ホーム創作日記

 

3/1 ダ・ヴィンチ・コード(上)(下)
 
                 ダン・ブラウン 角川書店

 図書館に予約してから、順番が回ってくるまで9ヶ月もかかってしまった
という、そのことだけでもよくわかる世紀の大ベストセラー。     

 最初から最後までノンストップで引き込まれるものと当然期待していたん
だけど、上巻ではそこまで夢中にはなれなかった。ここまでまどろっこしい
ややこしさが必要だったの、おじいちゃん?             

 いよいよ下巻からは、圧巻のペダントリーと謎解きの連続。特に聖杯に関
しての話は、全く知らなかっただけに、目が覚めるような驚きだった。これ
だけミステリ読んで来てるんだから、これまで一度くらい目にしててもいい
ような気がするのに。注目されたのは最近なのかな?         

 中でも「最後の晩餐」の不自然な点の指摘は、説得力がある。こういう謎
解きは大好き。消え去った伝承に関しては疑問も多いが、無茶苦茶面白い考
察であるだけに、関連本が凄い勢いで出版されているのも理解できる。本書
でのダ・ヴィンチの絵に関しての考察は、さわりだけって感じだもの。 

 さてここはミステリ書評サイトなので、その観点からの評価が当然メイン
となるのだが、これに関しても手抜きはないぞ。これまた凄いことやってく
れているもの。ただあまりにも意外すぎて、逆にピンと来なかった感じ。驚
天動地なのに、「ええ〜〜っ!」と驚くより先に、この子ったら馬鹿言うん
じゃありません、と叱りつけたくなるくらい(笑)          

 無茶苦茶面白いことには間違いないのだけど、ノンストップ・スリラーと
しては「天使と悪魔」の方が良かったな。でも採点は
8点確保。    

  

3/6 魔王の足跡 ノーマン・ベロウ 国書刊行会

 
 不可能犯罪と云っても、基本トリックの着想自体があっと人を驚かすよう
な代物ではない。これだけを取ってみれば、そのまんまかい、と言いたくな
るくらい単純なものだと思う。                   

 犯人の隠蔽方法が格別に優れているというわけでもない。すれっからしの
読者でなくても、「ええ〜っ!」と驚いてくれるような、優しく素直な読者
はそれほど多数派ではないだろう。                 

 しかし、それでも、なのだ。不可能犯罪ファンにとっては、きっと愛され
る作品だろうと思う。この心意気が嬉しくなってしまうのだ。ネタ一つで不
可能犯罪一丁上がりってんじゃなくて、あの手この手で(一つ一つは小粒で
も)演出してくれるんだもの。                   

 この極端なまでのこだわりっぷりが素敵。”着想で書けてしまった”とい
う作品でないことが明らかな故に、読者としてわかってしまうのだ。作者自
身が不可能犯罪ファン(おそらくはマニア)だということが。この共感もま
た、この作品を愛されるものにしている所以だと思う。        

 素晴らしい作品と云うより、嬉しい作品。不可能犯罪が好きだ!という人
以外読んでくれなくてもいい、不可能犯罪ファンだけが読んで、雪の犯罪だ
けど心ぬくぬくしようよ、と言いたくなるような作品だった。     

 この心情を加点して、採点は8点。年末投票の一角は確実に埋まったな。
ちなみに私の間違った推理も含んだ、ネタバレ感想も書いておこう。  

  

3/10 ヴードゥーの悪魔 J・ディクスン・カー 原書房

 
 最後に残った作品だから、正直それほど期待してなかったのだった。面白
い作品だったら、もっと早く訳出されてるはずだよねぇって。晩年の歴史物
ってどれも「うーむ」な出来映えだったわけだし。          

 いやいや、ところがこれがなんと、あまりにも嬉しい誤算。覚悟なんてし
ておく必要は皆無だったよ。                    

 とにかく痛快に読める。中だるみはするものの、特に序盤のリーダビリテ
ィーが抜群。カーはやはり、本質的にはストーリーテラーなんだと改めて思
ってしまった。この作品に限らず、怪奇趣味も不可能犯罪のトリックもお得
意の恋愛模様も(ワンパターン気味なので、ここを褒める人は少ないが)、
ストーリーを盛り立てるための道具立てに過ぎないのかもしれない。  

 その割にはカーの傑作を挙げようとすれば、やはりトリック的に優れた作
品を挙げてしまう。しかし、たとえば「好きな作品」という言い方をしたら
どうだろうか? ひょっとしたらこれがカーの作品を挙げて貰うと、人によ
って様々な作品名が挙げられる、一つの要因なのかもしれない。    

 本書はまた犯人の意外性にも、いかにもカーらしいひっかけが用意されて
いたりして、そういう面でも楽しめる。お得意のパターンではあるから、フ
ァンには読まれやすいとは思うけどね。               

 伏線にしろこだわっりっぷりが嬉しい限り。本ミス投票枠またまた確定。
カーの新作はそれだけで8点確定なわけだけど、それだけの面白さを充分に
味合わせてくれた。後ろめたい気持ちが全くない(笑)堂々の
8点。  

  

3/13 円環の孤独 佐飛通俊 講談社ノベルス

 
 メフィスト賞としては毒にも薬にもならない作品だと思ったら、どうも違
うようだな。いったいどういう経緯でこれでデビューなんだろ?    

 とにかくインパクト薄すぎ。奇抜な設定なのにも関わらず、内実は極端に
オーソドックス。時間旅行事件のトリックは腰砕けなほど初歩の定型。今更
こんなことやっても、と目を覆いたくなったくらい。         

 これだけならまだしも、メインの方だって、実は極端なまでに単純至極。
ミステリファンこそが騙される仕組みにはなってるが、所詮は安直な着想。
この仕組みを除いては、見るべきものが何もないという印象。     

 宇宙空間や時間旅行など、これだけの舞台設定を持ってきておきながら、
それなりの必然性が全く盛り込めてはいないのも、逆に驚いてしまうほど。
どちらも舞台がどこだろうが構わないトリックなんだもの。      

「変わったことやってるでしょ」「ペダントリーとかも色々持ってきてるで
しょ」とか、声高に主張している割に中身のない作品。ミステリの道具立て
が好きなんだなってことは伝わってくるが、本書の不釣り合いを見る限りで
は、それを自作で生かし得るセンスを持った作家とは思えなかった。  

 次作以降に全く期待の続かない作品。奇をてらった表面と、あまりにも見
合わないギャップに幻滅させられたので、採点は
5点とさせて貰う。  

  

3/17 デセプション・ポイント(上)(下)
 
                 ダン・ブラウン 角川書店

 この書評を書こうとして初めて「ダ・ヴィンチ・コード」の書評が抜けて
いたことに気付いたので、これも合わせて追加しときます。      

 大統領選という極限状況での政治の駆け引きと、あまりにも真偽疑わしい
NASAの大発見。中心となる女性二人の交互視点で描き出す、著者お得意
のノンストップ蘊蓄スリラー。                   

 とにかくやっぱり腰の抜けるような意外性が凄い。前二作を読んでいたせ
いで、ダン・ブラウンはそういうものだとわかってたから読めはしたけど。
しかしあらかじめそうだと知らずに、普通に読んでたら絶対にこんなこと思
い付きやしないはず。                       

 氏の構図の描き方が半端ではなく凄いのだ。作品構成上から読者の腰を抜
かすにはこうするしかないって意味で予測は出来るのだけど、じゃあなんで
ってとこまでは読者としての想像力では追い付けないもの。      

 ドキドキ感はこれまで読んだ三作の中では一番薄め。比較的展開が予想し
得る範囲の中に収まっていたような気もする。前半クライマックスの極限状
況からどうやって助かるのかってところは意外だったけどね。     

 三作の中では一番落ちる出来だとは思うが、それでもこれだけ楽しませて
くれたのだから、ギリギリではあるが
8点献上しよう。        

  

3/21 Q.E.D.23巻 加藤元浩 講談社

 
 今回は一般的な評価はどうなるか分からないが、自分個人としてはシリー
ズ中でも比較的上位に置きたい巻となった。             

 まずは「ライアー」 数学の証明問題みたいな、パズル型ロジックをとこ
とんまで突き詰めた作品。ロジックがスマートに決まっているかどうかより
も、とにかくこの心意気がほんっとに嬉しくなれるじゃないか。    

 この作品自体は決してベストの形ではないにしろ、こういう可能性を示し
てくれたことには、高い評価を与えたい。              

 続いて「アナザー・ワールド」 時々扱われる数学ネタだが、今回だけは
「リーマン予想」のエッセンスがさっぱり理解できんかった。これがどう自
然界のカオスのパターンと同じになるのやら? ミステリとしての仕掛けよ
りなにより、このテーマ自体が興味深い故に、もっと理解できる段階まで噛
み砕いで欲しかったなぁ。                     

 数学の証明史上最大の数であるスキューズ数や、1974年の宇宙人への
メッセージも興味深かった。これらの素材事態が抜群に面白いだけに、その
大元の素材も「難しいからこれくらいでご勘弁」ではなく、もう少し一般人
にも感覚的に理解できそうなとこまで踏み込んで欲しかったよ。    

 採点は7点には及ばないが、素材や方法論が興味深い巻だった。6点

  

3/22 月への梯子 樋口有介 文藝春秋

 
 内容紹介を読んでプチ・アルジャーノンだと想像していたのだが、それが
狙いだったとしたら、このエンディングは果たしてどうだろうか?   

 また本当にアルジャーノン狙いだとしたら、それはあまり成功していると
は思えなかった。「知る」ことの哀しみが胸に迫る、という売り文句だが、
それは主人公が知的障害者であったからという風には伝わってこなかった。
本人達が隠していたからという理由に過ぎず、健常人であったら気付いてい
たはずなのに、という説得力は全くなかった。アルジャーノン狙いではなか
ったとしても、ここはそういう方向性を見せて欲しかったところだ。  

 ミステリ仕立てもお得意の作者だが、今回はミステリ成分を期待すると、
手ひどい裏切りに逢う。凄い仕掛けなどは端から期待はしてなかったが、そ
れなりに隠された真相くらいはあってもいいだろうと思ってたのに。  

 それならばせめて、作者らしい”話としての心地よさ”を味わう本だと思
うのだが、そうするとやはり上記したエンディングがどうも気になる。ハッ
ピーエンドでもアンハッピーエンドでも、いずれの方向でも締めくくりよう
はあるはずなのになぁ。私個人が明快な話を好むのに対し、作者が味を好ん
だというところだろうとは思うが、それにしても、うーむ、消化不良。 

「彼女はたぶん魔法を使う」とか、その前後の作者は結構好きだったんだけ
どなぁ。本作は残念ながら私には合わなかった。採点は
6点。     

  

3/24 殺人ピエロの孤島同窓会 水田美意子 宝島社

 
 ひぇ〜っ、これを12歳が書いたのかぁ〜。             

 たしかに作品自体を冷静に判断すれば、出版レベル以前の作品だろう。し
かしながら、作品という最終成果物のみが、価値判断の全てというわけでも
あるまい。中でも特に作者の存在というのは、作品の価値と密接に結びつい
ている。あの人がまさかこんな作品を書くなんてとか、この作者にしてみれ
ばこのくらいの作品ならとか、読者としては常にそういう価値判断をしてし
まうものだ。ましてや出版者側から見た商業的価値であればなおさら。 

 だからこの作品が出版されたことに、特に異議を唱えるつもりはない。で
は、意義はあるのかということになると、良くはわからないけどね。まぁ、
ペイするという判断なんだから、それだけでOKなんだろうし。そういう商
業的意義だけでなく、若いうちから可能性はあるんだという実例が示された
ことも、何らかの意義があることなのかもしれないし。        

 しかしとにかく、一年以内に五つもの(これだけでも吃驚だ!)長編推理
小説の賞に応募するという目標を立てて、実際にこれだけの作品を書き上げ
てしまうなんて、その早熟さにはおそれいる。単純に年齢だけを見れば青田
買いにも程があるって思えてしまうが、いやいやどうして本当に原石なのか
もしれないという実力は感じられるよ。               

 末恐ろしいってのは、褒め言葉だよね、きっと。採点は当然6点を越えよ
うもはずもないが、この一作だけが全てということは決してあるまい。 

  

3/25 オペラ座館第三の殺人(上)(下)
            天城征丸・さとうふみや 講談社

 
 またもや久しぶりの金田一くん復活。前回の「吸血鬼伝説」もそうだった
が、時間を空けて出てきた金田一物は佳作が多いので、今回も期待してしま
ったのだが、なんと嬉しいことにその期待は裏切られなかった。    

 今回は相性が良かったのか、犯人は勿論として、3つの殺人トリックも基
本的な部分は読めてしまった。普通ならこれで評価が下がってしまうところ
だが、今回はそれでも非常に良く出来ていると感心してしまったのだ。 

 特に3番目の密室トリックは、そのまま秀逸なミステリになり得る出来映
えだと思う。ネタも手順も充分に練られた、秀逸なマジックのようだ。 

 蝋燭のトリックもシンプルでわかりやすくて秀逸だ。使い古されたネタを
こういうアレンジで、美しく演出してくれるなんてね。漫画ならではのビジ
ュアル効果も活きていて、いうことない出来映えだね。        

 蝋燭以外は基本部分が読めたので悩むところだけど、これだけ練り上げら
れたネタはやっぱり高く評価しよう。金田一としては珍しく、採点は
7点

  

3/27 予告探偵 太田忠司 中央公論新社

 
 なんじゃこりゃ? こんなうっちゃりにどんな価値があるんだろ? 残念
ながら私は読んでいて全く気付くことはなかったのだが、伏線や必然性がど
こかに少しでもあったのかな? 少なくとも一般の読者にとっての、有効な
伏線があったとは思えなかったのだけどなぁ。ましてや必然性ときたら。

 きっと意図的なバカミスなんだろうし、「笑ってください」というメッセ
ージだろうとも思うのだが、とても単純には笑えやしないよ。     

 やっぱりアプローチの本質がミステリ作家ではなくて、ショート・ショー
ト作家なんだろうな。仕込みに仕込んで”してやったり”というのがミステ
リ作家的アプローチ。とにかく読者の裏をかければいいという、驚きが命の
ショート・ショート作家的アプローチ。               

 これは決してショート・ショートを貶めているわけではなく(私はそのジ
ャンルの作品も大好きだから)、その時々に最適な形式があると思うわけな
のだ。ミステリ長編でこれをやられたら困るでしょ、やっぱ。     

”予告探偵”というパラドックスは秀逸なアイデアだと思うのだが、ミステ
リ部分のみでは凡作。バカミス的結末は、上記したようにとても評価出来ず
総てを台無しにしてしまってるので、採点は
5点としたい。      

  

3/28 七つの黒い夢 新潮社

乙一恩田陸北村薫誉田哲也西澤保彦桜坂洋岩井志麻子

 ホラーは得意ではないので、ちょっとだけこの題名にびくついていたが、
そんなに黒くなくて助かった。題名からはどう見てもホラー・アンソロジー
だとしか思えないが、逆にそういう期待で読むと失望するだろう。   

 でも、この面子で税別400円というのは、本の価格が高騰している現在
では、コスト・パフォーマンスの高いテーマ・アンソロジーだと言えるだろ
う。この値段で充分読ませる本作り。こういう姿勢は嬉しいよね。   

 収録作の中では、冒頭の乙一作品が、頭二つばかし抜きん出ている。着想
から展開、ラストの処理に至るまで気が利いていて、絶品だろう。   

 これに続くのが、北村作品と、新鋭二人の作品。北村薫はあまりにもスタ
ンダードだが、やはり語り口で読ませる。新鋭二人はそれぞれに個性的な作
品で、この作品集を支えてくれている。               

 恩田、岩井、それぞれの作品は作者としての特徴は出ているものの、その
まま忘れてしまいそうな出来。で、ワーストは残る西澤作品。だって、これ
って、長編の一部を抜いたものだよね? としか思えない。アンソロジーと
して、単独で完結していない雰囲気の作品はいただけない。      

 コストパフォーマンスは高くても、総合的な評価としては平凡な6点

  

3/31 ミステリー映画を観よう 山口雅也 光文社文庫

 
 喜国雅彦の「本棚探偵」シリーズ同様、手を出したら危ない世界への入り
口。そもそも”本格ミステリ・ファン”などという、特定のジャンル(しか
も一般的にメジャーとは言い難い)に固執する人間なんて、ただそれだけで
も明らかにマニア予備軍なんだからさ。英語なんて嫌いで良かったよ。 

 題名は”映画”となっているが、中身は映画に限らず、ミステリに関連し
た各種グッズのオンパレード。こんな面白いもんがあるんだぜ、といっても
自慢話っぽさはなく、マニア同士が嬉々としてコレクションを見せ合いっこ
しているような、純粋な楽しさが全編に満ちている。         

 バカだなぁ〜って(勿論、褒め言葉だから、とびっきりの笑顔でね)ペー
ジをくっていればいい作品だろう。間違っても、うらやましい〜、なんて気
分で読んでしまわないように。そうなると、あなたもいつか……    

 ちなみに本書は本格ミステリ大賞の評論・研究部門候補作。評論とは言い
難いから、きっと”研究”の方なんだろうけど、それでもやっぱり疑問なと
ころだよね。ってなわけで、得票数も1票だったし。         

 マニアって面白いもん見つけてくるよねって、傍目気分の6点。   

  

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