ホーム創作日記

 

1/7 十一月は天使が舞い降りた見立て殺人
1/8 十二月は聖なる夜の予告殺人 霧舎巧 講談社ノベルス

 
 これって8月編のようなユニークな『二冊同時には意味がある』じゃ
なくて、単に二冊で一つの話というよくあるパターンの奴やぁ〜。どっちか
だけでは意味がない(特に十二月だけってのはあり得ない)。     

 やりたいキモの部分はたしかに心地良いのでだいぶ救われたけど、ホワッ
トダニットのもってまわりすぎは、いっそダメミスの領域に近いのでは。作
者の頭の中で何周も回りすぎて、目が回ってあらぬ方向にまでいっちゃった
んじゃないかしらん、と思えてしまったぞ。             

 私が理解し切れてないだけなのかもしれないけど、見抜いて欲しかったの
か、欲しくなかったのか、なんだかよくわからなかったしなぁ。    

 作者自身が「よくぞまとめた」と感心してる場合じゃないと思うぞ。ここ
まで広げすぎたことを反省すべきところでは?            

 オマケの意味合いも、なんだか薄すぎて拍子抜け。そこでそうする必然性
ってないやん。これまたこねくり回しすぎて失敗しちゃった例かも。  

 あ〜ん、もう、なんだか全部が全部、じれったい作品だったよぉ〜。 

 でもって刊行の隙間がこんなにあいてんのに、大昔(作中ではたかが数ヶ
月なんだろうけどさ)のキャラや出来事をやたらめったらと蒸し返したり、
伏線張られたりしてもなぁ。わたしゃ記憶にございませんってば。   

 長期的記憶槽の豊かな人向け。あるいは何度でも読み返せるコアなファン
向け。読み返す気力の無い私には、過去の伏線は楽しめません(泣)。 

 十一月だけなら5点に近い6点だと思うぞ。十二月でも6点止まり。 

  

1/13 綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー2 講談社

 
 ミステリ談義としての刺激性はやはり薄いが、時々書き手や評論家として
の独自の視点に面白味を感じられるシーンがある。アンソロジーとしての作
品の珍し度もアップして、緩さ前提で良ければ多少の価値あり。    

 書き手の視点として面白かったのは、やはり「自分ならこう書く」が語ら
れるところだろうな。作品自体が掲載されているだけに、ぼかさず書けると
ころがいい。とはいえ綾辻の作品感覚に共感は出来ないんだけど。   

 一方、これが評論家の視点か、と驚かされたのが、二人の収録作品に対し
ての佳多山大地の指摘。特に綾辻「意外な犯人」に対しての、他の作品と絡
み合わせての読みにはびっくり。会場中がどよめいたのも納得。    

 収録作品としては、純粋に出来映えだけで選べば、連城「親愛なるエス君
へ」、有栖「黒鳥亭殺人事件」、小松左京「新都市建設」の順でベスト3。

 珍しさを加味すれば、この一角に「ナイト捜し」を入れるかな。これは京
大ミステリ研の犯人当ての初期作品。私が選んだのは正解ではなかったが、
読みは完全にあってたので、正解同然やんと思ったところにこの追い打ち。
まぁ最後の矜持というか、作者の強がりなだけって気もするけどな。  

 ところでお家芸とも言われている、京大ミステリ研の犯人当て作品集を、
同人誌や自費出版でいいから出してくんないかなぁ〜。どんなに下手糞な作
品やとても読めた文章でない作品が混じっていようが構わない。3500円
まで(どういう基準?)なら悩まず買いだな。            

 全般的にはコンセプトも中身もゆるゆるなことは変わらず。採点は6点

  

1/16 午前零時のサンドリヨン 相沢沙呼 東京創元社

 
 昨年度の鮎川賞受賞作。選考委員が皆口を揃えて、上手すぎることがまる
で欠点かのように書いているのが笑える。ただ一読すればそれも納得の上手
いだけの作品。消去法でのみ選ばれるタイプの作品ってあるのだな。  

 キャラクタ、ストーリー、文章、雰囲気、謎、論理、解決、その全てが上
手くはあるんだけど、ちまちまとこじんまりと。格別にどれかの要素を取り
出して語りたくさせる要素はどれもない。欠点はない。欠点はないのだよ。
欠点あった方がまだいいんじゃないかと思えるほどに……       

 ね、やっぱりこの作品を語ろうとすると、上手いことがまるで悪いことの
ようにいつの間にか語ってるという不思議。             

 いいもんはいいじゃん、と誰か言ってやれ!(私じゃないけど)   

 というわけであらゆる面で及第点という雰囲気の作品。損はしないとは思
うが、特に何かを求めない方がいいかも。語る要素のない
6点。    

  

1/17 フラクション 駕籠真太郎 コアマガジン

 
 どひぇ〜〜〜。超絶。壮絶。これは気が狂ってる(ちなみに褒め言葉)。
二つの大ネタのいずれもが突き抜けすぎて、バカにもほどがある(ちなみに
これまた褒め言葉)。伝説級のカルト・バカミス漫画の誕生だ。    

 二つの狂気爛美するトリックのうち、漫画という表現媒体が実はさほど情
報量がないことを逆手に取る、狂愕トリックの方が個人的には好み。愕然と
して顎が落ちそうだ。                       

 島田荘司「占星術殺人事件」が狂気に一歩踏み出した作品としたならば、
本作は踏み出しすぎて狂気の限界に一歩踏み出したようなトリック。  

 そしてもう一つの究極の絶狂トリック。これはどう考えても限界の数歩先
まで踏み外してる。さすがにこれを予想できる読者なんていないやろ。 

 門前典之「死の命題」(原書房より近々「屍の命題」として復活するから
未読の人は飛びつけ!)や麻耶雄嵩「翼ある闇」の捨てトリックなどが、文
章におけるミステリとしての、”気の狂い方が芸として成立する限界”に近
い猟奇(領域と書いたつもりのミスタイプだったが、あまりにもはまってた
のでそのままとしよう)だろう。                  

 これらに大阪圭吉「幽霊妻」のような気の狂い方(念のため繰り返すけど
これは褒め言葉だからね)を掛け合わせた結果を、一桁二桁繰り上げたよう
なもん。不可能状況をより不可能な状況で解決させるという荒技。これはも
う外れた顎がどうやっても元には戻せない。             

 兇器とも思えるほどの狂気に驚喜せよ! 正常な判断力さえも失う8点

  

1/20 QED出雲神伝説 高田崇史 講談社ノベルス

 
 もう飽き飽きしてる流れからしたら、本作などはまぁましな部類かもしれ
ない。出雲だよ、王道っぽいなと思ったら、奈良で終始しちゃったけどさ。
いつものアレだけで押すってことがなかったおかげで、地味で結局は何も残
るものはなかったにしても、まとまりは悪くはなかったように思う。  

 しっかし、この紋様をダイイング・メッセージとして使うのは、あんまり
だろ。こりゃあ、何でもありだわなぁ〜。一つあるだけでもアルファベット
くらいなら、簡単に全部書けるぞ。それを複数って……        

     「薔薇って書ける?」って言いたくなったってば。     

 ところで、このシリーズも終わりが近いとの話も聞く。うんうん、もう潮
時だろう、ってか、とっくに遅すぎだろって感じだけどね。「式の密室」
ある概念が提示されてからは、ほとんどそればっかりで似たような作品が量
産され続けてきたからな。着想の新展開がなければ、もうお開きでしょ。

 噂だけではなく、終わりの近さを感じさせたのがボーナス・トラックの短
編。祟と小松崎の9年後の姿が描かれている。しかし、奈々の話が一切出て
こなかったのは、何かを暗示してるのか、単に思わせぶりを引っ張っただけ
のどちらなのだろうか(と思ってしまうあたりが、まんまと作者の思うつぼ
なんだろうな)。せめて妻がいるくらいのほのめかしは欲しかったぞ。 

 ま、早く最終作出して貰って、晴れて高田崇史を卒業したいもんだな(既
に他のシリーズ読む気はなくなってるんだもの)。採点は当然の
6点。 

  

1/21 再びのぶたぶた 矢崎存美 光文社文庫

 
 長期的記憶槽に欠陥がある人間としては、本書のテーマである「スピンオ
フ」という意味合いで楽しめたとは言えないが、いつもどおりほっこりにっ
こりなぶたぶたワールドに浸れる作品であったことよ。        

 ただある意味、主人公達の”癒し”という点では薄めの作品だったように
感じられた。ぶたぶたと出合うことで自分の心の隙間に気付き、そこがいつ
の間にか埋められていく、それもぶたぶたの直接の働きかけではなく、自分
自身の力で、ってのがぶたぶた作品世界の基本だと思うのだ。     

 本書の主人公達にはあまりそこまでの隙間が感じられない。例外は「次の
日」だが、こちらは逆に行きすぎてしまってるし。          

 そういう意味では、いつもよりもほんわか度合いも更に淡い作品にはなっ
てはいるんだけどね。でも、どうせもともとがふわふわな心地よさ。淡かろ
うが濃かろうが、それほど変わり映えはしないかも。その分、ちょっといつ
もと毛色の変わった作品(「隣の女」とか「次の日」とか)なんかが読める
ので、ま、なんのかんの言ってもいつも通り楽しめるってことで。   

 ぶたぶた読むのって一種のクラブ活動みたいな気もするしね。今日もちゃ
んと部活に参加出来たぞと。現在、部員募集中〜。          

 ちなみに一番好きな作品は、少女属性の「小さなストーカー」で、次がお
ばあちゃんっ子属性で「桜色七日」だなぁ。             

  

1/22 殺す者と殺される者 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫

 
 違和感に潜む巧みな伏線。とはいえたしかに、発表された時代ではなく、
この手のサスペンスが大量消費された現代の目をもった読者からすれば、難
易度で言えばさほど高いものではないだろう。            

 でも、それが読めてもなお愉しめる。だって謎解きはクライマックスでは
ないわけだしね。わからなければ新鮮な驚きが愉しめるだろうし、わかった
らわかったでリアルタイムで綱渡りの技巧を愉しめるというのも、意外に乙
な読書体験である。名作の二度読みを一度で愉しめる感覚。      

 ただそうかといって古臭い作品なのかと言ったら、決してそんなことはな
い。現代の視点から見ても、主人公の設定には妙味が感じられる。いや逆に
まるで現代の潮流を踏まえた上で、敢えて逆に張ったような新鮮ささえ私に
は感じられた(この手の作品には明るくないので私見かもしれないが)。

 ただのサスペンスかと思っていたら、これほどの技巧が愉しめる作品だっ
たとは。しかも「幽霊の2/3」に続いて、最後にぐっとくる題名にはまた
またしびれさせられた。採点は同じく
8点としよう。         

  

1/24 ぼくが探偵だった夏 内田康夫 講談社ミステリーランド

 
 毒も薬もなく毒にも薬にもならない、見事なまでに何も無い空虚な作品。
ファンならばこんなものにも何かの価値を見出すことが出来るのだろうな。
単なるファンブック。ファンだったら読みゃいいじゃん。採点は
5点。 

 読んだからには順位表更新しなくっちゃな。上遠野菊池殊能作品は自
分の中ではマイナス評点みたいなもんなので、こんな単なる”ゼロ”評点作
品は自動的にその上ってことになるな。               

  

1/25 紫色のクオリア うえお久光 電撃文庫

 
 人は見ているものをそのまま見ているわけではない。視覚情報を脳で変換
して知覚しているのだ。その脳内変換が正しいと誰が保証できようか。 

 こんなことを考えたことはないだろうか。他人が見ている世界と自分が見
ている世界とは、実は全く違っている可能性はないだろうかと。    

 たとえば私が見ている「赤」と、あなたの見ている「赤」は全く違ってい
るのかもしれない。だけど、互いに自分が見ているものに「赤」というレッ
テルを貼ってるわけだから、そこに矛盾が生じないだけなのかもと。  

 たとえば私が見ている人物像を、あなたの知覚で見れば実は化け物みたい
に見えるのかもしれない。だけど、私は生まれてからずっと人間とはそうい
う化け物(あくまであなたにとって)の姿で見えているわけなので、それが
最も自然な姿。その中で美醜を知覚している。出来ている。      

 これはきっと無矛盾で確認のしようもないものなのだ。       

 本書はまさしくそれを小説化したような作品。きっとそうなんだろうなと
思って手に取った。勿論それはそれで正解ではあったのだが、しかし、それ
なんかはまだまだほんの入り口に過ぎなかったのだ。         

 まさかこんな領域なんか軽々と凌駕しちゃうくらいの、バカSFだったと
はね。なにせ「バタフライ・エフェクト」をジョジョ第6部ラストのような
スケールでやってのけてみせちゃうんだから。            

 ラノベな装丁からはとても想像できないくらい、イっちゃった感を存分に
愉しめちゃう怪作。傑作とは言わんが珍品好きにはお薦め。採点は
7点

  

1/28 Another 綾辻行人 角川書店

 
 いやあ、素晴らしい。リーダビリティの高さもさることながら(この厚さ
なのにさらっと読める)、ホラーの結構の中にきっちりと組み込まれたミス
テリとしての企みに舌を巻く。見事にやられた傑作。         

 構成も上手い。章題の謎の提示に従って、徐々に解明されていく謎に、翻
弄されながらも自然に運ばれていく。厚さに尻込みすることなど不要なくら
い、安心して身を任せていればいいだろう。             

 見破ろうとしてもしなくても構わない。どちらにしても最後には尻を叩か
れて、飛び上がる羽目になるだろうから。例外はごくごく少数のはずだ。

 それにしても綾辻の手による”傑作”に出逢うことなんて、もう半分諦め
気分だったというのに。意外性のポテンシャルなんてさほど感じられないこ
の作品から、これだけのもんを飛び出させちゃうんだからなぁ。    

 有栖「女王国」といい本書といい、新本格第一世代もまだまだロートル
じゃないことを示してくれて、ほんと嬉しい限り。負の暗黒館効果以降、最
高度に萎んでいた期待値が、またむくむくと回復してきたよ。     

 今回は強いライバルなんか全くいないので、本格ミステリ大賞は間違いあ
るまい。まだ早いけど確実だと思うので、どうもおめでとうございます!

 本書の中身については、もうこれ以上語るつもりはない。ただ、これまで
の綾辻の一部の作品でもいいから評価してきた人なら、読んでも悔いのない
作品ではないかと思う。代表作の一つに加えても構わないはず。    

 これは本ミス投票前に読み終えたかったなぁ。昨年度ベストに挙げられた
のに。国内ミステリとしては昨年度唯一の
8点作品としよう。     

  

1/31 扼殺のロンド 小島正樹 原書房

 
 チープさが抜けたわけではないし、笑いどころを見失うほどの真面目な書
きっぷりだが、トリックのバカさはより鮮明に際立った。これに加えて、読
み巧者をもミスリードする二重構造の罠が、今回は完璧に決まってる。 

 この速いペースでここまで到達出来たのか。作者の力量を見誤っていた私
の不覚。一般的な評価に向く作品では決してあるまい。真相自体の美しさに
も欠けている。だが私にとっては、これは傑作のレベルと認めたい。  

 予想していたよりもはるかに早く、「代表作」を生み得るレベルに達しち
ゃったんだなぁ。しかもこれだって、「ああ、頂点はここだな」なんて感じ
は全くしないから、まだまだ代表作、最高傑作はこれから生み出すことにな
る人なのだろう。疑問符抜きで、堂々と要注目作家の仲間入り。    

 ただ「チープなトリック乱れ撃ち」という「数で勝負」というようなやり
口を続けてると、自分の首を絞めそう。根っからのトリック・メーカーみた
いだから、こんなのなら幾らでも思い付くのかもしれないが、これだけ入れ
ときゃ大丈夫だろ、では多分読者は付いてきてくれない。       

 見せ方・活かし方までおざなりでチープになってる感触も若干受ける。虎
の子のトリックを温めて温めて、それを最大限に活かすように話を組み上げ
て、という普通の作家の苦労(と想像しているのだが)を知らないのが、逆
に氏の弱みとして働きかねない印象があるのだよなぁ。        

 今回は車内密室のぶっとんだ派手さがあったから、他はまあ多少霞んでも
構わないとは思うが、「寄せ集めの作品」というイメージはいつか脱却して
欲しいもの。トリック・メーカーの職業病みたいなもんなのか。    

 結構おまけ気味な気はするけれど、見損なってた不覚もあるし、年末のベ
ストでも残しておきたいように思えるから、採点は
8点としよう。   

  

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