ホーム創作日記

 

5/7 ロスト・シンボル 上 ダン・ブラウン 角川書店
5/11 ロスト・シンボル 下 ダン・ブラウン 角川書店

 
 これまでに比べると、ちょっと色々と緩すぎるんじゃないのぉ〜。スピー
ドも緩いは、犯罪の残虐度も緩い。スケール感も緩いは、謎解きも緩い。最
後の謎解きなんて、なんだかもの凄く曖昧すぎて、たっぷりの眠気しかもた
らしてくれなかったってばよぉ〜〜。                

 思わせぶりな純粋知性科学だって、なんじゃこりゃ、だな。「ダン・ブラ
ウン」と「大霊会」って、なんだか響きが似てんじゃねぇか、なんてフラッ
と思ってしまったぞ(似てねぇよ、なんて冷静な突っ込みはやめてね)。

 お得意のどんでん返しにしろ、一般読者ならいざ知らずミステリファンな
らイロハのイでしょ。これで驚かそうなんて、百年遅いわよっ!    

 唯一面白かったどんでんはラングドンの復活だな。おいおいお〜い!と読
者を不安にさせておいてのコレには驚いた。知らない知識を使ったものでは
あるんだけど、こんなことが可能だなんてビックリだ。        

 とにかく本書が失敗した最大の要因は、おそらく現存する組織であるフリ
ーメイソン(ついついペリー・メイスンと言っちゃいそうになるのは私だけ
ですか、そうですか)を扱ってしまったことだろう。         

 このため話がどこまでも広がっていくような方向でなくって、縮む方向の
擁護モードなんだもの。これじゃ全くワクワク感なんて覚えられないぞ。氏
の魅力が大幅に制限された条件での執筆なんだもの、痛快な面白さが産み出
せるはずもなかろう。そもそものテーマ選択ミスだったのでは。    

 そんなこんなで、とぉ〜っても期待はずれの6点。失敗作でしょ。  

  

5/12 極限脱出 9時間9人9の扉 上 黒田研二 講談社BOX
5/13 極限脱出 9時間9人9の扉 下 黒田研二 講談社BOX

 
 最初に断っておくけど、原作のゲーム版はやっていないし、そちらの情報
は皆無なので、以降はあくまで本作単品のみの感想と思ってください。 

 しっかし、こんな状況設定だったら、誰だってソリッド・シチュエーショ
ン・スリラーだと思っちゃうじゃない。でも、そう期待してしまったら、負
け。思わせぶりな伏線描写が続くだけで、スリル感なんて一切無いからね。
あながちくろけんさんの描写力不足のせいってわけでもあるまい。   

 まぁでも、ドキドキもわくわくもびっくりもなかったけれど、ミステリと
しては一応それなりにこじんまりとまとまって終わったってとこかなぁ。

 こんなタイプの作品で「こじんまりと」ってのでいいのかなぁ、とは思う
けどね。あれっ、普通のフーダニットで良かったの、まさかね、ここからも
う一捻りあるんだよね、って身構えてしまったものなぁ〜。      

 ただし数字合わせがちゃんと謎解きに直結してたのは、ポイントゲット。
ってか、これがなかったら、ほんとただの適当な数合わせだもんな。謎解き
の要素薄っぺらで、智的好奇心なんて全然満たされてなかったからな。 

 とはいえ、終わり良ければ、というほど良いもんでもなかったな。ラスト
のSF展開の描き込みは充分とは思えないし。ここはもっと感動的に演出し
て欲しいもの。この辺は基本的に「情感が薄い」という氏の特徴が、欠点と
して働いていたように思う。全般的に期待とは程遠い
6点。      

  

5/17 オー!ファーザー 伊坂幸太郎 新潮社

 
 久しぶりに伊坂節全開の爽やかな作品。普通に面白い作品と言って、決し
て間違いではないだろう。なかなか良いではないかと思ったら「ゴルスラ」
直前の作品だったとはね。伊坂第1期の最終作品なんだとか。     

 ところで、この1期・2期というのはどういう定義なのか、どこかでちゃ
んと発言してるのかな? 個人的な解釈では、本人が伊坂幸太郎的作品を意
識的にせよ無意識的にせよ書こうとしていたのが1期、その枠を越えて敢え
て伊坂幸太郎の外に踏み出しているのが2期、と思うのだがどうか?  

 だからまぁ1期は当然面白いし(本人比で)、2期は色んなことやりすぎ
て、最初の「ゴルスラ」を除いては★まだ★成功してないというだけの話な
のだろう、模索中(って擁護してるような書き方だけど、わたしゃ別に認め
てるわけじゃないぞ。正直言うと余計なことするなよって感じだ)。  

 ってわけで1期最後の伊坂幸太郎。相変わらず、キャラクタに対するレッ
テル貼りが上手すぎる。こんな風に明らかに一人一人わかりやすいラベリン
グして、単純な安っぽさに陥らないところが凄いな。作者独特のとぼけた味
わいでじわぁ〜っと包み込まれてるところが違うのかな?       

 伏線の収束が売りみたいに書かれてはいたけど、そこまでは感じなかった
けどね。まぁ色んなとこ拾って、気持ちのいいラストで締め括るんだから、
上手いんだよね。ところで息子の行く先々に結構都合良く現れてたから、絶
対にGPS秘かに持たされてるって思ってたんだけどなぁ〜。     

 設定は変わってるけれど、今作に限っては異世界ファンタジーな雰囲気は
非常に薄かったかな。でも気分は良くなる作品なので、割と惜しい
6点

 ところで、やっぱりお下品な私としては、夜が気になる〜(笑)   

  

5/20 プリズン・トリック 遠藤武文 講談社

 
 たしかにあまりにも多い視点人物に、頭の切り替えが付いていけない。し
かし、文章力がひどいというわけではないので、この辺は幾らでも今後挽回
が効くところだろう。                       

 と、意外なところで擁護モードなのは、一部ぐっときた箇所があったせい
なのだ。中盤での加害者と被害者の対峙シーンに続いて、加害者の両親が取
った行動の意味が判明する一連の流れには目頭が熱くなった。     

 正直、この両親のエピソードを読めただけで、本書には充分の価値がある
と思えてしまったのだもの(ミステリとしての評価じゃないけどね)。 

 そのミステリとしてはどうかってとこだけど、なんだか何でも出来ちゃう
ような、いい加減さ丸出しなトリックは個人的には興ざめ。証言を単に集め
さえすれば、多少の想像力は必要とするものの、おおまかなところはバレる
に違いないやん。謎のまま良しとしてくれる警察ではないでしょ。   

 いやぁ、まぁ本書には沢山の加害者が現れるもんだが、中でも最大の加害
者と言えば、まず間違いなく東野圭吾だろうな。「乱歩賞史上最高のデタラ
メ煽り文句」をどの口が言うか。協会会長としての誤った責任感か?  

 最後のどんでんもたいして感心できるものではなかったしな。伏線はさん
ざ張ってるから読めていたということもあるけど、これがこうだったらそも
そもこんな状況にはならんのでは、という気もしたのだがなぁ。    

 好きなシーンはあっても、ミステリの評価とは別なので、6点低め。 

  

5/24 光媒の花 道尾秀介 集英社

 
 直接だったり間接だったりと、微妙な繋がりで綴られる群像劇。殺人も逆
転劇も描かれてはいるんだけど、たしかにこれはミステリではないな。文芸
色の道尾を読みたいわけではないので、最近の方向性は歓迎できないよ。

 しかしながら「人間を描くためには、本格ミステリの仕掛けが最適」とい
う氏の主張は、「人間を描くためには、本格ミステリの仕掛けが不可欠」と
等号で結ばれるわけではないのは、自明の事実。           

 あまりにも仕掛けに注目されちゃうもんだから、仕掛けなど無くても人間
は描けるってことを証明したくなったんじゃないだろうか(えっ、これって
考えてみりゃ、道尾登場以前の常識ではあったわけだけどさ)。    

 まぁそれをプラス方向と呼んでいいかどうかは別だけど、とにかく単純に
全ての作品に仕掛けを考え出す必要性があることに道尾が飽きた(もしくは
疲れた)というマイナス方向の理由ではないことを祈るよ。      

 後半の方が救いのある話となっているので、最終的な口当たりはとっても
柔らかく感じられちゃう。なんだかいい話だったんじゃないかと錯覚しちゃ
うほど。でも、この登場人物達全てに救いの手が差し伸べられているわけで
はないからな。感動!、な〜んて騙されちゃいけないぞ。       

 ってなわけで6点。”仕掛けの道尾”が戻ってきて欲しいぞっ!!  

  

5/29 虚擬街頭漂流記 寵物先生 文藝春秋

 
 ヴァーチャルとリアルの重ね合わせの果てに現れる真相は、滑稽に陥るこ
とさえあり得そうなのに美しい。島荘の指摘通り「仮想世界」のミステリへ
の咀嚼法も新しく(SFとしては古いやり口ではあるのだが)、21世紀本
格としての道を示す傑作だろう。日本もうかうかしてられないぞ。   

 中国語による本格ミステリを募った第1回島田荘司推理小説賞受賞作。褒
め褒め爺さんだから推薦作は信用ならん島荘だけど、選球眼はたしか。「玻
璃の家」
「少女たちの羅針盤」も良かったし、本作は抜群の出来映え。ク
ズかとも危惧してた小島正樹も大化けしたしなぁ。第二次島田チルドレンの
波が来ちゃってるのかも(第一次は無論新本格の幕開けの時期ね)。  

 アジア本格リーグで一番面白そうだった「錯誤配置」が期待はずれだった
だけに、なんのかんの持ち上げようとはしてるけど、まだまだ成熟してない
市場なのかと思って油断しちゃってたな。こんな作品が出てくるくらいだか
ら、本格に自覚的な作品(自覚的だからこそ一歩外したところで勝負をかけ
る作品)が、きっとまだまだあるんだろうなと思わせてくれた。    

 下手すりゃ最先端も持って行かれちゃうんじゃないのか、と思わせてくれ
た本作。いろんな意味で感動させられちゃったかも。採点は
8点としたい。

  

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