ホーム創作日記

 

1/8 ウォッチメイカー ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

 
 噂に違わぬ傑作。最初の地点からは予想だにできない着地点へと、あれよ
あれよという間に連れて行かれてしまう。後半の怒濤のようなどんでん返し
の連続には唖然呆然。                       

 ディーヴァーさん、あんたをこれからは”どんでん返しモンスター”と呼
んでみようかと思うよ。怪物級のどんでん返しマスターにしてマイスター。
もう人間離れしたモンスターの称号こそがふさわしいと思うもの。   

 そんじゃどんだけモンスターかって云うと、でかいどんでん返しをドカン
と一発(どころか連発)ってぇだけじゃなくって、もう無数かと思えるくら
い細かいどんでんを張り巡らしてくるのだ。もう〜、どんだけぇ〜。  

 章が切り替わるたんびに「ええっー、そうなっちゃうのー」なんて、しっ
かりミスリードさせられちゃって、ほっと溜め息つかされたり。孫悟空のよ
うにお釈迦様の手の内で、もてあそばされることしきり。       

 発想がどでかいだけじゃなくって、繊細で細かいのだ。リンカーン・ライ
ムは、作者自身を反映したキャラクタなのかもしれないね。      

 でもってチーム・メンバーのレギュラー陣だけではなく、ゲストの活躍も
楽しいこのシリーズ(って最近の三作しか読んでないんだけどさ)。今回は
凄いぞ。ボディランゲージを分析し、嘘か真実かを見抜いてしまう、キネシ
クスってのの専門家なのだ。嘘発見器なんか不要だぞ。供述が証拠物件と言
ってもいいくらいの完璧さ。う〜ん、ほれぼれしちゃう。       

 ディーヴァー自身も惚れちゃったのか、なんとこのキャサリン・ダンスを
主人公に、別シリーズを立ち上げてるみたいだぞ。          

 ところで私は「ボーン・コレクター」未読のまま、この作品読んでしまっ
たんだけど、ひょっとしたらあの作品の意外性の一つを、失ってしまったの
ではないかしらん?                        

 個人的には、それでもやはり「魔術師」の方が好きだけど、いずれ劣らぬ
傑作。年末ベスト投票の〆切ギリギリに出版されたにも関わらず、このミス
1位になってしまうのも納得。本当に凄いシリーズだなぁ。文句無し
8点

  

1/11 パラダイス・クローズド 汀こるもの 講談社ノベルス

 
(なんと、MLの仲間内から”メフィスト賞作家”が誕生してしまった!)

 今、新しい時代が始まったのだ!                 

 京極清涼院舞城西尾など、方向性にそれぞれ違いはあれど、ムーブ
メントでも呼ぶべき、時代を動かす作者が登場してきた。       

 ここにまた、新たにその一員となる(かもしれない)トンデモ野郎が現れ
てしまったのだ。幸か不幸かは別として。              

 ここに挙げた作者達に共通するもの、それはいろんな意味で”本格”をぶ
っつぶしてくれたところにある。京極は完全なるアンチ・ミステリで本格を
愚弄し、清涼院はぶっとびの躁状態で本格を単なる遊び道具とし、舞城は本
格をもぐら叩き化し、西尾は本格を足蹴に別世界へ旅立った。     

 そしてこいつは、”汀(みぎわ)こるもの”というふざけた筆名の輩は、
大胆にも”本格”に喧嘩ぶっかけてきやがったのだ!         

このバカ!

いや、お前にはもっとふさわしい言葉がある。

このタコ!

 本格者達よ、いざ迎え撃て! 俺達の牙城を守るのだ!       

「”本格”への挑戦状」と題された章の最後の一行なんか、言わせっぱなし
にしてはなるまいぞ。最後の最後の三行なんか、丸めた消しカスにして、奴
の口に叩き戻してやるのだ!                    

 う〜ん、しかし、敵も油断はならないぞ。             

 デビュー作にして既に奴は、『こるもの国』(「こどもの国」のイントネ
ーションで読んでください)とでも云えるような、独自の世界を築き上げて
いる。やおいやボーイズ・ラブやラノベなんか自分には関係ないと思ってい
ても、いつの間にか、たこつぼのようにはまってしまってる自分に気付いて
しまうかも。                           

 世界少数の”タコを生で喰える”日本民族。そんな中でも悪食大好きと来
たら、本格ミステリ人種と相場が決まってる。            

 俺もアンタも大好きなはずさ、そう、バカミスって奴がね。     

 こんな間抜けな密室トリックなんて、なんて、なんて……バカヤロー、そ
うさ、好きだよ、認めるよ。バカトリック、ばんざーい!       

 …… はっ、いかん、すっかり奴の術中にはまってる ……     

 世界は霊長類から始まったのではない。生命は海からやってきた。  

 霊長類の犯罪で始まった”本格ミステリ”の世界をぶっこわして、再び海
から始めようというのか?                     

 いや、そんな大袈裟なもんじゃないんだけどさ(笑)        

 ま、とにかく、新しい時代の誕生にアンタも立ち会うかい? そして、俺
と共に戦って欲しい。奴が倒れるまで。こん畜生! 採点は
8点だ!  

  

1/13 夕陽はかえる 霞流一 早川書房

 
 読んだ作品はたかだかこれで6冊目で、こういうことを言うのはおこがま
しいかもしれないが、たしかに氏の最高傑作という評価には賛成。   

 山田風太郎や必殺仕事人のストーリーの骨格を、清涼院風の駄洒落ネーミ
ングで飾り立てた活劇アクション。でありながら、いつものバカトリックだ
けでなく、新本格風の仕掛けやお得意のロジックで、きっちりと本格を魅せ
てくれるのだから。                        

 色物バカミス作家というイメージが濃厚な氏だが、実はロジックへのこだ
わりは現代でもピカイチの部類に入る作家である。但しやはり、トリックの
独創性に比較すると、ロジックのエレガントさには、若干欠けるかもしれな
い。あくまで私が読んだ範囲での印象だが、結構どろくさい消去法などの使
い途で、華麗さよりも着実さ重視という感じだろうか。        

 本作のフーダニットに関しては、割とシンプルに絞られたロジックで、比
較的綺麗だったと思う。更には理科室のハウダニットに関してもロジック展
開するなど、この面での充実感を味合わせてくれた。         

 バカトリックとしては、いずれも氏のベストの出来とは言い難いが、忍法
帖を思わせる影ジェント同士の戦いなどでも小ネタが満載。数としても飽き
ることない愉しみを味合わせ続けさせてくれる。           

 ラストの叩き込み方も尋常ではない。普段はさほど見られない、新本格的
な仕掛けが炸裂するのも、本書の見所の一つだろう。これに加えて、影社会
の構図にもスケールでかい大ボラ(清涼院みたいな意味無しの突き抜けっぷ
りではないので、まぁちょうどいい感じだろうか)があったりして、最後の
最後まで気を抜けないお愉しみが待ち受けている。          

 最初から最後まで面白味が存分に詰まった作品であると言えよう。この設
定だけでも何杯もお代わりできるから、シリーズ化されちゃうのかな? し
かし、大仕事の度にこんなに殺し屋死んじゃっていいのかよ? そんな無尽
蔵にいるものなのか? 突っ込んじゃいかんか(笑)。採点は
7点。  

  

1/15 温かな手 石持浅海 東京創元社

 
 またもや奇妙な設定の短編集。                  

 人間の生気を吸い取る宇宙人、というなんだかミステリに馴染むのかどう
か不安になるような、緩〜い設定が奇妙な味わいを醸し出している。  

 この不安もそう的はずれではなかったのか、実際にミステリとしてこの設
定が必要だったかどうかは、ちょっと疑問。これが事件を引き起こすきっか
けとなったエピソードはあったけどね。               

 各短編のわざわざ冒頭に、抜き書きとして、これみよがしに手掛かりが提
示されている。提示されているにも関わらず、それが読者へのヒントとして
は、それほど役に立つものとも思えない。手掛かりが読者への手掛かりとし
ては機能しないくらい、手掛かりからのロジックの飛びが読者の予想を大き
く越えているのだ。                        

 だからこそこうして冒頭に出しても構わないということなのだろうが。た
しかに説明を聞けば納得できるレベルだし、こうして意外な手がかり(しか
もささいな)からのロジック展開なんて、そう簡単な手管ではない。  

 こうして考えれば、決してマイナス要素ではないはずなのに、なんだか爽
快感が阻害されているように感じたのは何故だろうな?        

 冒頭の話に戻るが、この設定はミステリとしての必然よりも、作品として
の(シリーズ短編としての)結構を付けることには役立っている。こうして
一冊で上手くまとまってるのは心地良くもある。           

 しかし、ここで鷹城氏も指摘してるように、私も最終話にはひどく違和感
を感じてしまったなぁ。氏の作品のかなりのパーセンテージに、独特の倫理
観が描かれているが、この作品でもまたいつもとは違う歪な形ではあるが、
同じ読後感を味合わせられてしまう。”良い話”と受け止めるには、自分の
中にはない特別な倫理感を、前提にしなくてはいけなくなるのだよな。 

 ミステリとしても話としても、感触に違和感が残る。採点は6点。  

  

1/16 Rのつく月には気をつけよう
                  石持浅海 祥伝社ノン・ノベル

 油断した。っていうか油断させられた。ここでこれかぁ。      

 日常の恋愛の謎。というカラーならば、冒頭の表題作がちょっとヘビー過
ぎたように思う。やはり一作目が、作品集としてのカラーを読者に印象づけ
る。ミステリ含みの辛口な話で始まっちゃったら、そのレベルの話を期待し
てしまう。そこから甘々な話になったって、いや、これにはもっと裏が、な
んてついつい考えすぎたりもしちゃうじゃないか。          

 ところで様々にロジックを駆使する作者であるが、本書で描かれているの
は、”心情のロジック”である。「セリヌンティウスの舟」でも、論理の素
材としての心理が扱われていたが、本書でのそれはもっと危うい。   

”心理”というよりも、情感を強調する意味で”心情”の方がふさわしく、
その中でも最も揺れ動きがあると思われる”恋情”こそが素材なのだ。 

 ミステリであるからこそ作者の手の内に真相はあるが、感情(しかも恋愛
感情)とはどこまで理で読み取れるものなのだろうな?        

 ……という一文は、もちろん反語的表現である。やはりどうしても「所詮
小説だからな」という想いから抜け出すことが出来なかった。自分の作り上
げた解決を自分で解くんだものな、ってミステリの根幹に関わるような問題
発言をしちゃうけど、物理の絶対はあっても、心理の絶対はないよね。 

 ロジックなんかで読み取れるような恋は恋じゃないぃ〜、なんて節付けて
歌いたくなってきちゃうぞい。意地悪言わずに素直に読むべし、なのか?

 ところで昨年は短編集ばかりが四冊も発行された石持浅海。いずれも特徴
のあるものばかりで、それぞれがどう評価されるか、どういう人がどの作品
を好むのか、結構興味深いサンプルじゃないかと思う。        

 個人的には、本格としての着想・伏線・ロジック・意外性の観点から評価
して、「人柱はミイラと出会う」「心臓と左手」、本書、「温かな手」
順だな。本書は最終話のアレがなかったら、最下位にしてただろうな。 

 というわけでやっぱり恋情は論理では切れないだろうよ、の6点。  

  

1/21 本格ミステリ館消失 早見江堂 講談社ノベルス

 
 魅力に欠けた”現実”から、”本格ミステリ”という幻想美を創り出す、
”アンチミステリ”という名の錬金術。               

 全テヲ無二化ス地雷中の地雷だと事前に覚悟して読めたから、その前提の
元では意外に楽しめてしまっちゃったかも。「虚無への供物」を強く意識し
過ぎた実験小説として受け止めれば(勿論わかってるだろうけど、さすがに
この日本ミステリ界の歴史的な至宝と、ほんの少しでも比べようなんてこと
したらアウトだからね)、地雷としてなりの濃い味付けも一興。    

 しかし、読者の立ち得る土台があまりにも少なすぎるのだよなぁ。勿論う
っちゃりが目的(本人としては”手段”という意識かもしれないが)である
のだから、手掛かりなんか与える必要はないと云えばないんだろうけど。

 とは云え、お約束を”お約束”として受け入れた読者のみが、本作を”本
格ミステリ”として受け止めてしまう仕掛け……使いようが極端すぎたが故
に不快感のみを与える始末となってはいるが……ここには、若干の妙味を感
じてしまうのだよなぁ。上手くすれば大好きな手法なので。      

 個人的にそこまでの不快感を感じなかったのは、言葉遊びが意外に悪くな
い線で決まっていたせいだろうと思う。まぁ、そういう必然性も伏線もなか
ったとはいえ、さっぱり違和感覚えなかったものなぁ。感心しながらも、笑
える雰囲気のお遊びなら歓迎。                   

 ちなみにもう一つの言葉遊びである筆名だが、宇山日出臣のアナグラムっ
て結構簡単そうだな。ちょっと試しただけでも、上戸美早(うえどみはや)
とか、稗田陽真(ひえだようま)とか出来ちゃったよ。        

 それはともかく、えーと、なんだか褒めモードになってしまったような感
もあるけど、決してそういうつもりはないのだ。面白味を感じたとこはあっ
たけど、全然スマートなやり口ではない。地雷は所詮地雷だ、の
6点。 

  

1/23 ミステリクロノ2 久住四季 電撃文庫

 
 時間を操作する道具からロジカルな驚きを引き出すという、こちらの期待
値を満たしてくれるものではなかった。一作目の一番良かった部分が、こう
してすぐに途切れてしまうと、シリーズとしての期待感がいきなり萎んでし
まう。シリーズの決着のイメージだけはさすがにあるのだろうが、全体を俯
瞰した構想なんてないよってな状態での、手探り発進じゃなかろうな? 

 一作一作のセンスは悪くないのに、シリーズとしての構成やバランスに無
理があった前シリーズと、同じ轍を踏むんじゃないのかしらん。本人も担当
も、そういう意識はないのかな? 欠点だと思ってるの、私だけ?   

 そもそも今回は、時間物とすら言い難い雰囲気だったからなぁ。記憶を消
すだけで、しかも単純に記憶を消すことしかやってない。捻りようがなかっ
たのかもしれないけれど、それでもやっぱり捻らなさすぎだろ。    

 ミステリとしては、今回のメインはミスリード。しかしそれに関しても、
二段階、二種類という工夫が入っているにも関わらず、ありきたりな印象を
与えてしまうのも惜しい。                     

”二段階”の方は、だってそこに戻っちゃったら、ミスリードの意味が無く
なるだろってわけで、単にひっくり返せばいいってもんじゃないってば。

”二種類”の方は、だってこんなのもなかったら、ほんとこの作品、つまら
ない作品になっちゃうもんなぁってところ。という理由で、自分としては読
めてしまってたわけだけど。                    

 でもまぁ、読めるかどうかは別としても、ミステリな読者にそこまでのイ
ンパクトを与えるほどのものとは思えない。たしかにミステリファンなら、
この"嫌ミス"っぷりは歓迎もされるかもしれないが、非ミステリな読者にと
っては、一体どうなんでしょ? 不評買っちゃうんじゃないか?    

 肉を切らせて骨を断つってのは、この際妥当な比喩ではないけれど、トレ
ードオフにしては代償大きいような気がしたんだけどな。       

 急がなくていいから、ちゃあんと全体構想を練った上で、全体を貫く筋の
通し方なんかもキメてくれたら、もっとカッコよくなるのにぃー。それにや
っぱり、時間のロジックで魅せて欲しいのだよなぁ。採点は
6点。   

  

1/28 少女ノイズ 三雲岳斗 光文社

 
 構図としての作り込みはなかなか素晴らしいと思うのだよなぁ。しかしな
がら、謎解きとしては粗いと思う。構図自体が結構ぶっ飛んでいるだけに、
ロジックとしてすんなりとそこに導けているとは思えなかった。    

 それでいて、この少女探偵は事件の発端時点で既に、全貌のあらましを捉
えているような発言をしたりするので、これだけの情報でそれはさすがに発
想が飛びすぎだろうと思えてしまったのだ。             

 構図のぶっ飛び度合いと謎解きの納得感、その二つを両立させるのはたし
かに困難な作業だと思う。しかしながら、あのロジック推理の名短編「二つ
の鍵」を書いた作者なのだもの。読者としては、本格としてのロジックに、
もっと確度を望んでしまうではないか。               

 それにまた、せっかく構図で魅せてきた作品群を、いきなり突発的に21
世紀本格なトリック短編で締め括るのも、なんだかまとまりが悪い。  

「そんなとこまで推理出来るわけないよぉー」ってだけですんでいたところ
に、「そんなこと考えたってやる奴いないよぉー」なことがプラスされちゃ
うから、ますます読後感が一気に阻害されちゃうのだ。        

 しかも大真面目な雰囲気で書かれてるから、「バカトリックだぁー」って
素直に喜ぶことだって出来やしない。しかもどっちかっつうと、バカミスじ
ゃなくて、トンミスの匂いが薫ってくるんだがなぁ。         

 最終話ならではの、キャラ読みとしての収まりの良さはあっても、ミステ
リとしての収まりの良さは感じられなかった。ラノベな装丁と、本格的な中
身とのギャップも、それを象徴しているのかもしれない。       

 全体的に加点したいポイントが沢山あるのに、減点せざるを得ないポイン
トも多い。なんだか勿体ない作品。ちなみにベストはダントツで、構図の凄
みが最も光る「四番目の色が散る前に」だな。採点は
6点。      

  

1/30 ロジャー・マーガトロイドのしわざ
           ギルバート・アデア ハヤカワ・ミステリ

 この邦題だけではよくわからないだろうが(わかる人は凄いと思うな)、
「アクロイド殺害事件」をもじった題名になっているのだ。実はこの題名に
はそれ以外の意味合いも……むにゃむにゃ。             

 しかもメタレベルでの共犯者までいるんだものなぁ(作中犯罪のって意味
じゃないから、ご安心あそばせ)。この裏の、裏の……ごにょごにょ。ハヤ
カワさんもやってくれますなぁ〜。こんなんあり? って、勿論大歓迎。

 それはともかく、この犯人に関する仕掛けと来たら……。この趣向を読ん
だのは自分としては五作目だと思うが、新本格の洗礼を浴びていない海外ミ
ステリにおいては、勿論初めてだったよぉ〜。            

 ああ〜、だからアクロイドなんだぁ〜(”一人称”に仕掛けたトリックと
いう意味で)って、二重の意味合いがあったことにも驚かされて。   

 でも、個人的には、この趣向自体よりも、先程挙げた題名やら、裏表紙あ
らすじ
やらのミスリードの方に驚かされたけどね。          

 しかもこういったミステリとしての仕掛けだけで、満足しちゃえないのが
本書のもっと凄いところ。これら以上に私が一番しびれてしまったのは、こ
こで描かれた動機。これは非常にアンチ・ミステリ的だなぁと。    

 ここまででも、ある意味発想の飛びのとんでもなさから、バカミス認定し
てもいい作品なのに、ど真ん中のバカ密室トリックさえも炸裂してしまうの
だ。ああ〜ん、もう間抜けすぎて、おかしいたっらありゃしない!   

 しかし、どんだけ贅沢なんだ、この作品。仕掛けでアンチでバカミスで。
本ぐるみでだまくらかしてくれるしさ。本年度ベストさえ争いそな
8点

  

1/31 狩人は都を駆ける 我孫子武丸 文藝春秋

 
「謎」と「解決」の間を埋めるモノとして、「探偵が動く」ことさえあれば
ハードボイルドは出来てしまう。そんな私の偏見を裏付けるような、出来の
悪いパロディみたいなミステリ。                  

 いいや、これって単なるペット探偵物語だから、いいってことなのか?

 う〜ん、でもでも、ひょっとして、もしかしたら本当にパロディを意識し
てたんじゃなかろうな? だってちょっと個々の作品構造を考えてみよう。

 表題作は一番ミステリっぽい。一応、探偵の謎解きの範囲に事件は収まっ
ている。しかし、謎解きしたせいで危機に瀕してる。続く「野良猫嫌い」で
は探偵の謎解きの範囲を越えて、犯人が勝手に自供してしまう。「狙われた
ヴィスコンティ」になってくると、謎解きどころか解決すらない。   

 いやあ、しかし、まだ「ない」方がましなのかもしれない。最終作の「黒
い毛皮の女」なんて、何の脈略もなく「解決」だけがある作品の見本みたい
なもんだからな。パロディという意図でもなかったとしたら、これはホント
ひどい作品だと思うぞ。残る「失踪」だけど、複数の筋が一本にまとまると
いう、ありがちな状況をパロっているのかも。            

 ほらほら、こうして見てみると、この五作品ってば、「ハードボイルドに
ありがちな五つの法則」を描いてるような気がしない?        

 一作目:探偵は頭使ってはいけない(窮地に陥る)。        
 二作目:犯人は勝手に自滅する。                 
 三作目:事件と犯人だけありゃあいい。              
 四作目:複数の筋は必ず一本にまとまる。             
 五作目:解決だけありゃあいい。                 

 ハードボイルドのこと、よく知らない癖に、勝手なことほざきやがって、
なんて言われちゃいそうだな。新入社員の頃かな、剣持鷹士と「深夜プラス
1」に乗り込んで、内藤陳に「お前ら、もっと(冒険小説やハードボイルド
を)読め!」って、怒られたことを思い出しちゃったよ。       

 読まずの偏見、ゴメンなさい。でも、そんなこと考えさせちゃう程度の作
品だったように思う。5点にしようかなってくらいの
6点。      

  

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