ホーム創作日記

 

8/11 贖罪 湊かなえ 東京創元社

 
 大枠のイヤ物語構造の中で、書簡・独白等の一人称形式でイヤ話を連鎖さ
せるという、潔すぎるほどの処女作の二番煎じ。その狙いは成功して、見事
に二番煎じレベルの作品として結実していると言えよう。       

 映画なんかでもそうだけど、続編で気合い入れてパターンを変えてきたも
のほど、大コケしてしまうのは良くある話。当たった一作目をフォーマット
として二番煎じに徹することで人気継続するのもよくある話。     

 湊かなえももういっそ、潔くこのフォーマットで続けられるとこまで続け
ていった方がいいのかも…… いや、私は付いていく気はないけどね。 

 これまでの三作、意外性という意味では実はさほど力強さはない割に、こ
れだけインパクトを与えているのは、それがイヤさと直結してるから。 

 とにかく、イヤな話をこれだけ作れるのは才能だろう。いや、才能であっ
て欲しい。これが才能以上に努力のたまものだったりして、と考えたらちょ
っと怖くなるから。”怖い物見たさ”の例として、「湊かなえのネタ帳」を
挙げなくちゃいけなくなっちゃうじゃないか。            

 厭ミスを好んで読む趣味はないので、ここいらが潮時かな。採点は6点

 ところで、この装丁の意味は何? 私の感覚ではさっぱり理解できん。

  

8/12 SF本の雑誌 本の雑誌社

 
 必携のガイドブックというわけではないが、SFのいろ〜んな要素がごっ
たごったと節操もなく詰め込められてる。つまりはそれこそSFやん、とい
う感じがして読んでて楽しかったな。 
               .

 オールタイム・ベスト100は、選び方も順位もいい加減さ極まるけど、
SFだったらそれでもいいかなとも思えるんで、これはこれであり。言って
おくが私はSF偏見者じゃないぞ。SFだって大好きなんだからね。  

 ただ思うのは、SFにはきっと最大公約数ってのがないってこと。ミステ
リのように謎と解決が必要とされるようなフォーマットがないだけに、自由
度がでかい、でかすぎる。だから三人で選ぶより百人で選んだ方が絶対いい
とか、一万人、百万人(そんなにSF人口はいません)の方がいいのかって
言や、決してそうではないと思うのだ。               

 ちなみにどういう作品がどういう順位で選ばれているかは、コチラで自分
の既読率もろともチェックできるので、是非どうぞ。ちなみにわたしゃ38
作品。調べた時点で842人中211位。まだまだ〜。        

 ごった煮コラムに、マニアックなサブジャンル・ベスト10(本格ミステ
リSFはもっと珍しい作品こそを紹介して欲しかったけどなぁ、ちと甘い)
に、円城塔とりみきの作品と、読み応えありで自分は満足。     

 ガイドブック風に思えて、実は読み物なので、必携というわけではないけ
どね。読んで楽しかったけど、そういう意味も含めて、採点は
6点。  

  

8/19 七つ星の首斬人 藤岡真 東京創元社

 
 必要以上とも思える執拗な煩雑さに加えて、この読み難さが辛い。  

 直球のフーダニットであることは否定しないが、犯人名のみ伏せた真相解
明シーンで期待させる割にはロジックは弱い。マニアックなミスリードも、
真相の煩雑さのせいで、さほど効力を発していないように思えた。   

 ペダントリーとは言い辛い雑多な知識が振りまかれているが、説明も薄く
ぼんくらな読者としては置いてけぼりを喰らってしまう。これがイキではな
く、スノビズムの方向に傾いてる感じを受けるのも気になる部分。   

 またこれにも密接すると思えるが、キャラ設定が画一的な気がして区別が
付きづらい。どれもこれも藤岡先生の分身みたい。藤岡センセがわらわらと
集まって、藤岡センセに読まれるが為だけに演じているような雰囲気。独り
よがりで読者目線が無いように感じられてしまうのだよなぁ。     

 名探偵のみならずワトソン役でさえ読者の一歩上に立っているのが、その
印象に拍車をかけているのではないかと思う。ぼんくら読者を代弁する「説
明してして」キャラを、やはり配置して欲しかったものだ。ノックスの十戒
は、バカにしたもんじゃないな。こうして今でも通じるのだもの。   

 その他の点で云えば、トリックはバカミス的であるが、裏をかかれたとか
吃驚したというような、ヤラレタ感は感じなかったかなぁ。密室トリックは
無かった方がましだったような気もするし。言葉遊びは自分としては当然好
きな分野なのだが、決め手ではなく余技の範疇であって欲しかった。  

 総合的にこれまでの氏の著作の中で、最も満足感を覚えることが出来なか
った作品。採点は
6点。おお、なんと初めて7点が付けられなかったぞ。

  

8/25 透明な一日 北川歩実 創元推理文庫

 
 なるほどこういう構図があり得るのかという驚き。たしかに伏線も充分張
ってあったよなぁと納得できた。年間ベスト5クラスの佳作だと思う。 

 考えてみると現代本格って、こういう”構図の妙”で魅せる作品が、非常
に強いポジションを占めているように思えるな。犯人がトリックを使って、
探偵が手掛かりを見つけて、論理で犯人を指摘する。そんな昔ながらの典型
的本格ミステリの型は、既に典型的ではないとすら言えるのかも。   

 最初はやはりフーダニットありきだったと思う。ある程度パターンが見え
てきちゃうと、バリエーションの広さでは無限の可能性のあるハウダニット
に流れていく。猫も杓子もな状況からは、ホワイダニットに着目すべし、と
いう提唱が生まれてくる。                     

 そういう多様化していく中から、ホワットダニットが一つの主流になって
きているのは、ある意味自然なのかもしれない。トリックやガジェットとい
った点の着眼点から、プロットというような線の着眼点に重点が移るうちに
は(勿論こちらだけに偏るはずはないのだが)、ホワットダニット作品が多
く産み出されてくるのは道理。というわけで(かどうかは知らないが、自分
はそう分析してみた)、現代はホワットダニットの時代なのだ。    

 おっと、本書から少し大きな話に流れてしまったな。採点は8点進呈。

 ところで、前向性健忘って他人事ではなかったんだってことが、本書を読
んで分かってしまった。いとも簡単になれちゃう……っつうか、年に何度も
なってる…… 二日酔いの朝に(笑)。    昨夜の記憶が……   

  

8/28 スロー・バード イアン・ワトソン ハヤカワ文庫SF

 
 うわー、凄ェ、こりゃ凄いや。センス・オブ・ワンダーな奇想SFの嵐。
「一体この話はどこに行き着くんだろう?」という意味では、必ずしも完璧
だとは思わないが、これだけのアイデアの洪水見せられたら、ひれ伏すしか
ないな。短編集のオール・タイム・ベスト20ならば入れたい作品だ。 

 大森望の解説を参考にして書くと、体から抜け出した魂、文明崩壊後のS
F世界大会、絶対零度より寒くなったら、地面が垂直に広がる世界、量子論
的な確率世界の異星人との接触、超低速で時間を逆行する男、地球をプレゼ
ントされた女の子、大西洋横断遠泳世界大会、等々こんな奇想の数々がもう
お腹いっぱいになるくらいひしめき合ってるのが本書なのだ。     

 バカミス同様、バカSFもバカではいけない。きちんと理性の上に立って
こそバカSFになり得るというのが、よくわかる作品集。       

 こんなバラエティに富んだ良質な個人傑作選だと、ベスト3選びも楽しい
ものだ。個人的にはたとえSFであろうと、閉じた話(発散させて終わりで
はなく)が好きなので、そういう作品中から「超低速時間移行機」「寒冷の
女王」の二作を選択。表題作よりぶっ飛び具合が激しくて良い。    

 残り一作はアイデアだけのナンセンスSFながら、とぼけた口調で抜群の
雰囲気を醸し出す「我が魂は金魚鉢の中を泳ぎ」を選択してみよう。  

 奇想好きの人には安心して薦められる作品集だろう。採点は8点。  

  

8/31 Q.E.D.33巻 加藤元浩 講談社

 
 遅ればせですが、第33回講談社漫画賞少年部門の受賞おめでとうござい
ます(ちなみに児童部門はえぬえけい『名探偵夢水清志郎事件ノート』)。

 今更ながらという気がしないでもないが、何か特別なきっかけでも? ま
さか、あのあまり評価できなかった映像化ではあるまいに。ともあれ、地道
に頑張っている良作が評価されるのは嬉しい限り。素直に寿ごう。   

 さて今回の二作品は、どちらもが心理をロジカルに解き明かす作品。人情
話に落とさないように一線を引かれた、かすかな冷ややかさがいい。  

 まずは「パラドックスの部屋」。人は矛盾に満ちた存在。心理を論理で解
き明かすのは本来難しいものだが、その制約の中で一つ正当性を持ったフー
ダニットを成立させているのが面白い。               

 ホワットダニット自体は特に意外性等は感じられないのだが。    

 続いては「推理小説家殺人事件」。自分は性格というあやふやな要素で推
理してミスリードさせられたのだが、こっちの解決はまともだった。ロジカ
ルに解けていて好感が持てる。                   

 だけどなぁ〜、「こんなどうでもいいトリックのために……」なんてこと
は、当然言っちゃいけないんだろうなぁ〜(笑)           

 平均点よりは高めの作品二つだが、総合採点は6点。        

  

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