ホーム創作日記

 

2/2 最後のウィネベーゴ コニー・ウィリス 河出書房新社

 
 SF界の女王と言われても、全12冠と言われても、どうもピンと来ない
のだ。相性が良くないのかな。                   

 アイデアも素晴らしいし、尻切れでなく話はきちんと完結してるし、何よ
りも語り口の上手さが抜群。そればかりじゃなく、ミステリのような意外性
だって盛りこんである。どこも不満に思う要素はないはずなのに、「面白い
よね」を超える感慨が沸いてこないのは何故なんだろ?        

 バランスが良すぎるのかな? 奇想なんだけど、奇想だけでガツンとやる
とんがった作品ではない。エンタメとしてワハハと楽しむには、知性と品位
がはっきりと見えて、暴走はセーブされてしまう。収まりよく収まっちゃう
から、なんだか作品としてあまりにも綺麗に閉じている。見事に閉じている
からこそ、作品自体は色んな方向にそれぞれにスケールの大きい話なのに、
なんだか読後に広がっていかないような気がするのだ。        

        「ああ、読まされてしまっちゃったな」        

 そう、なんだかそんな読後感で、自分の中で完結しちゃうんだよ。  

 こんなイメージだけでは、きっと何も伝わらないよね。何も言ってないに
等しい。自分の受け止め方が自分自身でも全く整理付かないんだもの。 

 それにこれはきっと、おそらく私個人に起因する問題なのだろう。彼女の
作品に感しては、評価を逃げることになろうと、相性が合わないのだという
ことにさせて欲しい。採点は
6点。どうやってもそれ以上はいかない。 

  

2/5 第三の時効 横山秀夫 集英社文庫

 
 どうして横山秀夫の短編集にはこうも外れがないのだ?       

 本陣からわずかにずらしたところから警察小説を描き続けてきた著者が、
ついに初めて(かな?)捜査一課を主人公に置いた。勿論意識してなかった
とはとても思えない。これまでは書きたい題材が他にあったから、たまたま
そうなっただけだとか、そんなことはまさかあるまい。        

 言わば”満を持して”送り出したのが本書なのだろう。解説でも触れられ
ているが、「密室」「アリバイ」あるいは「反転」といった、本格ミステリ
としての重要なガジェットが題名に含まれているのも、その証拠だろう。ジ
ャンルとして本格を偏愛する私としては、やはりそう思いたい。そして本書
は嬉しいことにそれにふさわしい力作揃いだった。          

 氏の第一面である組織小説としての警察小説。各係のトップに個性の強い
人物を配置することで、組織間の確執を浮かび上がらせている。同時にこれ
はシリーズ化を支える大きな要因ともなるだろう。楽しみだ。     

 また、氏の組織小説はネガティブな面が強調されて、好みによっては読後
感が損なわれる場合も多いのだが、本書では嫌みだけではない演出が施され
た話もあり、ちょっとホッとできたのも収穫の一つだと思う。     

 そして氏の裏面でもある本格ミステリ性。初動捜査の方向性を決める検視
官を主人公にした「臨場」同様、捜査一課が主人公なだけあって、非常に高
い。人情物への傾きがより少ない分、鮮明さでは一番だと言って構うまい。

 他作品集との差はわずかではあるが、たしかに私も本作を代表作に挙げた
い。これほどの作品であれば、やはり採点は
8点としたい。      

 ちなみにベストは、演出まで含めて意外性が際立った「密室の抜け穴」を
選択。次点はこういう裏技があるとは驚いた表題作としよう。     

  

2/6 ミステリの名書き出し100選
                 早川書房編集部編 早川書房
 
 書き出し百選と銘打たれているが、まず作品ありきではなく、百人という
作家を選出するという作業から始まっている。そして作品の選択は個々の評
者に任されているのだ。ちょっとアプローチとしては頷けない。    

 また最大の制約は早川書房刊行作限定だということ。いくらポケミスも文
庫も抱え、翻訳物ではナンバー1の早川であろうと、一社限定では「名書き
出し」集としては、やはり弱さを感じずにいられない。        

 例えば文中でフォローされているとはいえ、ルース・レンデルでロウフィ
ールド館でないのは、「やっぱ違うよ」と思わざるを得ないもの。   

 そのせいばかりでもないだろうが、肝心の書き出しにしたって、それほど
心酔できるものは少なかった。頭数行で酔うには、『幻の女』のような名文
調か、特殊な仕掛けになってしまうのだろう。そして後者の場合、ミステリ
としては絶妙であればあるほど、解説できなくなってしまうわけだし。 

 かと云って、書き出しをメインに押し出している以上、作品としての読む
気を喚起するという要素も、紙面的にだいぶ削られてしまう。ガイドブック
や早川の広告本という要素も、多少薄味になってしまっている。人によって
は、うまくそそってくれた作品もあったりはしたけどね。       

 というわけで、帯に書かれているように、エッセーとしてちびりちびり愉
しむのが、本書の正しい読み方なのだろう。まぁしかし、そんなこんなで、
一見魅力的なタイトルであるにも関わらず、最初の狙いから読後の味わいま
で、全般的に中途半端な本になってしまった。採点は
6点。      

  

2/11 風果つる館の殺人 加賀美雅之 カッパ・ノベルス

 
 トリックの構築振りや過剰さは前二作に引けを取るが、作者の最大の欠点
であった(と私は思っていた)”見えやすさ”を見事に克服している。個々
のバランスが上手く計算に結び付いていて、不要な読者サービス伏線も無く
なった。真に期待できる作家の仲間入りを果たしてくれたものと思う。 

 勿論、こういった大技系の物理トリックは、好き嫌いが分かれるだろうと
思う。この手合いの現代のトリック・メーカー達(二階堂黎人柄刀一
流一
北山猛邦など)の中で、これまでの氏は最もストレートにトリックを
剥き出しにしてきたと思う。意外なちゃちさもあいまって、強みであると同
時に、これまた大きな弱みでもあったのではなかろうか。       

 本書では、これに島荘理論をプラスして、幻想味のある謎に仕上げようと
している。今回はそうそう”剥き出し”とは言えまい。また、トリックを絞
り込んだことで、逆に別の事件のめくらましになったり、意外な効果を生ん
でいる。先にバランスと書いたのはその要素が大きい。過剰さを割り切るこ
とで、吹っ切れた良い作品になっているのではないかと思う。     

 まぁでも、昔の事件の真相はあんまりだとは思うけどなぁ。いろいろとト
リックを考えてしまうミステリ読者ならいざ知らず、現実的な警察ならば、
こういう可能性を見過ごすとは思えないのだが。これも「警察はお馬鹿」と
いう、ミステリのお約束として受け入れるしかないのだろうが。    

 私としては本書をこれまでのベストに置きたいし、これから先への期待に
も大いにつながる作品だと思う。それでも、採点は
7点。まだまだもっと引
き締まった作品も読ませて欲しいように思う。            

  

2/13 樹霊 鳥飼否宇 東京創元社

 
 本格ミステリ大賞候補作。読み逃し二作中、まずはコチラから。   

「木を動かす」ことにこだわりまくり、あの手この手で木を動かす。  

 この固執っぷり、ひねた小技トリックの連打、バカミス・テイストであり
ながらどこかダーク、全般的に作り物めいてしまう欠点(いや、愛嬌)まで
含めて、霞流一と同じ匂いがプンプン。               

 二階堂黎人加賀美雅之北山猛邦のゴリ押し派とは違う。柄刀一、霞流
一の幻想味やバカさを追及する一派なのだろうな。しかし、物理トリック自
体にあまり味は無く、大坪砂男、大阪圭吉鷲尾三郎などのバカミス系トリ
ックメーカー達とは、まだ一線を画しているように思う。       

 本作の場合、やはりメインはあの手この手のトリックなのだろう。しかし
個人的に感心したのはそのハウではなく、動機としてのホワイだった。 

 現代ミステリにおいては、動機そのものを意味するホワイではなく、別の
意味でのホワイに焦点が当てられることが多いと思う。心理的行動や手掛か
りの必然性としてのホワイだ。                   

 しかしながら本作の場合、動機そのものがユニークなロジックで構成され
ていて、ある意味これだけで充分論理のアクロバットと表現することも可能
だと思う。期待とはかけはずれたところから襲ってきたびっくりだ。  

 まぁ、しかし、本格ミステリ大賞候補作として、どこが推されているのか
よくわからなかった。選考会の経緯掲載を待つことにしよう。上記のホワイ
や、固執具合のしつこさが楽しくはあるものの、採点は
6点。     

  

2/15 狼の一族 若島正編 早川書房

 
 元シリーズのアンソロジーはきっぱりと捨てて、異色作家短篇集のために
新たに組まれた三冊のアンソロジー。その第一弾、アメリカ篇。    

 訳者としての矜持もあるのだろうが、本邦初訳のみという編集方針は、そ
れほど歓迎できないな。結果的に微妙な作品が集まっているのではないか。
読者は粒ぞろいのアンソロジーとして期待しているのに。       

 いいや、粒ではないんだよ。編者として「砂中の金を探し出す」のは楽し
い作業だとはわかるが、そういう金の粒なんかではなく、金貨や金の延べ棒
が欲しいんだってば。これでは期待は満たされないと思う。      

 また「ベータ2のバラッド」でもそうだったが、氏の編むアンソロジーは
ちょっと上級者向けのセレクションになってるように感じる。     

「異色作家短篇集によって、短編を読む楽しみを初めて知った読者も多いは
ず」と自分でも書いてるように、そういう読者に向けて、もっとわかりやす
い作品を選ぶのが筋なのではないだろうか。             

 個人的には期待はずれ。残り二作に向かう気持ちも萎む。採点は6点

 恒例のベスト3だが、ベストは初めて読むのにジャンルの定型とさえ思え
るくらい、完璧なプロットのトーマス・M・ディッシュの表題作としよう。
あまりにも作者らしい作品のジャック・リッチー「貯金箱の殺人」が二位。
作品自体はシンプルすぎて作者らしいぶっとび度は皆無だが、とにかく読め
るだけで嬉しいので、ハーラン・エリスン「どんぞこ列車」が三位。選んだ
のはやっぱり、本集中でもわかりやすい作品ばかりだね。       

  

2/18 名探偵はなぜ時代から逃れられないのか
2/21 複雑な殺人芸術 法月綸太郎 講談社

 
「法月綸太郎ミステリー塾」と名付けられた二冊。前者が日本編、後者が海
外編。まとめての感想ということにさせて欲しい。          

 氏はミステリ作家としては、最も批評精神の豊かな一人だと、私は思って
いる。この評論・解説集を読むだけでも、それはよくわかる。実作と同じよ
うに、非常にロジカルな論旨が心地良い。              

 いやあ、しかし法月って、よっぽどクイーンの影響下にあるのだな。誰を
題材にとっても、クイーン語りに流れていってしまう印象を受けた。是非、
「中期クイーン論」「後期クイーン論」も書き上げて、本書中の「初期クイ
ーン論」と併せて「クイーン論大全」という本にまとめて、本格ミステリ大
賞評論賞を獲って欲しいものだ(本気度9.1%)          

 日本編のお薦めは、やはり長尺の笠井潔論、島田荘司論の二編だろう。笠
井自身の論を踏まえて、笠井自身の作品を論じるのはやはりスリリングであ
る。皮膚感覚で捉える島荘と云うのもユニークな視点だろう。但し、その分
論理で語り切れていないイメージを抱かせるのが痛し痒しか。     

 海外編のお薦めは「ミステリー通になるための100冊」。比較的オーソ
ドックスな路線で、バランスの良いセレクトだと思う。独自の特徴を打ち出
すマニアックな作品も適度にちりばめられていて、私なんかの百選とはレベ
ルが違う。過去の名作に触れてみたい場合の手引きに最適。そういう私もギ
リギリ半分に達しないくらいしか読んでないんだけど。        

 ミステリを語る上で是非読んでおきたいという類の作品ではないが、ミス
テリ読みを満足させる内容だと思う。いずれも
7点としよう。     

  

2/26 キララ、探偵す。 竹本健治 文藝春秋

 
 作者名が隠されていたら、迷わず「西澤保彦だろ」って断言してしまいそ
うだ。あざといくらいに人工的に組み込まれた本格ミステリに、どこかおじ
さん臭漂う萌え感覚。勿論、そんな世代の私にはOKっす。      

 まずは萌え要素から(そっちかよ!)。あまりにも基本に忠実などじっ子
メイドってとこから、ちょっと余裕の無さを感じさせるかも。第一話では人
間社会に慣れていない故の勘違い等も描こうとしているのに、後半に行くに
従って細部のお遊びがお留守になってしまってるあたりにも、その無理加減
さが表れているようにも思う。                   

 セクサロイド振りも、極端にギャップを付けようとしてる意図が感じられ
て、下品に描いても逆に上品の範疇に収まってしまうように思えたのは私だ
けだろうか? ”指”は良くここまで書いたなとは思ったけどね。   

 でもって続いてミステリ要素。これがこんな作品にって思えるくらいの、
気合いの入った構築ぶりを見せてくれている。いや、まぁ、こんな作品だか
らこそ、手が抜けないということもあるんだろうけどね。ミステリ度も低い
エロ・萌え路線だけだったら、変な春来ちゃったかと思われちゃうもの。

 ただ、この凄すぎるくらいの構図が、それ故にかえって”作られた”って
感じを色濃く醸し出しちゃってるのが残念なところ。上手いなぁと思うと同
時に、冒頭に書いたようにあざとさすら感じられたりしちゃうのだ。  

 探偵役もなぁ。守ってあげたいどじっ子萌えかと思いきや、守られちゃっ
てるM男路線が突っ走ってるのが気がかり。もっと主人公、頑張れ。  

 萌え・エロ要素のおじさん妄想と、ようやるってくらいのこだわり本格と
二本立てでくっつけてしまった感じだが、すんなりと同一世界に溶け込んで
いくようになれば、お先楽しみかも。今回はまだまだ採点は
6点。   

  

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