ホーム創作日記

 

12/1 ローリング邸の殺人 ロジャー・スカーレット 論創社

 
 ふふん、こういうことだな、と高をくくって読んでいたら、とてもそんな
もんじゃすまなかった。こんなトリッキーな作風だったのかぁ。    

 しかも名前からして当然男性作家だと思っていたのに、意外にも女性二人
の合作だったとは。こういうおそろしくテクニックの効いた、大胆でアクロ
バティックな真相は、男性作家の専売特許だと思ってたのに。     

 そんな風に、なかなかに驚かされた一品。1933年発表ではあるが、こ
ういう作品は新本格という流れが受け入れられた現代の日本にこそ、ふさわ
しい作品かもしれない。                      

 スリラー風味はあるものの、若干地味めな感じも受けるため、みすてり〜
という人よりも、本格〜とか、バカミス〜とかいう人の方に向いている作品
だと思う。そういうお方には読む価値ある作品かと。採点は
7点。   

 ちなみにネットで作品リスト見て、新青年で抄訳された「密室二重殺人事
件(ビーコン街の殺人)」ってのが気になった。新訳されるとしたら、括弧
内の題名になるんだろうけど、トリッキーな作風であることがわかってる作
家の処女作(なんだよね?)で、密室二重殺人って、読んでみたい〜  

  

12/4 時間のない国で(上)(下) ケイト・トンプソン
                        創元ブックランド

 題名から言って、時間物かなと期待していたのだが、ケルト神話を下敷き
にした、完全なファンタジーだったよ。勝手に期待を膨らましてしまった私
の方が悪いのだが、ちょっと肩透かしな気分。            

 各章の扉に、その内容と繋がりのある、伝承された民謡の楽譜が掲載され
ているのがユニーク。音楽とダンスが生活の中心にある民族だからこその物
語なのだろう。語り口も物語の運びも音楽的な印象すら受ける。    

 全然詳しくない私にはいまいちピンと来なかったが、「常若の国(ティル
・ナ・ノグ)」という言葉にビビッと来た人(限定)にはお薦めかも。神話
の世界の神々が、きっと身近に感じられることだろう。        

 上記の限定条件に当てはまらない私にとっては、採点は6点。    

  

12/8 UFO大通り 島田荘司 講談社

 
 講談社BOOK倶楽部メールのアンケート・プレゼントで当たった作品。

 最近の長編に於ける天才脳科学者としての御手洗は、もはや遠くに行きす
ぎた別人にしか思えない。そんな寂しさ、あるいは違和感を感じていたのは
きっと私だけではないはずだ。                   

 そして、もしも貴方がそんな人ならば、本書こそ貴方が手にするべき本か
もしれない。これで私は久しぶりに、本来の御手洗を見ることが出来た。

 しかも本書は鮎川哲也に捧げられているだけあって、収められた二篇はい
ずれも、氏が晩年に愛した冒頭の幻想的な謎が、魅力的に輝く作品だった。

 特に表題作よりも、併録の「傘を折る女」の出来映えが素晴らしい。 

 表題作は島荘理論の弱点を感じられる作品でもある。謎が魅力的であれば
あるほど、解決とのギャップが生まれる。島荘の感想となると、いつも言っ
てる気がする、お馴染みの”幻滅感”って奴である。本作に関しては、不満
を感じるほどではないが、それでもその系統だと思えてしまった。   

 これが「傘を折る女」になると、謎自体の幻想性や魅力は薄い代わりに、
しつっこいロジックや(若干の飛躍は感じられるが)、何よりも構成のユニ
ークさで魅せてくれる。幻滅を感じる間もなく、次の謎が登場してくる。倒
叙的な形式と、「9マイルは遠すぎる」を想起させるロジック推理の組み合
わせ。長編の手法で描かれた、プロットの面白さが光る佳品だと思う。 

 とにかく久しぶりの「お帰り、御手洗!」な雰囲気に、採点は7点。 

  

12/14 数学的にありえない(上)(下)
                  アダム・ファウアー 文藝春秋

 
 流石に面白かった。畳みかける展開。意外性の連続。エンタテインメント
としては抜群。だからこそ心地良い充足感……が得られてもいいはずなのに
何故だ、このちょっぴりの空虚感は!?               

 一つにはやはり、これなら何だって出来るだろ、な主人公の無敵属性によ
るものだと思う。どう切り抜けるんだろう、がどんな意外性を持っていよう
と、予定調和的に思えてしまうのだ。冒頭でもあり得ないような確率で負け
ているわけだし、せめて少しは「状況が揺らいでしまう」ピンチを描いて欲
しかった。無敵属性に疑問が入る余地を読者に与えてくれないから、いまい
ちこっちのドキドキ感が高まらないんだもの。諸刃の設定だよね。   

 もう一つは、せっかくラストで、意外性のある一点収束を見せてくれたく
せに、そこからもう一歩踏み出されてしまったこと。ある意味宗教的とすら
思えるビジョンまで示唆してしまったのは、ちょっと行き過ぎではないかと
私には感じられた。せっかく「おおっ!」と思えたのに、そこから「あ、あ
ら?」という気分になって、冷めてしまったのだよなぁ。       

 アクション・サスペンスの範疇で、とどめておいて欲しかったなあ。 

 エンタテインメント性を買って7点とするが、微妙に欲求不満。   

  

12/18 ナイチンゲールの沈黙 海堂尊 宝島社

 
 一応は医学ミステリというジャンルに括られることを自覚しているだろう
作品に、SFにしかなり得ないアイデアを盛り込むのは、とても筋がいいと
は思えない。最もリアルであるべき世界と、ファンタジーとの乖離に、どう
しても違和感を禁じ得なかった。                  

 本作は一種の寓話なのだろうか? たしかに物語は美しい要素を持ってい
る。わずかではあるが、泣かせる作品にもなっているかもしれない。でも、
本作がセンチメンタルであればあるほど、氏のロジックに落としてしまう作
風とは、どんどん乖離が大きくなってしまうのだ。          

 また、まだ二作目ではあるが、本シリーズはミステリとしてはあまり見所
はないようだ。本作なんてあまりにもあからさまな故に、これはミスリード
に違いないと、別筋を探しながら読んでしまったよ。まさか、恥ずかしげも
なく、そのまんまな解決になってしまうなんてね。          

 ひょっとしたら作者は、”ミステリ”をやろうという意識なんて、あまり
ないのかもしれないな。だからこそファンタジーにぶれたりするのだろう。
いや、ぶれているのではなく、そもそもそれこそが作者の本筋なのかもしれ
ないのだ。                            

 前作でキャラクタを描く実力に魅せられてしまったが、もともと私の期待
とは別のモチベーションの作者だったような気がしてきた。取りあえず次回
作までは読んでみるが、私にとってはそこまでかも。採点は
6点。   

  

12/21 QED御霊将門 高田崇史 講談社ノベルス

 
 これって、単なるプロローグ? 観光案内シリーズって言っても、鎌倉や
ら都内周辺やらって、やたらとチープじゃなぁい?          

 それに、現実側の事件なんてもうやる気無し? おざなりのような意味無
し叙述トリックには、もう溜め息しか出ないよ。           

 歴史側の方も、いかにもとんでも系の話っぽいのが根拠の一つに挙げられ
ていたりもして、なるほどと思うことがあっても、その時点で信憑性が全然
感じられなくなってしまった。                   

「時の娘」みたいな作品を目指したにしては、ちょっと未消化で、これ一つ
で作品全体を支えるのは、やはり弱いのではないか。         

 結局このシリーズは、デビュー前のアイデアを複数抱えていた初期段階を
抜けて、「式の密室」「竹取伝説」でシリーズを支える基本アイデアを提示
したのだと思う。そして、そこでもう頂点を迎えてしまったのだ。   

 その後の作品は、その基本アイデアから導き出せる、周辺の細々としたも
のを小出しに出しているだけの作品ではないかと思う。        

 まぁ、それだけの作品を産み出せるくらい、その基本アイデアは(作者に
とって)非常に都合の良いアイデアだったわけだが。         

 しかし、これだけ水増しされた作品群を読まされてしまった(いや、自分
の意志で読んだわけだけどさ)読者としては、こう言わせて欲しい。  

     「 も う 飽 き た ! 」        採点は5点

  

12/25 ステーションの奥の奥 山口雅也 講談社ミステリーランド

 
 山口雅也……いまだ、復活ならず。リハビリには最適なジャンルかもと期
待したのだが、とても応えてはくれなかった。氏の長い長いトンネルには、
果たして出口はあるのだろうか?                  

 現実と地続きのようでいて、一つのアイデアで独自の世界を構築する。そ
の世界のルール上で成立するミステリ……と書けば、いかにも山口雅也の十
八番みたいなのに。なんだ、そのまんまやん、のこの工夫の無さは。  

 本作と「奇偶」とは同じ方法論で書かれているのではないかと思う。ミス
テリ・ファンの間で時折交わされるジョークを、そのままミステリとして提
出したら、いったいどうなるのか?                 

 ……こういう作品になってしまうのだ。思わせぶりなだけで、ただひっく
り返る(作品も、ある意味読者も)だけの作品に。しかも「奇偶」では感じ
られたアンチ・ミステリ的な思惑は、本作には微塵も感じられない。ただた
だ”それだけ”の作品だという読後感しか残らない。         

 ただし、東京駅の魔窟な雰囲気は非常に良かったと思う。下手にミステリ
っぽくしないで、冒険小説的な雰囲気を前面に押し出してくれた方が、楽し
く読めたんじゃないかとも思う。                  

 この叢書は、ミステリへの道を歩むかもしれない若い読者が、ミステリっ
てどんなもの?、と思って手にする機会の多いものかと思いきや、それにふ
さわしく作品のいかに多いことか。しかも制作側は確信犯的な共犯というの
が、なんとも不思議なシリーズである。採点は
6点。ベスト表も更新。 

  

12/27 独白するユニバーサル横メルカトル 平山夢明 光文社

 
 このミス第一位。このホラじゃないよね、と念を押したくなるような作品
だった。たとえば”悪意”と表現できるものなら、まだ自分の理解の範疇で
語れるから生温いよな、という突き抜けたグロテスクと狂気。     

 こんな衝撃なら、味わいたくはなかった。性善説の中で生きていたい臆病
者の自分には、嫌悪感しか沸き立たない不要な作品。         

 あくまで私にとっては……だろうが。そう、本書は”凄い”作品である。
凄い作品、とんでもない作品を読みたいという動機であれば、それには間違
いなく応えてくれるだろう。                    

 本書に対する価値観は、どういうジャンルを好むか、に振られる部分も大
きいだろうが(私にとってはダメだったように)、それを超えるだけのパワ
ーを持っているのは事実。最近は本ミスよりも本格寄りな結果(天城一の高
評価など)が出ていたりした、このミスを制覇したことでも伺えるし、表題
作は推理作家協会賞も受賞しているわけだからな。          

 ただ、とにかく一つ言えることは、「これの映画化は見たくないな」 

 さて、恒例のベスト3だが、個人的好みとしてはオチが明確な作品がどう
しても優先されてしまう。というわけでベストは「オペラントの肖像」。残
る二作は「Ωの聖餐」「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」

 採点は6点。最後にもう一つ。収録作の多くは『異形コレクション』が初
出なのだが、そのテーマからそれぞれの作品に結実させる着想力は、目をみ
はるものがある。ここも大きなポイントなので、初出一覧もお見逃しなく。

  

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