ホーム創作日記

 

5/1 屍島 霞流一 ハルキ文庫

 
 今頃読んでみた奇蹟鑑定人ファイルの第二弾。           

 様々な動物をテーマにしている霞流一だが、本書のモチーフは「馬鹿」。
ってことで期待したのだが、馬鹿な人物像は豊富だが、謎解きはあまりバカ
ではなく、全然はかばかしくない出来だったなぁ。          

 状況等はそれなりに頑張っているのだけど、トリックは意外に普通だし、
何より面白くしてる状況のホワイが、あまりにも無理矢理な動機付けだった
りしてるから、ミステリ者としてはすぅ〜っと引いちゃうってば。   

 論理にこだわる作者にしては、このホワイの論理付けが出来てない。そう
なるとガタガタに崩れてしまってるように思えるんだよな。      

 しっかし、奇蹟鑑定人というアイデアだけは秀逸だなぁ。バカな世界だと
か、異様なトリックだとか、奇妙なロジックだとかに、ほんとすんなりと導
いていけるものな。己を知り、己を活かす、巧の技かと。       

 古い作品なので、感想は軽めに。採点は6点。           

  

5/4 鬼の跫音 道尾秀介 角川書店

 
 作者初の短編集はミステリではなくホラー。しかしながらその全編が、ツ
イストの効いた驚きに満ちたものばかり。道尾マジックに溜め息だ。  

 そもそも、この「鬼の跫音」という題名自体がミスリードだったりするん
だよなぁ。おどろおどろしきものを想定させておいて、実は意外にほのぼの
としたものであったりする落差。ホラー短編集という趣でありながらも、怖
さよりも驚きが威力を発揮する、本書の本質を暗示するものなのかも。 

 さて恒例のベスト3だが、本書においては前半の三作品と後半の三作品が
呼応するように感じられた。その呼応する対のうち、片側の方が明らかに出
来が良いと思う。対の特徴と勝利者(私の採点で)という形式で発表。 

 まずは1作目「鈴虫」と4作目「箱詰めの文字」。これはいずれもミステ
リとしての逆転のテクニックが光る作品。現実をベースとして、ミスリード
とひっくり返しを華麗に決めている。「鈴虫」の勝ち!        

 続く2作目「ケモノ」と5作目「冬の鬼」は、作品としての雰囲気の作り
込みが見事で、また全体としての完結感が重視される作品。ミステリ・ファ
ン以外にも魅力の感じられる作品達だろう。「冬の鬼」の勝ち!    

 前半ラストの「よいぎつね」と後半ラストの「悪意の顔」。これらはもう
リアルとファンタジーが交互にひっくり返る構成の妙で魅せる作品。どちら
に収まるのか最後まで(ひょっとすると最後になっても)わからない。これ
は「悪意の顔」の勝ちで、本書のベストもこの作品としたい。     

 短編集でさえ、これだけの驚きを突きつけてくる道尾秀介。まだまだ底は
見えそうもないな。好きなジャンルだったら8点にしたいくらいの
7点

  

5/8 少女 湊かなえ 双葉社

 
 この因果の連鎖を「伏線とその回収」と解釈するのは抵抗がある。作品と
してのツイストはあるが、衝撃はない。黒さはあるが、厭さ・痛さの底は浅
い。作者が登場人物になりきってる感もなく、前作には遠く及ばない。 

 今回の手記の書き手は二人の少女。そのため、気持ちの悪い自意識の連鎖
が延々と繋がるグロテスクさはない。その代わりそれぞれの特徴は薄く、記
号で区別されていてもどっちだっけ?と混乱しかねない有り様だ。   

 それだけに作者の入り込み具合があまり感じられず、決定的に迫力に欠け
ている。「人が死ぬ瞬間を見たい」という動機にも説得力は感じられない。
元々読者の共感で繋いでいくのではなく、読者と隔絶した心理で距離を置い
て描く人なのだろうが、中途半端だと読者としての立ち位置に戸惑う。 

 この因果の連鎖にしたって、ミステリチックにしようという作者の意図か
もしれないが、設計図で作られた物のように感じられて、生々しさがない。
作者の作風としては(わずか二作で判断するのもなんだが、それだけ処女作
の印象が強烈なのだろう)馴染まないのではないか。         

 ただ彼女の経歴を見ると、BSーi新人脚本賞佳作入選だとか、創作ラジ
オドラマ大賞受賞だとかある。こういう”話としての構成”を組み上げるの
が、得意なのかもしれない。処女作はたまたまそこに厭心理が上手くはまっ
ただけのフロックだったりして……                 

 早速もう三作目が出版されようとしているみたいなので、そこまで読んで
自分の中でけりを付ける作者なのかも。採点は
6点。         

  

5/11 赤い月、廃駅の上に 有栖川有栖 メディアファクトリー

 
 ホラー短編集ということだけど全く怖くはない。ファンタジックな緩〜い
怪談話。着想としてはありがちだけど、バリエーションで見せるというのも
いつもの手法。文章で読ませる雰囲気なのはちょっとだけ新鮮。    

 全くもって非テツな私としては、全編鉄道が絡んでいることなど、何の意
味ももたらさない。それぞれの作品のアイデアの質にめぼしいものなど一切
無い。ミステリでもない。ああ〜、なんで読んでしまったんだろ〜。  

 基本、有栖ってばロマンチストなんだよな、と思える作品がチラリチラリ
感じられたのが唯一新鮮な収穫。なので、ベストこそ「黒い車掌」とするが
(結末に向かって主人公が悟っていく描き方がいい)、「貴婦人にハンカチ
を」「途中下車」を残り二作とする。前者ラストのキザさがたまらん。 

 こんな作品集に必要以上に厳しくしてもしょうがないので、採点は6点
しかし、うんざりしたのは(作者には全く関係ない話だが)最悪の紙質。昔
の学校のプリントじゃないんだからさぁ、これはないよ。       

  

5/13 ロング・ドッグ・バイ 霞流一 理論社

 
 たしかにヤングアダルト仕様かな。中掛かりな物理トリック(大掛かりっ
てのとはちゃうのよね)はいつも仕様でも、馬鹿さ控えめ。笑いの黒さも親
父さもなく、ほのぼの系。霞流一としては喰い足りない。       

 だってミステリよりかは、見所としては冒険物だよね。どうやってみんな
して自由の身になるか(その逆もね)、どんなにみんなの特徴を活かして捜
査するか、そこんところのわんわんがやがや(ちゃう、わいわいがやがやが
や)な犬奮闘(ちゃう、大奮闘)振りがきっとメインだよね。     

 特に前者なんか、霞流一が嬉々として書いてる姿、もうはっきり目に映る
ってば。トリック仕込むより何倍も楽しかったろうなってのが、こだわりす
ぎなくらいこだわった凝りようと、その分量に表れている。      

 毎日覗かせて貰っているサイトでもよくわかるが、ホントに犬好きなんだ
なってのを証明する、犬好きのためのミステリ。サイトが犬だらけって意味
では、もはやミステリ界一となってしまったくろけんさんが、きっと嫉妬し
てるに違いない。家族物に続いては、きっと犬物で来るな(予言)。  

 そんな動物好きな血はいざしらず、本格ミステリ者としての血は沸き立た
なかったので、採点はあまりワンダフルではない
6点。        

  

5/14 トレジャー・キャッスル 菊地秀行 講談社ミステリーランド

 
 どうでもいい話。捻りが無いのが捻りだとでもいいたいのか。これをハッ
ピーエンドとは認めんぞ。説明もなく、謎もなく、何一つの仕掛けもなし。
執筆陣に名前挙げられてこれだけたってこれか? 子どもなめんなよ! 

 子どもだましというのも、子どもに失礼だよってほど、いい加減な作品だ
としか思えなかった。いやさ、せめて、子どもだましでいいから、騙してく
れればまだいいよ、さっぱり騙しにもなってない。というか、一切狙ってる
ものはないとしか思えない。                    

 適当に話作って、適当に書いただけの話じゃないのか? 菊地秀行の作品
はほとんど読んだこと無いけど(多分「吸血鬼ハンターD」を一冊読んだだ
け)、多作傾向から見てもこんな感じなのかなと思ってしまったよ。  

 どんな「適当」でも、それが心の琴線に接点が持てる人だったらいいのだ
ろうが、どうも自分は全くの対象外らしい。             

 長く語る必要性すら感じない。採点は5点。ひょっとしたら今年ワースト
かも? ゼロはマイナスよりは上だってことで、ミステリーランド順位表
は最下位殊能の上に置いとくことにするか。             

  

5/17 ジュリエットの悲鳴 有栖川有栖 ジョイノベルス

 
 やっぱりアリスのノン・シリーズ短編集はしょーもないなぁ〜。どうでも
いい作品がいくら寄せ集まっても、どうでもいい作品集にしかならないとい
う、そんな当たり前のことが実感できる短編集。           

「赤い月、廃駅の上に」で懲りたはずなのに、何故またこんな昔の作品を読
んじゃうかなぁ、自分。ただでさえ積ん読は無数にあるというのに。でも、
なんのかんの言って「スイス時計」だとか、「女王国」だとか書いちゃう人
なもんだから、基本はきっと愛しちゃってるんだろうと思う。     

 いかにもショート・ショートらしいオチが爽快な「世紀のアリバイ」、
野圭吾
「名探偵の掟」みたいなパロディ色強い「登竜門が多すぎる」、酒の
席の冗談を幻想短編に仕立てたような「パテオ」がベスト3。     

 まぁ、どうでもいい6点。氏のノン・シリーズってみんなこんなもんか。

  

5/21 事件を追いかけろ 日本推理作家協会編 カッパノベルス

 
 三年間分の短編から三冊のアンソロジーを編むという、ユニークな編集方
針の年間傑作選もどき。「サプライズの花束編」と銘打たれてはいるが、シ
リーズ・キャラクタ編、ホラー&サスペンス編に続く最終巻というだけ。驚
きに的が絞られているわけではないので、醍醐味はさほど感じられない。

 ユニークではあるが、緩やかすぎるんだよな。つうか、シリーズ・キャラ
クタ編って、内容なんて全然関係ないやん。商売都合かもしれないが、こん
な無意味な巻作らないで、ちゃんと中身で分けて欲しかったぞ。    

 じゃあ、三年などと言わず、五年分くらいでもっとジャンル分けした巻に
してくれれば、それぞれの好みに合わせられて……って、既にそれはもう年
間傑作選の意味ないって。素直にアンソロジー編めよって話だな。   

 ははは。結局目先を少し変えただけの、あんまし意味のない編集方針って
感じになるのかな。だいたい表題と副題がそもそも雰囲気乖離してるし。

 まぁ、そんな感じで実はサプライズは薄めの本書だけど、中で飛び抜けて
出来が良いのが、横山秀夫「密室の抜け穴」。頭二つ三つも抜きんでてるダ
ントツっぷり。傑作揃いの氏の作品中でもベストかとも思う作だしな。 

 残り二作は北川歩実「天使の歌声」、光原百合「花をちぎれないほど…」
としよう。伊坂幸太郎「バンク」は話は面白かったけど、作品としての完結
のさせ方が破綻している。基本的にミステリ志向の頭の人じゃないよな。

 サプライズの期待を全然満足させてくれなかったので、採点は6点。 

  

5/25 学ばない探偵たちの学園 東川篤哉 ジョイノベルス

 
 潔いほどに純粋なトリック小説。というより、いつもながらユーモア小説
としてのレベルは推して知るべしなので、そこしか楽しみようがないじゃな
いか。そうか、じゃ、「潔くないけど結果的に純粋な」とすべきだね。 

 そのトリックもなぁ、馬鹿馬鹿しくはあるけれどバカとはちょっとだけ違
うんだよなぁ。ユーモアの系列には入り損なってるという雰囲気。   

 最初の密室のトリックは、今年の初め頃読んだあの人のあの短編にそっく
りだなぁ。というより東川氏やあのお方の新着想ってわけじゃなくて、割と
誰もが思い付き得るものなだけに、きっと過去にも何度か同着想で使われて
るんだろうなぁ。まぁ、そこからどういう現象を導き出すか、ってところで
各作家の見せ場が作られるんだから、それでも構わないけど。     

 ってことで、そっちは割とどうでもいいんだけど、もう一つの密室トリッ
クは個人的には結構好き。かなりいい感じまでバカっぽさに近付いてきては
いるんだけどね。簡単には気付かせない工夫が入ってるなど、ひと味効かせ
てあるし。ただまぁ、コナンのアニメで見たいよねってレベル。    

 というわけで、トリック小説としてしか評価のしようがないけど、そこだ
けを取り出してもまだ弱いよな、の平凡な
6点。           

  

5/26 白の恐怖 鮎川哲也 文華新書

 
 予告のみで胸をわくわくさせてくれた「白樺荘事件」として蘇ることは、
もう二度と叶わない作品(少なくとも作者自身の手によっては)。   

 鮎川哲也としてはディテールに欠けるが、本格ミステリとしての驚くべき
企みが炸裂する意欲作。読めて良かった。現代の図書館の横のネットワーク
は超強力。どんな絶版本だろうが諦めずにチャレンジする価値はあるぞ。

 オールタイムベスト級の短編ミステリ(「達也が嗤う」だとか「薔薇荘殺
人事件」だとか)を、そのまま長編に置き換えたような作品は、「リラ荘事
件」を除けばそうあるわけではない。どこまで成功しているかどうかは人そ
れぞれ評価は分かれるところだろうが、本書はその系統に属している。 

 但し「リラ荘」はその細部まで徹底的に練り込まれた、本格ミステリの教
科書のような作品だったが、本書の場合は大元の発想が幹をなしてるだけで
細部の詰めがない。思い付きを勢いだけで取りあえず形にしてみた、第一稿
のような荒さを感じる。やってることも相当に無茶があるし。     

 この幹に枝や葉がきっちりと実っていれば、凄い作品になり得たポテンシ
ャルを持った作品なんだけどなぁ。勿体ないと思うし、きっとそういうとこ
ろが作者としてもも本意ではなかったのではないか。         

 となると、これを「白樺荘事件」として再生させるには、相当手を加えね
ばならなかったはず。極端に言えば「リラ荘」を再構築するような手間を。
さすがにそれは重荷だったのだろうなぁ。              

 しかし、これだけのパワフルなネタはとても捨てがたい。読めた満足感が
結構なウェイトを占めるのかもしれないけれど、採点は
8点としたい。 

  

5/31 神国崩壊 獅子宮敏彦 原書房

 
 ミステリとしてのネタは小粒ではあるけれど、それを歴史物・時代物とし
て組み入れる構築力には感嘆した。トリックのネタ自体はシンプルでも、ダ
イナミックな謎が、歴史物として魅了する方向に上手く作用している。 

 ただそれだけに第一部・第三部を追加して、探偵小説という枠内に押さえ
込もうとしたのには疑問あり。歴史の変遷を描いた叙事詩に特化しておいた
方が良かったのではないかという気がする。             

 さて、冒頭で「小粒」とは書いたが、これはひょっとしたら失礼に当たる
かもしれない。使い方自体はとんでもなくでかいのだもの。「大山鳴動して
鼠一匹」ということわざがあるが、それを逆にして見せたのがまさに本書。
「鼠一匹にして大山鳴動さす」ってところだな。           

 小さな一つの核からミステリという作品を結実させる名人は有栖川有栖
と思うが、核はそのままにそこにいろんなものを被せていくことで、それを
為すのが彼のやり口。                       

 獅子宮敏彦の場合は違う。まずは一つの核をそのまま何十倍、あるいは何
百倍にも膨らます。そこに更に歴史物としての被せものを加えていくのだか
ら、とても量産が効きそうな作風ではない。             

 膨らんだ後だけを考えれば、とんでもないバカミスとして評価することも
可能だろう。特に「マテンドーラの戦い」「帝国擾乱」の二作が提示してい
る謎と解決は、バカミス好きなら狂喜乱舞しても良いレベル。     

 ただなぁ、やはりそれは鼠一匹だと個人的には思えたのだよなぁ。着想自
体は割と”小粒”。別にでかくもなんともない着想をどういう舞台に適用す
るかという、そのスケール感だけが異様にでかいのだと。       

 ミステリは結果良ければ全て良しとも思いはするが、これを手放しでは評
価できないのと、外枠の設計は成功してはいないので、採点は
6点。  

  

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