ホーム創作日記

 

5/2 狼の契約 和田大儀 文芸社

 
 作者の方より直接連絡を受けて、贈っていただいたもの。どうもありがと
うございます。ストーリー紹介等詳細は、こちらのページをご覧下さい。

 民話系ホラーな導入部から、近未来SFにおける裏社会描写、世界を転回
させるミステリ的展開を経て、カタストロフィへと導く、ジャンルごった煮
な作品。強引に分類すれば、SFホラーが一番近そう。        

 とにかく裏モノ・ガジェット満載で、あまり健全な読書体験とは言えない
かも。__フィリアに当てはまる言葉を即座に二つ挙げられる人向け。 

 ミステリとしての趣向で云えば、二つのサプライズのうち一つはわかりや
すかったかなと思う。ありがちといえばありがちだし、ある意味伏線だらけ
の描写でもあったし。                       

 もう一つのサプライズはミステリとして気が利いてる雰囲気ではあるが、
説明し切れていないところが惜しい。死体消失の謎やレズ・クラブの描写に
必然性が感じられなかった。このあたりの説明・伏線が納得できる範囲で提
供されていれば、もっと強い印象を与えられたんじゃないかと思う。  

 それでも、そういう二つのサプライズで読者の先入観を突き崩し、世界を
転換させようという意欲は嬉しく感じられる。            

 全体的にはノワールの筆致で、SF・ホラー・ミステリ・ファンタジーの
要素を、全て取り入れた作品。                   

 それでありながら、テーマは「愛」。               

 上記サイトの物語紹介が詳しいため、自分に合うかどうか判断しやすいと
思う。興味ある方は、ご確認の上、ご購入お願いします。……と、本を頂い
たのでちょっとだけ宣伝モード。私の採点は
6点。          

  

5/7 秋の牢獄 恒川光太郎 角川書店

 
 いずれもある環境(牢獄)に囚われてしまう物語。ホラーと云うにはもの
悲しい。ファンタジーと呼ぶには妙に生々しい。だけど中途半端かというと
そうではなく、作者独自の世界が築かれているように思う。      

 表題作がリプレイものだということで読んでみた作品。たった一日だけの
繰り返しという前例ある設定に於いて、そこから比較的容易にシミュレート
出来る範囲の物事しか書かれていないような気がした。        

 たしかにこういうコミュニティは作られるだろう。こういう行為を行う人
も当然いるだろう。でも、そういう普通のことを読みたいわけではない。

 普通の範囲からはみ出しているのは、ファンタジー要素として投入された
かのような「北風伯爵」くらいだろうが、かといってこれから予想を逸脱す
るような結果が産み出されているわけでは決してない。        

”文学”ではなく、なんらかの”発想”を欲している自分としては、満足感
を与えくれた作品とは言い難かったかなぁ。雰囲気としてはいいと思うんだ
けども、自分の中の理屈としては惹かれられないのだ。        

 続く「神家没落」の方が、簡単なだけではない発想が見られて、なおかつ
迫力のある作品だったので、読み応えはこちらの方が上だった。    

 お伽噺の結構なんだけども、ホラーに近いミステリ・テイストが加味され
ていて、生臭さと生々しさでイヤミスの味わい。ファンタジー・ホラー・ミ
ステリという三つの素材を、作者ならではの味付けでミックスした佳品と言
えるだろう。                           

 全体的にミステリの文脈で語る作品ではないので、採点対象外の6点

  

5/12 まごころを、君に 汀こるもの 講談社ノベルス

 
 魚蘊蓄、魚蘊蓄、魚蘊蓄……                   

 本邦初の魚ミステリシリーズの面目躍如といったところだろうか。何せ、
「見た目だけのグッピー男」なんて言ってしまっただけで、最初の”「”か
らその括弧が閉じられる”」”まで、114行ノンストップ、一字下げすら
無し(確信犯だなぁ)なんつう、怒濤の講義(いや、抗議か)が繰り広げら
れたりするんだからなぁ。                     

 ただデビュー作のように、本格に喧嘩売ってくるような悪魔の所業(笑)
はなく、ミステリとしては大人しめ。ちょうど森博嗣「すべてがFになる」
に対しての「冷たい密室と博士たち」といった位置付けだろうか。   

 そうなると、次は問題作「笑わない数学者」の順番ということになるのだ
が…… 傑作と駄作との評価が真っ二つに分かれたのを思い出す。ただでさ
え、あの強烈なデビュー作で毀誉褒貶の振れ幅MAXを体現したこるもの、
更なる問題作を果たして登場させ得るのか、興味は尽きないぞ。    

(ちなみにわたしゃあ「笑わない数学者」駄作派なんだけどさぁ〜(笑)) 

 さてまぁお次はともかく、今回はキャラクタ要素が強く押し出されていた
作品だったように思う。中でも特に、双子であることの意味について、真樹
が追い詰められるシーンはスリリングなので、シリーズ読者にとっては読み
逃せない巻になることだろう。                   

 大量の魚蘊蓄を絨毯爆撃のように投下し続けるこるもの(この圧倒的な質
と量は間違いなく史上最強、いやあるいは最驚もしくは最凶もしくは最恐も
しくは最脅もしくは最兇もしくは最狂かも?)。           

 問題は、その焼け野原をキャラクタ小説というブルドーザで強引に進んで
いってしまうのか、それともミステリという地雷で更に焼け野原ごと吹っ飛
ばしてくれるのかってところ。いまだ彼女からは目が離せないようだぞ。

 デビュー作はメフィスト賞ってことで客観的な(?)採点対象としたが、
二作目以降は身内ってことで採点は控えさせて貰うこととしよう。   

  

5/17 芝浜謎噺 愛川晶 原書房

 
「落語を演じて謎を解く」という結構は前作と同じではあるが、今回はもっ
と中身まで踏み込んでいるのが特徴的なように思う。         

 落語というものが”誇張された滑稽”をベースにしているにも関わらず、
その中の一部の不自然さを指摘する人物を配することで、「落語をミステリ
的な視点から解釈し直す」ということに挑戦しているのだ。      

 しかしこれは粋になるか不粋になるか、危険なところでもある。この趣向
が中心となっているのが二話収録されているのだが、実際私の採点だと一勝
一敗である。自分の感覚では「野ざらし死体遺棄事件」の改変は不粋。 

 落語の世界って一種のファンタジー界だろうと思う。現代の感覚だと、江
戸時代ってだけだって充分に異世界なのだ。不可思議は不可思議のままで構
わない。下手に謎解きやっちゃうと白けてしまう。私にはそう感じられた。

 まぁ、”粋”というのは基準で測れるものではないから、評者によって全
然違ってくるだろう。是非自分で確認していただきたい。       

 落語の方だけでなく、事件側もやり過ぎな感じがして、不自然な印象を受
けてしまった。どうもこのシリーズは、あまりミステリミステリしてない方
が心地良く読めるのではないかと思えてしまう。           

 その心地良さが上手く発揮されたのが、二話目以降。表題作と「試酒試」
が合わさって、一つの中編という趣である。それぞれの人情噺でホロリとさ
せておきながら、ぬけぬけと人を喰ったようなオチでサゲてくる。これって
まさに落語そのものじゃないか。                  

 一話目ではちょっとうぬぬと思わされたが、この二話の組み合わせは絶妙
で、泣きと笑いと謎解きの三位一体にぐっと来る。またもギリギリの
7点

  

5/21 狐火の家 貴志祐介 角川書店

 
 最後のボーナス・トラックを読むと、このシリーズって”書き方を間違っ
たバカミス”なんじゃないかって思えてきた。誤った挙げ句に、良質の本格
ミステリになっちゃってるんだから(前作は推理作家協会賞だったし)、ど
っちに転んでも結果出してくれてるのが凄いところだけどね。     

 一見いかにも直球のパズラーのように思えるんだけど、実はその範疇で捉
えるのは、間違い(というのは言い過ぎかもしれないが、多分全面をカバー
できてはいない)だろうと思えてしまうのだ。            

 これは例えば本書を「ど真ん中の密室物短編集」として評することと、同
じような意味合いで間違い(のようなもの)なんじゃないかと思う。  

 たしかにシリーズ前作は、正面からの「密室物」だった。しかし、本書で
の「密室」の扱い方・扱われ方は、決してそうではないと私は思う。密室が
どのように(あるいは何故)成立しているのか、犯人の意図がどのように働
いているのか、をどうか確認していただきたい。           

 全作品で「密室」が扱われてはいるが、本書を単純に「密室物作品集」と
して捉えることに、ちょっと躊躇してしまわないだろうか? 少なくとも、
”正面からの”という惹句は付けられなくなってしまうだろうと思う。 

 そんな捻くれた(誉め言葉)作品集であるが、中でもベストは断トツで、
「黒い牙」を推したい。密室トリック自体がかなり純度の高いハイレベルな
”バカ”であるだけでなく(こんな人物設定まで手がかりだったのかぁー、
というのもバカでいい)、密室を成立させる要因が複層で何重にも効いてい
るのがなにげに凄いぞ。地味に扱われたホワイが、最後にクローズアップさ
れてスッキリと解決されるのも、いい読後感だ。読中は○○尽くしで(作者
の意図を尊重して、ここでは一応伏せておこう)、ぞわぞわしちゃうんだけ
どさぁ。最後は報われるぞ。バカ好きなら特に。           

 本格としてもバカミスとしても愉しめる本書なので、採点は7点。  

  

5/23 ナポレオンの剃刀の冒険 エラリー・クイーン 論創社

 
 クイーンばりの(いや、だから、本人だってば)ロジックだけでなく、犯
人の隠匿の仕方が非常に巧妙なことに驚かされる。適度な長さと難易度で、
犯人当てとして存分に愉しめちゃうぞ。               

 勿論、私もクイーンに対してガチンコ勝負で挑んでみたのだが、結果は三
勝五敗の惨敗。せっかくだから、私の恥(間違い推理)を晒してみよう。

「悪を呼ぶ少年の冒険」…事故死。所有者も知らなかったが、バイオリンの
中にヒ素が隠されていた。バラバラにされたときにそれがこぼれ落ち、ヒ素
を食べてしまった兎を、たまたま被害者だけが食べてしまった。
    

「ショート氏とロング氏の冒険」…ロング氏は何らかの方法(竹馬みたいな
もん)で背を伸ばしたショート氏。ヴェリーの台詞「背を縮めさせてもらう
ぜ」が、文字通り実現してしまうコメディ・シーンを想像してしまってた。

「殺された蛾の冒険」…蛾が死んでいたのは、犯人が窓から侵入した際に一
緒に入り込んでしまったため。窓から侵入する必要があった唯一の人物、ブ
ラウンの妻が犯人。元夫婦の寝室であり、暗いので被害者を勘違いした。

 ベストは断然「ブラック・シークレットの冒険」。実は解けてしまったの
だが(プチ自慢)、巧妙なテクニックに舌を巻く傑作。犯人指摘のロジック
が最もスマートな「呪われた洞窟の冒険」が第二位。個人的には犯人の意外
性が一番大きく、ロジックも納得の「殺された蛾の冒険」が第三位。  

 でもまぁ、順番付ける必要もないほど、どの作品もホントに見事な出来映
え。飯城氏の各作品に対する詳細な解説も、面白味を数割増にしてくれる。

 クイーンが読めるって嬉しさだけじゃなくて、これだけの良質な犯人当て
が読めてしまうんだもの、
8点付けなきゃミステリファンじゃないだろって
もんだ。ひょっとして自分の今年の海外編ベストはこれで決まりかな? 

 二巻なんて言わずに、続巻どんどん出しちゃってくださいよぉ〜!!!

  

5/29 クラリネット症候群 乾くるみ 徳間文庫

 
 旧作「マリオネット症候群」と新作「クラリネット症候群」のカップリン
グ。商売上手なのはそれだけじゃなくって、ちょっとこの装丁を見ておくれ
よったら。左の二冊が文春文庫「イニシエーション・ラブ」「リピート」

 ここまで露骨に「イニシエーション・ラブ」の便乗商法やるかなぁ〜。本
書の内容とも雰囲気とも、完璧なほどにマッチしていないし。他社のおこぼ
れ狙いって、編集としてのプライド無し? 商魂って醜いわ〜。    

 まぁこれは作者とは関係ないことだろうから、気を取り直して本編の話。
カップリングの感想は以前書いているので、今回は表題作のみ。    

 暗号物だけど、作中の暗号に関して言えば、相当に単純。「匣の中」「林
真紅郎と五つの謎」
を書いた氏にしてみれば、屁でもないレベル。   

 なんだけども、筒井康隆「残像に口紅を」を思い出させる暗号的手法が、
もう可笑しくてたまんない。読者としても、全編暗号解読しながら読み進む
という読書体験は、ちょっと新鮮で良いかも。校正は大変だったろうと思う
けど、きっと作ってて楽しかっただろうなぁ。            

 特に、冒頭のエッチな文面を一所懸命作ってる作者の姿を想像すると、な
んだか微笑ましくて、乾さん、可愛く思えて来ちゃうよ(笑)     

 こっちの作品の方が一応ミステリしてるけど、そういうことより「ああ〜
楽しかったぁ〜」という心地良い読後感で、断然コチラの方が良い。  

 言葉遊び好きとしては、早くも次が気になるところ。楽器繋がりだと「カ
スタネット症候群」。字数は変わっちゃうけどSF要素が強く展開できそう
な「プラネット症候群」。「インターネット症候群」は、実際の言葉として
ありそうだから却下だな。「パスネット」や「バックネット」は問題外。

 本命としては、展開の自由度が高そうな「マグネット症候群」かなぁ。意
外に着想が広がりそうな気もする「キャビネット症候群」を対抗で。どうせ
ならいっそ「マリー・アントワネット症候群」くらいに突き抜けてくれても
OKっす。全体としては非常にライトな作品で、採点は
6点。     

  

5/30 出口なし 藤ダリオ 角川書店

 
 ソリッド・シチュエーション・スリラーを求めるのであれば(しかも残虐
性を望まないのであれば)、過不足無く得られる作品かもしれないと思う。
まぁ、不足はあるかもしれないが妙な過剰さはないので、普通に予想できる
以上のものを求めなければ、そのまんまのもの程度は読めるのでは?  

「クリムゾンの迷宮」を嚆矢として(おそらく)、「極限推理コロシアム」
「左90度に黒の三角」等の矢野龍王の諸作、最近では本格ミステリ大賞候
補となった「インシテミル」などと同様、物語の外枠としては(それが説明
されない点まで含めて)、近頃お馴染みの設定と言えるだろう。    

 それ以上でもそれ以下でもない、つまりはそういう話。そんなのが読みた
ければこれで良し。きっと本書を手にする人のほとんどがそうなのではない
か。その枠を越えた期待はしない方がいいだろうってだけのことで。  

 矢野龍王みたいに登場人物が馬鹿ばっかしではなくて、ちゃんとあり得る
方向で頭を使っていて、駆け引きを行っているのは良いと思う。ゲームとし
て一応筋は通っているので、そんなに不快感も感じない。       

 生理的嫌悪感を抱かせるほど嫌ミス度合いが高いわけでもなく(性格的な
好き好きはあるだろうけど)、痛さやグロさもさほどでもないのは個人的に
は高ポイント。そういうのを求める人には物足りないだろうけど。   

 一方、ちょっとSFチックなところがあるのは、個人的にはイマイチ。幼
稚っぽく思えてしまうよ。CUBEの影響だろうけど、SAWシリーズなん
か凄くアナログチックだよね。さほど必然性は感じられなかったし、お約束
として楽しんじゃおうという遊び心ってわけでもなさそう。      

 予測したとおり、そのまんまだよね、の6点以外の何ものでも無し。 

  

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