ホーム創作日記

 

2/1 キリサキ 田代裕彦 富士見ミステリー文庫

 
 これもまた凄いなぁ。この作品があってこそ、「シナオシ」だったのがよ
くわかる。発想の基(モト)がよく似ているもの。それだけにもしも素直に
先行作品であるこちらを先に読んでしまってたら、あの驚きが2〜3割減じ
ていたかもしれない。自分的にはこの順番で正解だったよ。      

 たしかに本作も充分に凄かったんだけど、釈然としない部分、疑問に残る
部分、物足りない部分が、最後に色々と残ってまった。それにやはりミステ
リファンの目から見れば、伏線の薄さはどうしても気になるところだ。 

 そういうミステリとしてモヤっとした部分のみならず、主人公がたいした
理由もない殺人鬼ってのも、モラリスト(なのかな?)の自分には気に入ら
なかった要素。「シナオシ」では復讐という動機が示されていたけど、本作
ではなんら筋が通ってないものなぁ。これじゃ単なるサイコに過ぎない。で
もってサイコ殺人鬼の癖に、ほのぼのとラブコメ路線な雰囲気作りしてるん
じゃないよってね。儒教的道徳論ではとても許せませんことよ(笑)  

 というわけで「シナオシ」の方を高く買うものの、これもやはり満足させ
てくれた。
7点にしておきたい。                  

  

2/3 サム・ホーソーンの事件簿IV
             エドワード・D・ホック 創元推理文庫

 さすがにこの巻の途中から、最後の一行で次回予告というパターンは無く
なってしまった。それでもよく続いたもんだよなぁ。このペースで作品を発
表し続けながら、一作渡す段階で次の作品の構想が出来てるなんて、こんな
芸当を続けられるのなんて、日本では森博嗣くらいなもんでしょ。   

 それだけアイデアも枯渇しかかっていたとも言えるだろうから、個々の作
品の質が低下しているのも、こえrはもうしょうがない。タネ自体も比較的
単純なワン・アイデアってのが多くなっている。           

 そういう中で出来が突出していたのが「革服の男の謎」だった。既読作品
だったが、やはりこれだけの不思議を現出させてみせた構想と、それを支え
る複数のテクニックがなんとも上手い。               

「フロンティア・ストリート」「消えたセールスマンの謎」で本書のベスト
3とする。採点は
6点。しかし勿論、最後まで買わせていただきます。 

  

2/7 パラドックス学園 鯨統一郎 光文社カッパノベルス

 
 パラレルワールドのパラドックス学園パラレル研究会は、名探偵もパラパ
ラを踊るパラダイスなのだ、、、というお話。            

 バカだよねぇ〜(笑) 勿論、これは褒め言葉。ミステリ界のお笑いマジ
シャン鯨が、フォースの技法で繰り出す意外な犯人トリック。コレに挑戦し
た作家は過去に何人もいるのだけれど、あまり素直に受け入れられそうな結
果を出してくれた人はいない。                   

 本作の場合は、ソレ(ある特殊なアイデア)を持ち込んだことで、この手
のものとしては、意外に処理が納得できる作品になり得ているように思う。

 勿論、超別格のあの作品は別としてだけど、アレと比較したら鯨に限らず
誰だろうとひれ伏すしかないんだろうから、言わない(言ってるけど) 

”コレ”とか、”アレ”とか、”ソレ”とか、”ある”とか、”あの”とか
ばっかりで申し訳ない。だって鯨がこんなことするんだもん!     

 と、責任転嫁をしておいて更に追い打ち。本書では主人公に関しての驚き
も用意されているのだが、これは”こじつけのプロ”たる鯨にしては弱すぎ
たと思う。論理も破綻してるんじゃないのかな。           

 よくこんなことやったなとは思うものの、採点は結局6点にしよっ(笑)
ちなみに前回はじわっと浸食してきたメタ世界だけど、今回は世界観からい
きなりメタ全開。次もこんな路線で突っ走るんだろうな。まぁ、どんなにメ
タメタになったにしても、次も読ませていただきます。        

  

2/14 向日葵の咲かない夏 道尾秀介 新潮社

 
 乙一と同じ匂いがした。無邪気系ホラーとミステリとの融合。異様な設定
なのに、淡々と静かな筆致。あるいはほのぼのと言ってもいいくらい。それ
でいて後味の悪い意外性に辿り着く。                

 間違いなくバカミスの範疇にはいるはずの作品なのに、”バカミス”とい
う文脈で語るにはあまりふさわしくない感触を受ける。ホラーかと思えばミ
ステリ、ミステリかと思えばホラー。簡単にすり替わり得る不思議な作品。
非常にユニークな作品で、読み応えのあることは間違いない。意外性の度合
いも高いのではないかと思う。                   

 但し本格ミステリ大賞候補作としては、大いに違和感を感じてしまった。
若者枠が強い同賞ではあるけれど、”本格”としての票が集められるとは思
えなかったのだ。                         

 しかし、本格ミステリ作家クラブのHPで公開された、今年の選考の模様
を読んで、ある程度の納得を得ることは出来た。単純に優れた本格ミステリ
を選ぶのではなく、投票者個々の本格感が反映されるような、試金石となり
得る作品達が選ばれたという様子なのだ。              

 こういう選考基準が、本格ミステリ大賞という”賞”を選考する立場とし
て妥当なのかどうかは別の議論として、この前提に立てばこの作品のユニー
ク性が評価されたのもうなづける話だろう。             

 とはいえ、これが直球の本格として受け入れられるとも思いにくい。いく
ら若者枠としての強みがあっても、受賞はないだろう。採点も
6点。  

  

2/17 トリックスターズ 久住四季 電撃文庫

 
「シナオシ」「キリサキ」に続いて、ラノベ分野に隠れている優れたミステ
リとして、紹介を受けた作品。たしかに面白さは抜群で、ミステリとしても
なかなかの出来映え。凄い仕掛けも盛り込んであったりする。     

 しかし、純粋にミステリ作品として捉えるならば、まだやはり弱さが感じ
られるのではないかな。殺人の謎としては解けないにしても弾けまくる程で
もなく、一つ一つにきっちりと伏線を張っている代わりに、やられたぁ感が
すっきりと強烈に感じられたわけでもない。             

 これは解けたはずという読者としての必然性が弱いのかな。殺人トリック
にしても、こういう超自然世界を前提としている以上、もっと堂々と条件提
示しておいて欲しかったかなぁ。チャンスはあっただけにね。     

 意外性高い仕掛けにしても、伏線はたっぷりと振りまいてあるにも関わら
ず、逆にあまりにも巧妙すぎて、付けいる隙がないのだ。       

 贅沢な望みかもしれないが、バランスがうまく取り切れていない印象。高
い潜在能力を持つが故に、まだ自分の力をうまく制御出来ていないという、
可能性が感じられなくもない。しばらく追いかけてみたい。      

 ちょっともどかしさは残ったが、採点は7点としておこう。     

  

2/21 QED神器封殺 高田崇史 講談社ノベルス

 
 現実事件側は単なる知識ネタ。それでは弱さを感じずにいられない。また
この謎は読者にしか通用しないのではないか。密室に二人きりで居て、全く
同じ物しか口にしていないのに、片側のみが毒にやられる。読者にはその様
子が逐一描写されているため謎として成立し得るが、本人の証言しかない状
態では、第三者には前提として受け入れる必然性が全くないもの。   

 ミステリはパズルでも構わないというのは私の持論ではあるが、現実ベー
スでの小説という形を取る限りは、それなりに現実に沿ったルールに則って
欲しい。そうでなければ、それなりの形式を選ぶべきだと思うから。  

 歴史側は今回は非常に頑張ってると思う。久しぶりに処女作風の強烈な力
業が発揮されていると思う。だけど神社仏閣に疎い私には、ほとんど偶然と
いう思いもしないでもない。だって日本中どこに行っても神社仏閣だらけな
んだもの。日本地図をこのスケールで描いたら、適当に点の大きさを取れば
結構なんとでもなるんじゃないかと。鯨風のこじつけ技術を使えばね。 

 そうそう、今回は重要なキャラが登場したのも注目の的。御名方史紋(み
なかたしもん)、どう考えてもシリーズ探偵狙いな名前。しかし、ここまで
完璧にかぶりまくってたら、あんまし意味がないような気もするんだけど。

 採点は平凡な6点。最後に一つ、リアルに吹き出してしまった自虐ネタ。
「いや俺はな、よくある歴史推理小説みたいに、ベタに繋がっていてくれと
は言わねえよ。しかしな、物には限度ってものがあるんだよ」(P72)

 限度をわきまえてたのかぁ〜(笑)                

  

2/23 レタス・フライ 森博嗣 講談社ノベルス

 
 森博嗣の短編集の面白がり方が私にはさっぱりわからないのだが、これは
中でも最悪。今年のワーストが早くも決定したようだ。長編シリーズを読ま
なくなってしまったから、たまにはと手に取ってしまったのが運の尽き。久
しぶりだったので、自分との相性の悪さをすっかり忘れていたよ。   

 ミステリと呼べるのは、冒頭と最後の二作のみで、いずれも小ネタの寄せ
集め。特に感想らしきものを書く気力すら沸かないのが正直なところ。 

 冒頭の作品はなんでこのおっちゃんもてるんだよってだけ。     

 最後の作品はきっとシリーズを読んでおかないとわからない作品なのだろ
う。わかる人だけわかりゃいいという、読者を突き放した氏の作風が如実に
表れた作品なんだろうと想像する。Vシリーズまでは追いかけていたからま
だ良かったが、こうして長編も離れしまうともうダメだな。      

 パズラーとしての価値が低下していくだけのシリーズに見切りを付け、単
独長編では「そして二人だけになった」以外に本格度の高そうな作品も見つ
けられず、短編はこの分じゃこれからもとても合いそうもない。    

 ついに訣別の時が来たということなのだろうか。採点は最低の4点。 

  

2/27 トリックスターズL 久住四季 電撃文庫

 
 これもやっぱり微妙なところが残る作品か。            

 今回のメインの逆転劇は”比較的”わかりやすかったと思う。でも、勿論
程度問題で、「これはわかるだろう」というようなものではないし、相当数
の読者に対しては意外な構図を提供してくれるのではないかな。    

 というのは、こういうミステリとしてのケレンの活かし方が上手いのだ。
従って今回は自分としては予想は付いてしまったが、うまく騙されてしまえ
ば「おおっ」という思いを抱けるだろうなと思える。         

 そういう”先を期待できる”シリーズだと思う。前作同様、純粋なミステ
リ作品としてはまだ弱さはあるが、表面の解決を用意した上で最後の逆転劇
を用意したりと、難しい造りをうまくこなしたりもしている。     

 さすがに前作でのある驚きに匹敵する仕掛けはなかったが、前作を読んで
ない読者に対しても、微妙な配慮が行われているのも心憎い。     

 これがなかったから、採点としてはやはり6点止まり。しかし、このシリ
ーズ最後まで買ってみようかと思う。残る魔術師は三人。       

  

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