれぞれに違ったパターンでだよ。   

 百歩譲ってそういう阿呆がいたとして(偉大な阿呆はすなわち天才)、表
現方法は別としても、「死人を起こす」「答えのない絵本」のパターン自体
は思い付くかもしれない(後者のテンションには達しないだろうけど)。

 更に麻耶流の皮肉な感覚の持ち主であれば、「九州旅行」までは辿り着け
る人間もいるかもしれない。でも、おそらくそこが限界なのでは。   

 麻耶雄嵩は、その限界を易々と突き抜けてみせる。誰も触ることの出来な
い”本格という世界の果て”、その境界線に到達し得る希有の人物。  

 ホームズ・ワトソン型ミステリとしての、あるベクトルでの果ての境界が
おそらく「密室荘」なのだ。”本格”であり得る世界の果て。     

 そして何よりも「収束」。こんな領域に立てる人間がいること自体が信じ
られない。人外領域の超絶ミステリ。シュレディンガーの猫という興味深い
着想を、SFのみならずミステリの分野でも手がけたがる作品は稀にあるが
本作はその極北。麻耶にしか書けない奇跡の作品だろう。       

 生殺しの辛さに身もだえするかもしれないが、ここには本当に本格のエッ
ジがあるのだ。本格という歴史に一石を投じるという意味でも、史上に残さ
ざるを得ない超越した作品。
9点を捧げるにふさわしいだろう。    

  

5/26 虐殺器官 伊藤計劃 ハヤカワ文庫JA

 
 ゼロ年代はイーガンの傘の下かとばかり思っていたが、たしかに例外もあ
るのだな。独自の進化を遂げたアフター911の本格SFでありながら、あ
る意味梓埼優を想起させる、斬新なホワイダニット・ミステリでもある。

 思弁的・哲学的とすら思えるのに、その実とてもわかりやすいエンタテイ
ンメント。満遍なく高評価を受けるのが納得できる傑作。       

 ファンタジーと思えるくらい非現実的なのに、このリアルさ。この作品に
「リアル・フィクション」と名付けるのは納得いったかも。      

 おそらくはモンティ・パイソンの有名なスケッチ「恐怖の殺人ジョーク」
が発想の源なんだろうけど、それがこんな話になるだなんて、パイソンズも
びっくりだな。ブラック・ユーモアを具現化するブラックさ。     

 だからこそ仕方ないのかもしれないけれど、個人的に残念だったのは、こ
れが希望の物語ではなく、絶望の物語であったこと。         

 作品自体の雰囲気は後者であったにも関わらず、なんとなく前者がかいま
みえる作品として完結するんじゃないかと、思えてしまっていたのだよな。
ラブ・ストーリーの要素も含んでいたせいかもしれないけれど。    

 それがこんなにも真っ黒なエンディングを迎えるなんて……     

 自分自身の根っこがアマアマの甘ちゃんなもんだから、ついついそんな期
待を持ってしまうんだろうな。その見込み違いはあったとしても、やっぱり
8点を付けてもいい作品だと思うな。                

 ゼロ年代を代表する作品かどうかは別として(あまり自分が把握してない
世界なので)、ゼロ年代の傑作の一つであることは間違いあるまい。  

  

5/27 白馬館九号室 鮎川哲也 出版芸術社

 
 問題編・解答編に分かれた読者挑戦小説のみを集めた第二弾。    

 国内ミステリの金字塔、犯人当てミステリ集としては間違いなく史上ベス
トである「ヴィーナスの心臓」所収の綺羅星のような作品群にはさすがに及
ばないにせよ、こういう型式の鮎川作品がまとめて読めるのは貴重。  

 ただ、もともとこういう形式ではなかったものを、無理矢理解答編として
切り出したってタイプの奴は、やはりそれなりの出来映えにでしかない。

 その辺はやはり作品を産み出しているときの作者の意識の差が、如実に反
映されてると思う。本格だったら基本読者との知恵比べだろ、って極端なこ
とを言う人がいたら、きっとまともに本格に触れてる人じゃないわな。 

 犯人当て(もしくは犯人以外の真相当てって場合もあるだろうが)は、や
はり犯人当てとしての意識で書かれるべき作品だろう。        

 そういうわけなので、ベスト選びを普通にやってしまったら、凄く偏りそ
うなので、今回は三タイプからそれぞれのベストを選んでみることにした。
三タイプとは、倒叙物の真相当て、放送台本以外の犯人当て、「私だけが知
っている」の放送台本の小説化版となる。つまり普通にベスト選びすると、
最後のタイプの三編を選んでしまいそうになったってことなんだけどね。

 というわけで倒叙物から「花と星」、犯人当てから「貨客船殺人事件」を
選ぶとしよう。全部が秀作揃いの「私だけが」からは、ホワイダニットから
フーダニットへのロジックの誘導が巧みな「茜荘事件」を選ぶ。勿論、本書
全てを通して、この作品がベスト。                 

 初期の前作「山荘の死」には全然及ばないが、7点は確保ということで。

  

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